模擬戦と格納庫での一幕を終えた日の夜、美春は自身のデスクに肘をつきながら頭を悩ませていた。
鈴とラウラから課せられた課題は打鉄・甲式の機体特性を生かした一撃離脱戦法の確立と上半身のセッティングを整備課の人たちにフィードバックすることだ。
「うーん、わっかんねえなあ」
美春が唸っていると一夏が心配そうに声をかける。
「美春、どうしたんだ?さっきからウンウン言ってるけど」
「ああ、鈴とラウラに戦い方変えろって言われたんだけどいい案が思い浮かばなくてさ…」
「なるほど、そいつは難題だな…」
「一夏は織斑先生から指導受けたことあるんだろ?その時はなんて教えられた?」
「千冬姉からはお前は近接武装しか持ってないから一撃離脱を意識しろって言われたな」
一撃離脱というキーワードに興味を示した美春は一夏に詰め寄る。
「その話もっと詳しく!近づいて攻撃したらどうしろって言われた?」
「えっと…瞬時加速で近づいて相手を切りつけたあとはその勢いを残したまま再度距離を取れって言われたな。しかもできるだけ遠くにって」
「そっか、ありがとう。参考になった。」
「どういたしまして。これくらいのことならいつでも聞いてくれ」
美春は再度自身のデスクに向き直る。
(そっか、一夏には瞬時加速があるから接近するときに地面に足をつけてる必要がないのか…)
対して美春の主な接近手段は体のばねを利用して地面や壁を蹴り上げることによる跳躍だ。一夏のようにどの高度、位置でも使えるようなものではない。
一撃離脱を主戦法とするならば、位置に依存しない接近方法を模索する必要がある。
そしてもう一つ重要な点が離脱の部分だ。一夏の場合、相手を切りつけても相手はその場にとどまるため、彼の言う通り瞬時加速の勢いのまま距離を取ればそれで十分だ。
対する美春が放つ壊山拳は相手を思い切り吹き飛ばす技だ。距離だけでいうなら技を相手に当てた時点で既に離れている。これで条件を満たしてるかと言われればどうもそうではないらしい。
美春が軽く調べたことによると一撃離脱戦法は接近することよりも離脱の要素に重きを置く戦い方らしい。例えば騎馬に於けるそれは、戦いの最前線に出ては馬上で後ろ向きに矢を放ってから後退することを繰り返し安全に距離を取ることに重きを置いている。
また、戦闘機に於いては上空から一気に襲いかかって射撃を浴びせ、敵の前に出るより先に、急降下のまま逃げていく戦法がそれに当たり、正に一夏が言う一撃離脱戦法そのものである。
要は攻撃を当てた後に如何にして自身が優位となる位置取りができるかが課題となる。
(課題はハッキリしたけど、肝心の解決策が思い浮かばないな…。これについては明日、みんなの知恵を借りるとするか)
美春はメモ帳に整備課の人たちへ伝える課題点を整理し終えると、一仕事終えた満足感と共にベッドへと倒れ込むのだった。
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翌日の放課後。格納庫に美春と専用機開発に携わった人達が一堂に会する。
美春は昨日課せられた課題と、自身が頭を悩ませている点について皆に伝える。
「一撃離脱戦法への特化ですか…ドイツの代表候補生らしいアドバイスですね」
ラウラと同じドイツ出身のクララ先輩はふふっと笑みを零す。
「にしても、位置に依存しない接近方法と安全な離脱方法か…なかなか難題だね」
ルチア先輩も頭を悩ませている。
しばらくすると1年生の沙苗が手を上げる。
「あのさ、この間の学年別トーナメントでシャルロットちゃんに突進していったやつがあったよね。あれをもっと使えるようにしたらいいんじゃないかな?」
「…弾が少しもったいないから空撃ちで同じことができるか試してみるといいかも…」
同じく1年生の透子が後に続けて発言する。
「なるほど、二人ともありがとう。後でアリーナで試してみようか。となると、残る課題は離脱方法になるけど…」
美春は二人に感謝の言葉を述べる。接近については解決の目途が立ちそうだ。
「無理に自分から距離を離そうとしなくてもいいんじゃないでしょうか。壊山拳は相手を吹き飛ばす武装ですし、距離なら勝手に離れます。相手を吹き飛ばした後にどう自身が安全な状態に持っていく方法を考えるのはどうでしょう。」
「クララの意見に沿う形ならスモークグレネードを使うのはどうかな。吹っ飛ばした相手に向かって投げて、その間に自分は体制を整える、みたいな。遠藤君の機体にはまだ武装を詰め込めるし、今まで使ってたグレネードの数を減らさずに対応できるよ!」
クララ先輩とルチア先輩がそれぞれ意見を述べる。
「そういう考えもあるんですね…参考になります」
美春は二人の意見は受け入れたものの少し納得がいってないようで、うーんと首を傾げる。
するとコンソールで美春の戦闘データを見ていた透子が発言する。
「遠藤君、今は壊山拳の反動を体で無理矢理耐えてるよね。距離を離したいなら反動をそのまま後ろへの推進力にしたらいいんじゃないかな…沙苗がさっき言ってた方法の逆バージョン」
「それはありだな…でも今の腕の設定だと反動が中途半端にならないか?」
美春が疑問を呈すると本音が割って入って発言する。
「それなら左腕だけ反動を受けやすいように調整すればいいだけだよ~。そのための私達だし~」
整備班のみんながうんうんと頷く。
「…ありがとうございます。ちなみに今皆さんが挙げてくれた調整内容を今日から始めるとしたらどれくらいかかりそうですか?」
美春の質問にはクララ先輩が答える。
「壊山拳の空撃ちができるように弾倉を切り替える機能の追加と、スモークグレネードの追加登録、左腕のパラメーター調整を考えると今週一杯は欲しいところですね。ちょうど授業の課題も出てて遠藤君の機体調整に付きっきりというわけにもいかないので。」
「わかりました。それまでの期間、俺の実習はラファール・リヴァイヴで代用します。先生にもそのように伝えておきます。では皆さんお忙しいところ申し訳ないですが、お願いします。」
美春の言葉で各自作業に取り掛かる。
美春は本音と共に左腕のパラメータの修正に取り掛かり、壊山拳を放った時の反動の受け止め方をISなしで実演しながら具体的な数値の調整に落とし込んでいく。
途中で透子も合流し、意見交換をした結果壊山拳を放った時のみ肘の関節をロックして反動が推進力になりやすくする調整案にまとまった。
こうしてその日の調整作業は終了となった。
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部屋に戻った美春は壁に掛けてあるカレンダーを見つめる。気づけば6月も中旬に差し掛かろうとしていた。
(もうそんな時期か…濃密すぎてあっという間だったな)
ISを起動したところから始まり、クラス代表決定戦や転校生ラッシュ、専用機の獲得など数えればキリがない程美春の中にはたくさんの思い出が詰まっていた。
美春はそんな思い出達に浸りながらベッドに寝転がると一夏から声を掛けられる。
「美春、余裕そうだな。そんなんで大丈夫なのか?」
「…なにが?」
「何がって、2週間後期末テストだぞ」
二人の間に沈黙が生まれる。
「忘れてたあ~~~~~~!!」
美春は慌てて通信端末を開き、整備班の面々に調整の期日を試験の1週間後に延長することを伝え、自身の勉強に大急ぎで取り掛かるのだった。