病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:池崎
オルフさんから学んだことと、自分で学んだことを総評して思ったことなのだが、魔法の発動プロセスはどこかプログラミングに似ているなと感じた。
残念ながら前世はエクセルを軽く使うような仕事しかしてなかったから、詳しいことは分からないが……。
魔力回路に魔力を流すことがプログラミングのコードを構築する作業だとすれば、魔法の行使はエンターキーを押す行為に値する。
魔法を行使すること自体は単調な行為に過ぎないが、行使するまでのプロセスがそれなりに複雑怪奇だったりするのだ。
まあ、難易度上昇のほとんどは魔力回路のせいだけど。
つまり魔法を行使をするには、
・魔力回路のパズルを組み上げる。
・魔力操作で回路に魔力を充填する。
・使いたい魔法の名称を唱える。
そして俺の場合は、これに追加して魔法の発動にラグを生じさせる
魔法の行使後、発動を数秒後に指定、みたいな。
「【
俺は魔法を行使する。
全身が緑色の光に包まれる中で、久方振りに魔力が全身を伝う感覚に襲われる。
「行ける……このまま……!」
魔法の発動をこのまま──ズラし……ッ!?
「ああああぁぁぁぁあッッッ!!!!」
刹那、感じたことない痛みに襲われた俺は、全身から血を噴き出しながらそのまま床に倒れ込んだ。
☆☆☆
Side オルフ
「クソッ!! 来やがったか……!!」
途轍もない叫び声とともにアルが血を噴き出して倒れる。
途中までは何の障害もなく順調だった。
魔力操作自体は暴走の要因になり得なかった。
早々に魔力回路の存在を知覚し、練習では苦手だった回路の移動と構築に呆気なく成功した。
おまけに【上級治癒】の光に包まれた時は、柄にもなく安堵に包まれたものだった。
だが──現実はあまりにも残酷だった。
魔法の行使時に放たれる緑色の光は明滅し、アルは全身から血を噴き出して痙攣しながら倒れている。
すぐに駆け出そうとした。
駆け出そうとして、俺は気づいてしまった。
「オルフさんっ!! アル様が……すぐに治癒を……!!」
「ダメだ」
「どうしてっ──!!」
メイドの嬢ちゃんが、掴みかかる勢いで俺の袖を引っ張りながら涙ながらに助けを求めるその姿を──俺は、にべもなく切り捨てた。
……はははっ、ここで俺に疑いの目がかけられない時点で、俺は随分と嬢ちゃんの信用も勝ち取ることができたんだな。
そう乾いた笑いを心の中でしつつ、
「見てみろ。あいつの目は死んじゃいない──今も必死に戦ってやがるんだ。思わず駆け出そうとした俺を目で制するくらいには」
「──ッ、アル様」
アルは駆け出そうとした俺を見て微かに笑った。
そして、"手を出すな"と目で訴えかけた。
男の覚悟だ。
命を擲つような、悲壮で諦観の染みた覚悟なんかじゃない。
──絶対に生き抜いてやる。
生への執着心の垣間見えた覚悟だった。
……なら俺は手を出すことはできない。
介入することで、かえってあいつの邪魔になるのは嫌だ。
「俺とお前は……いや、何よりもあいつの側にいたお前だけは……せめてお前だけはアルのことを盲目的に信じてやれ」
俺は治癒術師のオルフとして臨界点を判断する。
アルがもうダメだと思ったその時に、俺は俺の今までの技術全てを使ってアルを助けてやる。
だが必ず何かしらの後遺症は残るだろう。
頼むアル。必ずやり遂げてくれ……!!
「……アル様は、わたくしに約束しました。絶対に生きてみせると。成功してみせると」
嬢ちゃんはこぼれた涙を右手で拭い去り、決意の灯った瞳でアルに向かって想いを放った。
「──わたくしの主人は、嘘をつくような方ではありません。アル様──わたくしは……信じています……っ!!」
☆☆☆
──体中の魔力という魔力が暴れ回っている。
ソレは俺の体を傷つけて回って、止まる気配を見せない。
……あぁ、痛いさ。痛くて痛くて堪らない。
少しでも魔力を操作しようとすれば、ブシュッ! と激しく血が迸り、ドンドン体中が裂かれていって傷は増えるばかりだ。
体を動かそうにも力が入らない。
魔力も練れず、体も動かず。
今の俺は死体も同然だ。
いっそのこと諦めてしまえば楽になるだろう。
でもさァ……そんなことできるわけがねぇよなぁ!!
「──わたくしの主人は、嘘をつくような方ではありません。アル様──わたくしは……信じています……っ!!」
エルフィに嘘をつくわけにはいかないんだよ。
誰よりも俺のことを信じてくれた彼女のことを裏切るような真似は──
ぐぐぐ、と痛みで俯けた顔を二人の方向に向ける。
オルフさんは「やれるんだな?」と問いかけるような瞳だ。
「……がはっ! ごほっ、げぐっ……あがっ……! ま、まだ……はぁ……終わらせ、ない……!!」
魔力を練る。回路を意識する。
その度に暴走した魔力が俺の体を傷つけるが、今はその痛み全てを無視する。痛みの度に硬直する体を、気合いだけで封殺する。
──もう一度だ。
もう一度魔法を行使するんだ。
きっと暴走が酷くなるだろうから、ラグを生じさせないといけない条件は変わらない。そして、失敗すると今度こそ終わる。
今だって体が爆散していないのはオルフさんが発動してくれている【範囲治癒】のお陰に過ぎない。
焦るな。落ち着け。
痛みに支配されるな。
自由を掴むんだろ。
エルフィとオルフさんに恩返しするんだろ。
──絶対に、生きてみせるんだろ。
そう、約束したからには。
「今だ……っ!」
魔力回路を繋げる。
……良かった、もうパズルをする必要はない。
体が回路を覚えているお陰で、繋げる作業は一瞬で済んだ。
次だ。
回路に魔力を充填させる。
「ぐっ、あぁっ!!」
あぁ、くっそ痛いなぁもう!!
暴れ回る魔力を動かす度に苦悶の声が漏れた。
壊れ、たって良い……!!
壊れるくらい魔力をぶち込んでも、その後の治癒魔法さえ発動できれば魔力回路ごと体を癒せるのだから。
「でき、た……!」
魔力回路に魔力を注いだ。
あとはラグを生じさせる命令を組み込むだけだ。
「【
魔法を行使した。
緑色の光が再び体を包み込み始める中で、俺は必死に魔力を制御しながら、魔法の発動が遅れるように強く魔力を絞っていく。
遅れろ……遅れろ……遅れろッ!!!
「アル様……!! 頑張って……!!」
「やってやれアル。絶望をねじ伏せてみせろ!」
二人の声が俺の耳に届く。
誰よりも信頼する二人の言葉は、どんな辛い時でも真っ先に耳に──心に届くんだよ。
「──ッ、あぐっ……あああぁぁっ!!!」
再びの魔力暴走。
二人の表情に絶望がよぎったその瞬間──一際激しい閃光が俺を包みこんだ。
……良かった。二人の信頼に応えられて。
俺は閃光が晴れる前に己の足で
「ごめん、お待たせ」
「あ、アル様ぁぁぁぁああああ!!! えぐっ、えぐっ……わたくし、信じてました……けどおぉ……良かったですうう!」
「ぐぼっ! うわぁぁあ身体強化身体強化身体強化!!!」
立ち上がった俺を視認してきた途端に抱きついてきたエルフィに、全力で身体強化を発動させて魔力を発散させて最後のプロセスを完遂してみせた。
あっぶねぇ……体に残った魔力が暴れ回って体爆散して死ぬとこだった……。
「は、ははっ……しまらねーやつ」
えぐっえぐっ、と泣くエルフィと、あわや体爆散するところだった俺を見てオルフさんは安堵と呆れの混じった笑顔を披露した。
「【上級治癒】……からの身体強化。うん、大丈夫だね」
「うぇっ!? もう一回やったんですかアル様……! ち、血反吐が……!!」
「ペッ! 一度コツさえ掴めればできるからね。ただ、ラグが必要な分、少しばかりの魔力暴走は許容しないとダメらしい」
魔力暴走してから治癒するというプロセスが必要不可欠な分、どれだけ凄まじい速度で暴走した瞬間に治癒できても、多少の痛みと血反吐は許容しないといけないらしい。
うん……今後は治癒魔法の精度を上げる訓練に移るのが良さそうだな。
「もう使いこなすか。デメリットがあっても自力で治癒できる分、健康でいられる時間は長くなったと思うぞ」
「やっぱり、自分の体を治癒したほうが効果は高いんですね。……というか、エルフィ、僕血だらけだから汚れるよ」
「アル様の血なんて聖水と一緒みたいなものですから!!」
「それは流石に教会に怒られるよ」
一度魔法の仕組みに関しては精査して直すと思います。
どっちがヒロインだと思いますか?
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オルフ
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エルフィ