監督生はうちはの長   作:zatumozi

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第20話 勝手な尺度

「マダラさんおまたせ。これを頭に付けて」

「あぁ、これでデータを集めるのか」

「うん!」

 

オルトの手から提示された測定用のヘッドギアを受け取り、マダラは無造作に頭部へ装着した。

 

「ダイブ・スタート!」

 

目を閉じ意識が深淵へと没入していった。そして、視界に広がる景色にマダラは夢でも見ているのではないのか。と疑った。

 

「マダラどうしたんだ?」

「は?」

 

思わず間抜けな声をマダラは漏らした。目の前の男は、長い黒髪にマダラとは相反した太陽の光を浴びた健康的な肌。死んでも尚忘れることのない。友であり、戦友の千手柱間が居たからだ。

 

だが、自分の知っている柱間よりも若い。 終末の谷で互いの全てをぶつけ合った刻の影はなく、うちはと千手が手を取り合い、希望に胸を躍らせていた頃の瑞々しい面影を残した柱間。ふと自身を見ると、うちはの装束の格好をしていた。

 

「扉間に書類の確認を急がれていてな」

 

柱間は苦笑いを浮かべながら、小脇に抱えた書類の山を掲げてみせた。

 

「ほら、南の区画の土地配分が決まらなくてな。書類仕事ばかりで頭が痛くなるぞ」

 

悪気もなく、懐かしい日々を完璧に再現してペラペラと喋る柱間。 その言葉の一つ一つが、マダラの脳裏に眠る『うちはマダラ』としての記憶と情念を暴き出し、S.T.Y.Xの観測モニターへデータとして流されていく。

 

(俺の記憶を、この男との時間を、他人の好奇や実験の道具として覗き見ているのか)

 

己の最も弱く柔らかな記憶を弄ばれたことへの苛烈な怒り。マダラから溢れ出るチャクラの質と量が跳ね上がった。

 

「マ、マダラ!どうしたぞ!」

 

突如として天を突くほどに膨れ上がった漆黒と青のチャクラの濁流に、仮想の柱間が困惑の表情を浮かべる。物理的な質量すら帯びたチャクラの圧力が、仮想世界の空間そのものを歪ませ、大地を砕いていく。

 

「お前は誰だ。そんな幻でオレを騙せると思ったのか」

 

大気が悲鳴を上げ、絶対の殺意とともに巨大な骨格が瞬時に組み上がる。スサノオを顕現して、柱間にぶつけるが、彼は軽々とよける。

 

「待てマダラ!なにを怒っている!?」

 

言葉すらもマダラの記憶から抽出し、彼が一番聞き入れるはずの甘い言葉を吐き続ける。だが、その瞳に宿るのはデータで作られた虚無。命の躍動も、真の柱間が持っていた譲れぬ信念の重みも存在しない。

 

「俺の魂を、柱間との過去を、戯れで語るな!!」

 

怒りが頂点に達し、チャクラの奔流はもはや計測限界を遥かに突破した。 青い炎のようなチャクラが鎧を纏い、完成体の一歩手前まで膨れ上がる。須佐能乎が振るう刀の一閃。

 

そのあまりのエネルギー密度に、仮想世界のデータが耐えきれず、空間がガラスのようにひび割れて粉々にはじけ飛んだ。

 

『警告測定不能』 『仮想サーバー全焼失。冷却システムが停止します』

 

観測用モニターが次々と爆発的な放電とともにブラックアウトし、シミュレーション装置が音を立ててショートする。白煙と激しいスパークが充満する実験室内で、頭部ギアを粉々に砕いて立ち上がったマダラ。

 

その全身から溢れ出る青いチャクラの余波だけで、周囲の精密機械が焦げ付き、金属の床が歪んでいた。

 

「これを柱間だと?笑わせるな」

 

偽物で俺の魂を愚弄した者たちへの不快感と、本物の千手柱間という唯一無二の宿敵への狂おしいほどの渇望。光を失いつつあるその瞳の奥で、苛烈なうちはの闇とチャクラが、現実世界の機械すら呑み込む勢いで荒れ狂っていた。

 

「えー壊れることある??」

 

モニターの壊滅的なログを二度見しながらイデアが素で声を上げた。S.T.Y.X.の誇る最高峰の防壁システムと仮想空間が、たった一人の人間の感情の高ぶりと『チャクラ』の暴走によって物理的に破壊されたのだ。

 

「柱間さんの姿にマダラさんのストレス上昇がすごかったね」

 

オルトが冷却ファンの回る音に紛れて、ログデータを分析しながら事実を指摘する。

 

「なに?地雷なの?前の世界でなにやったの?」

「あの『柱間』って人が出た瞬間、愛憎が深すぎて測定器が焼き切れるとか、どんな重い過去抱えてんの」

 

イデアは青い炎の髪を掻きむしりながら、画面に残された僅かな脳波と波形データを食い入るように見つめた。

 

「学園のマダラさんはいつも、落ち着いた雰囲気だけど。うーん柱間さんをもっと知りたいな」

 

魔法ともブロットとも異なる「チャクラ」という未知のエネルギー、そして万華鏡写輪眼という異形にして破滅的な瞳術。その根底に存在する「千手柱間」という男との深すぎる因縁。

 

元の世界での彼のデータがあまりにも欠落しているからこそ、考察欲求がイデアの中で爆発していた。

 

 

○○○○

 

 

その後、計測を完了させたマダラの元へ、制御室のイデアとオルトが通信、ならびに直接問い詰めるべく接触を図る。

 

「何の用だ。また使えない戦闘記録を取るのか?」

 

マダラが低く重い声を響かせると、室内の照明が一瞬明滅する。

 

「違うよ、僕は貴方のデータを正確に取るだけだよ」

「マダラ氏、ちがっ、暴れないで!? 」

 

イデアは思わず後ろへ引いたが、指先で手元の壊れたログデータを指し示した。

 

「さっきの『柱間』氏のデータが出た瞬間。マダラ氏のブッロトの数値が異常だったわけ。『柱間』氏って一体何なの? 単なる宿敵? 元の世界の歴史そのものに関わる存在なわけ?」

 

オルトもまた視線をマダラへと向け、純粋な好奇心を隠さずに問いかける。

 

「僕たちの記録には、マダラさんのいた世界の情報がほとんどないんだ。どうしてあんなに激しい憎悪を抱いているの?」

「憎悪か。お前たちの浅はかな尺で語るな」

 

マダラがゆっくりと一歩を踏み出すと、チャクラの圧力が制御室全体を押し潰すように広がった。

 

「柱間は最強の忍であり、同じ夢を追いかけた友だ。そして、俺を殺し夢を阻んだ男だ」

「殺っ……!? 殺し合いしたの!?」

 

マダラの三度の死を遂げていることは、イデアとオルト勿論知らない。なので、『殺しあい』と思い込む。だが、マダラは一から説明する必要性も無く、話を続ける。

 

「奴は友であろうと、兄弟であろうと、我が子であろうと夢のために当然だ」

 

モニターで計測時に見たイデアたちは、柱間を見た時優しいそうと第一印象に思った。だが、実際にはマダラの口から語られる姿にイデアはある考察をしていく。

 

「お前たちがのやっていることは、安っぽい模倣にすぎん」

 

マダラは不気味に蠢く万華鏡写輪眼をイデアへ向け、死線を通らせるように告げた。

 

「あの男の強さも、重みも、死闘の興奮も……本物にしか宿らん。二度と俺の記憶を弄ぶな」

 

だが、マダラという男は、己の聖域であり最も不快な記憶を覗き見られ、勝手に踏み荒らされたままで黙って引き下がるような殊勝な性格ではない。

 

むしろ、倍にして陰湿にやり返すだけの底意地の悪さと執念深さを持ち合わせている。自分の腹を探られたのなら、相手の最も隠したい痛烈な傷口に爪を立てて引きずり出してやるまで。

 

「イデア、オルトはお前が作ったのか」

 

不意を突かれたイデア動きを止めた。

 

「急になに、そうだけど」

「失った弟を機械人形にしたのか?」

「何が言いたいの」

 

イデアの声から先ほどまでの軽薄さが消え、警戒と不快感が滲み出る。自分が柱間との記憶を暴かれたように、イデアが隠し持つ狂気とタブーを真正面から暴いてやったのだ。マダラは万華鏡写輪眼の深い暗闇の奥から、視線をイデアへと向けた。

 

「人間はやはり醜なと」

「マダラさん、兄さんのことを悪く言うのは許さないよ」

 

オルトの関節部が微かな作動音を立てる。兄を侮辱されたことに対する純粋で危険な防衛本能。だが、マダラはその威嚇を意に介する様子もなく、過去の記憶を呼び起こすように言葉を繋いだ。

 

「同じ兄弟を持つ者同士、過ちや辿る道は似る物だ」

 

『自分と同じだ』とマダラは言っているのだ。最愛の弟・イズナを失い、世界の理と運命に抗おうとした己の絶望。死者への執着、失ったものを力や歪んだ形でもう一度繋ぎ止めようとする愚かさと業。

 

イデアがオルトという存在を作り上げた背景にある『失喪』と『狂気』を、マダラは一瞬で見抜き、自身が辿ってきた破滅の道筋と重ね合わせていた。

 

「(……お前も、失った弟の影に固執する哀れな者だろう)」

 

無言の眼光で突きつけられたイデアは、己の最も暗い内面を抉り出された衝撃と、マダラに返す言葉を失ったのだった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

検査を終えた者達は、控え室で暇を潰していた。だが、視線は全員入り口に向いており、未だ戻らぬ一人の帰りを待っていた。

 

「マダラだけ遅いわね」

 

腕を組み、不機嫌そうに扉を見つめながらヴィルが呟く。

 

「アイツが一番のブラックボックスだからな」

 

レオナは呆れたように鼻で笑った。魔法もブロットも持たぬ癖に、この異質の力に手こずるのも無理はない。

 

「ヴィルさん、マダラさんの近況をご存じですか?」

 

アズールがメガネの持ち手を少し押し上げながら、興味深そうに問いかけた。

 

「アタシがオーバーブロット以降、変わったと言えばいいのかしら?」

 

ヴィルは先日の自身の失態と、あの苛烈な戦いの記憶を反芻するように遠い目をする。

 

「マダラは今は『無関心』なのよ」

「無関心」

 

アズールがその言葉を噛み締めるように反復した。VDC当日前のマダラは、どこか学園の揉め事を楽しげに観察し、時には気まぐれに介入して手を差し伸べるような余白があった。だが今の彼からは、他者やこの世界そのものに対する温度が完全に消え去っている。

 

「もしかして」

 

何か思考の糸口を掴んだように、ジャミルが呟いた。

 

「ジャミル何か分かったのかい?」

 

続くようにリドルもジャミルの考えを聞き出す。ジャミルはマダラの変貌を目の前で見ていた。万華鏡写輪眼の光と壮絶な戦いを楽しむ姿。

 

まるで、オーバーブッロトしている時の自分を見ているようだった。己の深淵に呑まれ、周囲を顧みなくなる狂気と焦燥。

 

「俺の推測ですが、万華鏡写輪眼に人格の構成に関わっている可能性がありそうです」

 

ヴィルが頷く。光を失うという身体的なリスクだけでなく、その禍々しい瞳を開眼し、闇を深めていく過程で、持ち主の精神や記憶、人間性そのものが侵食されていくのではないか。

 

「なるほど、リスクのある視力に人格が変わるもあるかもしれないわね」

 

マダラが見せる無関心は、ただの心境の変化などではなく、あの呪われた眼の開眼に伴う代償なのだと、頭脳明晰な者たちは不気味な確信とともに推測を深めていくのだった。

 

ヴィルとジャミルの推測が重い空気となって控室に漂った、まさにその時だった。カチリ、と無機質な自動扉が開く音が響く。

 

気配すら消して現れたのは、噂の渦中にいたうちはマダラだった。減退し視界の暗闇を抱えながらも、その佇まいには他者を寄せ付けぬ絶対的な威圧感が充満している。

 

「オレを勝手な尺度で物を言うな」

 

マダラはその場にいる者に言い捨てると、動揺を隠せない寮長たちを横目に、壁際のベンチへと腰を下ろした。

 

「別にあなたの陰口を叩いていたわけじゃないわ。ただ……今のあなたのその『無関心』な目が、あの禍々しい眼の代償なのかと考えていただけよ」

 

「元のオレに戻っただけだ」

 

静かだが刺すようなマダラの一言に、リドルやアズールもそれ以上言葉を挟むことができず、控室には再び張り詰めた静寂が訪れるのだった。

 

 

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