寮対抗マジカルシフト大会。世界中に中継され、プロリーグの関係者もスカウトに訪れるこの一大イベントは、生徒たちの将来の進路を大きく左右する最高の晴れ舞台だ。
学園全体が祭りのような熱気に包まれる中、マダラはその狂騒をどこか他人事のように眺めていた。
「こうして大会の熱気とか見てると、やっぱマダラが異世界人なんだなって実感するね」
エースが呆れたような苦笑いを浮かべると、エースが興味津々に身を乗り出してきた。
「マダラってさ、向こうにいた頃なんか娯楽とかあったのか? 休みの日とか何して遊んでたんだよ」
娯楽。その響きにマダラは一瞬だけ思案するように目を細めた。幼少期、川辺で柱間と競い合った水切りそれがマダラの知る数少ない「遊び」の全てだった。成人してからは文字通り戦いと血の雨しかなく、息を吐く暇すら命がけだったのだから。
「幼少期に川辺で水切りをしたくらいだな。あとは…戦うことくらいだ」
マダラの淡々とした回答に、周囲の温度がすっと下がった。エースとケイトは顔を見合わせ、なんとも言えない引きつった顔を浮かべる。
「水切りかぁ。確かに小さい頃はやったりしたけど…」
「あまりにも生々しすぎて返答に困るな!」
「俺の回答に期待するからだ」
そんな大微妙な空気をぶち破るように、相棒のグリムがマダラの足元でぴょんぴょんと跳ね上がった。
「なぁマダラ!俺様もマジフトやってみたいんだゾ!」
「俺はルールすら知らんぞ」
「あ、じゃあ俺らルール知ってるし、オンボロ寮でやってみる?」
エースの提案にデュースも乗り気で頷く。
「そうだな! 本番前に軽く体を動かしたいと思ってたところだし、時間もあるからやってみるか!」
こうして、一同は放課後のオンボロ寮の庭へと移動した。荒れた庭に集まった一行がディスクをどう扱うか話していると、ひゅ〜っと壁をすり抜けてオンボロ寮のゴーストたちが姿を現した。
「おや、みんなでマジフトの練習かい?」
「懐かしいねぇ! ワシらも生前は若い子にキャーキャー言われていたのぅ』
ゴーストたちは昔を懐かしむように顔をほころばせ、マダラたちにマジフトの基本的なルールやポジションの立ち回りを教え始めた。
初めてこの世界でゴーストを目にした時、マダラは真っ先に『穢土転生』の術を連想し、即座に印を結びかけたものだ。
だが、この世界のゴーストは術式で縛られた屍ではなく、ただ未練を残した無害な魂魄に過ぎないと知り、今では「勝手に居座る奇妙な同居人」として適度にあしらっている。
「なるほど。このディスクを浮かせ、小さい輪へ投げ入れればいいのだな?」
「そう! あの小さい輪に入れば一気に3点入るから、逆転を狙うならあそこだね」
「ディスクは魔力で浮かせるらしいから心配したけど、マダラのチャクラでもちゃんと浮いて良かったわ」
ゴーストたちの助言のもと、マダラ、エース、デュース、グリム、そしてゴーストたちを交えた即席のマジフト対決が始まった。
最初は「円盤を追いかけるお遊び」と高をくくっていたマダラだったが、実際にコートに立つと、その表情から冷めた色が消えていった。
「『魔法を使った格闘技』とはよく言ったものだ」
空中を縦横無尽に飛び交う攻撃魔法。身体能力だけで風を切って跳躍する。相手の妨害を潜り抜け、いかにディスクを奪い、仲間へ繋ぐか。
奪い合いの荒々しさは戦場に似ている。だが、ここにあるのは「殺意」ではなく、純粋な「勝利への執着」と「競い合う熱」だけだ。
「おいマダラ!こっちだだ!」
「甘いぞグリム、相手の動きを見ろ!」
敵のゴーストが放った氷の魔法を、マダラはチャクラを纏わせた脚で蹴り砕き、鮮やかな放物線を描いてエースへディスクをパスする。
「ナイパス!いっけぇぇ!」
ゴールへディスクが吸い込まれ、爽快な金属音が響き渡る。汗を拭い、荒い息をつく若者たちと、楽しそうに笑うゴーストたち。
ただ相手を殺すためだけに技を磨いていたかつての自分を思い返し、マダラは胸の奥がわずかに昂ぶるのを感じていた。命を奪い合うのではない「戦い」——スポーツという名の娯楽を、マダラは確かに「面白い」と感じていたのだった。
だが、華やかな大会を直前に控え、学園内では不穏な事件が相次いでいた。各寮の主力選手ばかりが狙われたように、不自然な怪我を負わされているのだ。
そして、ハールラビュル副寮長であるトレイも怪我を負ってしまいマジフト大会出場ができないまで、お込まれた。
「十中八九、魔法を使っているな」
「だよねー。けーくんもそう思ってた」
グリム、エース、デュースと共にトレイの見舞いが終わった後、学園の通路で、マダラを中心にケイトやエースたちが、人為的な工作では無いのか、調査を始める。
本当はマダラは余興に過ぎないマジフト出場に微塵も興味はなかったが、今回の事件の犯人を見つけたら、特別に出場できる枠を増やしてくれるらしい。
グリムの純粋な願いに根負けし、仕方なく調査に協力する羽目になった。
「魔力を使った痕跡があるな」
「見えるって…何もなくね?」
エースがマダラと同じ視線を見るが、勿論なにも見えるはずもない。エースはマダラに視線を向けると、マダラの瞳が赤く光っていた。
「って!写輪眼つかってるじゃん」
「見世物じゃない」
あらかた事件現場を見たマダラは、写輪眼を収めた。そして、エースは思い出したようにマダラに聞いた。
「そういえばさ、マダラの『写輪眼』って魔力も見えんの?」
「あぁ。以前試しに見てみたが、魔力はやらは、俺たちの世界におけるチャクラと似たような流れをしている」
「じゃあ、それで犯人が分かるんだゾ!」
だが、マダラはふとこの証拠だけでは弱いのではないかと考えた。現場で一番は現行犯。そこで、ケイトが考案した次に狙われる選手たちの調査へ入った。
○○○○
最初に訪れたのは、奮励の精神に基づくポムフィオーレ寮。
「まずは、3年生のルーク・ハントくんに注目だね。金色のボブヘアーと帽子がトレードマーク」
ケイトの案内で周囲を見渡すと、洗練された生徒たちが目立つ中、一際異彩を放つ男ルーク・ハントが佇んでいた。と、そこへ歩み寄ってくる美貌の影。
ポムフィオーレ寮長、ヴィル・シェーンハイトだ。ヴィルはマダラと視線を合わせると、迷いのない足取りで彼の前まで進み出た。
「ちょっと、そこのハリネズミ頭のあなた」
微動だにしないマダラに、ヴィルは溜息をつきながら指をさす。
「あなたよ。せっかくの綺麗な顔が、そのボサボサの髪で台無しじゃない」
「戦場で容姿を整える暇などなかったものでな」
さらりと言い捨てるマダラに、ヴィルは眉をひそめた。
「噂は本当だったのね。……確かに顔立ちの骨格も整っているのに、勿体無いわ」
ここでいう「噂」とは、監督生であるマダラがこの世界に来るまで、絶え間ない戦争の世界で戦い抜いてきたという過酷な過去のことだ。
あのハーツラビュル寮のオーバーブロット事件を目撃した生徒たちを中心に、彼の異質な強さと出自の噂は尾ひれをつけて広がっていた。
ヴィルの品定めするような視線を流し、マダラは本題を切り出す。
「ちょうど良い。聞きたいことがある」
「あら、なにかしら?」
「そこのルーク・ハントは、攻撃魔法、防衛魔法の心得はあるか?」
ヴィルは片眉を上げ、自慢の副寮長の方へと視線を流した。
「ルークは普段から足音を消したり、人の気配を感知するのは得意中の得意。そんな彼が、不意打ちごときで後手を踏むなんて無理な話よ」
「なるほど」
普段から足を音を消しているのは、まるで忍を連想するが、今回は関係ないのでスルーする。
気配察知に長けた彼はターゲットになり得ない、あるいは襲撃者が異常な隠密術を使っているのか。マダラが思案を巡らせていると、ヴィルは感心したようにマダラの顔をのぞき込んできた。
「それにしても、近くで見ても本当に顔が整っているわね。映画研究会のスタントに入れても映えそうだわ」
品定めするように自分を見つめるヴィルの眼差しに、マダラはふと、かつて自分をまっすぐに見つめ返していた弟、イズナの面影を重ねてしまっていた。美しい容姿を持ちながらも、己の背中を支えてくれた誇り高き弟。
「どうだろうな。弟の方が、そういった類はよく似合うと思うが」
無意識のうちに口をついて出た言葉。それを聞いたヴィルの鋭い紫の瞳が、一瞬で観察者のそれに切り替わった。
「弟?」
「っ……」
しまいに触れられたことに気づき、マダラの眉間にかすかな皺が寄る。ヴィルは観察眼に長けている。このまま言葉を交わせば、戦場で散った弟のことや己の過去の深層まで詮索されかねない。
「話は済んだだろう。調査の参考になった」
「ちょっと、待ちなさい……」
「行くぞ」
引き留めるヴィルの声を背に、マダラは一刻も早くこの場を離れるべく、逃げるように素早く翻身した。普段の威風堂々とした態度からは想像もつかないその手早さに、グリムたちも大慌てでその後を追う。
ポムフィオーレでの聞き込みの結果、優れた感知能力を持つルーク・ハントは事件の被害者予想のリストから除外された。