病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:池崎
「!?!?!?」
入ってから言われても発言に死ぬほど驚く父上がいた。
俺と同じ金髪碧眼の瞳を持った中年のおっさんだ。久しぶりに見たその姿は、どこか草臥れているようにも見えたが……相変わらず俺に向ける視線に家族愛のようなものは感じられない。
ただ、今は俺が(傍目から見て)ピンピンで立っている事実と、大人しかった息子が口答えしてきた事実に驚愕しているようにも見えた。
「お久しぶりです、父上」
「……あぁ、久しいな。その……なんだ、治った、のか?」
どこか父上の表情には恐れがあるように見えた。
……仮にも病気が治ったと思っている息子に向ける視線の種類じゃねぇな。
元々期待なんてしちゃいないけど、今更いきなり病気が治っても困るみたいな顔されちゃ情なんて湧くわけがない。
「いえ、治癒魔法で無理やり体を動かしてるだけです。常にかけ続けないといけないので、他人に魔法を行使することもできませんし──ペッ! ……この通り時折血反吐も吐きます」
「【
「……そ、そうか。実演する必要性はあったのか……?」
「失礼、催したもので」
床に血反吐を吐き、エルフィが秒速で清潔魔法を発動させて綺麗にする。
最近よくある一連の流れなのだが、父上は普通に初見なのでドン引きしていた。……まあ、そりゃそう。
そして父上は「ハッ」と現実に帰還すると、今起きた出来事に激しく困惑しながら問い詰めてきた。
「待て、なぜ魔毒症の貴様が治癒魔法を使える!? それに一日中行使し続けるだと……!? 一体何があった……!?」
「まあ、修行の成果ですね。それに……六年間も顔を見に来なかったあなたに何があったと問いかけられましても、六年が経ったとしか僕は言えませんよ。それだけ時が経てば変わることくらい幾らでもあります」
「ぐっ……きゅ、急に力を身に着けて何をするつもりだ。復讐か? それとも、今更当主の座を欲すのか?」
反論の末に言うことがそれか。
俺はどこまでも自分本位な考えをする父上に、半ば呆れながらもため息を吐いて首を横に振った。
「どちらも別に興味ありません。僕はただ、自分の体で自由に歩きたかっただけです。出世欲も無ければ復讐心もありませんよ。まあ、恨みはありますがね」
「……ふん、能力を持たぬ息子を愛したところで、我が一族が繁栄するわけではない。恨みを持たれる道理はあるが、私は間違ったことはしていない」
「ええまあ貴族としては間違っていないと思いますよ。貴族としてはね。ただ僕は────ちょちょちょ、ちょ、まっ……エルフィ落ち着いて!! 落ち着いて!! 頼むから!!」
「……ッ!?!?」
ふと父上と視線を合わせると、彼の後ろにゆらりと幽鬼のような恐ろしい形相で魔力を高めるエルフィの姿が見えた俺は、全力で慌てながら彼女を止めた。
気配すら察知できていなかった父上は、後ろに佇むエルフィにとにかく驚いたようだった。……よ、よかった……魔法をぶっ放そうとしてたことはバレてなさそうだ……。
俺は急いでエルフィの手を引っ掴んで父上から距離を取ると、耳元で囁いた。
「ちょ……落ち着いてエルフィ。僕なら何とも思ってない……ことはないけど穏便に行こうと思ってるから!」
「わたくしも最初は我慢したのですけれど──あんまりにもアル様がやるせないような、悲しい表情をしていたのにプッツンしちゃいまして」
──そうか、俺はそんな表情をしていたのか。
自分じゃ取り繕っているつもりだったんだけどな。……どうやら俺は心の奥底では父上に複雑な想いを抱いていることは間違いないようだった。
それをエルフィに見抜かれ、彼女は俺が傷ついてると思った上で行動を取ったのだろう。……喧嘩っ早いのは誰に似たんだか。
「父上、この年齢まで僕を生かしてくれたことは感謝します。ありがとうございます。──だから、成人したらあなたの醜聞にならぬようにここを去ると誓います。ですから、これから僕はあなたに干渉しない。だからあなたも僕に干渉しないでください」
俺は父上に頭を下げてそう言った。
期待はしていないはずだ。どちらかというと、早くここを出て行って欲しいはずだ。だから、この条件を飲むことは双方に利益がある。
だが頭を上げた俺が見た父上の表情は、どこか面倒そうなものだった。
「……今日ここに来たのは、面倒事が起こったからだ」
「この話に関係がありそうですね」
父上は酷く嫌々に頷いた。
「貴族法が少し変わった。今までは自宅学習を終えた貴族家の子息であれば、当主の裁量で家名を剥奪することができたのだ」
「僕は自宅学習などしていませんが」
「そういうことにしていた」
「なるほど」
一般的に俺が魔毒症であることは知らされていない。
せいぜい、病弱で部屋から出れない無能子息……みたいな噂が流れている程度だろうか? それすらも父上は回避しようとしたが、流石にそれは無理だったみたいだし。
「だが当主の裁量で家名を剥奪するには、貴族学院を卒業しなければならないという条項が増えたのだ。……まぁ、大方自らの醜聞を
処理、という言葉で俺を見る父上。
十中八九俺に向けて言った言葉だ。
そして新しい条項は、まるで俺のためにできたもののように見えた。
……ま、不出来な息子を放逐することなんてありふれていることみたいだからな。
だが、恐らく放逐された貴族の子息たちがあまりにもやらかしたせいだろう。責任の所在を問う意味合いで、放逐に制限をかけたに違いない。
理には適っている。
「はぁ、それで僕を追放することができなくなったと」
「病弱なのであれば、むしろ積極的に囲って治療してやれと言われる始末だ。そんなことにお金を割いてる暇は無いというのに……これだから変に頭が柔らかい元老院は困る」
大抵元老院って頭硬いイメージだけどな。
にしても面と向かって邪魔と言われるのは、それはそれで呆れが勝る。エルフィが今にも父上を殺しそうな目で見てるが。
「だが、魔毒症の症状を抑えられるのなら話は変わる。アルライト、貴様は貴族学院に行け。卒業資格を得たほうが貴様も得だろう」
「変に理由をつけずとも、我が家の醜聞をさっさと追放したいから学院に行けって言えば良いと思いますよ」
「貴様……!」
折角配慮したのにと言わんばかりの表情だ。
どのみち隠すつもりも無ければ本人にバレてるんだし、俺としては面と向かって素直に言われたほうが納得できる。
……それにしても貴族学院か。
通えるはずが無いと思っていたし、考えてもいなかった。
貴族学院は、貴族の子息が通う学校のようなものだが、貴族としての礼儀や志を学ぶというよりは、自分で学びたい分野を選んで学ぶ総合的な学園になっている。
剣術を学びたいならその授業を。
はたまた魔法を学びたいならその授業を取ればいい。
前世的に言うのであれば、学科が死ぬほどある大学みたいなもんだな。単位制だし。
……確かに父上の言う通り、家名を剥奪されたとしても貴族学院を卒業したという記録自体は残る。それをもとに安定した就職をすることも可能ではある。
それに……この家で成人まで暮らすというのも居心地が悪いと思ってたし。
俺はにこやかに頷いた。
「分かりました。なのであれば僕は貴族学院に行きましょう」
「そうか……では、後の話は追って伝える」
父上はピクリとも嬉しそうな表情をしなかった。
……いや、だが一瞬だけ嫌に口角が上がった気がするが……気の所為だろうか? 父上にとっては学院なんぞに行って欲しくないだろうしな。
万が一俺が魔毒症だとバレたらあっという間に噂が広がるし。
俺は少しだけ疑問を残しながら、急遽貴族学院に入学することになってしまった件について、考え始めるのだった。
どっちがヒロインだと思いますか?
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オルフ
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エルフィ