ISの実習授業を終えた日の昼休み。美春は誰もいない教室でとある人物を待っていた。
一夏から昼食の誘いを受けたものの、午後の授業の予習をしたいからと誤魔化しといた。
美春は相変わらずまじめだなあと一夏に呆れられたものの、まあ些細な事だ。
しばらくすると教室の扉が開き、エミリー先輩が入室してきた。
「お待たせ。急に呼び出してごめんなさいね」
「お疲れ様です。先輩。こちらこそ急なお願いに付き合っていただいてありがとうございます」
エミリー先輩は美春と向かい合うように座るとまずはこう切り出した。
「まずは午後の授業についてだけど、あれは自分でどうにかしなさい」
「ええ…?でも同じ班の専用機持ってる娘、教える気ゼロなんですよ」
「それでも大丈夫。基本的には教科書に載ってることを確認する程度だから。整備課の娘も混ざってるだろうし最悪彼女たちに助けを求めればどうにかなるわ。それより本題の件だけど…」
エミリー先輩の表情が真剣になる。
「やっぱりデュノア社から3人目の男子が見つかったなんて話はどこにもなかったわ。去年ヨーロッパの代表候補生が集まるパーティーにデュノア社の偉い人たちも来てたんだけど、御曹司がいたなんて話は聞いた記憶がないわ」
「そうですか…。となると偽物の可能性も…」
「ただデュノア社について調べてたら一つ気になる記事があったの」
「気になる記事…?」
「社長の不倫疑惑よ。まあ証拠も出なかったし、どこかのパパラッチがでっち上げたんだろうってすぐに疑惑は消えたんだけどね」
「その疑惑と今回のことに何の関係が…」
「もしその疑惑が本当で、社長に隠し子がいたとしたら…。色々と辻褄が合う気がしてこない?」
「そんな子を公表すれば、過去のスキャンダル疑惑を認めることになっちゃいますからね」
「そういうこと。まあそんな子をデュノアの名前で送り出してることはかなり不自然だけど」
「そこなんですよね。仮にスパイだとしても偽名使って別人に仕立て上げる方が都合がいいでしょうし…。だとしたらあの子は一体…」
「でも、あまり気にすることないんじゃないかしら」
「…どうしてですか?」
「あなたがさっき言った通り、スパイならわざわざデュノアの名前を付けて送り出してなんて来ない。そして不倫の件が事実ならその証拠となる彼を自分の近くには置いておきたくはないというのが普通の感覚なんじゃないかしら」
「なるほど…」
「まあ、彼が何か事を起こすまでは普通のクラスメイトとして接してあげるのがいいと思うわ。疑いの目を向けたまんまだとお互い気まずいでしょう?」
「それもそうですね。一旦細かいことは忘れることにします。色々とありがとうございました。」
「どういたしまして。それじゃあ午後の授業頑張ってね。」
そう言ってエミリー先輩は席を立ち、教室を後にした。
一人残った美春は煮え切らない思いで窓の外の景色を見つめる。
(確かに先輩の言ってたことは筋が通ってるけど、なんか引っかかるんだよなあ)
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午後の授業に向かう途中、ゲッソリとした顔の一夏と出会った。
なんでも一夏ガールズがそれぞれ弁当を持ち寄ってくれたのだが、セシリアの料理が凄まじかったらしく、ただ本人を前にして戻すわけにはいくまいと無理して完食したらしい。
(…俺行かなくてよかったかも)
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午後の授業を終えた放課後、鈴とセシリアが午前の授業の振り返りをしたいとのことでいつものメンツ+シャルルでアリーナに集まっていたのだが、いつの間にか一夏に射撃について教える時間になっていた。
数センチ単位の身体操作を要求するセシリアと、この間の八極拳の鍛錬の時と同じように擬音メインで伝える鈴の教え方に一夏は完全に頭がパンクしていた。
「美春~、シャルル~助けてくれ~」
一夏が情けない声で助けを求める。美春はISの動かし方は多少の心得があるが、武装の扱い方、ましてや教え方についてはさっぱりわからない。
美春は俺には無理という顔でシャルルに目を向けると彼は嫌な顔一つせず一夏の指導に入る。
「つまりは、一夏は射撃武装に触ったことがないからイメージがまだできていないだけなんだと思うよ。ボクの武装を使用許諾(アンロック)して一夏でも扱えるようにしたから、試しにちょっとやってみようよ」
使用許諾という聞きなれない言葉に美春はコンソールを開き検索をかける。
なんでもISには他者に武装を触らせない使用制限なる機能がついており、他者が触れるようにするには使用許諾の操作が必要とのことらしい。
(セシリアと戦った時にすっぽ抜けたのはあれのせいだったのか…)
最早遠い記憶になりつつあるクラス代表決定戦のことを思い返していると、シャルルが一夏に覆いかぶさるようにして重なりながら銃の訓練をしていた。
(なるほど、ああいう教え方もあるのか。実際にやりながら正しい撃ち方も体で覚えられるしで一石二鳥だな)
美春がシャルルに感心していると、彼がこちらに声をかけてくる。
「美春もやってみる?」
「ああ、ところでシャルルの機体一見するとラファール・リヴァイヴのカラーリング変えただけに見えるんだけど、それも専用機なのか?」
「ボクの機体はね普通のとはちょっと違ってて、後付けで武装領域を拡張してるんだ。簡単に言うと量産機よりたくさんの武装が詰め込めるってことだね。それ以外は普通のラファール・リヴァイヴと大差ないから定義上は第2世代ISになるかな」
「量産機のカスタム型…。なるほどそういう専用機もありなのか」
「まあね。じゃあお勉強はこの辺にして美春も実際に撃ってみようか」
「ああ、よろしく頼む」
そういうとシャルルは一夏にやった時と同じように美春に覆いかぶさる。
(なんか、腕とか体が妙に細くて柔らかいような…?いかんいかん、今は射撃に集中集中…)
構えなどをシャルルに微修正してもらいながら実際に撃ってみると面白いように弾が的に当たる。今まで弾幕形成でしか射撃武装を用いて来なかった美春にとっては目から鱗の体験だった。
「ありがとう、シャルル。いい経験になったよ。」
「どういたしまして。お役に立てたのなら光栄だよ。」
そんな会話をしていると、遠くから黒い影が近づいてくるのが見える。
「ねえ、ちょっとアレ…」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど…」
黒い機体を纏ったラウラは一夏に近づき、
「織斑一夏」
「…なんだよ」
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え。」
決闘をけしかけた。