「タンクがいなきゃ、ボス討伐クエは始められない。いよいよメインイベントの始まりだ!」
マレウスの創り出した巨大な夢の世界。現在、その魔力は一つの巨大な魔法領域となり、賢者の島全体を完全に包み込んでいる。
しかし、オルトが機械生命体としての利点を最大限に生かし、マレウスの魔法領域の構造をリアルタイムで解析。その結果、奇跡的にイデア、オルト、セベク、シルバー、グリムの5名が、イデアの夢に集結できていた。
シルバーの「他人の夢へ渡るユニーク魔法」でマレウスの追撃を振り切り、リリアの夢から脱出する際、オルトに拾われて現在に至る。
「なぁイデア、マダラは無事なのか!?」
不安そうに耳を垂れているグリムに、イデアは冷静に回答する。
「マダラ氏もディアソムニア寮で眠っているから、大丈夫」
「む? 監督生たちは送別会に来なかったはずだが……なぜマダラがディアソムニア寮にいるんだ?」
セベクの当然の疑問に対し、スクリーン上のオルトが引き継ぐ。
「それは僕から説明するね。僕がマレウスさんの魔法領域を解析する時間稼ぎの際、実はマダラさんとマレウスさんは直接戦闘を行っていたんだ」
「なに!? 領域に呑まれながらか!?」
「まあ、マダラさんは根っからのバトルマニアだからね。マレウスさんの発した規格外の魔力に引き寄せられて、そのまま開戦したと思う。全部マレウスさん経由で聞いた情報だけどね」
驚愕で目を見開くセベクとシルバーに対し、イデア、グリムはマダラなら、やりかねない。と「うんうん」と腕を組みながら頷いた。
「マダラさんの『須佐能乎』は外側からのあらゆる攻撃に対して絶対な防御を誇る。……ただ、地中からの奇襲には構造上の隙があってね。マレウスさんはその一瞬の隙を突いた感じかな」
「けど!弱点らしい弱点がない!」とイデアが興奮気味に早口で捲し立てる。
「マダラ氏はマレウス氏と素でタイマン張れるレベルのチートスペック! 絶対防御の須佐能乎に、理を覆す輪廻眼……言ってみれば、ラスボスのデバフ解除とギミック攻略に必要な『最優先キーパーソン』だよ!」
「あぁ……俺も以前、直接手合わせをしたが足元にも及ばなかった」
シルバーが神妙な面持ちで頷くと、セベクが拳を握りしめて胸を張った。そう、セベクはマレウスに関することが、出るとマレウス肯定botになるのだ。
「ふん! だが、マレウス様の方が強いに決まっている!」
「オメーはどっちの味方なんだゾ!?」
「もちろんマレウス様だ! だが、今はマレウス様を正気に戻すためにあの男の力が必要だと言っているんだ!」
その言い争いにオルトは、話を戻すべく二人の間に入る。
「はーい、会話が脱線したから戻すよー」
現状マダラの能力は、強力な火遁、万華鏡写輪眼、すさのお、輪廻眼と改めて、能力を上げるとその強力さに思わず、ため息をつくほどだった。
「マダラ氏がまだ他にどんな隠し球や能力を持っているかは不明。やっぱり確実な情報を得るには、本人を起こすしかないね」
一同の目的は完全に一致した。イデアが開発するチートツールでマレウスの注意を引きつけ、各寮の生徒たちを順次覚醒させて総力戦を挑む。そして、そのレイド戦の要となる最優先目標こそが、他でもない「うちはマダラ」の目覚めだ。
「さっそく仲間探しの旅に出かけよう!」
「あ、オルト! 全員にパーティーの招待状渡すのを忘れないでね!」
「任せてよ兄さん! それじゃシルバーさん、移動を開始しよう!」
「あぁ。みんな、俺にしっかり捕まってくれ……いくぞ!」
シルバーが深く息を吸い込み、胸の前で静かに手を組む。澄んだ声が、夢の狭間に響き渡った。
「『いつか会った人に、いずれ会う人に……同じ夢を見よう』」
溢れ出した光の粒子が周囲を包み込み、夢の回廊へ渡る。シルバーのユニーク魔法使用中は制御が利かずに振り回されるが、オルトのサポートもあり無事にマダラの夢へ辿り着く。
「霊素シグナル・トラッキング成功。指定された座標へ到着しました」
一気に視界が開けた。そこに広がっていたのは、木造の家々が立ち並び、人々が平穏に行き交う活気ある街並みだ。
「本当にオレ様たち、マダラの夢に入ったんだな……。見渡す限り、普通の奴らが暮らしてる町に見えるんだゾ」
グリムが首をかしげながら呟くと、シルバーも静かに頷き、周囲の風景を目に焼き付ける。あまり見慣れない建物の構造や服装以外は、良くある風景だ。
「確か監督生から聞いた話では、忍里と呼ばれる集落で暮らしていたのだったな」
「 マダラがこの里を作ったって言ってたゾ」
「マダラ氏はこの里のお偉いさんってことだよね。……さて、何はともあれまずは里を散策して情報を集めよう。あと、マダラ氏の世界は魔法がないから、そのことは言わずにたのんます」
タブレット越しに響くイデアの言葉に従い、一行は里の奥へと足を進めた。すれ違う大人たちの多くは額に独特の金属板を巻き、鋭い気配を漂わせている。その一方で、多くの子供たちの姿があった。
「大人だけじゃなく子供もかなり多いな……」
「一部の者は額に何かつけているな。あの渦巻のマークは、この里の紋章だろうか」
里を見て見ると、子供たちの声。それにそうように大人たちは里の警備を回るように、見渡している。恰好からみて、何かの組織に所属をしているかのように見える。
「あ、見て! 子供たちが一箇所に向かって走っていくよ。ついて行ってみよう」
オルトの提案で子供たちの後を追うと、やがて広大な敷地を持つ立派な建物にたどり着いた。門の前には、異世界の文字で書かれた看板が掲げられている。
「この建物は一体なんだ……? 文字が読めないな。子供たちが一斉に入っていくから、学校のような施設だろうか」
セベクが建物を見上げると、敷地の奥からは、威勢の良い掛け声や風を切る音が聞こえてくる。校庭のような広場で子供たちが交え、組手の訓練に励んでいた。室内では座学の授業も行われているようだ。
「組手の訓練までしている……。投てき武器も使っているな」
剣術を学んでいるシルバーとセベクは子供たちの武術の能力に感心する。まだ粗は目立つが、武器を屈指して、立ち向かう姿は幼い頃、リリアに指導されていた日々を思い出していた。
「もしかしてここは、忍を育てるための訓練学校じゃないのか?」
セベクと照合しながら、興味深そうに考察を巡らせる。オルトも現場の情報と今までの情報を合わせていく。
「この里は、大人が任務や街の維持管理を行い、子供たちはこの学校で忍として育っていくシステムなんだね」
「改めて考えると、平和に見えても根底には戦いがある時代なのだな……」
シルバーがどこか複雑な表情で呟くと、オルトは画面上の数値を分析しながら静かに言葉を継いだ。
「マダラさんの過去データを考えると、昔はもっと平均寿命が低くて、幼い子供でも戦場に駆り出されていたみたいなんだ」
それは寮長会議などで、マダラの情報共有する際に出てきた内容だ。本来は人の内情を踏み込むべきではないが、寮長達がマダラのことが分かり次第共有している。彼が元の世界に変える手がかりと、マダラは自分から話すことが少ないからだ。
「学校に通わせて訓練を積ませてから戦場に出すだけでも、子供たちの生存率は劇的に上がっているはずだよ。この施設を作ったこと自体が、マダラさんたちの『子供を守りたい』という強い意志の表れなのかもしれないね」
幼子すら命を落としていた凄惨な時代を変えるために、マダラという男がどれほどの想いでこのシステムを作り上げたのか -。その一端に触れたセベクは、学校で汗を流す子供たちの姿を見つめたまま、言葉を失って佇んでいた。
「セベク? どうした?」
シルバーに声をかけられ、セベクはハッと正気に戻ると、努めて鋭い視線を先へと向けた。
「なんでもない! 考えるのは後だ、それよりも早く監督生を見つけなければな!」
一行は子供たちの歓声が賑やかに響く学校を後にし、さらに里の奥へと足を踏み入れていく。見上げるほど高くそびえる岩山。その壁面に刻まれた巨大な彫刻を見上げ、グリムがふと足を止め、物珍しそうに指をさした。
「あの大きな顔岩は一体なんだろうか?」
「マダラが里の長?があるーかなんか言っていたゾ」
グリムは以前、ウィンターホリデーの折に聞いたわずかな里の情報の記憶を頭の隅から手手探りで呼び起こす。削り出された顔岩の数はまだひとつだけだが、これから長い年月をかけて後世へ引き継がれていく象徴的な存在なのだと、一目で察することができた。
「あの顔岩は木ノ葉隠れの長。火影が彫られている」
突如背後からかかった、若々しくも芯のある声。その存在感に一同が一斉に跳ね上がって振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。威圧感の中にもどこか晴れやかな雰囲気を全身から漂わせている。
「名を千手柱間だ。どうした、そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」
目の前に佇む青年の姿に、グリムは目を丸くして思わず大声を上げた。
「ま、マダラ!? お前、いつ大人にむっぐぁっ!?」
これ以上の失言はマレウスの領域に「異常な異物」として検知される危険があると瞬時に弾き出したシルバーは、思考を巡らせながら間髪入れずにグリムの口を素早く手で塞いだ。何事もなかったかのように顔を作り直すと、目の前の若いマダラへ静かに一礼する。
「すまない、連れが無礼を働いた。俺は賢者の島に通う学生のシルバーだ。怪しい者ではない」
マダラは怪訝そうに目を細めると、シルバーの手の中で必死に足をバタつかせるグリムを胡散臭そうに見つめた。
「あ? その狸はお前の口寄せ動物か?」
「口寄せ……? いや、違う」
「変わったチャクラだな。一体何者だ前たちは」
「オレ様は狸じゃねぇ!!」
シルバーの手を振り払ったグリムが全力で噛みつくが、マダラは特に気にした様子もなく、その反発をすんなりとスルーした。
「まあいい、害はなさそうだしな。柱間を知らない人間がいるとは驚きだ」
「その柱間というのは、そんなに有名人なのか?」
シルバーがどこまでもごく自然に尋ねると、若いマダラはどこか誇らしげに胸を張ってみせた。
「有名どころか、忍の神とまで呼ばれている男だ」
その誇らしげな言葉に、シルバーたち一同は思いを馳せる。『忍の神』と呼ばれるほどの里の長―現在の絶望に満ちたマダラよりもさらに強く、威厳に満ちた恐ろしい人物なのだろうかと、それぞれが勝手なイメージを膨らませて身構えた。
「やめろマダラ、その言い方はオレには似合わんぞ」
その時、どこか抜け感のある朗らかな笑い声が響いた。長い黒髪を風になびかせた男が姿を現す。マダラは呆れたように深く息を吐き、やってきた友へと視線を向けた。
「柱間。お前、そんなところをほっつき歩いていていいのか。扉間に叱られるのはオレなんだぞ」
「マダラ、今日の仕事はもう終わったのか?」
「終わっているから、こうして里を歩いているんだろうが、後は会合ぐらいだ」
千手柱間、目の前に穏やかな男こそが、この里の長。マダラよりも恐ろしい男だと、思った矢先に
マダラと一切の遠慮なく軽口を叩き合う様子は、全員が目を疑った。
二人の姿を前に、通信越しにその様子を固唾をのんで見守っていたイデアは、思わず叫びそうになるのを必死で押さえた。S.T.Y.X.での精密検査や過去の莫大なデータ分析において、「千手柱間」という存在はマダラにとって決して触れてはならない最大の地雷だと結論付けていたからだ。
それにもかかわらず、いま目の前で繰り広げられているのは、あまりにも睦まじく、互いを心から信頼し合っている友の穏やかなやりとりだった。
「ははは、そうか!それでお前たち、随分と変わった格好をしているな。マダラの友人か?」
「いや、学生だそうだ。柱間のことすら知らん奴らだぞ」
「なに? 忍界なら知らぬ者はいないはずだが……一般人なら仕方ないか」
「はっ! お前も忍以外には大して知名度ねぇよ」
「ひ、ひどいぞマダラぁ……!」
マダラの容赦ない一言が突き刺さり、柱間はその場にガックリと肩をすくめ、子どものように分かりやすく落ち込んでみせる。
「おい! 火影がそんなところで示しがつかないだろ! いい加減そのウジウジした癖を直せゴラァ!」
怒鳴り散らしながら胸ぐらを掴むマダラと、困り顔で申し訳なさそうに笑う柱間。現在の冷徹で達観し切ったマダラからは到底想像もつかない賑やかで温かな光景に、セベクたちも言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
『だ、だれぇぇぇぇ!!?? マダラ氏、キャラ違いすぎない!? なにそのノリツッコミ!? 脳がバグるんですけどー!?』
「マダラさんは本来、あんな風に感情を素直に出すタイプだったんだね」
画面の向こうで狼狽するイデアに対し、オルトは静かにその表情のログを考察データとして記録していく。現在の凄惨な戦いを経て冷酷になったマダラと、目の前で感情豊かに笑う本来の性格とのあまりのギャップに、オルトも密かに胸を打たれていた。
「ふん、まあ、この里すら知らない人間ならそうか。額当てをしていないところを見ると、一般人だろうしな」
「ひたいあて……?」
「それも知らないとは、本当に世間知らずの学生だな。あそこにいる連中が額に巻いているだろう。あれはこの里に所属する『忍』を示す証だ」
マダラに示され、シルバーが道行く人々へ視線を走らせる。そこに刻まれていたのは、道中で目にしたあの渦巻のマークだった。事前の予想通り、特定の組織や里への所属を示す大切な証なのだと判明する。
「マダラ殿は、それを着けていないのか?」
「オレか? オレは他里へ交渉に行く時くらいしか着けん」
「マダラの場合顔が広く知られているからな。最後に付けたのは岩隠れの里の協定じゃないか?」
柱間の言葉に、マダラは腕を組み、改めてシルバーたちを頭から足元まで値踏みするように視線を走らせた。
「それにしても、お前たちは一体どこから来たんだ?」
「俺たちは『賢者の島』という場所から来た」
シルバーが一切の動揺を見せず澱みなく答えると、マダラは「けんじゃのしま……?」と短く反芻し、怪訝そうに隣の柱間と顔を見合わせた。柱間は腕を組み、唸り声を上げながら首をひねる。
「聞いたことのない地名だな。……確かに、その浮いている奇妙な機械人形や、さっきから声が聞こえる鉄の板といい、少なくとも五大国の者じゃなさそうだ」
柱間の鋭い指摘を受け、シルバーの隣で浮くオルトと、イデアの通信用タブレットがわずかに揺れた。マダラはさらに、シルバーとセベクの腕に固く巻かれた腕章へ鋭い目線を注ぐ。
「それにお前たちの腕の腕章……それはどこかの所属を示すものか? 額当てのようなものか?」
「あぁ。俺たちは全寮制の学校に通っている。学校には七つの寮があり、俺とセベクはディアソムニア寮に所属している」
シルバーの淡々とした説明を聞いた瞬間、柱間はパーッと顔を輝かせ、嬉しそうに手をポンと叩いた。
「それは大きな学び舎だな! 寮か……仲間の忍や友と共に同じ屋根の下で暮らし、切磋琢磨して過ごすというのは実に素晴らしい! マダラ、うちのアカデミーにも導入してみるか?」
少年のように無邪気に提案する柱間に対し、マダラは心底面倒そうに大きく息を吐き捨て、フイと横を向いてしまった。
「扉間に聞け。オレはそっちの担当じゃない」
「トビラマ……?」
聞き覚えのない名前にセベクが短く問いかけると、柱間は誇らしげに胸を張って答えた。
「あぁ、オレの弟だ! 里のアカデミーのカリキュラム作成や仕組みの設立、後進の育成なんかはあいつが仕切っているぞ」
「制度の構築や教育システムの管理は、柱間殿の弟君が担っているのだな」
画面越しにこの穏やかなやりとりを見つめていたイデアはこれが、「うちはマダラ」の、心の一番深い場所にある理想。マレウスの夢が見せた「彼の真の望む世界」
彼は決してただの破壊者などではなく、本当は誰よりも深く、心から平和と平穏を望んでいたのだと思うと、イデアは胸は強く締め付けられ、痛むのだった。