先にグラウンドについた二人から少し遅れて着替えたシャルルが息を切らしてやってくる。
間一髪、織斑先生からの鉄拳制裁は免れた。
「ギリギリだったな、デュノア。次はもう少し余裕を持って行動しろ」
「はあ…はあ…。はい、以後気を付けます…」
今回の授業から専用機を持たない生徒も実際にISに乗って基本的な操縦方法を身に着ける。ほとんどの生徒にとってこの授業で初めてISに搭乗することになる。
美春はクラス代表決定戦の件があったので例外ではあるのだが。
織斑先生は授業の概要を説明すると、
「では始めに、戦闘の実演をしてもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの連中もいることだしな。凰!オルコット!前に出ろ」
と授業の説明中に一夏に絡んでいた鈴とセシリアを呼び出す。
ブツブツと文句を言いながら前に出た二人に織斑先生が耳打ちをすると、二人は目の色を変えてやる気満々になった。
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」
(どうせ一夏にいいところ見せるチャンスだぞとか何とか言ったんだろうなあ…)
「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん、こっちの台詞よ。返り討ちにしてあげる」
「慌てるなバカども。対戦相手は…」
そう織斑先生が言いかけると、上空からこちらに向かってくる風切り音が聞こえてくる。
「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」
山田先生だ。皆はその場を離れるも、何やら考え事をしていた一夏は反応が遅れ、落下に巻き込まれた。
土煙が晴れると一夏は山田先生を受け止めるように押し倒されていた。
さらにまずいことに、一夏の手が山田先生の胸に当たっていた。
「あの…織斑君、その…手をどけてもらえると」
「あ、ああ!すみません!」
美春は一瞬羨ましく思ったが背後の二つの殺気を感じて自分の考えを取り消した。
恐る恐る後ろを振り返るとセシリアと鈴の目に光がない。
直後に一夏の顔を掠めるギリギリのところにセシリアのビーム射撃が通り過ぎた。
「ホホホホホ…。残念です。余計な力が入ったせいで外してしまいましたわ」
続けて鈴も連結した双天牙月を一夏に向かって投げつける。
「一夏ぁ!くらえ!」
一夏はなんとか躱してみせたが、双天牙月はブーメランのように戻ってきて一夏に襲い掛かる。
間に合わないと一夏が悟ったその時、山田先生が射撃体勢を取り銃弾を放つ。
放たれた弾丸は双天牙月のバランスが崩れるポイントを正確に撃ち抜き、鈴の真横にバランスを崩した双天牙月の刃が突き刺さる。
一瞬の出来事に一同はおお~と感嘆の声を上げて山田先生に拍手を送る。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし」
織斑先生が話を続ける。
「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさと始めるぞ。相手は山田先生だ」
「え?あの、二対一で…?」
「いや、さすがにそれは…」
「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」
そう言われて二人はカチンときたのか、溢れんばかりの闘志を滾らせる。
グラウンド中央に山田先生とセシリア、鈴のペアが対峙する。
「それでは、始め!」
織斑先生の掛け声とともに戦闘が始まる。
「手加減はしませんわ!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
そう意気込む二人は山田先生に向かって突っ込んでいく。
「さて、今の間に…そうだな。ちょうどいい、デュノア。山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい。山田先生の使用されているISはラファール・リヴァイヴと言って、フランスのデュノア社製の第2世代型ISです。操縦しやすく汎用性が高いのが特徴で、それにより操縦者を選ばないことと、多様な役割切り替えを両立しています」
「ふむ、上出来だ。さて、そろそろだな」
シャルルが山田先生の駆る機体の説明をしている間に戦闘は終盤に差し掛かろうとしていた。
一見すると弾幕量でセシリア、鈴のペアが圧倒しているように見えるが山田先生は的確に回避し、必要最低限の銃弾を撃ち返す。
銃弾は二人の動きを誘導するかのように放たれており、事実互いに同じ方向に逃げるように誘導されていた。
互いの位置関係など全く気に留めていなかった二人は猛烈な勢いで衝突する。
「な!?」
「ちょ!?」
山田先生がその隙を逃すはずがなく、グレネード弾を二人めがけて撃ち込む。
二人が気付いた時には既に遅く、弾丸は二人に直撃しその衝撃で地面に墜落する。
「くっ、まさかこのわたくしが…」
「あ、アンタねえ…何面白いように回避先読まれてんのよ!」
「り、鈴さんこそ!無駄に衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
「こっちの台詞よ!なんでこっちの邪魔をするみたいにビットを出すのよ!」
言い争っている二人をよそに織斑先生は一同に向かって告げる。
「勝負ありだ。これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
圧倒的な実力差を目の前にして一同は目を丸くする。
しばらくすると生徒の中からパチパチと小さな拍手が聞こえてきた。
(経験の差はあるんだろうけど、にしても山田先生射撃戦上手すぎだろ)
美春も山田先生の技術に感心し、賞賛の拍手を送った。
「では続いて全員での訓練を開始する。まずは専用機持ちの5人は前に出ろ」
そう織斑先生が告げると、一夏、セシリア、鈴、シャルル、ラウラの5人が前に出て横一列に並んだ。
「ではそれぞれ10人の班に分かれろ」
そういうと案の定、男子二人の周囲に生徒が集まる。ついでに言うと何故か専用機を持っていない美春の周囲にも数人の生徒が集まる。
「遠藤君、試合見てたよ!IS動かすのすっごく上手だった!」
「織斑君に丁寧に授業について教えてあげてたし、私教わるなら遠藤君がいいなあ」
「あ、いやあ…俺はみんなより先にISに乗ってはいたけど専用機持ってるわけじゃないし…」
美春が織斑先生に目線で救難信号を出すと、織斑先生は頭に手を当て声を上げた。
「この馬鹿どもが…出席番号順に分かれろ!」
織斑先生の言う通りに班が分かれると美春はラウラと同じ班になった。
「…というわけで動かし方については以上だ。後はそこの奴に教えてもらえ」
ラウラは概要だけ説明すると実際の指導は美春に丸投げした。
(自分が教えてやる筋合いはないと。なるほどねえ…)
「…じゃあ順番に搭乗から歩行するまでをやってみようか」
美春は渋々生徒の指導に回ることにした。
時間が経ち、授業終了のチャイムが鳴る。
「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行う。各人、格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように」
織斑先生の言葉でその場は解散となった。
(ISの整備か…ここに関しては俺は完全に素人なんだけど、ボーデヴィッヒさんちゃんと教えてくれるかなあ…)
美春はやや不安を覚えながらも周囲と協力して訓練用のISを格納庫に運び込んでいた。
美春がチラッとラウラの方を見ると彼女は素知らぬ顔で目を背けた。
(これは期待できそうもないな…)
美春は教室に戻る道中でエミリー先輩にシャルル・デュノアの名前を共有すると同時にISの整備に関する基礎知識を教えてもらうように依頼するのだった。