戦場の女神-圧政を敷く王政を、自衛隊の砲兵部隊が打ち砕くようです- 作:やきそばVer2
【20分前:フソウ王国辺境地域】
「敵軍現れました!距離2000m!」
「まもなく接敵します!」
迎撃態勢を整えた第一大隊。
森の中から、無数の騎士たちが姿を現した。
あまりの敵兵の多さに、部下たちの表情が強張る。
その動揺を鎮めるべく、全隊員に通達する。
「我々の火力を持ってすれば、奴らを叩きのめすことは容易だ!」
「諸君らが動揺する気持ちはわかる。」
「だが、我々は先の戦いで、奴らを一度叩き潰した。」
息を吸い、続けて言葉を並べる。
「であれば、今回も我々が負けることなど、万に一つもない!」
「訓練の日々を思い出せ!」
「奴らに我々の力を見せつけるのだ!」
隊員たちの様子を眺める。
どうやら、冷静さを取り戻したようだ。
(この様子なら、戦闘に支障は出なさそうだな。)
(うまくいってくれ......この賭けに負けたら......我々は全滅する。)
隊員たちへの鼓舞はうまくいった。
だが、私の胸のうちには不安が渦巻いていた。
部下を不安にさせないために、表面上は冷静さを保っていた。
しかし、最も動揺していたのは、私自身だったのかもしれない。
(大丈夫だ......作戦通りやれば、必ず勝てる。)
自分自身にそう言い聞かせ、戦闘開始の時を待った。
【1時間30分前:破壊された街】
「現在地から彼らの拠点の間には、森林が広がっている。」
「だが、拠点周辺は、森林が途切れて空き地となっている。」
「そのため、反乱軍が根城としている洞窟近くに布陣する。」
「反乱軍拠点近くの空き地に布陣する。」
「敵が進路を変えなければ、森を抜けて来ることになる。」
「森を抜けて来て、ある程度疲弊したところを迎撃する。」
「また、この場所で、反乱軍との合流を図る。」
「これが、本作戦の概略だ。」
あまりにも非常識な作戦に、北見一等陸尉が疑問を呈する。
「正気ですか?大隊長!榴弾ではなく、散弾を使用するのですか?」
「散弾の有効射程は、500m前後です!そんな距離で交戦するのですか?」
「そのとおりだ。北見陸尉。」
「たしかに、榴弾を用いた長距離砲撃が、最も安全かつ最も有効な攻撃だろう。」
「だが、少なくとも今回に限っては、『最善手』ではない。」
「『最善手』ではない、とはどういう意味ですか?」
今度は、藤本一等陸尉が疑問を投げかける。
隊員たちの疑問に、この作戦の肝となる部分を話す。
「ただ倒すだけではダメだ。」
「『誰の手』によって、一方的に蹂躙されたのか。」
「それを、奴らに知らしめる必要がある。」
一呼吸置き、続ける。
「力を見せつけることにより、この国の内戦継続の意思自体を挫く。」
「これにより、可能な限りの早期講和を実現する。」
「この目的であれば、榴弾よりも散弾が適している。」
「そのため、これが最善手だ。」
藤本がまたしても質問する。
「しかし、散弾は数があまりありません。」
「使い切ることになると思われます。」
「最もな意見だ。藤本陸尉。」
「確かにここで使い切ると、自衛手段を一つ失うことになるだろう。」
「だが、仮に内戦が長引けば、どちらにせよすぐに在庫がなくなる。」
「そのため、賭けになってしまうが、ここで集中運用するのが効果的だ。」
藤本が答える。
「作戦の趣旨を理解しました。異論はありません。」
「北見陸尉。君も理解してくれたか?」
「問題ありません。大隊長。」
周りを見渡し、他に意見が出ないことを確認し、号令を出す。
「総員直ちに移動開始!後退し、敵軍の包囲を抜けるぞ!」
「反乱軍の近くに布陣し、迎撃体制を取れ!」
【30分前:フソウ王国辺境地域】
「なあ、ミーナちゃん。本当にあれで全員なのかい?」
目の前に布陣するヒノモトの軍隊を見て、呆れる私。
「その理解で間違いはありません。アンドリューさん。」
ミーナちゃんの代わりに、護衛役の女性兵士が答える。
(いくらなんでも、あの人数じゃ話にならんだろ。)
(それにヒノモトでは、女まで兵士になるのかよ。)
洞窟に潜んでいた私たち。
『どうやれば逃げ切れるか』を話し合っていた時、ミーナちゃんとこの人たちが現れた。
殺されたと思っていただけに、彼女と再開した時は嬉しかった。
それに、伝説の国からの援軍だと聞いた時は、全員で喜びあっていた。
期待を胸に、ここまでやってきた私たち。
だが、目の前の軍勢は、軍勢とはとても呼べないほどの人数しかいなかった。
「たったの400人くらい兵士と、デカい機械が10個......」
「それにあれは......馬のいない馬車か?それがいくつか。」
「こんな少人数で、二万人の国王軍に勝てると思うのかい?」
「どう考えても無理だろ!」
私の疑問に、黙り込むミーナちゃん。
彼女も、勝てないと思ったのだろうか?
「僕とミーナちゃんは、彼らがどうなるかを見届ける。」
「君等は、一旦洞窟まで戻って、逃げる準備をしてくれ。」
生き残りに、指示を出す私。
一応、最後まで様子を見届けることを決める。
【現在:フソウ王国辺境地域】
「敵軍との距離500m!散弾の射程に入りました!」
「まだだ......まだ引きつけろ。距離300mまで待て。」
「偵察部隊は監視を継続。敵の別働隊がいないか警戒しろ。」
指示を出した直後、 岡田二等陸曹からの通信が入る。
「申し訳ありません、大隊長。反乱軍の説得に失敗しました。」
「半個大隊に満たない人数を見て、撤退してしまいました。」
「想定内だ。この戦闘結果を持って、再度交渉してくれ。」
「了解です。大隊長。」
反乱軍の戦力は、この戦闘では期待できない。
だが、それを嘆く暇は無かった。
「距離300!」
双眼鏡で監視していた隊員が叫ぶ。
「弾種散弾!目標、敵騎士団!撃ち方始め!!」
「奴らを薙ぎ払え!!」
ドオン!ドオン!ドオン!
号令とともに、十門の大砲が一斉に火を吹く。
巨大なショットガンと化した大砲。
放たれた無数の金属球が、突撃を続ける騎士達に襲いかかる。
「グオオオ!」
「ガハッ!」
「ウギャ!」
何が起きたのかすらわからないまま、次々となぎ倒される騎士達。
一斉射ごとに、数百人の騎士が消し飛んでいく。
わずか十門、されど十門。
現代火砲の圧倒的な火力により、またたく間に被害が拡大していく。
戦果を双眼鏡で確認し、賭けに勝ったことを確信する。
そして、さらに士気を上げるため、号令を下す。
「効いているぞ!このまま撃ち続けろ!」
「敵最前列への砲撃を継続!敵軍の突撃を打ち砕け!」
~~~~
それでも騎士達は、圧倒的な戦力を維持している。
戦友の死体を踏みつけながら、再度突撃を行う。
「怯むな!奴らは少数だ!突撃!」
「俺たちが負けることなどありえない!」
だが、それは無駄な努力だった。
倒れた死体に足を取られる、最前線の兵達。
千人隊長の威勢のよい号令を尻目に、突撃の勢いが収まってしまう。
ドン!ドン!ドン!ドン!
そこに幾度も襲いかかる、鋼鉄の雨。
各砲ごとの射撃に切り替え、射撃速度を上げた砲撃。
優勢だったはずの国王軍は、最前線の部隊が全滅している。
さらに襲い来る、熾烈な砲撃。
遂には陣形が崩壊してしまい、突撃の勢いが消されてしまう。
それどころか、一部の兵士は命令を放棄して、逃げ出し始めてしまう。
「お前ら!騎士としての誇りはどうした!」
前線で指示を続けていた千人隊長。
部下を鼓舞するも、全く効果がない。
「お前ら!なにをやって......ギャアー」
そして、彼の元へ届く鉄の嵐。
彼が最後に聞いたのは、至近距離からの砲撃音だった。
ドン!ドン!ドン!
それでも砲撃は止まない。
あちらこちらで、指揮官を失った騎士達。
恐怖から、逃亡を選択してしまう。
誇り高き騎士団は、惨めな敗残兵へと変貌してしまう。
~~~~
「各砲!射撃継続!」
「撃って撃って、撃ちまくるのよ!」
北見中隊長の指示のもと、砲撃を続ける砲兵たち。
辺りには、砲弾が入っていた木箱の山ができていた。
「敵軍が距離500まで後退した!弾種を榴弾に変更し、追撃を継続しろ!」
「敵軍中央および後方への砲撃を行え!」
無線機は続ける。
「「圧政に苦しむ民衆を救うのだ!!」」
「「そして、生き残るのだ!!」」
「聞いたわね。最後の一押しを行う!」
「私達の手で、民衆を救うのよ!」
大隊長からの無線を聞き、部下に指示を出す北見。
第二中隊の五門の榴弾砲全てが、砲撃準備を整えたのを確認する。
「目標敵軍中央!撃ち方始め!」
「敵軍を粉砕し尽くすのよ!」
時を同じくして、第一中隊の五門の大砲も火を吹く。
合計十門の大砲が、トドメを刺すべく最後の攻撃を行う。
~~~~
「なぜ、たった数百人の敵に押し返されているんだ!この無能共め!」
「吾輩の手柄を台無しにするのか!」
あまりの事態に、怒鳴り散らすアシモフ将軍。
圧倒的な兵力差があった。
手柄は約束されていたはずだった。
だが、その見通しは予期せぬ敵により、軍勢ごと粉砕されていた。
「お前ら......お前らが腰抜けだったせいで......」
怒りに任せて、部下を怒鳴りつけようとしたときだった。
ドカアン!
安全だったはずの本陣に、一発の榴弾が飛び込む。
爆風で吹き飛ばされる、幕僚たち。
アシモフ将軍が起き上がると、幕僚たちの姿は何処にもなかった。
「い、一体何じゃ?何が起きたのじゃ??」
「これは......一体?」
奇跡的に無傷だったアシモフ。
だが、他の面々は全員息絶えていた。
(まずいまずいまずい!このままでは、吾輩まで!)
「誰か!誰かおらぬか!直ちに馬車を用意しろ!」
部下を全員置き去りにして、将軍は王都に向けて逃亡していった。
指揮官を失い、統率が取れなくなった国王軍。
二万人の兵員のうち、離脱できた人数はわずか二百人ほどであったという......
~~~~
「これが......ヒノモトの軍隊の力なのか......」
『どうせすぐに殲滅されるだろう』そう考えていた私。
だが、その予想はすぐに覆された。
突撃する王国軍を、轟音とともになぎ倒す異世界の軍隊。
王国軍は突撃を諦め、退却を試みる。
だが、退却する敵軍の中心部で、大爆発が何度も起き、それすらも許されない。
完膚なきまでの打撃を受ける敵軍。
大規模魔法でも、ここまでの破壊をもたらすことは無いだろう。
そんな常識外れの火力を目にし、自分自身の正気すら疑ってしまう。
「ミーナちゃん。これは現実なんだよね?」
「アンドリューさん。正直私にも信じられません。」
「ヒノモトの軍人さん、疑ってしまって申し訳ありません。」
「撤退した生き残りの人たちにも、声をかけてきますので......力を貸してください!」
「そして、我々はあなたがたに......全面的に協力いたします!」
~~~~
「撃ち方止め!諸君、我らの勝利だ!」
「交渉に向かっていた、岡田たちからも連絡があった。反乱軍も共闘に応じた!」
部隊のあちらこちらから、歓喜の叫びが上がる。
『本当に勝てるのだろうか?』
不安に押しつぶされそうだった隊員たちは、ようやく安堵することができたのだ。
そして、自分たちが成し遂げた完全な勝利。
第一大隊の各員は、その勝利に沸いていた。
だが、勝利の立役者である私は、複雑な感情を抱いていた。
(これで、我々の力を示すことはできた。)
(敵だったとはいえ、相手は人間だ。)
後悔しながらも、自分の決意を思い出す。
(既に戦うことは決め、それに民衆を救わねばならん。)
(であれば、早期講和を実現し、犠牲を最小限にするべきだ。)
(それが、私にできる最大限のことなのだが......)
【王城:玉座の間】
「で、貴様はおめおめと逃げてきたと。」
「ヨシナガ様、奴らは我々の知らぬ魔法を使ってき----」
「アシモフ、貴様も騎士の端くれなら、言い訳を並べるでない!」
ヨシナガ王の前で、言い訳を並べるアシモフ将軍。
その様子を見ながら、我は物思いにふける。
(聞くところによると、相手はヒノモトの軍隊らしい。)
(正義は我らではなく、彼らの方にあるのであろう。)
(この国はおしまいかもしれない......)
(だが、この国の騎士として、最後まで使命を果たさねばならん......)
(王に囚われた、我の家族を守るためにも。)
そんな中、呼び出されていたマーティン将軍がやってくる。
「マーティン将軍。貴様に討伐を命じる。」
「切り札の魔導部隊も貸してやる。」
「奴らを殲滅してこい!」
「御心のままに、ヨシナガ王よ。」
王からの命令を受けて、すぐに出撃するために立ち去ろうとする。
その将軍に、我は話しかける。
「お待ちくだされ、将軍。」
「奴らには、我々の戦法は通じぬやもしれません。」
「我に秘策がございます。」
「ほう、秘策とな。言ってみろ。」
「ええ、まずは......」
~~~~
勝利に沸く第一大隊。
そこに送り込まれる、新たな刺客。
第一大隊はどうなってしまうのか?
早期講和は実現するのか?
第四話に続く。