(…力が、欲しいか?)
シャルルの攻撃を受け続けているラウラの頭の中に謎の声が響く。
ラウラは迷うことなく、叫ぶようにその声に応じた。
(私は、力が欲しい!全てをなぎ倒す力。弱者と切り捨てられないための力。…誰にも私を否定させない力が私は欲しい!)
その直後、ラウラの叫びと共に彼女のISが不気味な光を放ち、次第にISの形が黒いドロのように崩れ変形していく。
観客席に防御用のシャッターが下り、アリーナの放送が響く。
「非常事態発令。トーナメントの全試合は中止。状況をレベルDと認定。鎮圧のため教師部隊を送り込む。来賓、生徒はすぐに非難すること」
そしてその泥のような何かはラウラを飲み込んでいき、やがてある人物の形となった。
一夏はその姿を見てハッとする。
「あれは…雪片。千冬姉と同じじゃないか!」
そう言って一夏は正体不明の物体に突っ込むが、刃に阻まれ吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた一夏に慌ててシャルルが駆け寄る。
「一夏、大丈夫!?それにしてもどうしたの、いきなり突っ込んだりして」
「あれは、あれだけは許しちゃいけないんだ…」
一夏は怒りに満ちた目でその物体を見つめる。
その物体の姿はIS「暮桜」を纏った織斑千冬その人だった。
しかし、大きさは本物をはるかに上回っており、通常のISの2倍はあろうかと思われた。
一夏が構えると、その間に美春が割って入る。
「一夏、何をするつもりだ」
「あれを斬る。千冬姉を真似をするなんて許さない…!」
「中にいるラウラはどうする!?あいつごとぶった切るつもりか?」
「…!だけど!」
「気持ちはわかるが、まずはラウラの安全確保だ。それが終わったらお前の好きにしていい。協力してくれるか?」
「…ああ。わかった。悪いな美春」
「気にすんなって。まずは俺が囮になってアレの気を引く。その隙に二人はラウラの救助を」
「一人で行って大丈夫なの?」
シャルルが美春を心配するが、美春は軽く微笑むとこう返した。
「この手甲はそんなに軟な代物じゃないよ。それにあいつとは話したいことがあるんだ」
「わかった、信じる。けど無茶はしないでね」
「了解。じゃあ、行ってくる」
そういうと美春は織斑先生を模った物体に接近する。
その物体は近づいた美春に反応し刃を振り下ろすが美春は壊山護甲で刃を受け止めた。
その瞬間、美春の頭に聞き覚えのある声が響いてくる。
(これが…これこそが私の力だ!)
響いてくる声に返すように美春は叫ぶ!
「ラウラ!これはお前の力じゃない!ただの他人の紛い物だ!」
(違う!これは私の力だ!…これが私の生きる意味だ!)
そうラウラが叫ぶと美春の頭の中に彼女の記憶の断片が流れ込んでくる。
彼女が生体兵器として生まれてきたこと。
戦うための道具としてありとあらゆる兵器の操縦方法や戦略などを体得してきたこと。
ISの適合化に失敗し、周囲から出来損ないと見下されたこと。
織斑先生の指導によって出来損ないのイメージを払拭できたこと。
その光景を目にした美春は更にラウラに向かって叫ぶ。
「ラウラ、君は力が欲しいんじゃない、ただ生きる意味が欲しかっただけなんだ!でも、君がいたところは力でしかそれを証明できなかっただけなんだ!」
物体が持つ刃の美春を押し付ける力がわずかに弱まる。
「一方で俺はどうだ。碌な訓練も受けていない、ついこの間まで専用機すら持っていなかった素人だ。ルール上仕方なくかもしれない。…それでもお前は俺をペアとして選んでくれた!力以外の価値を一番分かってたのは…お前自身じゃないのか!だからそんなものに縛られるな!自分の足で立って歩くんだ、ラウラ!」
(くっ…!私は…)
物体の形がわずかに崩れる。仕掛けるなら今だ。
「一夏!シャルル!頼んだ!」
シャルルのISからエネルギーを分けてもらった一夏のISが物体の懐に潜り込む。
そして物体の腹部を切り裂いた。
裂け目からラウラが零れ落ちるように落ちていく。美春はすぐさまラウラを受け止めて抱きかかえる。
ラウラは美春の腕の中で眠るように縮こまっていた。
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ラウラが目を覚ますと、そこは医務室のベッドの上だった。
「気が付いたか、小娘」
声がするほうに顔を向けると織斑先生がベッドの横の椅子に腰かけていた。
「教官…、私は一体…?」
「VT(ヴァルキリー・トレース)システムがお前のISに組み込まれていた。本来開発禁止の代物なのだが、出処は調査中だ。」
「そうですか…。ご迷惑をお掛けしてすいません」
「それについてはお前が謝ることではない。それよりも…」
織斑先生は改めてラウラを見つめてこう問いかけた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前は何者だ」
「教官…?」
「遠藤も言ったな、自分の足で立って見せろと。私も同意見だ。これからは誰かの背中を追いかけるのではなく自分で道を切り拓いてみせろ」
そういって織斑先生は席を立つ。
「ああ、最後に。お前の命に別条はないそうだ。1日寝たら授業に復帰してもよいとのことだ」
「承知しました。ありがとうございます。」
織斑先生が部屋を後にすると入口の横で美春が気まずそうに立っていた。
「盗み聞きとは感心せんな」
「いや、タッグパートナーの様子を見に来たら先客がいたもんで、終わるのを待ってただけですよ」
「そうか、ならいい」
そう言って織斑先生が立ち去ると入れ替わる形で美春が病室に入室する。
「貴様は…」
「よかったな、命に別条はないみたいで」
美春が語り掛けると暫くの沈黙の後、ラウラが口を開く。
「敢えて問おう。貴様にとって、私は何者だ?」
美春は即答する。
「何って、そりゃただの人間だよ」
「人間…?」
「自分を認めてくれてた先生の背中追っかけるためにわざわざ自分の足で学園に来たんだ。それを人間以外になんて表現する?」
「でも…私は力に溺れて…それで…」
「あの時も言っただろ。そうすることでしか自分の価値を証明する方法を知らなかっただけだって。君はちょっと不器用な一人の人間だよ」
「貴様は…こんな不完全な私でも人間と言ってくれるのか」
「完全な人間なんてそうそういないよ。人間はいつだって皆、不完全で不器用だ。」
「そうか…うぐっ…うわああ…」
生まれたての赤子のように泣きじゃくるラウラを美春はただ優しく見守っていた。
しばらくして、ラウラが泣き止むと彼女は少し顔を赤くしながら
「その、先ほどのことは皆には内緒にしてくれ、勿論教官にもだ」
「わかってるよ。二人だけの秘密だ。」
「恩に着る。そう言えば、貴様と鍔ぜりあったあの時、知らない記憶が私の記憶に流れ込んできた」
美春の顔が少し曇った表情になる。
「あれは恐らく貴様の記憶の断片なのだろう。初めて会話をした時からずっと思っていた。何故貴様は私の心を読んでいるかのように話すのかと。貴様も私と同じように「役割」を果たすことでしか己を保てなかった時期があったのだな」
「ま、まあ昔のことだよ。今は違う。でも経験則で話してたのは事実だよ」
「通りで…。貴様はもう知っているかもしれないが私には親がいない。時々町の家族連れを羨ましいと思ったこともあったが、全ての家族があのような幸せな家庭を築いているわけではないのだな」
「ラウラ、すまないがこれ以上は…」
「…失礼した。だが…」
「それじゃあ俺はこの辺で失礼するよ。明日教室で待ってるよ」
そう言って美春はそそくさと病室を後にした。
そんな彼をラウラは悲しげな眼で見つめることしかできなかった。