夢渡りの長い冒険が、ついに終わりを告げようとしていた。ポムフィオーレ、スカラビア、オクタヴィネル、サバナクロー、ハーツラビュル各寮を巡り、散らばっていた仲間たちを順に救い出してきた一行の手元で、オルトから渡されていた招待状がにわかに眩い光を放ち始める。
その光に応じるかのように、目の前の歪み、重厚な扉が現れた。扉に手を掛け、押し開くとそこは静まり返った暗い部屋。
ガチャリ、と対面にある別の扉が開く音が響く。その音の主は、棺の中からマダラを呼び出し、全ての起点となったイデアだった。召喚された者は各々がこの戦いを決意を込めて、口に出していた。
「うちはこそが忍界最強……誰も俺を止めることはできん」
無意識に声に出してたのは、周りにつられたのか、マダラ本来の性格なのか、わからない。だが、一つだけ確かなのは、どれほど過酷で辛い現実であろうと、生きてその現実と向き合わなければ未来はない。
仲間たちが続々とイデアの夢の中へと招集されていく。シルバーが自らの本当の出生を受け入れ、心からマレウスを止めるべく全員の士気を高めていた、まさにその最高潮の瞬間。リドルがふと、マダラの隣に立つ男へと視線を向けた。
「それで……イデア先輩。マダラの隣にいる方は一体誰なのですか?」
「えー……マダラ氏のご友人の千手柱間氏です」
「「「説明しろ!!!」」」
普段は全く協調性のないNRC生たちの、驚くほど息の合ったブーイング。イデアは「ヒィッ!? そこなんで全員ハモるわけ!?」と情けない声を上げて後退った。
だが、緊迫した空気を一瞬で吹き飛ばしたのはカリムだった。一切の警戒心もなく語りかける。
「おー! お前がマダラの友達か! なんでここにいるのかよく分からないけど、よろしくな!」
「おお! 黄泉の国から見ていたぞ、お前たちの学園生活を! カリムと言ったなマダラを良くしてくれて感謝するぞ」
柱間もまた豪快に破顔し、初対面とは思えないほど一瞬で意気投合する二人に、一同は唖然となった。この二人なにか雰囲気似てないか?と。
「そうかー! やっぱマダラの友達はいい奴だな!」
「 マダラは良い奴ぞ!」
「おい! 二人で盛り上がるな! 話が進まないではないか!!」
セベクの静寂を破る大音響の叫びが響き渡る。非常事態に呑気な思い出話に花を咲かせる二人に対し、セベクの怒りに達していた。
「あーすまんすまん! つい思い出話に花が咲いてしまった、ガハハハ!」
頭を掻きながら腹を抱えて笑う柱間の圧倒的なマイペースさに、セベクは言葉を失い、周囲も呆れ果てて開いた口が塞がらない。そんな中、レオナが苛立ったように舌打ちをし、鋭い眼光で核心へと切り込んだ。
「……マダラはともかく、なんでNRCの生徒でもねぇ外部の奴がここにいやがる」
「マダラ氏の身体に移植された柱間氏の細胞がどうやら、死んだ魂ごとこの夢限定で柱間氏が召喚された。ごめん僕も完全に理解してない」
「はぁー駄目だ。聞いてるだけで頭が痛くなってきた……」
レオナがこめかみを押さえて深々とため息をつく。デュースは眉間にシワを寄せ、真剣な顔で腕を組んだ。
「どういうことだ……? マダラは柱間さんの細胞が入ってて……?それで夢の中だけ呼ばれた?」
「デュース、お前みたいな馬鹿にこれを完璧に理解しろってのが無理な話だわ。諦めろ」
エースが投げやりに首を振る。イデアは機械のキーを高速で叩きながら、開き直ったように口を尖らせた。
「ま、まぁ? 設定盛り盛りチート性能の二人を、使わない理由がないですし? 属性耐性無視の物理ゴリ押しでマレウス氏の領域で暴れてもらうから!」
「そうね。今は理由をとやかく言っている暇はないわ。使える戦力は全て投入するべきよ」
ヴィルが美しく顎を突き出し、戦意を宿した瞳で前を見据える。それぞれが決戦の場で、夢だからこそ、実現できる力『オーバーブロット』を駆使して、マレウスへ立ち向かう
〇〇〇〇
マレウスの戦いが始まり、数分経過後、マダラと柱間も決戦の場へ向かう準便が始まる。セベクとシルバーは現実世界で、マレウスに立ち向かう武器の調整中のため不在だ。
「じゃぁマダラ氏と柱間氏、オンボロ寮へ転送するから」
「子分!しっかり見ているからな!」
グリムの声援を背に向けて、足元が青白く光り、制御室からオンボロ寮へ転送される。決戦の地へと足を踏み入れた柱間とマダラの視界に飛び込んできたのは、オンボロ寮だ。空を見上げれば、そこには魔法で投影された巨大な映像が浮かび上がっている。
ポムフィオーレ、スカラビア、オクタヴィネル、サバナクロー、ハーツラビュル。各寮の仲間たちが限界を超えて交代で立ち向かい、マレウスの強大な体力を着実に削り取ってきた激闘の軌跡が映し出されていた。
「ほう……ここがお前の住んでいる場所か、マダラ」
柱間が興味深そうに周囲を見回す。マダラはど懐かしむように静かに答えた。
「あぁ。もう半年も経つが、慣れたものだ」
「ふむ……?」
「最初はただの砂利ばかりの土地で、何も感じはしなかった。……だが、眩しい光へ向かって足掻くあいつらの姿を見ているのは、退屈はしなかった」
マダラは写輪眼の奥に柔らかい光を宿す。幼さ故の苦悩その先のオーバーブロットという闇。この半年で多くの人間を見てきた。
「その眩しさに、オレは本来の自分を忘れてしまいそうになるほどだった。……だが『生きること』を願う奴らが、この世界にはいる。俺はもう一度、この世界で過ごそうと思う」
その言葉を聞いた柱間は、驚いたように目を見開いた後、心の底から愛おしそうに笑みをこぼした。
「お前のそんな穏やかな顔を、友として再び見られるのは本当に嬉しいぞ、マダラ」
世界は違えど、一度は夢へ向かった柱間とマダラ。友の穏やかな姿はら悔しくもあり、嬉しくもある。その思いは静かに柱間は仕舞う。
仲間たちが紡いできたバトンを受け取り、二人はゆっくりと前方へ視線を向けた。魔法陣が浮かび上がると、強い気配が迫る。
「さて、オレたちの出番が来たようだ」
世界の中心で圧倒的な異彩を放つマレウス・ドラコニアが、冷ややかな視線を二人へと向けた。
「マダラ……お前も僕の邪魔をするというのだな」
背の巨大な軍配を静かに握り直したマダラは、その鋭い写輪眼でマレウスを真っ直ぐに捉え、一切の迷いなく言い放った。
「オレには、そうするしか他がないのでな。命を得た以上、この現実を歩むと決めた」
「なら、全力で応えようマダラ!」
マレウスが地を揺るがすほどの魔力を解き放つ。強力な闇の軍勢がマダラ達を囲う。
「行くぞ!マダラ!」
柱間が両手を合わせると、大地から無数の巨木が芽吹き、溢れる闇を追い詰めるように伸び上がった。『木遁』の追撃に合わせて、マダラが息を吸い込む。
「『火遁・豪火滅失』!!」
放たれた炎が木遁に燃え移り、広大な火の海となって威力を跳ね上げる。さらに柱間は息の合った連撃で、力強く前方へと前進させた。空間を圧迫するほどの凄まじいチャクラと魔力が一体を包み込んだ。
「俺と柱間の前に立てる者など……誰一人としていないのさ!」
「マダラ、やるぞ!」
「敵を叩くぞ、柱間ァ!!」
かつて忍界の頂点に立った最強の二人が、新たな時代の仲間を守るため、力が解き放たれた。
〇〇〇〇
一方マレウスとの激闘で傷つき、強制的に転送された保健室では、脳負荷と肉体疲労を緩和するための退避エリアであり、壁一面に設置された巨大なモニターには、オンボロ寮前でマレウスと渡り合うマダラと柱間の壮絶な戦闘映像が映し出されていた。
イデアから支給されたアプリ内で、マダラの夢を観た生徒達は全てを知った。イズナの死の先、柱間との結末。
ベッドやパイプ椅子に腰掛け、その映像を見上げるNRC生たち。ハーツラビュル寮の面々が、真っ先に口を開いた。
「それにしてもさ、まさかマダラがもう死んでるなんてね……」
エースが後頭部に手を回しながら、信じられないといった様子で呟く。隣で腕を組んでいたデュースも、困惑を隠せない顔で首を振った。
「正直、僕は理解が追いついていない」
「だが、マダラの夢を見ると成人している姿だった。柱間さんの言葉にも嘘偽りはないだろう」
リドルが静かに告げると、トレイが眼鏡の奥の目を細め、モニターに映るマダラを見つめる。
「大人びているとは思ったが……まさかこんな背景があったなんてな」
「そうだね。全部弟、イズナくんのためだったなんて」
ケイトがいつもの軽い調子を封印し、どこか痛ましそうな表情で言葉を紡ぐ。そんなハーツラビュルの会話を断ち切るように、壁に背を預けていたレオナが鼻で笑った。
「……んなこと言ったって、しょうがねぇだろ」
「って、レオナさんマダラくん夢、真剣に見ていたじゃないスか」
「ラギー、口を縫い合わせられたいか?」
「冗談っすよ! マダラくんは今、その辛い夢の先に……今は戦っている」
ラギーが頭の後ろで手を組みながらモニターを指さす。そこでは、マレウスの放つ絶大な魔力を、軍配一つで吹き飛ばすマダラの姿があった。
「マダラが強い理由もやっと分かった」
マダラの強さは、ただの才能だけではなく、守りたい者がいたからこそ、あった力だったと知れた。
「でもさ、めっちゃ楽しそうじゃん~」
フロイドがベッドの上で足をぶらぶらしながら面白そうに笑う。ジェイドは静かにフロイドに同調した。
「確かに。彼はその辛さと、戦いへの興奮という矛盾の上に生きているようにみえます」
「僕がオーバーブロットしたときにも思いましたが……たまったものじゃありません。勘弁してほしいですね」
アズールが深々とため息をつくと、離れた場所で壁に寄りかかっていたジャミルがふっと口元を緩めた。
「珍しくアズールと気が合うな」
「でもさ、夢でも友達とまた会えるって、すごく嬉しいことだと思うぜ!」
カリムが眩しいほどの笑顔で答えると、スカラビアの二人の横から、ルークが感極まったように胸に手を当てた。
「マダラくんの本来の力を取り戻し、その瞳力も存分に発揮されている……美しい力だ!」
そう、マレウスの夢の中で、マダラは真実を受け止めた先に本来の力を万華鏡写輪眼を取り戻した。その力は画面越しでも分かるほどだ。
「タルタロスで見たときよりも大違い……すごい」
エペルが圧倒されて呆然と呟くと、ヴィルが髪をかき上げながら顎を引いた。
「まったく……こんな規格外の存在が、私たちの後輩なのよね」
ヴィルの言葉と同時に、モニターの映像が一段と激しい光に包まれる。ノイズ混じりの画面に映し出されているのは、もはや魔法士の決闘という枠組みを遙かに逸脱した領域だった。
嵐の吹き荒れるオンボロ寮前。空を覆い尽くす漆黒の暗雲から絶え間なく降り注ぐのは、マレウス・ドラコニアの怒りが具現化した緑色の雷光。竜の息吹が大地を削り取る壮絶な嵐の中、二人の「伝説」が並び立っていた。
「行くぞ、柱間! 遅れるな!」
マダラが地を蹴る。背の軍配を大きく振り抜くと、押し寄せる闇が衝撃波によって強引に霧散された。直後、万華鏡写輪眼の模様がに渦を巻く。
「須佐能乎」
瞬時に湧き上がる青きチャクラの巨像。その拳が、空中で巨躯を躍動させるマレウスへと振り下ろされる。だが、闇の軍勢がマレウスへの攻撃を防ぐ。
「相変わらず容赦のない攻撃だな、マダラ!」
柱間が印を結んだ瞬間、荒れ果てたオンボロ寮の庭から地鳴りが轟き、巨大な木々が生き物のように芽吹き、幾重にも重なって伸び上がった。
「『木遁・木龍の術』!!」
突如として現れた龍が、マレウスの退路を完全に塞ぎ、辺りの闇に喰らいつく。柱間の無尽蔵のチャクラが生み出す木遁はびくともしない。
「異世界の異能か……だが、僕の領域を侵すことは許さん!」
マレウスの双眸が燐光を放ち、領域全体を呑み込む氷結と落雷の暴風が荒れ狂う。しかし、それすらも彼ら二人を止めるには至らない。
互いに言葉を交わさずとも、戦場を共に潜り抜けてきた息遣いが、完璧な連鎖となって追い詰めていく。
死を超越した友と、忍界の頂点に立った二人の力。 その戦いが今まさに終わりへと加速していた。