病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:治癒とチューって似てるよね
知識はある。実力は無い。
それでもオルフさんは、精一杯俺の命を繋ぐための重要な知識を幾つも授けてくれた。恐らくその中には自力で発明したのも含まれていたと思う。
魔術師にとって知識は財産だ。
それは治癒術師だとしても変わらない。
何なら使い手が少ない分、治癒魔法のノウハウの方が貴重まである。
そんな財産をオルフさんは俺に分け与えた。
いつも嫌々そうな表情をしているものの、過保護とも言える知識の供給は彼がツンデレであることを多分に証明している。
……軽口を叩き合う日々ではあるが、俺は本当にオルフさんに感謝しているのだ。彼がいなければ俺は未だ絶望の日々を過ごしていたに違いない。
治癒魔法という劇的なヒントが無ければ、たとえ人格が統合したといえども何もすることができなかっただろう。
その点ではオルフさんを呼んでくれたエルフィにも感謝……というか彼女にはいつもいつも「ありがとう」と感謝を伝えている。
『……そんなっ! ずっと辛い思いをしているのはアル様なのに……わたくしに感謝など必要ありません!』
毎回エルフィからそんなようなことを言われる。
……感謝を伝える度に顔が曇るのは何でだろ……俺としては混じり気のない気持ちを伝えているだけなのに。
というか辛い思いをしてるのはエルフィも一緒だろ!!
こんな一人じゃ何もできないようなヤツを毎日介護してくれてるんだから……俺なんかの感謝じゃ微塵も足りないほどにエルフィには借りがある。
最近はオルフさんが定期的に治癒魔法をかけてくれるお陰で元気な時間も増えたし……。
「ごほっ……いよいよ今日か……ぐふっ」
用意された桶にぺっと血を吐く。
血を吐くことになれすぎて最早ながら作業なんだなこれが。
「アル様……」
「エルフィ? ごほっごほっ、どうしたの?」
オルフさんの来訪を待っている最中、何やら思い詰めたような表情をしているエルフィが俺の側に来た。
最近笑顔の増えたエルフィだが、時折思い詰めたような表情をする。……もしかしてその理由を話してくれる気になったのだろうか。
「……アル様が必死に頑張っていらしてるのは知っています。いつもいつも間近で見ていますから。……でも……だからこそ……もう、やめませんか。治癒魔法を試すことを、諦めませんか」
酷く沈鬱な表情だった。
痛みに耐えているような。言いたくないことを言っているような……今にも泣き出してしまいそうな顔なことに変わりはなかった。
「エルフィ……ごほっ、げほっげほっ! どうした、んだい? 急にそんなことを言って」
確かにエルフィは、俺が治癒魔法を習うことに全面的な肯定をしたわけでは無かった。むしろ心配そうだったし、俺が「このままじゃ嫌だ」というニュアンスのことを言った時には、今と同じような泣き出しそうな表情をしていた。
エルフィは瞳からボロボロと大粒の涙を溢れさせながら、俺の手をぎゅっと掴んで言った。
「──だって……失敗したら、アル様が死んじゃう……!」
──一瞬だけ、そんなことか、と思ってしまった。
思ってすぐに、俺は何をバカなことをと己を恥じる。
人格が統合する前も後も
──
苦しみに摩耗し続けていることに違いはない。
これだけ近くで支えてくれている存在がいてもなお、この痛みが続くことは絶望でしかなかった。
死にたいと思った回数は、すでに数えることをやめた。
だが、それでも……俺は、ずっと支えてくれるエルフィの気持ちを蔑ろにすることを考えてしまった。
自分の生死に無沈着であることは、周りの気持ちを何も考えていないことの証左だ。
……そうだな、希望が見えて……心に余裕ができたからこそ……俺はエルフィの言葉に心底温かい気持ちになれた。
「ありがとう、エルフィ。でもね……僕はやり遂げたいんだ。──最初は確かに、自由に歩きたい。エルフィに恩返しがしたい。そんな気持ちがあったと思う。今もそれは変わってない」
だがそれは逃げだ。どうせ末路が同じなのであれば、やるべきことを全てやった上で死にたかった。禍根は残るけど、悔いは残らないから。
「けれど……オルフさんといるうちに、僕は治癒魔法の可能性に惹かれた。自由への手段だった
バカバカしい軽口を叩きながら、魔法の知識をつけていくのはめちゃくちゃ楽しかった。前世の詳細な記憶はあんまり無いけれど、多分全ての人生を総評して一番楽しい時間と言っても過言ではない。
そうだな……俺は欲張りになったのかもしれないな。
自由になりたい、恩返しをしたい、治癒魔法を使いたい。
全部が全部、俺の生きる根源になって命を支えている。
「僕は死にま……ごほっ、僕は死なないよ、エルフィ。だから、どうか信じて欲しい。──君は僕の生きる希望の一つだ。そんな君を、裏切るような真似はしない」
「……っ」
手を握り返すとエルフィは、青色の瞳からこぼれる涙を指で拭いながら腫らした目でジトッと俺を見つめた。
「生きる希望の
「え……うん……えっ? ごほっ」
どこか責められてるような雰囲気だ。
な、なんか変なこと言ったか? 流石に歯の浮くようなセリフすぎたか……? 本心を言ってもアルライト語に変換されるせいでどうにも齟齬が生まれるんだけど……。
「……分かりました。信じます。でも、無事に治癒魔法を会得したら……ご褒美をください」
微かに頬を赤らめてチラチラと俺を見るエルフィ。
銀に輝く前髪をイジりながら言う彼女は非常に可愛かった。
ご褒美かぁ……そんなことで良いんか。
「僕にできることなら何でもいいよ」
「なん……っ、ごほん、軽々しくそんなことを言ってはいけませんよ!」
「確かに一応貴族の子息だもんね」
確かに、無駄に言質取られるのは貴族的に良くないか。
流石エルフィ! とニコニコしながら彼女を見ると、なぜかエルフィは再びジト目で俺を見ていた。
……わからんぜよ。
「あのー……俺入っても良いか? 死ぬほど入りづらい雰囲気なんだが。メイドの嬢ちゃんからしたら俺って、大事な主人を死地に送り込む悪魔に見えてるんじゃねーの……」
「だから睨んでるんじゃないですか、毎回」
「げほっ、悪魔降臨!」
「お前は一旦マジで黙っておけ」
扉越しの会話がピリピリし始めたので、小粋なジョークを挟んだところマジトーンのオルフさんにキレられた件について。
実は真面目な場面で茶化すのはアルライトの本来の性格だったりする。良い感じに悪いとこが混ざってる。