監督生はうちはの長   作:zatumozi

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第3話 監督生は魔力はないが…

近頃、ナイトレイブンカレッジの生徒たちの間で「監督生は実は魔力があるのではないか?」という噂が囁かれていた。それもそのはず、マダラが見せる数々の挙動は、どう考えても普通の人間、ましてや魔法が使えない異世界人の枠を遥かに踏み越えていたからだ。

 

「グリム。起きろ」

 

軽やかな着地音とともに、教室の窓からぬっと姿を現したマダラ。腕の中には、まだウトウトと目をこすりながら船を漕いでいるグリムが抱えられている。

 

「眠いんだぞ…」

「バッドボーイ!!マダラ、何度も言うが窓から教室に入るんじゃない!」

 

担任のデイヴィス・クルーウェルが鞭をピシリと鳴らし、眉をひそめて叱責する。だが、マダラは悪びれる様子もなく、手で長い黒髪をさっと払った。

 

「遅刻するよりはマシだろう」

「それとだ、なぜそう制服を着崩す!」

 

クルーウェルが鋭い視線を浴びせる。マダラは自身の襟元へ落とした視線を面倒そうに外した。……そもそも、マダラにとってこの学園の「制服」という洋装自体が極めて着慣れない代物だった。

 

かつて生きていた世界では、ゆったりとした着物や合わせ仕立ての衣服、その上に甲冑を纏うのが当たり前だったのだ。首元を締め上げられ、身体の自由を制限されるようなきっちりとした洋服は、どうにも肌に合わず不快でしかない。

 

ゆえに、少しでも動きやすくするために着崩すのはマダラなりの理にかなった処置なのだが当然、マナーに厳しいクルーウェルがそれを容認するはずもなかった。

 

監督生ことうちはマダラは、見た目の威圧感に反して、実は比較的真面目な生徒だ。授業中に居眠り一つせず、異世界の知識を貪るように勉学に励んでいる。しかし、相棒であるグリムはその真逆。朝の一限目は寝坊の常習犯だった。

 

そこでマダラは、己の脚力を活かして学園の垂直な外壁を駆け上がり、最短ルートかつ最速で教室へと滑り込んでいたのだ。もはや物理法則すら無視したその行動を、周りの生徒たちは「特異な魔法」と疑って止まない。

 

「扱いづらい仔犬だ」

 

これ以上、制服の着こなしについて言い争うなど時間の無駄だ。マダラはクルーウェルの言葉を綺麗に無視した。

 

一限目は珍しく防衛魔法の授業。生徒たちは実習室へ足を運び、各々が教官の指示に従って防御魔法の展開を試みていた。

 

勿論、魔法の使えないマダラは前線に立つわけではなく、腕を組んで相棒であるグリムが魔法を展開する様子をじっと観察している。

 

(それにしても…便利なものだ)

 

魔法を基礎から体系的に学べる学校。どれほど過酷な生まれであろうと、戦争の惨禍を知らない平和な世代であっても、「学びたい」という意思と才能さえあれば等しく入学できる。

 

この学園のシステムに対し、マダラは内心で密かに感心していた。かつて幼い子供すら戦場へ投げ込まれ、戦う術すら血と涙の中で身につけるしかなかった己の時代を思えば、あまりにも画期的で恵まれた環境だった。

 

周囲の生徒たちを見渡せば、その術の精度はお粗末極まりなく、実戦では到底役に立たない生ぬるいものばかりだ。だが、ハーツラビュルの三年生のトレイやケイトのように鍛錬を積めば、それ相応の強さを得ることも解っている。若者の成長の早さを知るマダラは、彼らの不格好な試行錯誤を冷やかすことなく静かに見守っていた。

 

「ふな〜っ! 上手く展開できないんだぞ〜!」

 

何度も光の膜を破られ、グリムが地足を踏み鳴らして悔しがる。そんな相棒に対し、マダラは静かな声で言葉をかけた。

 

「グリム、相手の手元を観ろ」

「手元……?」

「そうだ。奴らが魔法を展開する直前、必ず手元の杖を小さく振るっているだろう」

 

NRCは生徒にマジカルペンが支給される。授業の書き取りや魔法を展開する際にマジカルペンはこの学園では命綱とも言える。だから、生徒たちはそのペンを大事に振るっている。

 

この一瞬でマダラは生徒の癖を見抜いてた。

 

「何も考えずにただ魔法を張るだけの防御など、何の価値もない」

 

「ぬぬ……わかったんだぞ!」

 

マダラが空き時間に実戦的なアドバイスを与えていた、その時だった。実習室の奥で操作を誤った生徒の攻撃魔法が、狙いを大きく外れてこちらへ一直線に飛来した。

 

「ひゃっ!?」

 

すくみあがるグリム。だがマダラは一切動じることなく、懐からスッと一本の棒を取り出すと、一瞬の踏み込みとともにそれをカチリと伸ばした。

 

シュバッと重厚な風切り音が響き、飛来した魔力弾は完璧な角度で弾き飛ばされ、壁際で虚しく弾けて消えた。

 

「大丈夫か、グリム」

「あ、あぶなかったんだゾ!」

 

騒ぎに気づいたエースやデュースが駆け寄ってくる。

 

「おーい、大丈夫か! 今、魔法を物理で弾かなかったか!?」

「あぁ、これのお陰でな」

 

マダラが手にしていたのは、一見するとただの重厚な伸縮式の鉄棒だった。それを見たエースが納得したように手を打つ。

 

「あぁ!それ、学園長に頼んでたやつね!もう届いたんだ」

「まあ、そう言っておくか」

 

フッと不敵に口元を緩めるマダラ。NRCのミステリーショップを営むサムの店には、当然ながら殺傷能力のある本物の刀剣や忍具などは売られていない。店主のサムからも「いくら監督生でも、そんな危険物は売れないよ〜」と断られてしまっていた。

 

そこでマダラが取った行動は、学長クロウリーへの「お願い」という名の脅しだった。

 

『この学園の治安維持のためだ。…分かっているな』

『ひいいいっ!?わ、わかりましたぁ!すぐに特注品を用意させますからぁ!』

 

そうして仕入れさせたのは、刃こそついていない一本の重厚な鉄棒だった。殺傷力こそないものの、学園長特製の魔力耐性を誇る魔法石器で作られており、魔法攻撃を直接受け止めてもビクともしない、マダラにとっては申し分のない強固な武具であった。

 

手元でズッシリとした金属の重みとバランスを確かめていると、マダラはふと懐かしい感覚にとらわれた。

 

かつて『輪廻眼』を有していた頃に使っていた、相手のチャクラを乱す武器に酷似していたからだ。

 

殺意に満ちた戦場をともに駆け抜けた獲物の威触。異世界でありながら手に馴染む感覚に、マダラは思わず満足気な笑みをこぼすのだった。

 

授業終了後、学園の廊下を歩きながら、エースは今朝の真柄の行動にぶつくさに呟いていた。

 

「マダラの壁は走り俺にも出来たらいいのになーそんな魔法とか知らないの?」

「だからあれは魔法ではないと言っている。これは基礎だ。ガキでもできる」

「できるかぁっ! 試したけど普通に滑り落ちて頭打ったわ!」

 

隣の席のエースが頭を押さえながら抗議する。当然、生徒たちが真似をしたところで同じことができるはずもなかった。

 

「ふん、なら鍛錬が足りんだけだ」

「無理なもんは無理!……はあ、俺も『忍術』使えたらなー」

 

呆れ顔で身を乗り出すエースに、マダラは手元の教科書に視線を落としたまま淡々と返す。

 

「エース、お前は得意魔法以外にも他性質の魔法が使えるのだろう」

「ん? まぁね。風が一番得意だけど、火とか他のも一応は使えるよ」

「ならば誇るが良い。俺の世界において、性質を使いこなせる人間は貴重な人財だ」

「へぇ、マジで? なんか急に褒められると調子狂うな……」

 

エースが鼻の下を掻いてニシシと笑うと、マダラは静かに言葉を続けた。

 

「さらに、それらの性質を二つ以上同時に混ぜ合わせて発動する特殊な術もある。特定の血筋や一族にのみ受け継がれる極めて限定的な力だ」

「属性を混ぜる…!? 風と火を混ぜて爆発させたりできるのか!」

 

デュースが目を輝かせて会話に食いついてくる。マダラの語る異世界の体系は、自分たちの魔法の常識とは全く異なり、聞けば聞くほど興味深かった。

 

「可能だ。他にも氷、木、溶岩…どれほど努力しようと遺伝のない者にその術は使えん」

「血筋限定の固有魔法みたいなもんか…俺たちが極めて使いこなせば、マダラを超えられるんじゃね?」

 

ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべるエース。そんな若者の血気盛んな言葉に、マダラは教科書を閉じると、ふっと不敵な笑みを口元に刻んだ。

 

「どうだろうな。その前に、俺の炎を越えてみせることだ」

 

先日見せたあの「火遁・豪火滅却」の威力を思い出し、エースとデュースは一瞬で引きつった顔を見合わせた。

 

「やっぱ前言撤回。当分は遠慮しとくわ」

「ああ、僕も命がいくつあっても足りない」

 

異世界の異質な理をさらりと語るマダラに、今日もNRCの生徒たちは呆れと畏怖を混じらせながら、その圧倒的な存在感を噛み締めるのだった。

 




次話から二章へ進みます。
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