翌朝のSHR、教壇に立つ山田先生がやや疲れた顔をしながらクラスにこう告げる。
「えっと…、今日は皆さんに転校生を紹介します」
クラスがざわめき出す。噂に敏感な生徒も寝耳に水といった顔で唖然としている。
その中で一夏は唯一何事もないような顔をしていた。
(そういえばシャルルが見当たらないな…)
そう美春が教室を見渡しながら考えていると教室のドアが開く。
入ってきたのは女子生徒の制服を着たシャルルだった。
まさかの事態に教室が静まり返る。
「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」
「ええと…、デュノア君はデュノアさんということでした…はあ…」
美春の抱いていた違和感の点が線でつながる。日常の中でわずかに見せた不自然な仕草がシャルルが女性だったことを考えると全て合点がいく。
「つまりデュノア君って女?」
「おかしいと思った。美少年じゃなくて美少女だったわけね」
「って言うか織斑君!同室だったって事は…」
「解らないはずがないよね!?」
「え!?え~っと…」
一夏がしどろもどろになっているのを横目に美春はあることを思い出していた。
(そういえば昨日の大浴場の順番、俺の後に一夏とシャルル…じゃなくてシャルロットだったよな。ってことはつまり…)
教室の扉がバアン!と勢いよく開く。見ると鈴が一組のクラスに乱入しようとしていた。
どうやら噂を聞きつけてここまで来たようだ。
「…一夏ぁっ!覚悟!」
「いや、鈴これには訳があってだな…」
「問答無用!」
鈴が腕にISを展開して一夏に殴りかかろうとしたその時。
――ガキイン!
金属がぶつかったような鈍い音がして一夏が目を開けると同じく腕部だけISを展開したラウラが間に入って鈴の拳を受け止めていた。
「力に任せて暴れるとは感心しないな、凰鈴音。お前も私と同じ過ちを繰り返すつもりか?」
ラウラにそう言わると、鈴は渋々引き下がって最後にこう言い放った。
「一夏!昼休みに全部説明してもらうからね!」
鈴はそそくさと自分の教室に戻っていった。
(やっぱりあいつ、せわしないよなあ…)
美春が苦笑していると、ラウラはISを解除し転校初日と同じように一夏の前に立つ。
「織斑一夏、この間は急にはたいたりして申し訳なかった」
そういってラウラは頭を下げる。
「いいって。もう終わったことだし。何より千冬姉の実績に泥を塗ったのは事実だし…」
そう一夏が言いかけると、ラウラと一夏に織斑先生からの出席簿の一撃が襲い掛かる。
「転校生の紹介の邪魔をするな。さっさと席に戻れ」
ラウラは頭を抱えながら自分の席へと戻っていった。
「さてと、デュノア。話を続けろ」
「は、はい。皆さん今まで騙すようなことをしてごめんなさい。今後も同じクラスの仲間として接してくれたら嬉しいです。お願いします」
シャルロットが頭を下げるとクラスから拍手が沸き起こった。
「よろしく!シャルロットさん!」
「今度一緒にご飯食べよ!」
クラスからの温かい言葉にシャルロットは涙を浮かべながら皆に感謝を述べるのだった。
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その日の昼休み、エミリー先輩に一報を入れた美春は再度誰もいない教室へと呼び出されていた。
一夏はシャルロットのことで鈴や他の面々からの質問攻めに遭っていることだろうから、巻き込まれなくて助かった。
教室のドアが開くとエミリー先輩が入ってきた。
「お待たせ。何度も呼び出してごめんなさいね」
「いえ、お気になさらず。ところでなんで急に俺を呼び出したりしたんですか?」
「シャルロット・デュノアっていう名前に心当たりがあってね、少し調べてたのよ。フランスの代表候補生の一覧に彼女の名前があったんだけど、完全に見落としてたわ。」
「代表候補生だったんですね。通りでISの動かし方が上手いわけだ」
「でもまだ不思議なのよね。デュノア社の社長には子供がいないはずなのよ」
「ってことはつまり以前話してた疑惑が本当だった可能性が…?」
「その可能性はかなり高いと思うわ。誰も話題にしていないのがおかしいくらいだけど、きっと大人の話し合いでどうにかしているんだと思うわ。」
「そうですか…。まあでも、違和感はなくなったので俺自身はもう気にしてないですね」
「あらそう?てっきり探偵ごっこが好きなものだとばっかり…」
「あの時はちょっと疑り深くなってただけですよ。じゃあせっかくなので聞きますが、俺がISを動かしたときに頻発してたっていうデモ。あれってまだ起きてます?」
「なくはないけど以前より明らかに勢いは落ち着いてるわ。第3の男を探す調査も相変わらず続いているけど、成果はゼロってところね」
「まあ、そうですよね…」
「自分のことが気になる?自分がなぜISを動かせるのか」
「…ええ、気になりますね。すぐ第3、第4の男が見つかればただの偶然だったって思えるんですが、こうも見つからないと何かしらの必然性があるんだと疑いたくなっちゃいますね」
「でしょうね。もう一人の方は気にしていないみたいだけど」
「あいつはそういうのにはちょっと鈍いので」
「ふふ、そうみたいね。あれだけの女の子に囲まれていながら浮いた噂の一つも出てこないんだもの」
「もしかして、探偵ごっこが好きなのって先輩の方じゃないんですか?」
「…!言ってくれるじゃない。じゃあそんな探偵ごっこ好きなわたしが、あなたのことを徹底的に調べてあげる。覚悟することね」
「ええ…」
「私からは以上よ。それじゃ、引き続き何かあったら連絡ちょうだい」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言ってエミリー先輩は教室を後にする。
美春は以前先輩から呼び出された時と同じように窓の外を見つめ物思いに耽る。
(…神様からの祝福ってやつかねえ)
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放課後、寮の部屋割りが再度変更され、美春は一夏と同室となった。
(やっと男二人での同室か…俺今まで一人部屋だったからあいつに合わせられるかな…)
美春が荷物を整理していると疲れた様子で一夏が入室してきた。
「はあ…疲れた…。って美春!?なんでお前が俺の部屋に?」
「お前授業終わりのHRで先生の話聞いてなかったのか?部屋割りが変わったんだよ。やっと男二人になったな」
「そうか。美春はその…大丈夫だよな?シャルみたいなことは…」
「大丈夫だよ。毎日一緒に過ごしてきたからわかるだろ?付いてるもんもちゃんとあるよ」
美春がそんな軽口を飛ばしていると携帯端末への着信が入る。
「ちょっと失礼…、ああ、もしもし?いやだから授業の復習とかISの整備やらで忙しいんだって。何度も言ってるだろ?うん、わかってるって。連絡してきたのはそれだけ?じゃあ切るよ」
そう言って美春はやれやれといった様子で通話を切る。
「今のは、ご家族からか?」
「ああ、毎度毎度うるさくてさ。次はいつ帰ってくるんだとか、飯はちゃんと食ってるかだの」
「心配してくれるいい親御さんじゃないか」
「どうだか。自分の子供が目の届くところにいないと不安になる、子離れできてない大人にしか見えないけどな」
「そうか…俺には家族が千冬姉しかいないから、そういうのは羨ましいな」
「…悪かった。今のは聞かなかったことにしてくれ。じゃあ俺先に風呂入るから」
そう言って美春はバスルームへと向かった。
「…」
美春の通話の様子を見て一夏は一人考え込む。
(美春は俺と違って家族が学園の外にいる…。ISに乗れることが分かったことでそこから引き離されたようなものだよな。もしかしたら美春は俺のせいで…)
一夏が深刻な顔で悩んでいると美春が腰にタオルを巻いた状態でバスルームから飛び出してくる
「お前なあ!シャンプーやら何やら女物ばっかりじゃねえか!気色悪いから早くどけてくれ!」
一夏が悪い悪いと言いながらバスルームを片付けに向かうのだった。