「マレウス己の身体がどうなっているか、分かっているんじゃないか?」
戦闘を開始してかなりの時間が経過した。魔法領域の中なら、マレウスの思うがまま力を操れた。しかし、イデアのチートツールが影響が出始めいてる。
無限の体力も減り、魔法の威力が最初に比べ消えている。荒い息をしながら、マレウスは鋭い目線を向ける。
「何を言っている。現実に戻れば、お前には何も残らない。目の前の友も、愛しい弟も…全てな」
「あぁ。確かにお前の言う通り、現実へ戻れば俺が失ったものは戻らん」
マダラは写輪眼の奥に静かな決意を宿し、己の胸に手を当てた。夢であったがこの目でイズナは見れた。しかし、それを夢である以上終わりは必ずやってくる。
「だがその果てに、新たに託すものが確かにできる。オレの歩む現実は、ここにある」
人間の寿命は短い。柱間だろうと不老不死ではない。マダラたちが全て担う必要はない。後の世代へ繋ぐのが今生きる人達の役割だ。
「マダラ…マレウスの領域はもう維持できないはずだ。次で決めるぞ!」
「相変わらずだな、柱間いいだろう!」
二人のチャクラが天を突くほどに膨れ上がる。
「『須佐能乎』!!」
「『木遁・木人の術』!!」
青き神の甲冑と、大地を揺るがす木遁の巨人が並び立ち、マレウスへと絶大な一撃を叩き込んだ。
直接的な肉体ダメージの手応えは薄い。しかし、各寮の仲間たちが削り、マダラと柱間が積み重ねてきた打撃は、確実にこの虚構の世界の輪郭を叩き壊していた。
「いいだろう……そこまで言うのなら、本当の力を見せてやる!!」
マレウスの咆哮とともに、空間全体がガラスのように軋み始める。その異変を感知したイデアの悲鳴が通信越しに響き渡った。
『マ、マレウス氏の作り出した…魔法領域が崩壊する!?』
亀裂から眩い光が漏れ出す。その光に包まれながら、マレウスは豪快に笑い声を上げた。
「あーはっはっはっはっは!!」
実体化を維持していたチャクラが限界を迎え、柱間の身体が粒子となって光の中に溶け始めていく。柱間は満足げに微笑み、マダラへと視線を向けた。
「マダラ……オレはここまでのようだ。あとは頼んだぞ!」
「あぁ。久しぶりにお前と会えて……悪くなかった。柱間、向こうで待っていろ」
マダラの言葉に、柱間は深く頷きながら光の中へと消えていった。崩壊していく夢の世界の真ん中で、マダラはただ一人、背の軍配を強く握り直し、現実の果てに待つ最後の決戦へ向かう。
○○○○
「うっ……?」
「んんっ……ここは?」
「オレ様、なんでディアソムニアの床で寝てんだ……?」
硬い床の感触に頭を振るグリムの耳に、緊迫したマダラの叫び声が飛び込んだ。それは、この危機的な状況を真っ先に知らせるためのものだ。
「起きろ!まだ戦いは終わってない!」
「ふなっ!? なんだ、地震か!?」
グラグラと激しく揺れる城内。次の瞬間、機械的なアラート音が響き渡る。
『半径100m圏内にてブロット上昇を感知。緊急魔法災害警報を発令。早期避難、および予防措置を推奨します』
夢のまどろみが一瞬で吹き飛び、ブロットが充満する。その中心で、異形へと変貌を遂げつつあるマレウスが、天を画すような怒号を上げた。
「愚かな人間どもめ……僕に逆らったことを後悔するがいい!」
「術者であるマレウスさんが……ファントムを取り込んでいく!? 違う! マレウスさん自身が、巨大な竜の姿になっていくんだ!!」
魔力が寮の天井を木端微塵に砕き、瓦礫の雨が降り注ぐ。竜と化していくマレウスの姿に誰もが足をすくむ中、マダラだけが視線を上空へ向け、威然と前に出た。
「全員、早く外へ出ろ」
「マダラ!?マレウス先輩と戦うのか!?」
近くにいたエースは、マダラを心配そうな視線を向ける。一刻を争う状況の中、マダラは不敵に口元を歪めた。
「あぁ……お前にはまだ見せていなかったな」
瞬時に輪廻眼が怪しく光り輝き、マダラの全身から解き放たれた青きチャクラが、崩壊するディアソムニア城の天井を突き破って天へと昇り詰めていく。
「この……『完成体・須佐能乎』が使える。奴が天井を破ってくれたおかげで、余計な手間が省けた」
チャクラの激流が実体化し、背に巨大な翼を広げ、異形の大天狗の如き甲冑を纏った青き神の巨像が天を突いた。あまりの規格外のスケールに、グリムは目を丸くして叫んだ。
「で、でかいんだゾ!?」
「グリムお前は寮生たちを率いて出入口へ逃げろ」
「まかせろーっ!!」
崩壊するディアソムニア寮。 黒き竜とマダラが対峙する。
「なるほど……これがお前の本当の力か!」
巨竜と化したマレウスが叫ぶと同時に、その巨大な顎から禍々しい緑色の炎が解き放たれる。
熱量を孕んだそ炎は、天を突く完成体・須佐能乎の巨躯を真っ正面から呑み込み黒く焦がした。
「須佐能乎を焦がす炎か。やはり完全に抑え込むには、イデアの言っていたあの武器が必要か」
激しい炎の余波を浴びながらも、マダラは一歩も引かない。
「……だが、この須佐能乎は破壊そのもの。その一太刀は、森羅万象を砕く力を持つ。マレウス、お前の力ごと砕き散らしてやる!」
「なら!その一太刀、見せてみろ!!」
二人は上空へ飛び立つ。空へ戦いへ移した。マレウスの容赦ない追撃。 マダラは完成体・須佐能乎の巨大な刀を鞘から一気に引き抜いた。
空を切り裂くような一閃が解き放たれ、マレウスの炎と真正面から激突、大気を震わせる衝撃波とともに綺麗に相殺してみせる。
一方ディアソムニア寮から、寮生たちを避難している寮長達は、マダラとマレウスの戦いを見上げていた。
「な、なんて力だ……!?」
「カイワレ大根が来る前に、俺たちがお陀仏になるぞ!?」
「イデアが到着するまで、なんとしても耐えるわよ!!」
イデアが『対ドラゴン用決戦アームズ』を持ち出すまでの間、休み暇を与えない。
絶大な攻撃の相殺が生み出した一瞬の隙を突き、竜の鋭利な衝撃波が須佐能乎の守りの隙間をすり抜け、内部のマダラへと滑り込む。
刃のような風がマダラの頬をかすめ、一筋の真っ赤な血がその肌を伝って滴り落ちた。
「ふ……くははっ!」
自らの血を感じ取ったマダラは、頬の傷を指で拭うと、興奮に瞳を滾らせて狂気的な笑い声を上げた。
「いいぞ……! これだ、血湧き肉踊ってこその戦いだ!!」
「下がれ、愚か者どもめ!」
咆哮とともにマレウスの爪が振るわれ、爆風が嵐となって吹き荒れる。だが、その暴風を真っ正面から受け止めるマダラの表情には、狂おしいほどの歓喜が浮かんでいた。
「久しぶりだ……これほどの力を叩きつけられるのは! これはどうだ、マレウス!!」
マダラがチャクラをさらに跳ね上げ、完成体・須佐能乎の刀を力任せに振り下ろす。その圧に、竜の巨躯が一瞬押し戻された。
「まだ力を引き上げるというのか、マダラ!!」
「ちょちょいちょーい! マダラ氏、命懸けのバトル楽しんでないで!?」
空中を刺すような金切り声とともに、爆音を上げて上空へ乱入してきたのは、マジカルホイールのエンジンを吹かせたイデアだった。
「S.T.Y.X.宅配便でーーーす!! 『対ドラゴン用決戦アームズ』のお届けに参りましたァ!」
「来たぞ! 茨を切り開いて、イデアへの道を作れ!!」
リドルやレオナ、ヴィルたちが一斉に魔法を放ち、イデアの進路を阻む黒い茨の群れを強引に焼き払い、叩き切っていく。イデアはマダラへ叫んだ。
「マダラ氏、一旦須佐能乎解除して! シルバー氏とセベク氏のサポートに回って!」
「ふ……僕を大人しくさせると言ったか? か弱く儚い人間風情に、一体何ができるというのだ!」
「ひひっ! そうやって最強の魔王ヅラしていられるのも、今のうちですぞ……『対ドラゴン用決戦アームズ』、ボックス展開!!」
須佐能乎を解いたマダラは、直ぐにサポートへの準備へ映る。ボックス展開された武器と武具は、シルバーとセベクへ装備される。
「白銀に輝く鎧……! これはまるで、夜明けの騎士!」
「僕のは、夢の中でお祖父様にいただいた王宮近衛兵の鎧にそっくりだ……!」
「マダラ氏はこれを使って!これも十分使えるから!」
そして、イデアはシルバー達とは別の物がマダラへ投げ出される。マダラは反射的に受け取ると、箱から機械質な音声が聞こえる。
『ウチハ・ホプロン起動』
電子音声とともに吐き出されたのは、マダラの象徴たる巨大な軍配に鎖鎌。S.T.Y.X.の技術で夢ではなく現実世界で実現していた。マダラは武器の手応えに不敵な笑みを浮かべる。
「感謝する、イデア。持ち手も質量も……文句のない出来だ」
『全システム、正常稼働を確認』
全員が装備品を受け取りいつでも、マレウスを正面から立ち向かえる準備は整った。
「そんな玩具で、一体何ができる! 下がれ!!」
空を覆う巨竜マレウスが炎を吐き散らした。
「ディケーシールド展開! セベク氏、いけるよ!」
「お前たち、僕の後ろへ! うおおおおっ!!」
セベクが前線に躍り出て、展開された巨大な特殊防壁を掲げる。直後、凄まじい緑色の劫火が三人を取り巻いたが、防壁は揺るぎもしない。
「あ、熱くない……! 熱くないぞ!」
「これだけの炎を浴びせても融けないとは……その盾、さてはミスティウム製か、 一体どこからかき集めてきた……小賢しい真似を!」
「マレフィシア様の名を受けて、茨の谷の妖精たちと人間の技術者が手を取り合い、作り上げたものです!!」
「何故……人間の味方を!? おばあさまですら……僕の敵になるというのか!?」
ショックに刻まれたマレウスの咆哮に、シルバーが澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめ返し、魂の底から声を張り上げた。
「いいえ、いいえ!違いますマレウス様! マレフィシア様も、茨の谷の誰も……僕たちはみな、あなた様の味方です!!」
「我らの願いは、ただひとつ! あの日の悲劇を二度と繰り返さないために……あなたを人間の敵に、悪の支配者にさせないために!!」
かつて、妖精族と人間の争いに多くの悲劇を生まれた。だが、守るべき物がいる以上争いは絶えない。その連鎖を断ち切るため、二度と歴史を繰り返さないために立ち上がる。
「絶対に……あなたを止めてみせる!!」
シルバーとセベクの悲痛なまでの覚悟の叫びが、天を揺らす。二人を守るように背後に降り立ったマダラは、新しき軍配を大きく振りかぶる。
「黙れ……黙れぇッ!!」
天を覆う巨竜マレウスの目から涙のような漆黒のブロットが零れ落ちる。直後、地下から竜の影がマダラ達を囲い、マレウスは再び炎を解き放つ。
「来るぞ シルバー! セベク!」
攻撃が来るとマダラは竜の影を鎖鎌で巻き込む。セベクの防御する負担を分散させるため、他の敵意をマダラが打ち消す。
セベクが掲げたミスティウム製の盾から巨大な防壁が展開され、直撃したマレウスの炎を真っ正面から受け止める。衝撃でセベクの腕の骨が軋み、足元の空気が爆ぜるが、一歩も退かない。
「ぐっ……おおおおおッ! 倒れるわけにはいかん! マレウス様を……連れ戻すまではぁッ!!」
熱量と圧力が防壁を押し潰そうとしたその瞬間、シルバーがセベクの肩を支えるように並び立った。その手には、眩い光を放つ長剣。
「セベク下がれ!はぁああああああ!!!」
シルバーが、マレウスの角への攻撃の体制へ入った。この一手で全てが決まる。マレウスも巨大な力にシルバーの攻撃を妨害する。だが、マダラはそれを見逃さなかった。
「火遁・豪火滅矢!」
辺りの魔法が炎で包み込む。しかし、マレウスの魔法がマダラの威力が上回り、魔法がシルバーへ向かう。十分に威力を込めていない状態の攻撃で、シルバーは剣から魔法を放つ。
「ぐっぐううう」
中途半端な威力では、マレウスの炎の威力が収まらない。このままではシルバーが押し出されてる。急いでシルバーの元へ駆け寄ろうとした瞬間だった。
「やめろーーーっ!!!」
小さな人影がシルバーを押し出し、その影に直撃した。その人物はリリアだった。攻撃が止まりマレウスの攻撃によってはじき出された。アレテイア・ブレードはイデアが引き継ぐ。
「今だ!ターゲット・ロックオン!アレテイア・ブレード出力全開!素早く正確に一直線に飛べッ!! 」
放たれた剣はイデアの正確な操作によって、マレウスの角を砕いた。魔力を集中しているツノ失い。長い悪夢が終わりを告げる。だが、マダラの後ろには、傷だらけで、今にも息が耐えるリリアが倒れていた。
戦いは終わっても。命が終わりへ向かっている。マダラが無言で駆け寄ると、シルバーとセベクは現実を受け入れられずに唖然としていた。
「そんな、俺たちを庇って親父殿!」
「リリア様、しっかりしてくださいっ!」
角を砕かれ、竜から元の人の姿へと戻ったマレウスもまた、荒い息をつきながら叩きつけられた地面から這うように起き上がる。絶望とブロットの嵐が去った空間に、あまりにも哀痛な叫びが響き渡った。
「夢から醒めたらたくさん話そうって……目を開けてください、どうか……っ!」
「リリア……? うそだ、僕が、この手でお前を……? 違う。僕はこんなことがしたかったんじゃない!!」
震える両手で横たわるリリアの肩を抱きかかえようとするマレウス。その瞳には、孤高な君主としての面影はなく、ただ孤独に怯える幼い少年の面影だけが残されていた。
「待っていろ、今すぐに傷を癒してやる。僕の力なら、その程度……!」
掌に魔力を集中させようとするが、角の影響により、その手からは一筋の光すら灯らない。
「なぜだ……どうして魔法が使えない!? お前を失ったら、僕は、一体何のために……!僕はただ、寂しかったんだ。最後までずっと一緒にそばにいてほしくて……!」
溢れ出る涙を拭うことも忘れ、マレウスは枯れ果てた声で叫び続ける。世界を閉ざしてまで守りたかった最愛の存在が、己の暴走によって失われようとしている残酷な現実。
「お母様、お父様、お願いだ。何でもする。寿命でも、翼でも、何でも捧げる! だから、リリアを連れて行かないでくれぇううっ……!」
静まり返る戦場に、マレウスの悲痛な慟哭がどこまでも重く響き渡る。その声を背中で聞きながら、マダラはゆっくりと視線を巡らせた。
涙を流しながら必死に叫ぶシルバーとセベク。自分たちの身を削ってまで仲間を守ろうとした若き騎士たち。
かつて己が絶望し、捨て去ったはずの「人との繋がり」。この異世界で出会った若者たちは、どれほど傷つこうともその温もりを必死に繋ぎ止めようと足掻いている。
マダラはそっと自分の胸に手を当てた。 この胸に息づく命は、一度死んだはずの「過去の遺物」。だが、目の前で途絶えようとしている命と、それによって引き裂かれようとしている若者たちの未来は、まさに今ここにある「現実」だ。
ふと、脳裏に一人の少年の笑顔が浮かぶ。
(お前と交わした『共に未来を歩む』という約束……オレはどうやら、破ることになりそうだ)
オルトとの誓いを守れぬことに胸の奥でわずかな後悔が滲む。しかし、それ以上に「伝説の忍」としてではなく「一人の先輩」として、彼らに遺せる最後の道筋が見えていた。腹を括ったマダラは、重厚な沈黙を破り、静かにイデアの方へと振り返った。
「イデア」
不吉なほどの静けさを湛えたマダラの瞳に、イデアが思わず息を呑む。
「どうしたの……?」
「オレの死体は灰も残さず燃やせ。輪廻眼も潰した状態でだ」
己の最期を当然のように口にするマダラの言葉に、イデアの顔から一瞬で血の気が引いていく。
「何いって……マダラ氏!? まさか――」
イデアが叫び止めるよりも早く、マダラは一切の迷いを捨て、静かに印を結び始めた。
残り3話ほどで終わります。更新は明後日です。よろしくお願いいたします。