学内をある程度見まわった後、VDC会場であるパープルステージへ戻ったマダラとグリム。直前の到着に一同に冷やかされながらも、ヴィルはメンバーへ激励を送った。
「『VDC』では毎年、開催地となった学校のチームがトップバッターで出演する事が決まってる。アタシ達以外が全員ジャガイモに見えるくらいのパフォーマンスを見せてやろうじゃない」
ヴィルの放つ強い眼光と覇気に呼応するように、メンバーの士気が上がった瞬間だった。
「ヴィー君?」
「やっぱり!ヴィー君だ!」
無邪気な笑顔で手を振っている者は、同じくロイヤルソードアカデミーの制服を着用していた。
「ネージュ……!」
「久しぶりだね、元気にしていた?」
「今年の『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』、ヴィー君が出るってニュースで知って、会えるの楽しみにしてたんだ!」
ネージュ・リュバンシェ。愛らしい容姿と絶大な人気を誇る、今回のVDCで一番の敵となる存在。
眩いばかりの笑顔を向けるネージュの裏側に、ヴィルの表情は暗く曇っていた。その完璧に作り込まれた美しい顔の陰に、隠しきれない焦燥と強烈な感情が揺らめいている。
「ねぇ、ヴィーくんそこの彼もステージに立つの?」
「彼はマネージャーよ」
「へぇー、ヴィーくんみたいにかっこいいから、ステージに立つかとおもった」
「確かに、マダラはステージに映えそうだわ」
「マダラっていうだね。素敵な名前だね。あっ!さっきはトビーたちの案内してくれてありがとう!」
悪意の欠片もないネージュの素直な感謝を受け流しながらも、マダラはその澄み切った瞳と、対比するように沈むヴィルとの温度差を冷静に観察していた。
そして、VDCリハーサルが始まり、ヴィルたちは練習の成果を発揮する。極限まで鍛え上げられた美しさでヒザマづくような歌声とダンスは、会場中の人々の目線を釘付けにした。完璧な統率と芸術的なパフォーマンス。
だが、それをかき消すほどのネージュのさらなる力。理屈を超えて人を魅了する異様なまでの無垢な存在感は、一瞬で会場の空気を呑み込み。
ヴィルたちの生み出した美しさを塗り替えてしまった。
その曇った顔をマダラは見逃さなかった。リハーサルを終え、ネージュを見つめるヴィルの瞳。そこに宿る暗く渦巻く情念。彼はネージュに何かしらやると、確信した。
あの憎しみにこもった瞳は、うちはであるマダラが一番にわかっていた。 「憎しみ」へと転じ、力を求めて闇へと堕ちていく者の瞳。マダラは隣に立つ少年に低く声をかける。
「ジャミル」
「わかっているヴィル先輩のことだろう。俺がネージュを使って会場の人を避難させる」
近くにいるジャミルも同様にその予兆に気付いていた。そして、その異様な気配とヴィルの只ならぬ様子には、カリムとルークも瞬時に気付いており、グリムは二人に同行し、ステージ裏へ去ったヴィルを追いかけた。
「オレは後を追う」
「助かる。頼んだぞ」
マダラはジャミルに後を任せると、単身でヴィルたちの消えた方向へと跳んだ。コロシアムの薄暗い舞台裏通路へと足を踏み入れる。前方の視界は良く見えるはずの場所だが、奥へ突き進むにつれて空気が異様に重くなる。
壁や床を侵食するように広がるその渦の中、ついにマダラは通路の奥で異形と化した姿を発見した。その姿は闇に落ちたオーバブロットしたヴィルだった。
「苦しみは長く続かないわ。もうすぐ息が止まる。血も凍りついて、もう二度と目覚めることはない。アーハハハハハ!!!」
毒々しい紫のオーラを纏い、狂気と絶望の笑い声を響かせるヴィル。
「ああ……ヴィル。なんて恐ろしく、哀しい姿なんだ。それでもなお禍々しいほどに美しい、キミの姿から目を逸らしたくない……」
痛切な眼差しでヴィルを見つめるルークだったが、ヴィルの禍々しい魔力は留まることを知らず、すぐに床から黒い霧が発生する。周囲の空気を侵食し、吸い込むだけで命を奪う死の毒霧が瞬時に広がっていく。
マダラはその危険を見極めると、直ぐにチャクラを込めて、須佐男を顕現させる。青いチャクラを骨に纏わせる。肋骨状の巨大な姿がマダラを中心に組み上がり、溢れ出す。
「須佐能乎」
「マダラ!」
「毒霧だ内側にいろ」
迫り来る死の霧に対し、マダラは低く命じ、カリム、ルーク、グリムを須佐男の内側へ入らせる。毒の侵入すら許さぬ絶対の防壁が、彼らを丸ごと包み込んだ。
「マダラくんその、巨大な像は一体」
「この技を使用しているうちは、外部の攻撃は通用せん」
目の前の光景にルークが息をのむ。巨像の防壁の内側は完全な安全地帯となっていた。マダラの力にヴィルは眉間に皺をよせる。
「これがアンタのちからなのねくっ!?おのれ……邪魔をするな……!」
オーバーブロットし暴走するヴィルが、激昂とともに巨木のような攻撃をマダラへ振り落とした時、黒い絨毯がヴィルの攻撃を妨害する。
「あ、あれは……魔法の絨毯!?どうしてここに!?」
「まったく、こんなことだろうと思ったよ。みんな、乗れ!」
「ジャミル!」
ジャミルは呆れた顔で、四人の前へ現れる。カリムは絨毯の姿に驚くが、急いで絨毯へ乗る。
「逃すものですか……!」
絶望的な毒の威力を振り撒きながら、なおも追いすがろうとするヴィルに対し、マダラは印を結ぶ。
「火遁・業火球の術」
一度火遁を出し、時間をかせぐ。巨大な炎の球体が廊下を満たし、猛烈な熱風が毒霧とヴィルの視界を遮った。その隙に魔法の絨毯は急上昇し、毒霧が渦巻く閉鎖空間からの離脱を図る。
「マダラその術は解除しておけ、負担を考えろ」
過剰なほどの魔力や体力を消耗していると危惧したジャミルが声をかけるが、マダラは一瞥もくれずに短く返した。
「この霧で解除をしたらお前たちは簡単に死ぬだろう」
絨毯は激しい風を切り、コロシアムの開けた大空間へと飛び出した。ヴィルの強大な魔力の暴走に煽られ、空は禍々しく荒れ狂っている。
カリムが観客の避難に心配するが、辺りを見ると観客は誰もいなかった。静まり返る客席を見回し、呆然とするカリムにジャミルが吐き捨てるように言う。
「お前の突拍子もない行動のフォローをし続けて、何年になると思ってるんだ。とっくに全員、外に避難させた!」
「あの、作戦は使えたんだな」
「お前が言うと嫌味にしか聞こえないな」
そう、ジャミルな人気のネージュを使って観客を避難させた。ジャミルのユニーク魔法『蛇のいざない』は洗脳。
洗脳させたネージュをコロシアムの外で、歌を歌わせたら、観客はネージュへ走る。その出来前にマダラは、嫌味ぽく笑う。
「ネージュたちのリハを見た後、ヴィル先輩の顔を見て嫌な予感がしたんだ。どっかの誰かさんたちが蜂の巣を突くような真似をして、最悪の事態を招くんじゃないかってな」
「えーっ!!なんだよその言い方!?だって、放っておけないだろ!?」
カリムの言い分もわかるが、結果としてヴィルがオーバープロットへ招いた。しかし、現状のまま本番に望んでも結果は、どうなるかわからない。
「ジャミル先輩!言われた通り、コロシアムに残ってた関係者は適当な理由をつけて全員避難させました!けどオレらが外に出ようとしたら、紫の霧がコロシアムを覆っちゃって」
「霧に触っただけで肌が焼けるように痛くなるし、とてもじゃないけど突っ切れない……あれ何なんですか⁉︎」
「一体、なにおごっちゃんだ?」
そこへエース、デュース、エペルがコロシアムへ来た。すると、現状の光景に驚く。異様な熱気と立ち込める毒々しい空気、ただならぬ惨状を目にして固まる一年生たちに対し、そこへルークが現状を説明する。
「キミ達、落ち着いてきて欲しい。毒の君がオーバーブロットしてしまった。このコロシアムを包む毒霧は、彼のユニーク魔法によって生み出されたものだ」
「「「えぇっ⁉︎」」」
「詳しい説明は後だ来るぞ!」
ジャミルの言葉が合図のように。巨大な魔力がコロシアムへ現れる。異形と化した美が姿を現した。
「逃がさないわ……。アタシの醜い姿を見た者は、誰一人生かしておくものですか!」
美しさを求めるあまりに、醜い姿になったヴィル。憎悪と焦燥に狂い姫となったその凄絶な姿に、ルークとエペルは覚悟を決める。
「今日こそは、絶対に負けられない!」
「ヴィル……その痛みの檻から、今キミを解き放とう」
毒霧がひどい。一息吸い込むだけで肺を焼き、皮膚を侵す死の空間。戦う方法は通常よりも、周りのものに警戒せねば。
そして、背後のブロットの像からりんごの影が落とされた。床に触れた瞬間、爆発的に広がる猛毒の波が、一行を呑み込もうと迫り来る。
「その大きな像本当に邪魔ね、でも、後ろがお留守番よ!」
「マダラ!なんだよそれ!」
「今は気にする暇はないだろう」
だが、守って戦い。普段の能力が発揮できないマダラは、想像以上に負担がかかっていた。猛者であるマダラの戦力を確実に削っていた。
「その技使うとお前は!?」
カリムの悲痛な叫びにそこで、マダラはふと思った。オレはいつからこんなやわな人間になった。
誰かを守る?一体どの口を入っている。戦いが目の前にあるというのに力を制限する?オレはどうしまったんだ。
味方の心配、背後の死角、周囲への被害。そんな下らん雑念に囚われ、己の刃を鈍らせていた自分自身に対する激しい怒りと呆れ。
かつて千手柱間と死力を尽くし、ただ純粋な「武」の頂を競い合ったあの戦場の記憶が、魂の奥底で爆ぜた。守るために縮こまるなど、このうちはマダラの戦いではない。
そして、マダラは口元は緩む。落ちかけていた眼光に、苛烈なまでの殺気と歓喜の炎が灯る。
「ふはははは!感謝するぞ!ヴィル・シェーンハイトォ!お前はオレに戦いを掘り起こしてくれた!戦いはこうでなくてなぁ!」
「なによ!急に力が高ぶって!」
そして、万華鏡が揺らぐ。渦巻くチャクラが狂暴なまでに膨れ上がり、青い防壁だった須佐能乎が荒々しい鎧を纏って膨張する。
マダラは防御の思考を完全に捨て去り、全威力を背後の化身へ叩き込む。天を裂くような衝撃波が吹き荒れ、巨腕の一撃が背後のブロット像をダイレクトに粉砕する。ブロットの化身が割れる一歩手前に差し掛かった時。
「マダラ!」
エースが腕を力一杯引かれる。倒れかけるマダラの身体を、エースが必死の形相で支えていた。
「なにやってんだよ!死ぬ気かよ!」
「なにをしているんだ……」
自分の腕を掴む若者の必死な体温と、喉の奥に届く心配の声。今まで、忘れていた戦いの感覚が戻る。
戦場において、マダラは常に圧倒的な「支配者」であり、「絶望」そのものだった。誰かに護られ、誰かに案じられ、弱者として手を差し伸べられることなど、遠い昔に捨て去ったはずのもの。
思わず身体が硬直した瞬間、耳を裂く声が響き渡る。
「お前ら、伏せろ!」
「あっ。そうか!皆、デュースの言う通りにして!はやぐ!」
「デュース君が纏う魔力が、どんどん膨れ上がっていく…⁉︎」
デュースが全員の動きを止め、エペルは何か予見しているようで、声をかける。ルークが魔力の上昇に驚く。ただならぬ気迫とともに、デュースの全身から爆発的な魔力が噴出していた。
「なんですって……⁉︎どこに、そんな魔力を残して……!」
「これは俺の魔力じゃない。シェーンハイト先輩、アンタが俺に叩き込んだ魔力だ!そしてこれが、今の俺にしかない”パワー”‼︎」
デュースにしかない力。それを覚悟として、ヴィルへ渾身の一撃として、叩き込まれる。
「落とし前をつけてもらう!歯ァ食いしばれ‼︎『しっぺ返し』!」
巨大な魔力を前にヴィルの背後にあるインク瓶は、割れた。轟音とともに毒の源泉が粉砕され、膨大なブロットが霧散していく。荒れ狂っていた天候が嘘のように引き、静寂が崩壊したコロシアムを包み込んだ。
〇〇〇〇
「おい!!マダラ!」
肩で息をするエースが、呆然と佇むマダラに声をかける。
「終わったのか」
「だって、デュースがユニーク魔法でトドメ刺しただろう」
「そうか」
高ぶった戦いへの欲望への損失にマダラは、落胆していた。せっかく呼び覚まされた血の疼き、死線を潜る快楽。それらが他者の手によって呆気なく幕を引かれたことへの虚無感。
だが、エースにはマダラの真相などわかるはずもない。
「それより、お前大丈夫なのかよ」
「問題ないだろう」
「マダラ見せなさい」
正気を戻しつつも痛々しい姿のヴィルは、マダラの目を見ると、表情が険しくなる。万華鏡写輪眼の乱用により、その瞳孔は焦点を結ばず、濁っていたからだ。
「アンタはすぐにクルーウェルの元へ向かいなさい。いい寄り道せずまっすぐによ」
「おやおや……これはどうしたことだ?」
現れた声の主に全員が振り返ると、全員がその人物がこの空間に居ることが、信じられない。と目が語っていた。
「「「!!!!」」」
「アンタは……」
「少し早く着いてみれば、ステージが滅茶苦茶じゃないか」
「ツノ太郎か」
マダラが呼んだ、たまに会う、奇妙な人物のあだ名に。だが、そのあだ名に全員が、マダラの言葉を疑う。
『ツノ太郎!!!!????』
「マダラから話は聞いてたけど、本当に頭にツノが生えてんだな!にゃっはっは……ふがっ!」
「こら、グリム!!お前っ!先輩になんて口の利き方してんだ!」
「マダラ!あのヒトをツノ太郎呼ばわりするなんて、命知らずにも程があんでしょ!」
彼の姿にルークは驚くが、彼は招待状を見せるが、強力な呪いを前に彼には、まじない程度だったらしい。その全身から溢れ出る魔力は、世界の理を歪めるほどに強大だった。
「フン。この子の世間知らずをいいことに、随分と戯れていたようね。茨の魔女の高尚な精神に基づく、ディアソムニア寮の寮長……マレウス・ドラコニア!」
「いかにも。僕は茨の谷の次期当主、マレウス・ドラコニア」
なるほど、マダラは一国の時期当主ならば、招待状の件や名前を名乗らなかった理由に納得した。重い立場を背負う者ゆえの、束の間の忍び歩きだったのだと。
そして、マレウスは崩壊した会場の現状を聞いた。オーバーブロットの戦闘が原因だと、こと細やかに話をした。
「まあ、いいだろう。貸しひとつだ、シェーンハイト」
「え?」
すると、辺りが地ならしのがなる。崩れた岩や資材が宙に浮かぶ。マレウスが微かに魔力を解き放っただけで、次元そのものが振動を始めた。
「くくっ。ヒトの子よ。お前たちに贈り物を授けよう。あるべき場所へ、あるべき姿へ戻れ!」
瞬きをひとつすると、壊れていたコロシアムは、戦いの前の姿に戻っていた。時間すら巻き戻したかのような圧倒的な奇跡。
「マジフト大会の貸しをかえしたぞ」
以前マジフト大会で、混乱の中人を助けた件を覚えていたらしい。
「まだ覚えていのか、ツノ太郎」
「ふ、ははっ!お前、僕の正体を知っても、そのあだ名を貫くつもりか」
「オレはお前の力を知らないからな」
どれほど強大な王であろうと関係ない。対等な一人の男として接するマダラの態度に、マレウスはどこか愉快そうに笑ったのだった。
○○○◯
VDCが終わり、優勝は奇しくもロイヤルソードアカデミーで幕をとじた。そして、一同はケガの手当てのために保健室へきていた。激闘の興奮が冷めやり、疲労が色濃く残る静けさの中、一同は保険室へ入った。
「あれ?マダラは?」
ベッドの周りを見回したエースが首をかしげる。
「仔犬は眠っている、だから大人しくしとくんだな」
クルーウェルがマダラが眠っているらしいと言われる。奥のベッドのカーテンが静かに閉ざされていた。
「そりゃそうか、あんなデカいモンだして、疲れない方がおかしいよね」
エースは始めて見た須佐能乎に納得する。規格外の巨躯を誇る力。あれほどの術を行使したのだ、体力も限界に達していて当然だと、自分に言い聞かせるように頷いた。
「また今度にしないとね」
「僕たちは帰ろうか」
エペルとデュースに続く。それぞれが激戦で傷ついた身を案じつつ、今は静養させるべきだと判断して場を後にする。マダラの様子の気になるカリムをジャミルが退出を促す。
「カリム帰るぞ」
「‥わかった」
名残惜しそうにカーテンの奥を振り返りながらも、カリムはジャミルの言葉に従って重い足取りを後にした。クルーウェル含む全員が立ち去る中、部屋に訪れた本当の静寂を見計らい、ヴィルはカーテンに声をかける。
「マダラ起きているのでしょう?」
「あぁ。騒がしい奴らが去って、話せることもあるだろう」
低い声とともに、カーテンが緩やかに開く。マダラは横たわったまま、暗い天井を見つめていた。その瞳はどこまでも深く、光を映していない。
「お前が闇に堕ちた理由は、理解できる。この眼は闇が見えるからな」
うちは一族の血を引き、執着と絶望の末に闇へ堕ちた経験を持つマダラには、ヴィルの過ちも、手に取るように分かっていた。
完璧さを求め、美への執着ゆえに自我を汚濁させていく過程は、愛ゆえに憎しみへと反転するうちはの宿命に酷似していたからだ。
「また、アンタ視力が落ちたわね。今回の戦いで」
ヴィルは、マダラの眼の光が先ほどよりも一層失われ、焦点を結んでいないことを見抜いていた。万華鏡写輪眼を乱用した代償。光の喪失。
「もう、時期に失う光だ今更、考える必要はなかろう」
「それ、本気で言っているの?」
己の身体や視力を失うことに対して、あまりにも淡々としたマダラの態度に、ヴィルは慄然とする。しかし、この男は光を失う未来をただの事実として受け入れていた。
「オレは初めから、この世に存在していない。未練も無く、死んだ存在だ」
「何を言っているの」
「だが、死体が動いている。戦いを前にしてオレは血を見て、思い出させた」
一瞬の沈黙。マダラの口元が、闇の中で歪に吊り上がる。うちはの血に刻まれた、戦いと破滅への渇望。本来ならとっくに終わっていたはずの命が、この異世界で再び戦火の匂いを嗅ぎ、狂喜していた。
一度失った命、行き場のない己の存在。すべてを置き去りにし、ただ眼前の死線のみに魂を灼く男の凄絶な笑み。
「感謝するぞ、ヴィル・シェーンハイト」
「アンタ一体どこへ向かっているの」
正気を疑うようなマダラの言葉に、ヴィルは背筋が凍るのを禁じえなかった。救いも栄光も求めず、ただ純粋な破滅と闘争の渦へと突き進もうとする狂気。彼が纏う闇は、オーバーブロットの毒よりもはるかに深く、底が知れなかった。
「オレは目の前で起こる、戦いを楽しむだけさ」
光を失いゆくその双眸の奥で、恐ろしいほどの漆黒の情念と、苛烈なうちはの闇が静かに渦巻いていた。
明日から6章です。感想や評価をいただけると励みになります。また全話を改稿いたしました。