監督生はうちはの長   作:zatumozi

6 / 7
第6話 互いのはらわたを見せあう

サバナクロー寮のマジフト場へと辿り着いたマダラたち。レオナたちとの白熱した勝負の火蓋が切って落とされたものの、結果は無残なものだった。

 

相手は百獣の王の如き結束力と圧倒的な体躯を誇る、マジフト大会の優勝常連・サバナクロー寮。対するこちらは、急造もいいところの即席チームだ。パス回しも連携もロクに繋がらず、チームとしてはまったく歯が立たなかった。

 

コートの上で縦横無尽に走り回るディスクを、慣れないルールの中で追うエースとデュース。そして獣人たちの圧倒的なフィジカルの前に、得点板の数字は残酷なほど差を開かされていく。

 

「ハッ! いくら個人的な力があろうと、チームで戦うマジフトじゃド素人のお前らに勝ち目はねぇよ!」

 

サバナクローの選手が嘲笑を浮かべ、ディスクをゴールへと叩き込む。だが、そんなワンサイドゲームの惨状の中で、たった一点——サバナクローの完璧な防衛網を力ずくでこじ開け、得点を奪い取った瞬間があった。

 

マダラだ。

 

「確かに動きは良い。だが俺の前では効かんぞ」

 

空中を素早く交差するサバナクローの選手たちに対し、マダラはディスクを手にするなり、一切の予兆なしに素早く印を結んだ。

 

「火遁・鳳仙花の術」

 

「空中から火炎!?」

 

サバナクローの防衛陣が目を見開く。広範囲の忍術ではない。マダラのおはこである巨大な火遁を使えば、このコート一帯が火の海と化してしまうため、あえて威力を抑えた小規模で鋭い連発技を選択したのだ。

 

魔法の詠唱も杖の溜めもない、異世界の「忍術」による多彩で予想不可能な火遁の猛攻に、流石のサバナクローも対応が追いつかない。

 

(狙うなら、あの小さい輪か)

 

相手の体勢が崩れた一瞬の隙を突き、マダラは手裏剣を投擲する要領で手にしたディスクを鋭くスナップさせて放つ。描かれた閃光のような軌道は、高得点エリアであるど真ん中の小さな輪へと吸い込まれた。

 

「あの一年生、一番狭い高得点エリアへ叩き込んだぞ!」

 

焦げたコートの上で舌打ちをするサバナクローの選手たち。しかし、マダラが個人の圧倒的な武で一石を投じたものの、試合の結末を覆すまでには至らなかった。間もなく笛が鳴り響き、試合終了が告げられる。

 

「……ハッ、ハッくそっ、全然歯が立たなかった!」

 

膝に手を置き、荒い息をつくエース。デュースも悔しそうに拳を強く握りしめている。マダラは乱れることのない息で、腕を組んだままスコアボードを見上げた。自分の放った火遁による唯一の得点。勝負には敗れたものの、その冷徹な黒い瞳には敗北の陰りすらなく、ただただ淡々と『マジカルシフト』という異世界の競技の構造を分析しているようだった。

 

「ということで結果は見ての通りシシッ! 証拠もないんでお引き取りを〜」

 

ラギーが子馬鹿にするような態度でニシシと笑うと、一同はキッと目を細める。

 

「点数を入れた草食動物と、ケイト以外は何も役に立たなかったな」

 

レオナが勝ち誇り、とどめを刺すように言い放つ。その時、これまで静かに口を閉じていたマダラが、ゆっくりと口を開いた。

 

「若い才の成長というのは恐ろしいものだぞ」

 

その声の低さと凄みに、レオナの眼光が鋭さを増す。マダラの脳裏に過ったのは、かつて第四次忍界大戦の終盤で対峙した、あの「碧き猛獣」の姿だった。

 

体術のみを極め、己の命の全火力を燃やし尽くした。血筋も特別な術も持たぬ者が、己の肉体一つと積み重ねた鍛錬だけで、神の領域に達した己の骨を打ち砕き、「死ぬかもしれない」と本気で死線を感じさせたあの一撃。

 

長く生きながらえ、途方もない刻をかけて極め抜いた自慢の忍術を前にしても、たった数十年……いや、ほんの一瞬で己を遥かに凌駕する爆発的な威力を発揮する者と出会うのだ。死の淵を覗かせるほどの力を持った「才能」に。

 

「己の強さに胡坐をかき、周りを見下していると、いつ寝首を掻かれてもおかしくはない。俺は、その瞬間が来ても何も言わんがな」

 

実体験に基づいた圧巻の死生観と警告。レオナは一瞬言葉を失い、苦々しげにマダラを睨みつける。マダラはその鋭い視線をさらりといなし、背を向けてサバナクロー寮をあとにした。

 

「マダラが最後にガツンと点数入れてくれてスカッとしたんだぞ!」

「一矢報いたって感じだったね!」

 

帰り道、グリムとケイトが少し留飲を下げたように言う。だが、マダラは冷厳に首を振った。

 

「しかし、俺の瞳術がこの世界の規則において証明にならん以上、この件はお前たち自身で解決するしか道はない」

「マダラがいれば一気に叩き潰して解決できそうなんだけどな」

 

エースが少し頼るように愚痴をこぼすが、マダラはフッと小さく鼻で笑う。

 

「俺だけを戦力として頼るなら、それは勧めせんぞ」

 

以前の自分であれば、他者など歯牙にもかけず、自分一人だけで全てを強行突破し、力でねじ伏せて解決しようと奔走していただろう。

 

だが、柱間との果てしない戦いと、その果てにあった結末を通じて、マダラは身をもって知っていた。たった一人で全てを背負い、力だけで強行突破しようとする道がいかに脆く、崩壊していくかを。

 

だからこそ、今の自分は「監督生」として一歩引き、今ある若い才たちが葛藤し、自らの足で立ち上がるのを見守る。仲間と知恵を絞り、泥臭く壁を乗り越えることこそが、彼らを真の『強者』へと育てるのだと理解しているからこそ、マダラは静かに彼らに背中を託すのだった。

 

 

夜、マダラはオンボロ寮の庭に出て、静かな夜風に当たっていた。この世界に来て以来、何かと騒がしい者たち——グリムやハーツラビュルの面々、サバナクローの獣人たちと関わる機会が爆発的に増えていた。

 

かつての殺伐とした戦場に比べれば賑やかな日常だが、人と交わる時間が増えた分、こうして独りで物思いに耽る静寂は心地よい。疲れるわけではないが、マダラという忍にとって、時にこうした「一人で思考を研ぎ澄ます時間」は不可欠だった。

 

(あそこに居るのは誰だ?)

 

不意に、マダラは気配を察知して視線を向けた。いつの間にか、闇の中に頭部に立派なツノを生やした優美な男が静かに佇んでいた。

 

「気配が無かったな。お前は、人の子か?」

「あぁ」

 

男は少し驚いたように目を細め、荒れ果てたオンボロ寮を見上げた。

 

「ここで暮らしているのか? この館はもう長いこと廃墟だったはずだが。……独りで静

かに過ごせる僕だけの場所として気に入っていたのだがな」

 

どこか物寂しげな男の言葉に、マダラは己の住処として使っている以上「申し訳ない」とは思いつつも、立ち去るわけにはいかない。

 

「生憎だが、今は俺たちの寮として使っている。名はマダラだ」

 

マダラは短くそう名乗った。幼少期からの癖で、初対面の者に軽々しく「うちは」という姓を名乗ることはしない。忍の世界において、姓を明かすことは自らの一族の情報を敵に与えるに等しい危険行為だった。

 

戦乱の時代を生き抜いてきた者として、身体に染み付いたこの自衛の習性は、平和な異世界に来た今でも抜けることはなかった。

 

すると、男は興味深そうにマダラを見つめ返してきた。

 

「お前も『姓』を名乗らんのだな。何か深い訳でもあるのか?」

「幼少の頃、互いに姓を明かせぬ状況で生きていた時の名残だ。お前も今、名乗れん状況なのか?」

「僕は…いや、やめておこう。聞かない方がお前のためだ。知ってしまえば、肌に霜が降りる心地がするだろう。世間知らずに免じて、好きな名前で呼ぶことを許すよ」

 

男の言葉に、マダラは幼い頃の記憶を脳裏に浮かべていた。川辺で出会い、水切りを競い合った少年。柱間。互いに「うちは」と「千手」という宿敵の姓を隠し、ただの「マダラ」と「柱間」として言葉を交わしたあの儚い日々。

 

姓を名乗れぬこの男の佇まいに、マダラはどこかあの頃の懐かしさと哀愁を感じていた。

 

(好きな名か…)

 

とはいえ、マダラにとって他人に「あだ名」をつけるなど無縁の経験だ。すぐには思いつかず、明日適当に考えるとしよう。

 

「それにしても、人が住み着いてしまったということは、もうこの廃墟は廃墟ではないな。残念だ。また夜の散歩用の廃墟を探さなくては。……では、僕はこれで」

 

男がそう囁いた瞬間、その姿が揺らめき、まるで空間そのものに溶け込むかのように一瞬で消え去った。

 

「一瞬で姿を消したか」

 

魔法の詠唱も、気配の揺らぎすらほとんど残さぬ鮮やかな消失。マダラは少し感心したように眉を上げた。

 

(扉間が使う『飛雷神の術』のような時空間の類か……。世界は違えど、魔法というのも随分と多彩で面白い術があるものだ)

 

マダラはこの男が、世界中から恐れ敬われる世界トップクラスの魔法士「マレウス・ドラコニア」であることをまだ知らない。

 

だが、静まり返った夜の静寂の中、月を見上げるマダラの心には、異世界の強者への興味と、かつて宿敵であり親友であった男と過ごした幼き日の記憶が、静かに波紋を広げていた。

 

 

翌朝。オンボロ寮で昨晩の「ツノの男」との遭遇について話すと、グリムは彼のことを適当に「ツノ太郎」と名付けた。

 

「ツノ太郎って、適当すぎないか」

 

呆れ顔で突っ込んだ、グリムにとって名前など識別できれば何でもよかった。考えることすら面倒になり、そのまま登校の途につく。

 

現行犯の証拠を押さえるため、今日も学園内での調査を続行するマダラたち。中庭へと足を踏み入れると、そこにはサバナクロー寮の一年生、ジャック・ハウルが腕を組んで佇んでいた。

 

「てめー等、まだ懲りずに犯人捜しやってんのか」

 

ジャックは怪我を負わされた怪我人たちの仇討ちでもしていると思っているようだったが、残念ながら見当違いだ。エースやデュース、グリムたちの真の動機は「なんとしてもマジフト大会に出場するための理由付け」に過ぎない。ジャックの鋭い眼光が、最後尾で静かに立つマダラに向けられる。

 

「特にマダラ、お前だ。昨日のマジフトだって、ちっとも楽しんでそうじゃなかった。なんでこんな件に付き合ってんだ?」

 

「退屈しのぎにすぎん。あとは、コイツの頼みだからな」

 

マダラは淡々と応えた。 実際、この事件自体はマダラにとってただの暇つぶしだ。だが、それ以上に「魔法士になる」という無謀とも思える目標に向かって前進し続けるグリムの姿が、どこか脳裏に引っかかっていた。

 

かつて幼少期、自分と柱間が「子供の死なない平和な集落を作る」という、誰もが鼻で笑うような夢を掲げて邁進していたあの頃。

 

ギャースカとうるさいだけの化け猫だと思っていたグリムに、マダラは無意識のうちに幼き日の熱意を重ね、何かと放っておけないと感じていたのだ。

 

マダラの返答を聞き、ジャックはふっと息を漏らすと、足幅を広げて構えを取った。

 

「おい、てめー等。俺と勝負しろ」

「勝負?」

「男が腹割って話すんなら、まずは拳からだろ。てめー等が口だけの半端者じゃないって俺に証明出来たら、俺の知ってる話を教えてやってもいい」

 

ジャックの発言に、マダラは思わずフッと口元を緩めた。

 

(互いを知るには、はらわたを見せ合うか)

 

言葉で取り繕うよりも、拳を交え、己の魂をぶつけ合うことでしか解かり合えぬ道がある。いつの時代、どの世界であっても、真の男同士の対話の手段は共通なのだと、マダラは妙な可笑しさと懐かしさを覚えていた。ジャックの視線が、再びマダラへと注がれる。

 

「マダラ俺は、お前と勝負がしたい」

 

サバナクローの野性的な直感が、この男こそが最強の壁であると察知していた。だが、その言葉を聞いた瞬間——

 

「「「やめとけ(だゾ)!!」」」

 

エース、デュース、グリムの三人が、見事なハモりで即座に制止の声を上げた。それもそのはず、以前彼らは「マダラの強さを知りたい」と軽はずみな気持ちで勝負を挑み、試しに行われた『忍びの組手』によって、手加減された状態ですら文字通り一瞬で叩きのめされた惨絶なトラウマがあったからだ。

 

「なんだお前ら、急に」

 

怪訝そうな顔をするジャックの前に、デュースがスッと一歩前へ躍り出た。

 

「ジャック、僕と勝負しよう」

「まあ、別にいいが」

 

デュースの申し出に、後ろで冷や冷やしていたエースとグリムは「助かった」と胸を撫でおろす。

 

こうして、中庭でデュースとジャックによる一対一のタイマン勝負が始まった。泥臭く拳を交わし、意地と意地をぶつけ合い、互いの「腸」を見せ合った結果ジャックは本気を認め、口を開いた。

 

「犯人は、サバナクロー寮の奴らだ。俺はあんな汚いやり方、絶対に認めねぇ」

 

熱い拳の対話を経て明かされた真実。それは、写輪眼を持つマダラがすでに洞察していた通りの結論だった。

 




最後まで観ていただきありがとうございます。次回で二章終了です。次回の更新は本日の19時です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。