監督生はうちはの長   作:zatumozi

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第22話 タイタンズ・アース

第一タワーへの行動隊として最下層を目指す。オルトの妨害やファントムと交戦し一時敵な静寂に包まれた頃、ヴィルがゆっくりと振り返り、静かに口を開く。

 

「再会してから話すタイミングがないまま、敵地に乗り込んで来ちゃったけど……。今のうちに、アンタたちに言っておきたいことがあるわ」

「なんだい?毒の君」

「まずはルーク。アンタ、副寮長のくせにポムフィオーレを放り出してきたわね?常々副寮長らしいことはまるでしない男だとは思ってた。でも……」

 

ヴィルは一度言葉を切り、鋭い瞳でルークを射抜くように見つめた。その厳しい眼光には、美しさを重んじるポムフィオーレ寮長としての威厳が宿っている。

 

「『S.T.Y.X.』に襲撃されて、学園全体が混乱しているであろう時に、独断で無責任な行動をとるなんて。寮長として看過できない行為よ」

「………………」

 

容赦のない叱責を受け、ルークは反論することなく静かに目を閉じ、その言葉を重く受け止める。二人の間に流れる張り詰めた空気に耐えかねたように、傍らにいたエペルが思わず前に踏み出した。

 

「ま、待ってくださいヴィルサン!ルークサンはヴィルサンのために危険を承知で……!」

 

必死に庇おうとするエペルに対し、ヴィルはピシャリと片手をかざしてその言葉を遮る。

 

「だまらっしゃい。アタシが連れ去られたことと、ルークが副寮長の責任を放り出すことは全くの別問題。現にここへ来ていない副寮長は今頃、寮長代理としての役目を果たし、寮をまとめているはず」

 

冷徹なまでの正論。ヴィルは自身が捉えられた危機的状況すらも切り離し、その言葉の刃は二人へと突き刺さっていった。

 

「感情のままに寮を放り出すような責任感のない男を、副寮長に選んだ自分の見る目の無さが恥ずかしい」

「学園を抜け出した時に、副寮長を罷免される覚悟はできているよ」

静かに覚悟を口にするルークの返答に、エペルは小さな拳を強く握りしめ、胸を痛めるように顔を歪めた。

「そ、そんな……!」

 

だが、ヴィルの厳しい追及はそこで終わらなかった。その冷ややかな視線が、次はエペルと向けられる。

 

「次に、エペル。アンタも自分がどれだけ無謀な行動をしたかわかってる?実力がないひよっこのヒーロー気取りは、誰のためにもならない。ハッキリ言って迷惑よ。最後にマダラ」

 

冷酷なまでに身の程を弁えさせる言葉。だが、腕を組みながらそのやり取りを傍観していたマダラは、ヴィルの声の底に潜む「弱者への庇護と隠しきれない情」を察していた。自身を罰するように仲間を叱責する姿は、戦乱の世で幼い一族の者を案じていた己の過去ともどこか重なる。そして、ヴィルは最後に、異輪の存在であり最強の威容を誇るマダラへとゆっくり視線を移した。

 

「アンタはアタシの後輩である以上。守られる存在。力があるのは分かっているけど」

 

マダラは眉ひとつ動かさず、その言葉を受け止めた。守られる存在。己に向かってそんな戯れ言を放った人間が、これまでの人生でいただろうか。万華鏡写輪眼を有し、絶対的な力を誇る戦乱の覇者に対しても、ただの『マダラ』として見ている。

 

「アンタがこの場に居るのは間違いよ」

 

ヴィルはそこで一瞬だけ言葉を詰まらせると、酷く愛おしそうな、そして呆れたような溜息を吐き出した。

 

「本当に馬鹿なんだから」

 

厳格だった寮長としての仮面が静かに剥がれ落ち、ヴィルの瞳に揺るぎない慈愛と情熱が宿る。

 

「さて……ポムフィオーレ寮長として言わなきゃならないことは、もう全部言った。これから先は、“ただの”ヴィル・シェーンハイトとして話をする」

「え?」

 

エペルが呆気にとられたような声をあげる。それまでの厳しい表情を一変させ、ヴィルは美しく柔らかな笑みを浮かべた。

 

「本当はね……エペルとルークが『嘆きの島』へやってきたとイデアから聞いた時、嬉しくて仕方なかった。さっき顔を見た時から、ずっと我慢してたの。アナタたちを抱きしめて、キスをしても?」

「「えっ、えっ……!?」」

 

思いも寄らない女王の素直な感情の吐露に、ルークとエペルは狼狽した。ヴィルはそんな愛くるしい二人の様子を優しく見つめ、力強く頷く。

 

「アタシの狩人、アタシの毒林檎。……追いかけて来てくれて、ありがとう。アンタたちのことは、アタシが必ず学園に連れて帰ってみせるわ」

「それは私たちの台詞さ、我らが女王陛下」

 

ルークは誇らしげに胸を張り、眩しいほどの忠誠を誓う笑みを返した。そしてエペルもまた、自身の未熟さを噛み締めながらも、力強くヴィルの言葉を返す。

 

「へへっ!わも今度だば、ぜってー負げねえはんで!」

 

自分の足引っ張りでしかないはずの存在が、己の弱さを自覚しながらも、愛する寮長のために牙を剥き、守られるばかりの存在から脱却しようと足掻いている。そのエペルの急成長と、命を懸けてでもヴィルを守り抜こうとする愚直なまでの姿勢。

 

マダラは、その全身から溢れ出るような青々しくも眩しい「人の光」を、写輪眼の奥底で静かに見つめていた。

 

(「守りたい」などという誓いが、戦場でいかに虚しく散っていくか……オレは嫌というほど見てきた)

 

血と裏切りに塗れた戦火の歴史。力なき者の覚悟など、力を前にすれば一瞬で踏み潰される脆い幻影に過ぎない。本来の自分ならば、そんな感情論など失笑と共に切り捨てていたはずだった。

 

だが、なぜだ。

 

「守られる存在」だと己を指弾したヴィルの気高さ。そして、その背中を守るために死地へと踏み込んだ少年たちの輝き。その歪で純粋な姿が、幼き日に夢を語り合い、互いを守ろうと誓い合ったあの頃の自分と柱間の姿に、どうしても重なって見えてしまう。

 

(力も庇護も要らんと言い切りながら、その実、互いのために命を散らす覚悟か。本当に……愚かな奴らだ)

 

 

○○○○

 

 

再び目的地へ向かって冥府へ下っていく途中。突然、最下層へ向かう重厚な通路全体が、腹の底に響くような凄まじい地鳴りと共に激しく揺れ動き始めた。壁や天井が粉々に砕け散り、空間そのものが軋み声を上げる。

 

「!?じ、地震!?」

 

足元を激しくすくわれ、勢いを殺しきれなくなったエペルが体勢を崩しかける。

 

「うわわっ!階段から落ちる!」

「ちがう、これは地震じゃない!この音は!」

 

ルークが眼下の暗闇を見据え、鋭い声を張り上げた。歪む視界の先、タルタロスの深淵から立ち上るブロットの霧を破り、見上げるほど巨大な岩石の巨躯が蠢きながら這い上がってくる。

 

「まさか、あれが『原初のファントム』!?」

「『S.T.Y.X』のスタッフに聞いた特徴と一致している。岩のファントム『ファントム・タイタンズ・アース』だ」

 

襲い来る巨軀が巨大な岩石の拳を振り上げ、一行を踏み潰さんと振り下ろす。その瞬間、ヴィルが瞬時に魔導ペンを掲げ、冷酷なまでに鋭い魔力を放ち叫んだ。

 

「足止めするわ!氷よ!」

 

ヴィルがファントムの足元を凍らせる。無数の氷塊が巨獣の足首をガッチリと凍りつかせ、動きを止める。

 

「ジューーピタァー!ドコダァー!」

 

地鳴りのような咆哮を轟かせるタイタン。その圧倒的な脅威を前にしながらも、マダラはただ一人、不敵な笑みを浮かべて前に一歩踏み出した。

 

「お前たちは雷霆の槍の用意をしろ。オレはコイツを相手にする」

 

背後を振り返ることもなく、静かに威圧感を漂わせて放たれたその言葉に、ヴィルは一瞬目を見開いた後、力強く頷いた。

 

「わかったわ!でも万華鏡写輪眼は使わないこと!いいわね」

 

ヴィル達が決戦兵器の調達のために引き返していく足音を背に聞きながら、マダラは眼前に聳え立つ岩の怪異と対峙する。紅い写輪眼の瞳光が、暗闇の中で静かに妖しい煌めきを放った。

 

「さて、お前の力を見てみようじゃないか」

 

牛の印を結ぶ。練り上げられた莫大なチャクラが胸中に満ち、一気に吐き出された。

 

「火遁・豪火滅却」

 

一瞬にして通路全体を覆い尽くすほどの、果てしない火が解き放たれた。迫り来る岩石の巨躯を飲み込み、炎がタイタンに直撃する。しかし、さすが原初のファントム強靭な身体に抗いを見せている。広大な炎の渦に包まれ、表面を焦がしながらも、タイタンは咆哮を上げて、火の海を突き破ってきた。

 

「ニンゲン!!!ガアアアア」

 

なるほどなら――と、マダラは冷徹にその強靭さを評価する。真の戦場の猛者と対峙した時のように、その口元は無意識に笑みが浮かんだ。

 

『操縦者認証。アームズの安全装置のロックを解除。起動します』

 

懐にしまっていた。魔導武器を起動させる。無機質な機械音声が響き渡ると同時に、マダラは一瞬で懐から武器を取り出し、展開した。

 

空を覆うほどの巨大な岩の拳が、マダラめがけて叩きつけられる。凄まじい風圧が吹き荒れる中、マダラは微動だにせず、背負った大団扇を力強く構え直した。ファントムの岩の拳が団扇で受け止める。

 

「うちは返し」

 

衝撃を吸収し、即座に昇華された威力が爆風となって跳ね返った。カウンター技で使える。その威力がファントムへ跳ね返るが、これでも倒れない。やはり模造の武器では、本来の力が発揮できない。

 

衝撃波によって叩きつけられ、岩肌を激しく崩しながらも、タイタンは怒り狂ったように再びその巨躯を起こし上げる。原初のファントムの打たれ強さは伊達ではない。

 

(ただの火遁や打撃程度では、この異常な耐久力を削り切るには至らんか。ならば)

 

マダラが不敵に目を細め、瞳の巴模様を歪めて真の瞳術を展開しようとした、その時だった。

 

「どきなさい!マダラ」

 

けたたましい足音と共に、緊迫した叫びが響き渡る。ヴィルが強大な槍を抱えてやってきた。あまりの大きさに3人で支えてやっとだ。

 

ヴィル、ルーク、エペルの三人がかりで全身の力を振り絞り、決戦兵器である「雷霆の槍」を必死に支えて走り込んでくる。その姿を捉えたマダラは、即座に身を翻して間合いを外した。

 

槍の照準がルークによって正確に定まり、雷が落ちるような音と共にタイタンがタルタロスの穴へ落ちていった。

 

激しい落雷のような爆音と共に『原初のファントム・タイタンズ・アース』を深淵へ突き落としたものの、雷霆の槍から無機質なアナウンスがされる。

 

『『雷霆の槍』のバッテリー残量が低下しています。残り10%です。充電ステーションに設置してください』

「1回使うと、もうローバッテリーになるのね。燃費が悪いこと」

 

ヴィルは呆れたように大きな溜息を吐き出す。だが、この先雷霆の槍の充電をしなければ、タイタンに太刀打ちできない。ルークの情報から先程の攻撃に手応えがなかった。また交戦する可能性がある。なので、一度休憩を挟むことにした。

 

一行は雷霆の槍が保管されていた格納庫へと身を寄せ、次の戦に備えて束の間の休息へ。冷え切った厚い金属の壁に背を預け、備蓄されていた携帯食を口に運ぶ。重苦しい沈黙が流れる中、エペルはずっと胸の奥にくすぶっていた不安に耐えかねたように、壁際で佇むマダラへ視線を向けた。

 

「マダラくん大丈夫?」

 

壁に背を預け、深く腕を組んでいたマダラは、伏せていた瞼を薄く開けて、冷淡な視線で低く問い返す。

 

「何がだ」

 

格納庫にある携帯食を食べながらエペルが尋ねる。

 

「ヴィルさんがさっき、あまり術を使わないでて聞いたから、何かあったんじゃないかって」

 

エペルの胸中には、ずっと拭いきれない不穏な影があった。VDCのあの日、解き放たれた万華鏡写輪眼。あの壮絶で凶悪な戦いを楽しんでいたマダラの姿は、あまりにも恐ろしく、そしてどこか哀しかった。

 

あの日を境に、どこか学園や自分たちに対して『無関心』になっていくマダラの変化を、エペルはずっと間近で見守り、心配し続けていたのだ。だが、そんな少年の純粋な懸念に対しても、マダラは一苛の感情も見せず冷ややかに言い捨てる。

 

「何も変わっていない」

 

自嘲するような、あるいは己の運命を諦観しきったような冷たい吐息。マダラは眼光の消えかかった瞳を暗闇に向けた。

 

「言うなら、前に戻ったというべきだな」

 

言い捨ててマダラは眼を閉じて眠り始めた。温かな光の差し込む学園という「戯れ」の時間は終わり、自分はただ血と硝煙の溢れる修羅の道へ還るだけだ。そう告げるかのような頑なで孤独な背中。マダラが完全に意識を遮断したのを見届け、エペルは消え入るような声でヴィルへと向き直った。

 

「あのヴィルさんマダラくんに一体何が」

 

ヴィルは手にしていた食料を静かに置くと、眉間を寄せ、真剣な面持ちで声をひそめた。

 

「写輪眼の上位的存在、万華鏡写輪眼が危険性よ。知っていると思うけど、彼はアタシの魔法薬を処方して、失明を遅くしているわ」

「えっ、失明」

 

エペルは思わず息を呑み、絶句した。あの狂おしいほどの強さの裏で、彼の身体が削り取られていたのだと知り、胸が締め付けられる。

 

「そう、あの凄まじい力にはリスクがあるのよ、ルークは気づいてるでしょう?」

 

ヴィルの問いかけに、帽子の影から静かに佇んでいたルークが、深く重い頷きを返した。

 

「もちろん。あと、何回術を使えるかわからない。だが、彼は戦いが生きるための理由なのだろう」

 

戦うことでしか存在を証明できず、リスクすらもいとわずに修羅であり続けるマダラの生き様。それを察しているからこそ、ルークの言葉には深い慈悲と痛惜が籠もっていた。

 

「本当に何もできないのかな」

 

エペルは小さな拳を強く握りしめ、己の無力さに唇を噛みしめた。マダラの変化を間近で見届けてきたからこそ、彼が一人で暗闇へと消えていってしまうのを、ただ黙って見ているだけなんて嫌だったのだ。そんな葛藤する少年の肩に、ヴィルは優しく手を置いた。

 

「マダラのことはイデアに後ほど聞きましょう。今は、目の前のことに集中よ」

 

充電中の『雷霆の槍』のランプが淡く点滅する静寂の中、エペルは深く眠りについた覇者の横顔をじっと見つめた。

 

 

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