鈴と初めての特訓をしてから暫く経ったある日の朝。
美春のクラスでは今日来るらしい転校生の話で持ち切りとなっていた。
「ねえねえ、聞いた?今日来る転校生、男子なんだって」
「それ聞いたー!どんな感じの子かな?」
「よかったね、遠藤君!仲間が増えて」
「あ、ああ。そうだな」
美春はクラスメイトからの呼びかけにやや困惑した様子で答える。
(やっぱり先輩に確認しておいてよかった。やっぱりこの件何か変だ…)
鈴との特訓を終えた日の夜、美春はエミリー・エヴァンスという一つ歳上の女子生徒に連絡を取っていた。クラス代表決定戦の前に美春にISの練習の誘いをしてきたあの女子生徒だ。
彼女とは和解の際に連絡先を交換しており、3人目の男子に関する調査を依頼していた。
エミリーはイギリスの代表候補生であり、ヨーロッパ圏のニュースで新たな男性のIS起動者について何か話題になっていないか調べてもらっていたのだ。
その結果はヒット件数ゼロ。因みに美春がISを起動した時はヨーロッパでもお祭り騒ぎで、そこら中の国々で男性の人権向上を訴えるデモが起きていたらしい。
さすがに転校生の名前などは向こうも知らないようで、わかり次第向こうに共有する手筈となっている。
美春が思索に耽っていると山田先生が教壇に立ち、SHRが始まった。
「皆さん、おはようございます。今日はSHRを始める前に転校生を二人紹介します。」
予想外の事実にクラスがざわつく。男性が来ることは風の噂で知っていたようだがまさか転校生が二人もいるとは思いも寄らなかっただろう。
「ではお二方、入室してください」
山田先生が廊下に向かって声をかけると教室の扉が開き、二人の転校生が入室してきた。
「それではデュノア君から自己紹介を。」
「はい。シャルル・デュノアです。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入をしてきました。」
「き…」
「「「「「「キャァァァァァァァァァァァアアアアアア!!!」」」」」」
教室中に歓喜の悲鳴が響き渡り、一夏と美春は思わず両手で耳を塞ぐ。
「やっぱり男子!三人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~!」
そこまで喜ぶことかと美春は困惑していたが、シャルルは中性的で端正な顔立ちをしており金色の長髪は後ろで束ねている。自分たち二人にはない雰囲気を彼は持ち合わせていた。
「では、次にボーデヴィッヒさん」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。以上だ。」
そう言ってラウラは一夏の席の前に移動する。
「…貴様が織斑一夏か」
「そうだけど、それが…」
一夏が答える間もなくラウラは一夏の頬をはたく。一夏は突然の出来事に目を丸くする。
「織斑一夏……私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」
教壇の横に立っていた織斑先生がラウラを睨みつけた。
「ボーデヴィッヒ、私の管理下で勝手をするとはどういうつもりだ。」
「…すみません、教官。」
「ここでは教官ではなく先生だと先ほども言ったはずだが?良いから席に着け。」
「はっ、了解しました。」
転校生二人がそれぞれの席に着くと山田先生は目の前の事態に困惑しながらもSHRを始めた。
(教官か…。一夏のことといい、ボーデヴィッヒさんと織斑先生との間に何かあるのかな)
美春がまた一人で考え込んでいると一夏から声を掛けられる。
「おい美春、SHR終わったぞ。1時限目はグラウンドに移動だぞ」
「やっべ、そうだった」
美春と一夏が慌てて移動の準備をし始めるとシャルルが二人の席に近寄って声をかける。
「織斑君と遠藤君、だよね?僕は…」
「悪いがデュノア君、話はあとだ。」
「今はとにかく移動が先だ。ここで女子が着替え始めるから。」
「え?」
事態をよく理解できていないシャルルは一夏に手を引かれて教室を後にし、美春もそれに続く。
「ちょっと、なんでそんなに焦ってるの!?」
「男子は空いてるアリーナ更衣室で着替えることになってるんだ。実習のたびにこうやって急がないと間に合わなくて織斑先生にしばかれる。」
一夏がシャルルの手を引いて走りながら説明していると、前方に女子生徒の集団が待ち構えていた。
「ああっ! 転校生発見!」
「しかも織斑君と一緒!」
「遠藤君までいる!」
「…見つかったな一夏」
「ああ、そうみたいだな。」
「え?何が?」
何かを決心したかのような二人にシャルルは全く追いつけていない。
「一夏、道は俺が作る。デュノア君のことは任せた」
「了解。デュノア、ちょっと失礼」
「え?きゃあ!」
一夏がシャルルを抱きかかえる。その姿を見た周囲の女子生徒は歓喜の悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁああ!見てあれ!」
「うそ!?お姫様抱っこ!?」
「誰かカメラ持って無い!?」
よくもまあ授業前にここまで騒がしくなれるもんだと美春は呆れつつ、女子生徒の間をかき分けて道を作っていく。シャルルを抱きかかえた一夏が後に続く。
(…っていうかデュノア君、さっききゃあ!って言った?)
美春は僅かな違和感を覚えつつも、今はそれどころではないと気を取り直して二人が通る道を作り続けていた。
・
・
・
やっとのことで更衣室に到着し、一夏は抱きかかえていたシャルルを下ろす。
「ね、ねえ。あの人たちはどうしてあんなに騒いでいたのかな?」
「うーん、男が珍しいってのと今日は転校生が来るっていう噂が広まってたからかな」
美春がそう答えて制服の上着を脱いだその瞬間。
「きゃああ!」
シャルルが顔を両手で隠して悲鳴を上げる。
「どうした、デュノア君?」
「お前も早く着替えないと遅刻するぞ」
「な、何でもない!僕ちょっとトイレ行ってくる!二人は先に行ってて!」
美春と一夏は顔を合わせて首を傾げ、着替えの準備を進めるのだった。