シャルルがシャルロットとして新たに転校してから数日たったある日の放課後。
美春はいつものように鈴とセシリアに模擬戦の誘いを受け、アリーナへと向かっていた。
そんな道中、ラウラから突然声を掛けられる。
「遠藤美春、これから模擬戦に行くのだろう?私も行って構わないか?」
「別に構わないけど、理由を聞いてもいいか?」
「単にお前の戦い方が気になっただけだ。学年別トーナメントでは私は一夏との戦いに集中していてほとんど見れなかったからな。それに、最終的には突破されたにせよ、あのシャルロットをあれだけの時間足止めしていたんだ。興味が湧くのは当然のことだろう」
「なるほど、そういうことね。それと俺のことは美春でいいよ。一々フルネームで呼ぶの面倒だろ?」
「わかった、では美春。よろしく頼む」
そういって美春とラウラはアリーナへと向かった。
アリーナで待ち構えていた鈴とセシリアは美春の隣にいる人物を見ると気まずそうな顔つきになる。
「げえっ、なんでよりによってアンタがいるのよ…」
「もう2対1でやられるのは懲り懲りですわ…」
「安心しろ。今日は見学に来ただけだ。私の機体の修復がまだ完全に終わっていないのでな。当分の間は戦闘行為は禁止されている」
ラウラがそういうと二人はほっとした表情になる。
「じゃあ早速、模擬戦を始めるわよ!今日は3人での総当たり戦ね」
「美春さん、今日は負けませんわよ」
「ああ、望むところだ」
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美春が模擬戦で戦う様子をラウラはじっと見つめていた。
(なるほど、遠中距離戦は標準的な武装と機体の制御でいなしつつ、隙をみて急接近をし、手甲での一撃を叩きこむスタイルか。)
美春は鈴の龍砲の射撃が途切れた瞬間を狙って跳躍による急接近を行う。
(それにしても接近の仕方が独特だな…瞬時加速と軌道は似ているが、加速に入るタイミングが読めないし溜めの動作が極端に短い。あれは一体何だ…?)
ラウラが思索しているうちに試合が終了する。結果は美春の2勝だ。
「悔しい~!昨日まではアタシの圧勝だったのに!」
「わたくしは手も足も出ませんでしたわ…」
「二人の射撃の癖が少しずつ分かってきたからな。で、ラウラ見学した感想は?」
美春に感想を求められたラウラはふむ…と少し考えてからこう話す。
「まずはISの制御に関しては光るものを感じるな。この点に於いては私の部隊員にも引けを取らないレベルだ。一般人の独学では到底辿り着けない領域だが、誰かから教えを受けたのか?」
「ああ、セシリアとISの飛行訓練をちょくちょくやっているんだ。それのおかげかな」
「なるほど、理解した。一方で接近方法に関しては独特で、一般的なISのセオリーとは少し違って見えたがそこに関しては?」
「それは独学というか、たまたま上手くいった動かし方を今に至るまでずっとやり続けてる感じかな。下半身のばねとスラスターを吹かすタイミングを一緒にしてるんだ」
「ISのシステムに頼るのではなく、体の動きと同調させる使い方か…口では簡単に言えるがそうそうできるものではないぞ」
「いやあ、それほどでも…」
美春は照れくさそうに頭をかく。
「しかし、武装の少なさもあるが中遠距離の戦いに関しては課題があるな。グレネードを要所で上手く使えているが決定打にはなっておらず、接近戦の布石でしかない。一撃離脱の戦法に特化するなら話は別だが、どうもお前の戦いかを見る限りそのバランスがちぐはぐだ」
「確かにな…。接近戦仕掛けてるのも決定打がそれしかなくて苦し紛れにやってるだけだしなあ。一撃離脱への割り切りか…その辺はまだまだだな」
「しかしISに乗ってから数か月もしないうちに戦術面での課題が出てくるほうが異常だ。普通は乗りこなすのでやっとだ」
「場数は伊達に踏んできてないからな。あとちゃんと乗りこなせているのもセッティングを俺好みにしてもらってるからだろうし」
「ほう、興味深い。ではそのセッティングも見せてもらっても構わないだろうか」
「アタシも行くわ。弟子がどんな設定をしているのか知っておくのは師匠の役目だし」
「わたくしはここでもう少し訓練していきますわ。お二人に負けたのはかなり悔しかったので」
そういってセシリアはアリーナ上空へと飛び立っていった。
残された3人はISの格納庫へと向かった。
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「バッカじゃないの!?」
鈴の怒号が三人だけの格納庫に響き渡る。
まずは美春の独特なIS制御の仕組みを知りたいとのことで、足関節部分の剛性に関する設定値を見た鈴が思わず声を上げた。
「アンタこんなに下半身ユルユルの設定にしてどうしたいのよ!」
「いやあ、初期設定の状態だとなんか硬くてこの間鈴に教えてもらった動きが上手くいかないんだよ。このくらいにしておくと腰が落としやすくて安定するんだ」
「アンタねえ...普通はこんなことしたら立ってるだけでやっとなのよ。いくらアンタがやりやすいっていっても限度ってものがあるでしょうが」
「でも、せっかく教えてもらったものは最大限有効活用したいし、それに案外足と一体化してる感じがして楽なんだよ」
「呆れた…。あんたの下半身どうなってるのよ」
「同感だ。立っているのがやっとの剛性であれだけ動き回っていたのが信じられん」
ラウラもさすがに擁護できなかったようで、鈴に同調した。
やれやれといった様子で美春の主張を受け入れた鈴だったが、機体の設定値を表示するコンソールをスクロールする手を途中で止めて神妙な顔つきで美春に迫った。
「で?その下半身の設定にこだわってる美春さん?上半身や腕の設定に関してはほぼ初期値のまんまじゃない。これはどういうこと?」
「ああ、それは使ってる武装が遠距離主体だし、壊山拳の反動に関しても体の制御でどうにかなってるし別にいいかなって」
「はあ…なんでそう極端なのよ。いい?所有権は学園にあるって言っても一応アンタの専用機なんだから、機体に関するフィードバックはちゃんと整備班に人達にしてあげなさい。そうでないと手伝ってくれてる彼女たちに申し訳ないから。わかった?」
「鈴の言う通りだ。それにISに無理な負荷をかけすぎると自己進化のノイズデータになって歪な形へとISが変化してしまう可能性がある。即刻修正することだ」
「はい...」
言う通りにコンソールを操作する美春の横で、鈴とラウラはどこか満足そうに、けれど真剣な眼差しで画面を覗き込んでいる。
なんやかんや言いながらも自分を気遣ってくれる小さな師匠と教官に、美春は「はいはい」と苦笑しながら付き合うのだった。