ちょっと時間軸がズレます。
時は遡って、美春の専用機の開発チームが集まる数日前。
学年別トーナメントの対戦方式が急遽変更され、二人一組でペアを組んだタッグ戦となることが発表された。
美春は見知った人達に声をかけてみるものの既に手遅れだった。
一夏にはシャルルとタッグを組むと頑なに断られたし、鈴も先日の授業で受けた雪辱を晴らしたいとのことでセシリアとタッグを組むことになったらしい。
残りのクラスメイトにもとりあえず声はかけてみたが、みんなペアとなる相手は決まっているようで、美春一人が余った状態になってしまった。
ペア探しに奔走したもののすべて無駄足となった美春は疲れ果てて近くのベンチに倒れこむように寝転がる。座面が硬いため倒れこんだ衝撃をもろに受け全身が痛い。
どうせ暇だし昼寝でもするかと思った矢先、ベンチの裏側から聞き覚えのある声がした。
体を起こして様子を見るとラウラと織斑先生が何やら言い争っているようだった。
「…お願いです、教官。我々のところに戻ってきてください!」
「ここでは先生だといったはずだろう」
「何故こんなところで教師などしているのですか!ここの生徒はISが兵器であるという自覚がなく、ファッションアイテムの一つか何かだと勘違いしている!こんな平和ボケしたところで過ごしていたらあなたの素質が腐ってしまいます!」
「あまり高を括った口をきくな小娘。私はこの職業に誇りを持って向き合っている。お前はそんな私を侮辱するというのだな?」
「い、いえ…決してそんなことは…!」
「何度も言うようだが私はお前たちのところへはもう戻らない。私の役目はあくまでもIS学園の教師だ」
「ですが…!」
「まだ言いたいことがあるようなら、そこのベンチで寝転んでる奴を壁代わりにでもしてやれ」
織斑先生が美春が寝転んでいるベンチに視線を向ける。
(やっべ、バレてたのかよ…!)
「では私は午後の授業の準備があるのでな。失礼するぞ。」
織斑先生はそういってラウラの前から立ち去った。
しばらくして、ラウラのものと思われる小さな足音が美春に近寄ってくる。
「盗み聞きとは感心せんな」
ラウラが美春に疑いの目で声を掛けるが美春は慌てて釈明する。
「これはその、休憩しようとしていたところに偶々お二人を見かけただけで…」
「言い訳は聞かん。何が目的だ」
美春は起き上がってラウラに向き直る。
「何もないよ。ただ学年別トーナメントのペアが見つからなくて疲れてただけ」
「ほう、男のお前なら引く手あまたかと思ったが、専用機なしじゃその程度か」
「専用機のあるなしは関係ないだろ、そういうお前はどうなんだよ」
「私にペアなどいらん。一人でも優勝くらい容易い。そうすればあの人はきっと…」
「自分のところに戻ってきてくれるって?随分と織斑先生にご執心なんだな」
図星を突かれたのかラウラは美春をさらに睨みつける。
「貴様に何がわかる!?あの人のお陰で私がどれほど救われたと…!」
「そんな自分を救ってくれた人が急に目の前からいなくなって、居ても立っても居られなくて追っかけてみたら、キャーキャー騒いでる学校の教師をのほほんとやってるときたもんだ。そりゃ怒りの一つや二つも出るでしょうよ」
「わかったような口をきくな!」
「はいはい、悪かったよ。言い過ぎた」
美春は両手を挙げてお手上げのポーズをとったが、その目はまったく引いていなかった。
「でもな、ボーデヴィッヒさん。君がどれだけ強くても、今回のトーナメントは二人一組のタッグ戦だ。ペアがいなきゃエントリーすらできずに失格。織斑先生に自分の力を示すチャンスすら貰えないわけだ」
「…何が言いたい?」
「織斑一夏を倒したいんだろ?ちょうど俺も同じことを考えててね。前にあいつにコテンパンにしてやられたことがあってさ、どんな手を使ってでもあいつに一泡吹かせてやりたい。利害が一致していると思わないか?」
「…ほう、それで?」
「俺のことはいないことにしてもらっても弾除けに使ってもらっても構わない。ただし、俺は君と一夏の邪魔をする奴をとことん邪魔する。これでどうだ?」
「ふっ。悪くない案だが貴様の手は借りん。だがルール上どうしてもというのなら貴様と組んでやろう」
「よし!じゃあ交渉成立ということで。改めて遠藤美春だ。よろしく、ボーデヴィッヒさん」
美春が握手を求めるとラウラはそれを無視して踵を返すとこう言った。
「ラウラでいい。姓の方で呼ばれるのは好かん」
「そっか。じゃあよろしく、ラウラ」
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その日の放課後、美春が開発メンバー集めに奔走していたその頃。
鈴とセシリアがコンビネーションの練習をしているとラウラが二人にけしかける。
「ふん。ビーム兵器しか取り柄のないイギリスと安ものづくりしかできない中国のペアか。出来損ない同士、なかなか似合ってるぞ」
「何よアンタ!そっちこそ…」
鈴が反論しようとするとセシリアが制止する。
「あら、第三世代の量産の目途すら立っていないドイツのボーデヴィッヒさんじゃありませんか。ペア探しの道中ですの?」
「私一人でもお前らなんぞどうってことはないが、置物になるやつは見つかってな。他の連中がどれだけ腑抜けているのかわざわざ見に来てやったのだ」
ラウラの挑発に鈴はこらえきれずに食って掛かる。
「アンタねえ!黙って聞いてれば随分と偉そうじゃないの!アタシ達だってやるときはやるのよ!」
「口では何とでも言える。文句があるなら実力で示して見せろ」
「言ったわね!?セシリア、やってやるわよ!」
そう言って鈴がラウラに突っ込んでいく。
「ちょっと鈴さん!仕方ないですわね。わたくし達の実力を思い知らせてやりますわ!」
セシリアもそういうとライフル銃を構える。
「でええい!」
鈴が双天牙月をラウラに振り下ろそうとしたその瞬間、ラウラは前方に左手をかざす。
「ちょ、ちょっと何よこれ!?」
空中で運動エネルギーを完全に死殺され、ピタリと静止する鈴。まるで空間そのものに塗り固められたかのような異常事態に鈴は身動き一つとることができない。その隙にラウラは肩部のレールカノンを構え、鈴に向かって至近距離で発射する。
強烈な射撃をもろに食らってしまった鈴はアリーナの壁に打ち付けられる。
「鈴さん!?」
セシリアが鈴に気を取られている隙を狙ってラウラはセシリアに接近し、再度左手をかざす。
「み、身動きが…取れない…!」
セシリアを停止させたラウラは、再度至近距離でレールカノンを構えてセシリアに放つ。
吹き飛ばされた鈴とセシリアにラウラはワイヤーブレードを伸ばし二人の首を絞めて持ち上げる。
圧倒的な力への全能感に、ラウラの口元が凶悪に歪む。
その瞬間、漆黒の閃光が駆け抜けた。
二人の首を締め上げていたワイヤーブレードが、一瞬で切断される。煙の中から現れた一夏が、白式を構えてラウラの視界を塞ぐように割り込んでいた。
後から追いかけてきたシャルルは二人の救護へと向かう。
「シャル、二人を医務室に。あいつの狙いは俺だ、頼む。」
「わかった。一夏も気を付けて!」
一夏はラウラと対峙すると彼女を睨みつける。
「ボーデヴィッヒ、やるなら最初から俺を狙えばよかっただろ」
「向こうからやってきたのを返り討ちにしたまでだ。何がおかしい?」
「千冬姉がこれを見たら何ていうかな」
「…何だと?」
「お前はあの人からの指導で、こんな我が物顔で暴れ回ることを教えられたのかって聞いてるんだよ!」
「貴様が…教官を語るなあ!」
ラウラがプラズマ手刀を構えて一夏に振り下ろそうとしたその刹那。
――ガキイン!
織斑先生が打鉄の近接ブレードを構えてラウラのプラズマ手刀を受け止めていた。
「き、教官」
「やれやれ…これだからガキの相手は疲れる」
「千冬姉…」
驚いている周囲をよそに織斑先生は続けて告げる。
「模擬戦をやるのはかまわん。だがアリーナのバリアを破壊されるような事態になっては教師として止めざるを得ないのでな。この決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそうおっしゃるなら」
「お前もそれでいいな」
「…おう…」
「教師にはハイと言わんか、馬鹿者が」
「は、ハイ!」
「では学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。…では解散!」
そういって織斑先生はアリーナを後にする。
ラウラは一瞬だけ一夏を睨み付けるとISを解除してその場を後にした。
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美春が鈴からラウラと一夏の一件を聞いたのは打鉄・甲式が完成した後のことだった。