監督生はうちはの長   作:zatumozi

31 / 33
第31話 わだかまり

「そうか……俺は、生きなければならないのか」

 

マダラが絞り出すように呟いた瞬間、バリバリと耳腔を打つ音とともに、真っ白だった夢の空間に亀裂が走り抜けた。

 

世界が崩壊していく凄まじい破綻音の渦中、マダラの耳にふっと掠かな声が届く。ずっと自分を恨み、深く呪い続けているのだと思い込んでいた最愛の弟の声。

 

『兄さん……俺は、ここで待っているよ』

 

その響きはどこまでも穏やかで、包み込むように暖かかった。胸の奥に燻っていた暗く重い罪悪感の霧がサーッと晴れていき、視界がまるで嘘のように澄み渡っていく。

 

「おー! 戻ったか、マダラ!」

 

崩壊した空間から現実へと意識が引き戻されると、そこにはで大らかに笑う柱間が立っていた。マダラは一瞬だけ呆れ顔を浮かべると、深く長い息を吐き出す。

 

「柱間……居たのか」

「なんだ、久しぶりの再会だというのに相変わらず冷たいぞ!」

「その癖は治せと言っているだろう。死んでも直らなかったか」

 

ガクッと大げさに肩を落とす柱間を軽くいなし、マダラは周囲へ視線を巡らせた。柱間はすぐに表情を引き締め、真面目な顔つきに戻って深く頷く。

 

「どうやら、話はついたようだな」

「お前が余計なことをしてくれたお陰でな」

「ははは! だがお前のわだかまりが、解けたのならそれで良いではないか!」

 

笑い飛ばす柱間を横目に、マダラは集まった面々へと向き直った。そう、オルトたちが必死にマダラを説得し、この夢からの覚醒を助けたのは、単なる思い出話に花を咲かせるためではない。刻一刻と迫る、世界の命運を賭けた戦いのためだ。

 

「これから俺は、マレウスと戦えば良いのだな?」

「あ、それならまずはこの動画を見て!」

 

通信越しにイデアがタブレットを操作し、空中へ立体的なホログラムを投影した。『3分で魔王攻略を解説する動画』とデカデカと題されたその映像は、戦況とは対極にある、丸っこいデフォルメイラストで描かれたポップなアニメーション動画だった。

 

「なるほど、構造は概ね理解した」

 

動画を観たマダラは状況の理解自体は完了した。しかし、構造を理解しただけで具体的な対策がない。そこでオルトが補足する。

 

「そう、マレウスさんの魔法領域を解除しても、もう一度魔法領域が展開されたら、本当のゲームオーバーなんだ」

『でも、マダラ氏の須佐能乎があれば、魔法領域を使う選択肢は消える。マレウス氏は現実世界で戦いを挑むしかないってわけ』

 

S.T.Y.X.の調査により、マダラの須佐能乎は魔法領域そのものを物理的に防ぎ切る領域耐性を持つと実証されていた。だが、オルトとイデアの懸念は一致していた。

 

「地中からの広範な属性攻撃をどう防ぐかが一番の課題で……」

 

オルトが浮遊するホログラム上に緻密な分析データを提示すると、マダラは己の手をかざし、静かに目を閉じた。

 

「その問題はない。今まで見せていた須佐能乎は、まだ完全体ではない」

「えっ……!? それ本当に言っている!?」

「はぁぁぁ!? あれで完全体じゃないとか何の冗談!?」

「これは、永遠の万華鏡写輪眼を得た者にしか到達できない力だ」

 

マダラがゆっくりと瞼を開く。そこに浮かび上がる万華鏡写輪眼の紋様は、以前までの暗い陰りを完全に払拭し、澄み切った輝きを宿していた。

 

(……視力が回復している……!?)

 

オルトが瞬時にマダラの生体データをスキャンするが、視術による網膜の負荷や細胞の損傷は跡形もなく修復されていた。己の身体に起きている劇的な変化を、マダラは静かに噛み締める。

 

「この世界に喚び出された時、俺はイズナに恨まれ、罪を背負って消える覚覚悟でいた。その自罰の念が力を歪ませていたのだ……だが、そうではなかった。真の力を正しく受け取った今、視力の低下も、チャクラの乱れも……心配はいらん」

「じゃあ、もうマダラは万全ということで良いのだな!?」

 

グリムが嬉しそうに短足をふんばり、胸を張る。同寮に住むグリムには無駄な心配を掛けさせた。マダラは柄にもなくそう思い、ガシガシと乱暴にその頭を撫で回した。「ふなぁ〜」と叫ぶグリムを余所に、オルトが足元へ歩み寄る。

 

「これがマレウスさんとの最終決戦フィールドへの招待状だよ」

 

オルトから差し出された青白く輝く封筒を、マダラは迷いのない手つきで受け取った。

 

「しかと受け取ろう」

「それと、柱間氏にも招待状を渡すね」

 

通信越しのイデアの言葉に、セベクが反応して声を張り上げた。

 

「それは可能なことなのか!? 柱間殿は既に命を落とした死者の魂であろう!」

「まず、柱間氏が夢の主以外の干渉でここまで完璧に実体化してる時点で、決戦フィールドに参加できる可能性は大いにあるんだよね」

「そうか! ならばその総力戦、俺も一肌脱ごうぞ!」

 

柱間がガシッと豪快に両拳を打ち鳴らす。イデアはフフッ……と妖しい笑みを漏らした。

 

「で……マダラ氏。ちょっとここからお話ししようか。君の持つ能力、洗いざらい全部吐き出してもらうからね!」

「言葉で説明したところで、貴様らには何も理解できまい」

 

マダラは口元をわずかに緩めると、印を結ぶ素振りすら見せず、一瞬で周囲の空間を塗り替えた。瞬く間に全員の意識が、マダラの構築した幻術空間へと引き込まれた。

 

 

〇〇〇〇

 

 

果てしない荒野が広がる幻術空間。狂風が吹き荒れ、砂塵が目を開けていられないほどの勢いで巻き上がる中、マダラは静かに息を整えた。

 

「まずは、これだな」

 

マダラが静かに印を結ぶと、上空の空気が歪み、大気が鳴動した。雲を突き破り、天を覆い尽くすほどの超巨大な岩塊が、凄まじい質量感をもって重力に従い落下してくる。

 

地表に激突した瞬間、鼓膜を裂くほどの凄まじい衝撃波が走り、狂風と爆風の土煙が一同の頬を強く叩いた。

 

「い、岩ぁぁぁっ!?」

 

あまりの規格外なスケールにグリムが目を剥いて悲鳴を上げ、シルバーやセベクは天地がひっくり返ったような衝撃に呼吸すら忘れて絶句していた。だが、マダラは表情ひとつ変えずに空を仰いだ。

 

「二個目も出せる」

「二個目は返品でオネガイシマス」

「この術は万象天引の応用だ。以前、冥府の戦いで見せなかった逆のものもある」

 

イデアが現実逃避気味に頭を抱え、シルバーたちが言葉を失って固まる中、マダラは淡々と次の検証へと移る。

 

「『神羅天征』」

 

マダラが軽く手をかざすと、中心から放射状に超強力な斥力の力線が走り、周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。目に見えぬ巨大な壁が力任せに押し寄せるように、広範囲の全てを物理的に弾き飛ばす威力だ。

 

「力はすごいけど、これをディアソムニア寮で使ったら寮が一瞬で無くなっちゃうね……」

「使えば5秒間のインターバルが生じるからな。乱戦では隙になりかねん」

 

マダラ自身も冷静に評価を下し、次の検証へと進む。あまりの次元違いな力の連発に、イデアとオルト以外の面々は完全に思考を停止させていた。

 

そして一同の頭裏に、恐ろしい一つの事実が思い浮かんでいた。

 

この常識外れの力を叩き伏せたという『千手柱間』とは、一体どれほどの化け物なんだ?と。

 

爽やかに笑う隣の男へ向けられるセベクやシルバーの視線には、もはや戦慄と畏怖しかなかった。当のマダラは気にする様子もなく、次の印を結ぶ。

 

「次は……『口寄せの術』」

 

地面に黒い契約模様が浮かび上がり、チャクラが注ぎ込まれるが、何も出てこない。

 

「この術は別世界にあるものや、契約した動物を瞬時に呼び出せる術だ」

「召喚魔法みたいなものね。なるほど、マダラ氏は口寄せの対象が異世界だから無理ってことね」

「あぁ、これが出来れば元の世界に帰れる手段になるが、やはり無理だったか」

 

マダラは一瞬だけ間を置き、静かに、そして空間の温度が一段下がったかのような重厚な声で、最後の術の名を口にした。

 

「最後は、『輪廻転生の術』だ。これは……己の命と引き換えに、死者を完全に蘇らせる術だ」

 

「――っ!?」

 

重すぎる対価と、理を覆す禁忌の効果に、シルバーもセベクも背筋を凍らせて息を呑む。命の概念すら書き換える術が存在するという事実に、

 

イデアとオルトすらも一瞬言葉を失った。しかし、優れた研究者としてその絶対的な禁術のデータを静かに、そして確実に記録装置へと刻み込んでいく。

 

「……わかった。今のデータ、全部S.T.Y.X.のデータベースに共有しておくからね。前の時に見せた輪廻眼の関係もまとめておくよ」

「あぁ」

 

幻術が解け、再び元の空間へと意識が戻る。マダラは己の制服の袖を引っ張り、動きにくそうに不満げな眉をひそめた。夢から覚醒してから服装はうちはの装束から制服に変わっていた。

 

「オルト。先ほど、お前たちは口頭で衣類を変えていただろう。あれは使えんのか? 正直、この衣服では動きに支障をきたす」

「できるけど?」

「それと、愛用の鎖鎌と軍配もだ」

「兄さん、これ再現できそう?」

 

オルトがイデアに呼びかけると、画面の向こうでキーボードを叩く高速の打鍵音が響いた。

 

「さっきの幻術空間と夢の中で集められたから、出力できるよ」

 

イデアとS.T.Y.Xで、マダラから要望のデータが作成される。数分後データが完成するとグリムの表情はどこか揶揄うよなものだった。

 

「よし! なら、マダラもドリームフォームチェンジって言うんだゾ!」

 

グリムからスマホを受け取ったマダラは、画面に向かって一瞬だけ微かな躊躇を見せたものの、その言葉を口にした。

 

「……ドリームフォームチェンジ」

 

眩い光が全身を包み込み、収まった時には、見慣れた一族の深い藍色の装束、そして背には巨大な軍配と鎖鎌が完璧に再現されていた。

 

「おお! マダラ、やはりお前にはその姿が一番しっくり来るぞ」

 

柱間が嬉しそうに頷く。シルバーもまた、頼もしさを感じながらマダラを見つめた。

 

「改めて礼を言う、マダラ。お前が来てくれれば頼もしい」

「俺の成したことが、結果としてマレウスの計画に助力することになってしまった。その分の借りは返して払う」

 

すると、それまで黙っていたセベクが覚悟を決めたように一歩前へ踏み出し、マダラに向かって深々と頭を下げた。

 

「すまなかった 。以前の非礼を許してほしい。僕は、お前の事情も背景も何も知らずに暴論を吐いた」

 

真摯な謝罪に対し、マダラは腕を組んだまま、冷淡とも取れる静かな声で答える。

 

「構わん。何も知らぬ者に理解を求めるなど、最初からお門違いだ」

 

マダラの返答に頭を上げるセベク。だが、マダラは鋭い眼光でセベクを射抜いた。

 

「だが、次はないぞ」

「ッ……肝に銘じる」

 

セベクが緊張感に背筋を伸ばしたところで、オルトの弾んだ声が割り込んだ。

 

『あ、S.T.Y.X.からダミーデータの生成が完了したみたい! 今すぐ出力するね!』

 

光の粒子が収束し、そこにはマダラと寸分違わぬ姿をした「身代わり」が立ち現れた。一目では偽物と本物と見分けがつかないほど、再現度が高い。

 

「これがオレの偽物か、柱間はこの夢に残る形になるのか?」

「作成できたダミーデータはマダラさん一人分が限界だったんだ。マレウスさんに夢の破綻を悟られないためにも、柱間さんには決戦のその時まで、マダラさんの『夢』を維持するしていてもらいたいんだ」

 

オルトの説明に、柱間は豪快に笑ってマダラの肩をポンと叩いた。

 

「それなら仕方ない。マダラ、後ほどな!」

「あぁ……またすぐ会う」

 

互いに言葉は少なくても、確かな信頼を交わし合う二人。柱間との一時的な別れを告げ、マダラたちは散らばったNRC生の仲間探しの旅へ出た。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。