第12話 異端の天才と
ウィンターホリデー。生徒たちが次々と帰省し、静まり返るNRC。だが、行く当ても帰る故郷もないマダラとグリムにとっては、いつもの日常と大差はない。
学園長からは休暇中、大食堂に住んでいる『火の妖精』の薪を切らさぬよう見張るという雑用を押し付けられていたが、マダラはグリムに手際よく作業を指示し、さっさと依頼を片付けさせていた。
なぜなら、このあとある人物のもとへ向かう約束があったからだ。足を進めたのは、勤勉の精神を持つ。イグ二ハイド寮だ。鏡で移動した。
「こんにちはー、マダラさん!」
「あぁ」
出迎えたのは、魔法工学の異端児の弟。イデア・シュラウドの弟、オルトだった。兄弟の関係だが、オルトはヒューマノイドだ。機械の体を浮かび元気に手を振っている。
「修理の依頼に来た」
「兄さんなら奥の作業場にいるから、ついてきて!」
オルトに案内され、足を踏み入れた部屋は、機材の山に囲まれていた。その中心に長髪の影、イデア・シュラウドが、おそるおそる振り返る。
「ま、マダラ氏……! こ、この間ぶり」
「お前が作ったあの魔法具、なかなか良い出来だった。だが…」
マダラは肩から、先の戦闘で激しい衝撃を受け、チェーンの接合部や柄が折れ曲がってしまった『三節棍』を取り出し、机の上にドサリと置いた。
「以前の戦闘で破壊してしまってな。修繕とさらなる補強を頼みたい」
「で、ですよねー! いやぁ拙者も後からログ見てビビりましわ〜!? あのオーバーブロットの巨腕と正面から殴り合って、よく耐えた方だよホント! やっぱこの汎用構造じゃ強度不足だったか?でも軽量化と取り回しを考えるとブツブツ……」
イデアは頭を抱えながら、早口で専門用語をブツブツと呟き始める。マダラはイデアが何を言っているのか、半分以上分からないが、今後の改善のため意見を述べる。
「軽量化など不要だ。重くなろうと構わん」
「えっ、大丈夫なの!? 今でも結構重いけど」
「その程度の重み、足枷にもならん」
「マダラ氏の『忍』スペックって次元違いすぎるでしょ……まさに二次元から飛び出してきた本物だよ」
呆れ果てたように呟くイデア。二人の出会いは少し前にさかのぼる。二次元・ゲーム好きであるイデアは、当初「NINJA」はゲームやフィクションの中にしか存在しないファンタジーだと思い込んでいた。
しかし、学園内でマダラの規格外な身のこなしや眼光を目撃し、興奮のあまり物陰から盗み見していたところを、マダラにあっさりと捉えられてしまったのだ。
殺気を与えられたイデアは命からがら、「自分の技術でマダラの望む武具や魔法具を作る」という条件と引き換えに、「『忍』に関する話を聞かせてほしい」という取引を取り付けたのだった。
「てかさぁ、マダラ氏。学園長からスマホ支給されたんでしょ? 連絡先交換しようとしたら全然返信来ないんだけど」
「あぁ、あの板切れか。あれはグリムに与えた。連絡なら鷹でも飛ばせば足りるだろう」
「いつの時代!? ツイステッドワンダーランドのインフラ舐めないで!?」
「逆に問うが、あのような薄い板切れで、遠方の者と会話ができるのか?」
「できるから普及してんだよ! 現代技術の敗北を感じる!」
イデアは同級生のマレウスをふんわりと、思い出した。彼も科学技術をほとんど使用しない茨の谷出身。スマホやゲームなどの現代技術は無知に等しいからだ。
そして、今回の武器の修繕連絡は武器に仕込まれていたログを経由して、オルトがマダラに連絡を入れたが、今後のことを考えて、改善を考えなければ……と頭を抱えるイデアを無視し、マダラは本題へと入るように腕を組んだ。
「話を戻すぞ。三節棍の補強もそうだが、次はさらに大型の武具を作ってもらいたい」
「大型……? どのくらいの大きさまでいける?」
マダラは脳裏に、かつての大戦のさなか、自らの背に担ぎ、あらゆる術を跳ね返した象徴的な『巨大な軍配』の姿を思い浮かべていた。やはりうちはの長である以上。あの軍配の有無によって武術、忍術の力は違う。
「身の丈ほどもある、頑丈な『軍配』だ。柄の先には長大な鎖を繋ぎ、打撃と盾、そして術の増幅を兼ねるようなものだが……作れるか?」
「軍配? オルト検索かけて」
「任せて兄さん!」
イメージが湧かないイデアは、オルトに搭載されている検索エンジンを起動させた。その検索結果を見て、イデアはゲームでよく見る小道具だと、分かったがこれだけでは『武器』のイメージは膨らまない。
「マダラ氏。その『軍配』ってヤツの構造、もっと詳しく聞かせて」
異世界の伝説の忍と、異端の天才による「武器作り」の密談が、静かに熱を帯びていった。
○○○○
イグニハイドでの依頼を終えたマダラは、静まり返った雪の降る敷地を抜け、オンボロ寮へと足を進めた。部屋に戻ると、暖炉の火はとっくに消えかけており、静寂だけが広がっていた。本来なら「マダラ〜、寒かったんだぞ!」と真っ先に跳ね寄ってくるはずのグリムの姿がない。
昼間に「スカラビア寮のジャミルってやつに、珍しいメシを食わせてやるって誘われたんだぞ!」と嬉々として出かけて行ったことは聞いていた。
(どこで油を売っているんだ)
マダラは特に気にする風もなく、腕を組むと静かに目を閉じ、眠りについた。だが、それから数日が経過しても、グリムはオンボロ寮へ戻ってこなかった。
(……遅いな)
いくら食い意地が張っているとはいえ、音沙汰がないのは解せない。予期せぬトラブルや裏の糸が引かれている可能性はある。マダラが不審を募らせ、そろそろ自らスカラビア寮へ踏み込もうと立ち上がった、まさにその時だった。
ギィィ……と、オンボロ寮の古い扉が外から押し開かれた。
「ふなぁぁぁ……! やっと着いたんだぞ……!」
真っ先に滑り込んできたのは、すっかり疲弊しきった様子のグリムだった。だが、帰還したグリムの背後には、見覚えのある顔ぶれが続いていた。
「こんばんは、マダラさん。ご機嫌いかがですか?」
薄笑いを浮かべ、洗練された仕草で一礼するアズール。その左右には、護衛のように静かに佇む双子ジェイドとフロイドの姿。
そして彼らの傍らには、意思を持っているかのようにふわふわと宙に浮く、色鮮やかな一本の『絨毯』だった。
「何の真似だ」
「失礼ですね、僕はグリムさんを助けて差し上げたのですよ」
アズールは心外だと言わんばかりに胸に手を当て、芝居がかった溜息をついてみせた。
「どういうことだ?」
マダラが低い声で問い質すと、アズールの背後から這い出してきたグリムが、毛を逆立ててキーキーと叫んだ。
「そうなんだぞ、マダラ! オレ様、スカラビア寮に軟禁されていたんだぞ!!」
「軟禁だと?」
グリムが語った事の顛末はこうだった。マダラがイグニハイド寮へ出向いていた間、スカラビア寮の宴に招かれていたグリム。
最初はご馳走されていたものの、冬休みの補講と称して寮生たちを不当に縛り付け、過酷な訓練を強いる寮長のカリムの横暴な振る舞いに巻き込まれてしまったという。
あまりの異常さと恐ろしさに耐えかねたグリムは、隙を突いてカリムが所有する『魔法の絨毯』を奪い、スカラビア寮を脱出。あてもなく空を彷徨っていたところを、オクタヴィネル寮の敷地内に不時着し、アズールたちに拾われたのだという。一通りの報告を聞き終えたマダラは、深々と溜息を吐いた。
「また厄介な事を持ち込んだな」
「オ、オレ様のせいじゃねぇんだぞ! 仕方ねぇだろ!」
「まぁ良い。それで、お前たちはどうするつもりだ」
マダラが視線を向けると、アズールは待っていましたとばかりに眼鏡のフチを指で押し上げた。
「僕たちはカリムさんとは同じ2年生の同級生ですが彼は本来、そのような圧制をし敷くお人には見えません」
「ですので、スカラビア寮内で何かしらの問題が起きているのではと、アズールは推測しております」
ジェイドが流れるような所作で言葉を継ぎ、その横でフロイドが退屈そうに身体を揺らしながら笑う。
「アズールがその問題を解決してあげたら、スカラビアにデカい恩が売れるかなーって〜」
「フロイド、そこは声に出さなくていいのですよ」
アズールはゴホンと咳払いをして誤魔化したが、下心が透けて見えているのは明白だった。だが、マダラはその浅ましい計算高さを咎めるでもなく、静かに黒い瞳を激しく
「だ俺の監督不届きでもあるな。この件、放置するわけにはいかん」
「おや? 貴方が自分以外の問題に首を突っ込むとは珍しいですね」
アズールが意外そうに眉をひそめると、マダラは鼻からフッと冷ややかな息を漏らし、背筋が凍るほどの威圧を静かに放った。
「勘違いするな。俺の見えない場所で勝手にことが運び、盤面が展開していくのが不快なだけだ」
マダラは一歩踏み出し、アズールたちを見下ろしながら冷徹に言い放った。
「俺の知らぬところで糸を引く者がいようと、俺の頭上を越えて踊ることは許さん。『後ろ』に立たれるのは嫌いなんでな」
その言葉に含まれた圧倒的な支配者の矜持と、絶対に何者にも後れを取らないという絶対的な自負。アズールは一瞬だけ息を飲み、すぐに口元へ深遠な笑みを浮かべた。
「なるほど。実に頼もしい『協力者』が得られそうですね。ではマダラさん……共にスカラビア寮の『裏』を暴きに行こうではありませんか」
明日も同時刻に更新いたします。引き続き観ていただけますと嬉しいです。