夜の食事が終わり、静かになったオンボロ寮の一角。 マダラが一人、部屋の灯りの下で静かに目薬を差していると、扉が控えめにノックされ、エペルが顔を覗かせた。
「あ、マダラくん……邪魔してごめんね」
「どうした」
マダラは手にしていた小さな薬瓶をポケットへ収めると、淡々とした声で問いかけた。昼間までの硬い表情とは打って変わり、今のエペルの瞳には憑き物が落ちたような清々しさがある。
「はい、これ。りんごジュース、まだ飲んでなかったよね? よかったらどうぞ」
エペルはそう言って、自郷から送られてきた特製のりんごジュースが詰まった瓶を差し出した。
「手間をかけるな」
マダラがそれを受け取ると、エペルの視線がふと、マダラが先ほどまで手にしていた小さな薬瓶に向けられた。
「それ……目薬?」
「あぁ。お前の寮長から貰ったものだ」
「ヴィルさんが? ……それって、やっぱり『写輪眼』を使うと、目に相当な疲れが溜まったりするの」
どこか心配そうに覗き込んでくるエペルに、マダラは特に表情を変えることもなく、どこか他人事のように小さく鼻を鳴らした。
「オレ自身はそうは思っていないがな。学園側やあいつらにしてみれば、無駄な心配をしたくなるのだろう」
己の瞳が「消耗」によって闇へ落ちつつあるという真実を隠し、あくまで周囲の過保護な配慮であるかのように吐き捨てるマダラ。そんな彼に対し、エペルはフッと柔らかく微笑んだ。
「確かにマダラくんの力ってボクたちから見たら未知のすごい力だし、学園の人たちが心配するのもおかしくないと思うよ」
「……そうか」
真っ直ぐな瞳で自分を見つめ、素直な言葉をかけてくるエペル。 かつての自分や戦場には存在しなかったような、無垢で純粋な温かさに触れ、マダラは短く答えると、手の中のりんごジュースに視線を落とした。
「貰っておく」
「うん! ゆっくり休んでね、マダラくん」
小さく手を振って部屋を去っていくエペルの背中を見送りながら、マダラは一人、静まり返った室内でポツリと佇んだ。
静まり帰った談話室で、窓の外から差し込む緑色の眩い光に導かれ、外へ出るとツノ太朗が居た。夜の静けさの中に佇む彼の身からは、常人離れした強大な魔力と、どこか浮世離れした孤独の気配が漂っている。
「おや、久しぶりだな。ヒトの子よ。変わりはないか?」
マダラが淡々と応じると、彼は薄く口元を歪め、愉快そうに細い瞳を細めた。
「お前こそ変わりないようだな」
「それはそれは……楽しそうで何よりだ」
「それと、以前ホリデーカードたるものを受け取ったが、あれはお前か?」
「ん?…ああそういえば、リリアにお前宛てのカードを預けたんだったな。……返事はおくられてこなかったが」
返事が来なかった彼は、ふと視線を落とし、少し寂しげな表情をする。どんなに強大な力を有していても、友からの便りを待つ一人の若者としての素顔が見え隠れしていた。
「宛名のわからぬものに、文は届けられないだろう」
「お前は僕の事をよく知らない世間知らずなんだったな。フフフッ」
「だが、オレにも非がある。詫びだと思い。これを受け取ってほしい」
と、今日学園長からVDCの観覧チケットをマネージャー権限で、もらった。しかし、マダラに招待する友人もいないので、彼へ渡す。
「これは……今度の文化祭で行われるステージのチケット?まさか、この僕を招待しようと言うのか?」
「なんだ?お前は招待に来てはならない。決まりでもあるのか」
他国の長のような者は、気軽に招待に応じてはならない理由もあるかもしれないが、と考えると彼は軽く笑う。
「お前が本当におそれ知らずと知らないと見えるからな。まぁ、僕の名も異世界じゃ通用しない。この招待、謹んで受け取ろう。お前も舞台に上がるのか?」
「オレがそのようなことをするか?」
「そうだな。だが、残念だ。シェーンハイトやアジームが出るなら、華やかになるだろう。文化祭を楽しみにしている。おやすみ。マダラ」
異世界の強者であり、同じく孤独を知る者からの飾らない招待を懐に収め、彼は満足そうに闇の中へと消えていった。
○○○○
レッスンの休憩の合間、ボールルームの脇でタオルを首にかけたエースたちが息を整えていた時のことだ。ふと周りを見渡したエースが、首をかしげながら声を漏らした。
「あれ?そういえば、マダラは?」
「そういえば……最近、あいつ一人でどこか行ったり、遠く離れた場所にいることが多いな」
デュースもペットボトルの水を飲みながら、困惑したように同意する。オンボロ寮で暮らし始めてからというもの、マダラは口数が少ないながらも、いつもグリムや自分たちの近くに佇んでいたはずだった。
「まぁ、今回は『VDC』のことだしな。あいつ、歌とかダンスとかそういうの全っ然興味なさそうだし、居づらいんじゃねーの?」
エースが「あいつが踊ったら槍が降りそう」と冗談めかして笑おうとする。だが、エペルは少し不安そうに視線を落としながら、ぽつりと呟いた。
「だとしても……こうも僕たちから離れることなんて、今までなかったよね……?」
「うーむ……言われてみればそうだゾ。夜も一人でオンボロ寮の外に出て風に当たってたりして、オレ様たちに隠れてうまいもんでも食ってんのか?」
「そんなわけないだろ」
楽観的なグリムの言葉に突っ込みを入れつつも、どこか胸騒ぎを拭いきれないエースたち。そんな会話を、少し離れた場所で水分補給をしていたヴィルが耳にしていた。
「……ふむ」
ヴィルは美しく整った眉をわずかにひそめ、汗を拭いながらマダラが立ち去った扉の方向を静かに見つめる。
(ただの無関心や気まぐれならいいけれど……。あの男の瞳、最近どこか焦点を合わせづらそうにしている時があるわ。魔法薬学の処方だけでは、抑えきれていないのかしら)
「ヴィルサン。マダラくんって、何かあったのですか?」
仲間たちが少し離れた場所で水分補給をする中、抑えきれない不安を胸に、エペルがヴィルへそっと近づき尋ねた。
ヴィルは首にかけたタオルで汗を静かに拭うと、エペルを優しく、だがどこか冷徹さも含んだ眼差しで見下ろした。
「今は、あのマダラの心配は無用よ。彼は己の力量も、己の身に何が起きているかも全て把握しているわ」
「最近すごく遠くを見ていたり、一人でいることが多いなって…」
エペルが言葉を濁しながら視線を落とすと、静かに歩み寄ってきたルークが帽子に手を当て、優雅に微笑んだ。
「フフ、心配はいらないよ、ムシュー姫林檎。彼の背負う影はあまりに深く、そして果てしない。まるで冬の夜空に輝く一等星のように美しく……そして、誰の介入も許さぬ孤高の輝きだ」
「ルークサン……」
「だがね、エペルくん。彼が群れを離れるのは、我々を嫌ってのことではないよ。あまりに眩しい日差しに晒され、その瞳を休めているだけなのだから」
ルークの独特な言葉選びに、エペルは少し首をかしげたが、ヴィルはふっとため息をついて会話を引き取った。
「ルークの言う通りよ。唐突にこんな温室に放り込まれて、精神が追いつかなくなるのも無理はないわ」
「精神が……追いつかない……?」
「己を固く閉ざすことでしか生きられなかった人間が、急に『平穏』に触れた時どうなるか……。あいつは今、戸惑っているのよ。己の生き方を否定されるような、その暖かさにね」
ヴィルはマダラが去っていった廊下の先を、厳しくも哀愁を込めた目で見つめた。
「あいつなりの意地とプライドがあるのよ。だからこそ、私は過剰に手を差し伸べないわ。それが、あの男の美学に対する敬意というものよ」
「マダラくんの、プライド……」
「ええ。だからアナタたちは、余計な勘ぐりをせずVDCのレッスンに集中しなさい」
「はい! わかりました、ヴィルさん!」
エペルは力強く頷き、再び自分の練習位置へと走っていった。ヴィルは苦々しく眉をひそめ、胸の奥で小さく呟く。
「永遠など存在しないね…嫌になるわ」
○○○○
『全国魔法士養成学校総合文化祭』当日。 VDCの本番を午後に控え、緊張感が漂う学園内で、時間を持て余したマダラとグリムは校内を散策していた。
「あっ! あそこにいるの、サバナクローのヤツらじゃねぇか? おーい!」
メインステージ付近の設営現場を見つけたグリムが声を張り上げる。作業をしていたラギーが振り返り、ニシシと口元を緩めた。
「おやまあ、オンボロ寮のお二人さん。設営の手伝いに来てくれたんスか? シシシッ」
「お前等、確かエースやデュースのマネージャーになったって言ってなかったか?」
「アイツらは『VDC』本番に向けて最後の追い込み中なんだゾ。で、オレ様達は邪魔だからって控室から追い出されちまったんだ」
グリムが不満そうにヒゲを揺らすと、ラギーは苦笑しながら汗を拭った。
「でかい催しとはいえ、文化祭はあくまで学校行事ッスからね。プロに頼む所もあるけど、学生の手で作るのが基本ッス」
「キミ達、設営中にお喋りとは随分余裕がおありだね。作業は予定通り進んでいるのかい?」
そこへ、実行委員会のリドルとトレイが視察にやってきた。彼らは運営の責任者として、各ブースの進捗を把握のために来たみたいだ。
「レオナ先輩。設営の進捗状況はいかがです?」
「ご覧の通り、報告するほどの遅れはねぇよ。あとは照明と音響の軽いテストをしたら、12時からのリハ待ちだ」
「……よろしい。遅れがないようで何よりだ」
現場の確認を終えたリドルは、ふとサバナクローの面々から離れた場所に静かに佇むマダラへと視線を向けた。 朝の光を受けて立つマダラだったが、その表情は異様なほどに暗く、どこか焦点を結んでいないような違和感を覚える。
「……マダラ」
「なんだ」
呼び止められ、マダラが冷ややかな黒い瞳を向ける。 だが、その視線が一瞬だけ自分の顔からわずかにズレ、すぐに向け直されたのを、リドルは見逃さなかった。
(僕を見落としたのか……? )
一瞬、問い詰めようとしたリドルだったが、マダラの醸し出す孤高で寄せ付けない雰囲気に思い留まり、小さく首を振った。
「いや、なんでもない。ボク達はこれから校内を一周見回る予定だけれど、展示に興味があるなら、二人も一緒に来ても構わないよ」」
「やったー! 楽しむんだゾ!」
こうして、リドルたちと共に校内巡回を兼ねた散策が始まった。
「そういえばさ、クルーウェルが文化祭には『4年生』が戻ってくるとか言ってたんだゾ。普段は学園で姿を見ねぇけど、どこにいるんだ?」
歩きながらグリムが素朴な疑問を口にすると、トレイが優しく微笑みながら答えた。
「4年制の魔法士養成学校なら、ほとんどの場合4年目は学外へ実習に出ることになるんだ。俺も来年はどこかへ派遣されて、ごくたまにしか学園には戻ってこなくなるはずだよ」
「ほぇ~……ジッシューって? どんなことをするんだゾ?」
「行政組織内にある特殊チームでの実習を希望する人もいるし、遺跡の発掘や調査、古文書の解読などを希望する人もいる。一般の魔法関連企業のインターンに出る場合もあるね」
感心するグリムの横で、トレイはふとマダラの方へ視線を向け、静かに語りかけた。
「ああ、そういえばマダラは……魔法が存在しない異世界の出身だったな。向こうの若者も、同じように将来の道を自分で選ぶのかい?」
「選ぶということはなかったな」
マダラは溢れかえる生徒たちの喧騒を、遠く見つめながら低く呟いた。
「こちらの世界は、自由に職を選び、自らの意志で未来を歩める。良い時代だ」
その言葉の裏に潜む重苦しい陰影に、隣を歩いていたリドルはハッと胸を突かれた。マダラが以前口にしていた「戦火の絶えない乱世」の記憶。
戦い、死んでいくしかなかった彼らの生い立ち。自分で未来を選ぶことすら許されなかった過去と、目の前で楽しそうに将来を語る生徒たちの対比。
そして何より……マダラの表情は、この平穏で自由な学園に居ながらも、精神が未だ過去の惨劇にとらわれ、すり減っているかのように暗かった。
(マダラ……。君は今、何を見ているんだ? 僕たちと同じ景色が見えているのか?)
瞳の奥に宿る影と、どこか衰えを感じさせる視線。 リドルは胸の中に湧き上がる強い懸念を抱えながらも、今は何も言えず、隣を歩くマダラの横顔をただ静かに見つめ続けた。
その後、トレイのサイエンス部、ジェイドの山を愛する会。ガーゴイル研究会と校内を散策していった。それぞれの部活が趣向を凝らした展示や解説に触れつつ、次にボードゲーム部の展示エリアへ入ると、部屋の片隅で挙動不審にコソコソと動く影があった。
「イデア先輩、そんな所で何を?」
「どぅわっ!!!リドル教官!!!」
「教官?ステージでの研究発表、準備は出来ていますか?」
二人のやりとりにマダラは、普段会話をしているイデアの違いに顎に当てて、考えるがまぁ話しずらい相手もいるだろうと、完結した。
「ご、ご心配頂かなくても問題ないですし。まあ見といて下され。ヒヒッ」
「……?はい」
呆れ気味に念を押すリドルの後ろから、静かに一歩前へ出たマダラがイデアに視線を向けた。
「久しいな」
「あ、マダラ氏、あれから武器の使い勝手はどう?」
数日前にイデアから受け取った改良版の武器は、想像を遥かに超える出来だった。手に持った感触もかつて、触れていた感覚に酷似していた。
「問題は無いが、からくりが多く扱いが無れん」
そう、武器に内臓されているバッテリーや起動時にコンパクトな形状から、大きさを変える変形には慣れない。
「そこは、最新の技術なのでご了承くだされ」
「まぁ、いずれ使いこなせるだろう」
「マダラ氏なら、余裕で振り回す未来しかないね」
「振り回さなければ、使えないだろう」
「まぁ、また何かあったら教えて」
その後は、ボードゲーム部の内容を弟のオルト紹介されるが、VR機器を屈指したすごろくに「これはボードゲームか?」とマダラの勘違いが加速するのであった。
○○○○
メインストリートへ戻ると、複数のサバナクロー寮生が、小さな子供たちを囲って威圧していた。
「おい、テメェ。人の制服に鼻水つけておいて、詫びもナシかよ!」
「ぼく、ごめんなさいって言ったよ……へぷちっ!」
「うわっ!こいつまた鼻水飛ばしてきやがった!」
「スニック!ほら、鼻をかんでください。ちーん」
「ドミニク、ありがと……ちーん」
どうやら、小さな子供のうち一人がサバナクロー寮生に鼻水をつけてしまったらしい。囲まれて怒鳴られているというのに、メガネを掛けた子供はどこか緊張感のない、慣れた様子で場の対応をしていた。
「すみません。彼が汚した制服のクリーニング代は、私がお支払いしますから……」
と物腰丁寧な口調でしゃべる。すると、サバナクロー寮生が子供たちの服装に気づき、嫌悪するように目を開く。
「あったりまえだろ。つーか、どこの幼稚園生かと思ったら……。よく見りゃお前ら、ロイヤルソードアカデミーの制服をきてやがるじゃねぇか」
そう、彼らはただの迷子の子供ではなく、ナイトレイブンカレッジの長年のライバル校、ロイヤルソードアカデミーの生徒だったのだ。彼らが身に纏う真っ白な制服は、黒を基調とするNRCとはまるで正反対の対比を表しているようだった。
「幼稚園生だとぉ!?てやんでぃ!このオレ、グラン様は立派な高校生でぃ!ドワーフ族をナメんなよ!」
「へぇ、ガキなら許してやろうかと思ってたけど、それじゃ遠慮する必要ねえな!」
「俺らの制服汚してくれたかわりに、お前らの白い制服を泥で汚してやるよ!」
あまりにも低俗な争いにマダラは静かに一歩前へ出た。
「マダラさん!?」
「げ!?なんでここに!?」
突如背後に現れた圧倒的なプレッシャーとマダラの姿に、サバナクロー寮生たちは顔を引きつらせて驚く。
「お前たちはなぜメグジらを立てる。それでは寮長の顔に泥をぬるだろう。お前たちはいい加減学習したらどうだ」
魔力も腕っぷしもあるというのに、その使い道が他校の弱者をいびるというくだらないことにかみ合っていない現状に、心底やれやれと思う。
「全くだよ、さて、判決は有罪だ「首をはねろ」!」
マダラの横から進み出たリドルが即刻ユニーク魔法を使用し、サバナクロー寮生たちの首に重厚の魔封じの首輪をつけた。
「まだ文化祭が始まって間もないというのに、早速騒ぎを起こすなんて。ハートの女王の法律以前の問題だ!!」
リドルがユニーク魔法で容赦なく制裁をさせたことで、荒れていたこの場はあっという間に収まった。
「助けてくださって、ありがとうございます」
「てやんでぇ。助けてもらわなくても、オレだけでなんとかできたってのによぉ」
「こらっ、グラン!またそんなこと言って」
礼を言うドワーフ族の横で、グランと呼ばれた生徒がふんぞり返る。確かに勝手にでしゃばって助けたのはマダラたちだが、その言葉にマダラは眉をひそめた。
(……これが、名門NRCと長年肩を並べるライバル校の生徒か)
マダラは内心、ひどく落胆していた。ライバル校と聞いていたからには、それ相応の「力」や「気骨」を持った強者たちなのだろうと、心のどこかで期待していたのだ。
しかし目の前にいるのは、自らの身を守る術も持たないのに虚勢だけを張る軟弱な小童だった。戦う覚悟も、危機を回避する力もない。
そのあまりの無力さと期待外れな姿に、いくらマダラと言えど、呆れを含んだ言葉が口をついてでてしまう。
「なら同じ魔法師と名乗るなら、回避の術を覚えていろ」
長年ライバルと聞いてきたロイヤルソードアカデミー達の、あまりにもお粗末な行動と実力不足に、マダラは冷ややかな言葉を添える。
「確かにそうですね。以後は気をつけます」
注意されたことに対して反発するNRC生とは違い、教訓として理解しようとする真っ直ぐな志だけは、マダラも素直に評価した。すると、横で見ていたグリムがまじまじとドワーフ族をみる。
「オマエらオレ様とそんなに背丈が変わらないのに、ホントに高校生なんだゾ?」
「さっきから、なんなんだ!失礼な奴らだ!オレたちはドワーフ族にしちゃでかいほうなんだぜぃ。ふんっ!」
「グラン、やめなさいったら。ところで、みなさん。私たちと同じくらいの背丈をしたドワーフ族4人を見かけませんでしたか?実は控室に行く途中、仲間とはぐれてしまって……」
トレイやリドル達が会話をしていると、マダラは周囲の空間に微細な魔力の揺らぎを感じ取った。覚えのあるその奇妙な気配に、マダラは何もない虚空に向かって問いかけた。
「いつまで、隠れている」
「やっぱりおみゃーには、効かないにゃあ。わふ~っふっふ~ん♪お探しものかい?それなら、この俺様に聞いてみにゃぁ」
何もない空中から突如、生首だけの猫の獣人族があらわれ、驚いたグリムが飛びあがる。
「うわーーーーーッ!生首おばけ!!!!」
「「チェーニャ!?」」
「あっ、よく見ればオマエ!ハーツラビュルの庭で会った、にゃあにゃあ言う変なヤツ」
「ンッフッフ。猫のようなヒトのような、魔力をもった不思議なヤツ。アルチェーミ・アルチェーミエヴィチ・ピンカーとは、俺様のことだにゃあ」
宙に浮いた生首から身体が徐々に見えてゆき、全体像を現した。同じ学校の先輩の予期せぬ遭遇に、ドワーフ族たちの表情がパッと明るくなる。
「あっ、チェーニャ先輩。トービーたちがどこにいるか知ってるの?」
「おみゃーたちが探してるお友だちなら、あっちに行ってこっちに曲がったところを、そっちに行ったぜぃ」
あまりにも大雑把で適当な説明に、マダラは小さく息を吐くと、自ら魔力を探知して周囲を探った。先ほどのドワーフ族たちと似たような、特有の魔力の波長を捉える。
「お前たちの友人なら、校舎を突き抜けて、中庭にいるはずだ」
「ありがとうございます、先輩。それからナイトレイブンカレッジのみなさんも。では!」
トコトコトと短い足音を立てて、その場からドワーフ族の生徒たちは急いでいなくなった。嵐が去ったように静かになった後、チェ―ニャは不思議そうな顔でマダラをじーっとみつめる。
「いつ見てもおみゃーはわかりづらいにゃー」
「どうでも良いだろう」
「チェーニャ、そのユニーク魔法で他の来場者をおどかしてはいけないよ!」
規律を重んじるリドルのもっともな意見にも、チェ―ニャはニシシと笑って軽く流しながら、再び輪郭をぼやけさせ、透明となってきえていった。
明日も同時刻に更新いたします。5章は明日で完結です。よろしくお願いいたします。