SHR終わりのわずかな休み時間。出だしから遅れるわけにはいかないと美春は授業の準備を始めた。
しかしながら教室の内外から動物園のパンダを見るような熱い視線を感じずにはいられなかった。
(きっついな......手動かすだけでざわざわしだすんだもんなあ。別に男を初めて見るってわけでもなかろうに)
そう毒づきながら授業の準備をしていると隣に座っている一夏に長髪のポニーテールの少女が近寄る。
一夏が顔見知りかもしれないと言っていた子だ。
(確か自己紹介では篠ノ之箒さんって言ってたよな)
「……ちょっといいか?」
「お前、やっぱり箒だよな?」
「ああ、久しぶりだな」
「よかった…俺はてっきり……」
「ここではなんだ、屋上で話そう」
箒はそう言うと一夏を連れて教室を後にした。
(覚えててよかったな...じゃなくて俺を一人残してどっかいくんじゃねえよ!)
さっきまで二人に分散されていた視線が美春一人に一気に集中する。
幸い授業の準備は無事に済ませることができたため焦る必要はないのだが、手持ち無沙汰になったが故に視線を余計に意識せざるを得なくなった。
(頼む……早く戻ってきてくれ一夏!)
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周囲の視線を何とか耐え抜いたところで授業が始まる。1時限目は一般科目ではなくISの基礎理論だ。
「―――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり―――」
担当は山田先生。SHRでの雰囲気とは打って変わって淡々と、それでいて丁寧な授業をしてくれる。
内容はISを扱う上でのルールなど政治的な要素を含んでいるものが主で、美春にとって特別難しいとは感じない。
他の生徒も似たような感想を抱いてるようで、ここまでは既知の内容の復習も兼ねているのだろう。
「――と、ここまでで何かわからないことがある人はいますか?」
「はい、山田先生」
「はい、織斑君。どこがわかりませんか?」
「……ほとんど全部わかりません」
またしても教室がズッコケる。間髪入れずに一夏の後ろから出席簿の一撃が襲い掛かる。
「織斑、事前に渡した参考書にも書いてあったことだろう。あれはどうした」
織斑先生が一夏に尋ねると彼は淡々と答えた。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
――ゴスッ!
さらに深い一撃が一夏を襲う。
「はあ、お前というやつは…。参考書は再発行してやる。それまでの間は隣の余裕がありそうな奴に教えてもらうことだ。いいな」
「わかりました…申し訳ないが美春、頼んだ」
「へーい、ガッテンショウチー」
思わぬところで大役を押し付けられ、美春も返す言葉に感情がない。
下手に断って自分に鉄拳制裁が降りかかるのを懸念して美春は渋々受け入れたのだった。
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授業が終わってまずはひと段落、と美春が一息ついていると隣の席に箒とは違う少女が近づいていた。
「ちょっとよろしくて?」
金髪のロール髪の彼女は気高くも、そして見下したかのような態度で一夏に呼び掛けた。
「どうした?俺に何か用か?」
「何か用か?ではありません!このイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットに対して何か言うことがあるんじゃありませんの!?」
「なあ、美春」
「なんだ?」
「代表候補生って何のことだ?」
「…全くあなたという人は……!ついでにそこのお方、代表候補生について説明してくださる?」
(自分で説明はしないんだ…でも何かこの人のプライドが許さなさそうだしなあ)
「えっと、一夏。代表候補生っていうのは要するに『国の期待を背負ったエリート様』だよ。自国の次世代ISのテストパイロット候補とか、将来の国の看板になるために英才教育を受けてる超エリートのこと。だよな?」
参考書の内容を思い出しながら必死に言葉を選んで説明した美春はこれで満足かと言わんばかりにセシリアに目を向ける。
「ふふん、まあ及第点ですわね。さあそんなエリートのわたくしに対して何か言うことは?」
「いや、特に。とりあえずすごいんだなあとは」
どこまでもマイペースな一夏にセシリアはとうとうしびれを切らした。
「あなたねえ!このわたくしと同じクラスなんですのよ?少しは光栄に思う気持ちとかはありませんの!?唯一試験官を倒したこのわたくしに!」
「試験官なら俺も倒したぞ。半分向こうの自爆みたいなものだったけど」
「なんですって?じゃあわたくしの聞いた話は…」
「女性の中では唯一とかそういうオチじゃないか?」
「あなた、わたくしをどこまで馬鹿に…」
セシリアが言いかけたところでチャイムが鳴る。
「…また来ますわ!それまで逃げずに待ってなさい!」
「なあ、美春。授業中にどう逃げるんだ?」
「俺が聞きてえよそんなの」
教室に織斑先生が入室してきて2時限目の授業が始まった。
…はずが先生の言葉で状況が一変した。
「さて、授業を始める前に再来週に行われるクラス対抗戦のクラス代表を決めないといけないな。基本的には学級委員と同じものと考えてもらって構わない。自薦他薦は問わん。誰かいないか?」
「はい!私は織斑君を推薦します!」
「私は遠藤君を!」
クラスの女子達が男子二人を当然と言わんばかりに推薦する。
二人を推す声の割合は半々といったところだ。
「ふむ、予想通り男二人の推薦といったところか。他には?」
織斑先生がクラスに問いかけたその瞬間、一人の少女が怒号と共に立ち上がる。
「納得いきませんわ!男がクラス代表だなんていい恥曝しですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
「どうしたオルコット、自己推薦か?」
織斑先生の言葉は耳に入っていないようで、セシリアは思いの丈をぶつける。
「実力でいけば、私がクラス代表になるのは当然!それを物珍しいからといって極東の猿にされては困ります!私ははるばるこの島国までISの鍛錬に来たのであってサーカスを見にきたのではありませんわ!」
この言葉にさすがの一夏でも看過できなかったようで、立ち上がって反論する。
「猿って言い方はないだろ。大体そっちも飯の不味さ何年覇者だよ」
「わたくしの国を侮辱しましたわね!?」
「先にしてきたのはどっちだよ」
まさに売り言葉に買い言葉で二人の言い争いはエスカレートしていく。
そして怒り心頭となったセシリアは机を強く叩き、こう言い放った。
「決闘ですわ!」
「は?」
「あなた方二人に決闘を申し込むといいましたの。勝利数が一番多いものがクラス代表、それでよくって!?」
「俺は構わないが、俺へのハンデはどれくらいつけたらいい?」
一夏の提案にクラスの女子がクスクスと笑いだした。
「織斑君、それほんとに言ってるの?」
「男が女より強かったのって、ISが出来る前の話だよ…」
「もし、世界が男と女で戦争したら、男は三日も保たないらしいよ」
「今からでも遅くないよ! 謝ってハンデつけてもらえば?」
「いや、それならハンデは無しだ。正々堂々とやらせてもらう。それでいいよな千冬姉」
「だから織斑先生だと…。まあいい、今から1週間後に3人の総当たり戦を行い、勝利数が多かった者をクラス代表とする。それでいいなオルコット」
「ええ、わたくしがクラス代表になったら二人ともわたくしの小間使いにしてさしあげますわ!」
「望むところだ」
こうして話がとんとん拍子で進んでいく。ただ一人を置いて。
(あの…私遠藤美春の意思はどこに……?)