病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:治癒とチューって似てるよね
「……じゃあ今日やるんだな? ……俺が言うのもなんだが、焦る必要は無いんじゃないか? 体が出来上がってから試したほうが魔力制御もしやすいと思うが」
「本当はそうしたいところなんですけどね。どのみち常に栄養状態が悪いので、体の成長は見込めないかなと」
はははっ、と笑うとオルフさんは何とも言えない顔をした。
……ちゃんとご飯が食べれたら良かったんだけどな。
残念ながら常に痛みと戦ってる以上は食欲なんて起きようが無いし、少しでも胃の許容量を超えると腹痛と嘔吐で終わりなのである。
こんなんで身長も体重も増えるわけがないという。
分かりきってることだし慣れてるのだが、オルフさんとエルフィは俺がこういう発言をすると思いっきり曇る。
……う、嘘ついたところでバレるから話したほうが良いじゃん……!!
「……分かった。なら場所を移そう。万が一があった場合、俺の研究室でやったほうが手立てがある」
「……失敗したら放って置くんじゃないんですか!?」
「俺のこと何だと思ってんだお前は!! 三年も一緒にいりゃ情の一つや二つは湧くに決まってんだろ!! ……あっ」
オルフさんはしまった……と言いたげに顔を真っ赤にして「チィッ!」と激しく舌打ちをした。……おぅ……こっちも普通に照れるんだけど……。
お、おふさげも程々にしないとな……ツンデレのデレはちょっと心臓に悪い。おっさん相手だからキュンとはしないけど。
「オルフさん……アル様を狙ってるわけじゃないですよね?」
「揃いも揃って頭沸いてんのかお前ら!」
エルフィの目が笑っていない満面の笑みで放たれた言葉に、オルフさんは青筋を立てながら全力で反論した。
……ごめんエルフィ、その発想は俺にも無かったよ……。
「……ありがとうございます、オルフさん。僕もオルフさんのことは好きですよ」
「おいやめろふざけんな笑いながら言うなメイドがすげぇ目で見てくるから」
治癒魔法をかけながら俺の肩をガクンガクンと揺する器用な真似をするオルフさん。息継ぎ無しに言い放つその姿は、真剣にエルフィのことを怖がっていそうである。
「……まあ冗談はさておき。僕は一応父上に外出を禁止されているのですが。離れとは言え、少しは見張りがいるんじゃないですかね」
「ハッ、そんなことは百も承知だ。だがな、見張りがいるのは昼間だけだ。大方、意味もない見張りに金を払いたくないからだろう。夜間は執事やメイドの目を盗めば出入り放題だぜ?」
「なるほど。いつも不法侵入してるオルフさんが言うなら正しいのでしょう」
「なんて言ったお前?」
俺には貴族令息としての裁量が何も無いからな。
人目を避けて俺のもとに来ているオルフさんは実質不法侵入なのである。……まあもし見つかって危ない目に遭いそうだったら絶対に何としてでも止めるけど。
とは言え場所を移すのは賛成だ。
問題はこのふらつく体でどうするかだが……。
「移動は了解です。でも僕の体だと治癒魔法をかけていただいても多少時間がかかると思いますが……」
「バカ言え、病人に歩かせる治癒術師がどこにいるんだよ」
するとオルフさんは俺に向かって背中を差し出す。
どうやらおぶって移動してくれるらしい。
──すると、隣でビシッと手を挙げた存在がいた。
ソワソワしながらほおを赤くするエルフィである。
「アル様はわたくしが背負います!! 任せてください!」
「お前煩悩が……あ、いや、何でもないです」
「?」
謎のやり取りに首を傾げる俺。
まあ、確かに部屋の中を移動する時もエルフィに運んでもらってるからな。慣れてる人の方が良いか。
そう思って、背中を差し出すエルフィにしがみつくと、彼女はブルッと謎に一瞬震えて「すぅぅ……」と大きく深呼吸をした。
「それじゃあ行きましょうか」
「……えぐい顔してんなこいつ」
なぜかドン引きするオルフさんは、ため息を吐きながら部屋の扉を開けて左右の確認をする。
そしてそのまま身を踊り出し先行した。
☆☆☆
無事に見つかることなく屋敷を脱出することができた。
外の景色は俺にとって新鮮でしかなかった。
魔毒症が発症する前……幼児期以来だろうか、こうして外の風を感じることができているのは。
道中は常にオルフさんが治癒魔法をかけてくれていたし、エルフィが慎重に歩いてくれたさら、苦しみも無く外の景色を堪能できたのも良かった。
……まったく、本当に二人には頭が上がらない。
「……ここだ」
屋敷を出て二十分程度の距離に、オルフさんの研究室はあった。
一見するとただの家だが、中に入ると多くの書籍と紙類が無造作に散らばっていて、確かに人が住む場所では無さそうだった。
俺はエルフィから降りて適当に紙を拾って流し読みすると、それは魔毒症の研究についてのものだった。
「あ、ちょ、やめろ!」
オルフさんが慌てた顔で静止してくるものだから、かえって気になった俺は他のものも拾うが、どれもこれも魔毒症についてだった。
「オルフさん……」
「くっ、温かい目で見るのはやめろ! 貴重なサンプルが間近にいるんだから優先して研究するのは当然のことだろうが!」
「やっぱりアル様のことを狙ってますか……」
「ピンク脳は黙れ!」
「冗談ですよ。本当にありがとうございます」
エルフィの感謝に「お、おぅ……」と釈然としない表情でオルフさんは背を向けた。何だかんだエルフィもオルフさんのことは信用しているみたいだ。よかったよかった。
ニコニコしながら俺は、ずんずんと奥に進んでいくオルフさんについていき、待ち構えていた扉の先に行くと、少し広い空間があった。
普段ここで実験なんかをしているのだろうか。
所々に焦げ跡のようなものもあって、実験場というよりは魔法の修練場みたいだが……触れない方が良さそうだな。
「……念には念をだ。【
「何から何までありがとうございます。……その献身に必ず僕は報いてみせます。……親しい人に失望されるのは辛いですから」
「死んだら思いっきり失望して罵ってやるからな」
彼なりの激励であることは目に見えて分かった。
不器用だけど優しくて過保護。俺にとっては悪友であり……兄のような存在でもあった。……年の差的には父が正解しれないけど。
「アル様……わたくしは信じています。ただただ、信じています」
「うん。信じて。それだけで僕は頑張れるから」
掴まれた手をギュッと手を握り返す。
そして俺はオルフさんの魔法の範囲内に入る。
「……よし、治癒魔法を切るぞ」
「ええ、いつでも来てください」
オルフさんが継続的に俺にかけてくれていた上級治癒を切り──三十秒後、いつもよりは少しばかりマシな痛みが襲いかかってきた。
「げほっ、ごほっ……これなら、動ける」
相変わらず血反吐は迸るけれど、動けないほどではない。
痛みに慣れたのもやはりデカいと思う。
「魔力の使い方……体が憶えてる」
魔毒症の発症は、初めて魔法を行使する時に起こる。
俺が初めて魔法を行使したのは、適性検査後の三歳の頃。
その時から魔力を体内に感じることはできていた。
あとは明確なイメージと、オルフさんに教わった知識をもとに治癒魔法を行使するだけだ。
──魔力を動かす。
少しばかりの違和感はあるが、暴走は未だ起こらない。
なるほど、感覚は分かった。
これを体中に浸透させるような放出をすることで、身体強化魔法を行使することができるのだろう。……確かに身体強化なら暴走は起こらないな。
今使ったら体ボロボロすぎて死ぬけど。
使うタイミングは治癒後。
「魔力回路を……意識」
こうして魔力を動かすことができているのは、体中に存在する魔力回路を通しているから。
イメージで魔力を動かすのではなく、魔力回路を意識してより自発的に魔力を動かすことが目的だ。
オルフさんいわく、これをするだけで魔力の通り方の速度や量が大幅に増加するそう。
「……っはは、魔力回路もボロボロだ。発症時の暴走の名残かな? これもまとめて治癒はできそうだ」
「もう魔力回路を意識する段階か。……確かにこれは強烈な才能だな」
隣でオルフさんが何かを言っているが、ようやく察知し始めた魔力回路の存在に夢中になっていた俺は何も聞こえなかった。
「……やっぱり、
魔力回路は最初から全てが一本線になっているわけじゃない。
俺がパズルと評したのは、数多の複雑怪奇な回路が無数にある中で
魔力回路は動かせる。
オルフさんの言う通りだった。
つまるところ、俺は魔力回路と魔力を操作しながら体内に一本の回路を作り上げ、治癒魔法を行使する。その技術が求められる。
……イメージと詠唱だけで魔法を放っても無駄に魔力を消費するだけだ、ってオルフさんが言ってたのはこういうことか。
複雑な魔力回路全てに薄く魔力を通して、雑多に魔法を放ってるからそうなるのだろう。
攻撃魔法単体で使うなら、手から放出できるような回路を作れば良いだけだし。
体内に作用する治癒魔法だから、これほど面倒な手間を踏まないといけないだけで。
「……できた。パズルの成果が出た」
一度自分の中の回路を把握することができたら、次からは一瞬で行けるはず。流石に毎度毎度回路が変化してたら優秀な魔術師は生まれないと思う。
……よし、あとは魔法の行使だ。
「アル様……!!」
祈るような声が耳に届く。
それだけで俺の心は熱く燃え盛る。
【
才能が無い治癒術師は辿り着けない領域らしい。
それを俺は一発本番でやろうとしている。
どうしてだろう。
失敗すれば体が爆散して死ぬ。
そんなことは分かっているのに。
──どうにもワクワクが止まらなかった。
「──【
どっちがヒロインだと思いますか?
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オルフ
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エルフィ