「終わったああ…」
期末試験の最後の科目が終わると美春は机に突っ伏しながら声を漏らす。
高校生になってからの初めての試験だったが、あまりの科目の多さに白目を剥いてたテスト勉強の日々が、最早懐かしく思えた。
ただでさえ多い一般科目に加え、IS学園では専門的なIS関連科目まで追加されるのだから、その試験対策は困難を極めたのだ。
幸いだったのは、美春の周囲に優秀な代表候補生たちが揃っていたことだ。分からないところは彼女たちに随時教えてもらい、その見返りとして美春は彼女たちが苦手とする日本語の科目を教えるという、理想的なwin-winの関係で乗り切ることができた。
(これで赤点はないだろ…)
美春がふと横の席の一夏に目をやると美春と同じように安堵の表情を浮かべていた。
「なあ一夏」
「ん?なんだ美春」
「お互い、良い友人を持ったな」
「ああ、全くだ。にしてもお前、みんなに日本語教えるのやたらと上手かったな。細かいニュアンスとか俺は全然伝えられなかったのに」
「ああ、それか。中学のころ本読むの好きだったから、その辺はちょっと自信あるんだよ」
「へえ、流石だな」
そんな会話をしているとクラスの面々も試験が終わって気が抜けたのか、教室が騒がしくなる。
「ねえ、今度の臨海学校の準備もうした?」
「ううん全然。まだ水着も買ってない」
「じゃあ今週末一緒に買いに行こうよ!」
「いいね!テストお疲れ様会ってことでパーッとやろうよ!」
(臨海学校…そう言えばそんなものもあったな。水着とかは昔使ってたのあるけど家に取りに戻るのも嫌だし、新調するか…打鉄・甲式の調整も来週にならないと終わらないし)
そう思い立って美春は一夏に声をかけようとするが、
「なあ、いち…」
「ねえ一夏、ちょっといいかな」
すんでのところでシャルロットに先を越される。
「おう、シャル。なんだ?」
「今度の週末、一緒に買い物に行かない?テスト勉強教えてもらったお礼がしたいし、水着も一夏に選んでほしいし」
「ああ、いいぞ。じゃあ今度の日曜日の10時に校門前で待ち合わせな」
「うん、わかった。それじゃあね」
そう言ってシャルロットは立ち去って行った。
(水着を選んでほしい、なんて結構大胆なアプローチだなあ。まあ一夏は気づいてないんだろうけど…)
美春は後方からどす黒い気配が漂っているのを感じ取った。そしてその気配は美春へと近づいていき…
「美春さん、今度の週末の予定は空いていまして?」
声をかけてきたセシリアの表情は笑顔だったが目は一切笑っていなかった。
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そして迎えた日曜日。一夏とシャルロットは学園近くのショッピングモールへと来ていた。
一夏がシャルロットの手を引いて買い物に向かうとその姿を物陰から眺めていた人物が二人。
「ねえ…」
「なんですの…?」
「あれって、手握ってない?」
「…握ってますわね」
「そっか。見間違いでも白昼夢でもなく、やっぱりそっか…よし殺そう!」
怒りに満ちて拳を握りしめてる鈴に対して美春は後ろから声をかける。
「そんな殺気駄々洩れだとその内ばれるぞ」
「けど、美春!あれは明らかに…」
「今日は尾行だけって話だろ。首根っこ掴むのは終わってからでも間に合うと思うけど?」
「うむ、実際の任務でも証拠を掴んでから相手に突き付けるのが常套手段だ」
美春に続いてラウラも諭すように言い放つ。
「ラウラ!あんたはあの二人のこと気にならないわけ!?」
「私は美春に誘われたから来ただけだ。買い物は一般人の風習に慣れるついでだ」
そういってラウラは堂々と胸を張る。どうやら一夏にはそこまで興味はないらしい。
「そう言えばアンタはそうだったわね。セシリアこうなったら二人だけでも…」
「了解しましたわ!」
そういって二人は変装を始める。セシリアは極端に大きな帽子にサングラス、鈴に至ってはひげ眼鏡とお世辞にも立派な変装とは言えないが、美春は面倒くさくなったのでスルーすることにした。
(っていうか制服で来てるんだからあんまり意味ないだろ…)
「ラウラ、近くにいたら俺たちまで怪しまれるからしばらくこいつらとは別行動だ」
「了解した。…で、まず私たちはどうする」
「そうだな…まずは本来の目的の買い物だな。俺の水着と、ついでにラウラも私服見に行くか?」
「私の私服か?私は軍服とこの制服くらいしか着たことがないのだが…」
「じゃあ尚更だな。カジュアルなものでもいいから外行きの服は少しでもあったほうが良いだろ?」
「そうか…なら美春の目的が済んだら私の服選びと行こう」
「決まりだな。じゃあさっそく向かうか」
美春とラウラが水着売り場に到着すると、そこにはすでに一夏とシャルロットの二人がいた。
「うわっ…マジかよ」
美春は咄嗟にラウラの肩を掴み、近くの水着が敷き詰められた大型ハンガーラックの陰へと滑り込む。
「どうした美春」
「…あれを見ろ」
美春が顎で指し示すとラックの隙間から数メートル先で楽しそうに水着を選んでいる一夏とシャルロットの姿が見えた。
「なるほど、目標発見から即座に隠れる。さすがの判断力だな」
「そりゃどうも。にしてもあの二人楽しそうにしてんなあ…」
「美春はああいう経験はないのか?」
「二人っきりってのはないなあ、友達と行くときは大体グループだったしな」
「そうか。なら私が美春の初めての相手ということになるな」
ラウラが生真面目な表情でいうと美春の鼓動が少しだけ早くなる。
(そう言われると…っていうか何か距離近くないか…?)
二人が隠れた先はハンガーラックと壁の狭い隙間だ。美春の胸元にすっぽり収まるような格好になっており、ラウラの白い髪から甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
ラウラは美春との距離感は気に留めてない様で、真剣な眼差しで一夏とシャルロットを見つめる。
美春は少しでも気を紛らわそうと周囲を見渡すと変装した鈴とセシリアが店員に声を掛けられている様子が目に映る。
(やっぱりあんな格好してたら怪しまれるって…ってあれ?)
美春は鈴とセシリアから少し離れたところにいる二人の人物を見つけるとラウラに声を掛ける。
「ラウラ、あれ」
「あれは…教官と山田先生だな」
「あの二人にこの体勢が見つかると不味い。普通に買い物をしている体で乗り切るぞ」
「ふむ、了解した」
ラウラは美春から離れると水着コーナーを物色するふりをする。美春はわずかながらもドギマギした空間から解放されたことに安堵の息を吐く。
「美春、こんなものはどうだろうか」
ラウラはいたって真面目な顔でスクール水着を提示してくる。
「あのな、それは学校のプールとかで使うやつだ。ラウラみたいな娘だったら…こういうのはどうだ?」
「…これを私にか?」
ラウラは美春から勧められた水着を見て困惑の表情を浮かべる。
「ああ、いったん試着してみたらどうだ?俺に見せなくてもいいからさ」
そういって美春はラウラを試着室に押し込む。
暫くするとラウラが顔を真っ赤にしながら試着室から出てきた。
「…これにする。」
「そっか。気に入ってくれたなら何よりだ」
美春は自分の水着を適当に選び、会計を済ませると小休憩がてらに近くのカフェでお茶をすることになった。
ラウラはアイスティー、美春はアイスコーヒーを頼むと運ばれてくるまでの間、一夏とシャルロットの話題になった。
「そう言えばあの二人どこ行ったんだろうな」
「さあな。ただ私が水着を試着しているときに隣から二人の声らしきものは聞こえてきたぞ」
(バレないように二人で試着室入ったってことか…随分と大胆なことを)
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カフェでお茶を終えた二人は織斑先生と山田先生に見つかる前に学園に戻ることにした。
「美春のおかげで貴重な体験ができた。ありがとう」
「どういたしまして。こちらこそ久々に外に遊びに行けて楽しかったよ」
校門前についた二人は別れを告げる。
「それじゃ、また明日」
「ああ、また明日」
寮に戻る途中で美春はふとあることを思い出した。
(あ、鈴とセシリア置いてきちゃった)
そういえば箒が若干空気気味ですね。