不完全で不器用で   作:homaritime

27 / 29
26話です。


海といえば…

大型バスのタイヤが高速道路の継ぎ目を拾うたび、トランプの山がわずかに偏る。

窓の外を流れる緑の山並みは次第にひらけ、眩しい夏の強い日差しがシートの背もたれを温めていた。

 

「よっしゃー!これで上がり!」

 

「えー、また遠藤君大富豪?」

 

「…強い」

 

「あともう少しでわたくしも上がるところでしたのに…」

 

臨海学校へと向かうバスの中で、1年1組の生徒は皆自由に過ごしていた。

お菓子を頬張る者、噂話に花を咲かせる者、窓の外の景色の変化を楽しむ者、人それぞれだ。

 

美春は沙苗、透子、セシリアの4人でトランプゲームをして過ごしていた。

今やっているのは大富豪で、美春は2連続で大富豪で上がることができ、ご満悦のといった様子だ。

 

「いやあ、こうも圧勝できると気持ちがいいもんだねえ」

 

「美春さん、あなたわたくしの手札読んでいました?わたくしが出せないカードばっかり出してくるんですもの」

 

「いやいや、セシリアが勝負どころでわかりやすくフフンって顔するからさ」

 

「…ッ!そんな顔などしていませんわ!」

 

「はいはい、そういうことにしておきますよ」

 

「どうも引っかかる言い方をしますわね…」

 

セシリアの反論は聞き流しつつ、美春は周囲を軽く見渡す。

一夏とは少し席が離れてしまったため、遊びに誘えず少し心配をしていたのだが、隣の席のシャルロットと楽しそうに話していた。あれなら心配なさそうだ。

ラウラの席の方に目をやると近くの席のクラスメイトが持ってきた駄菓子の数々に目を輝かせている。ラウラが球状のお菓子を一つ口に入れると、酸っぱかったのか口を窄めてじたばたしている。

 

(あれは例のお菓子か…ラウラ外れ引いちゃったな)

 

「ちょっと美春さん!わたくしの話聞いていらして!?」

 

「ごめんごめん。もう一戦やる?」

 

「いえ、次はポーカーで勝負ですわ!わたくしこちらの方が得意ですの」

 

「如何にもポーカーフェイス苦手そうだけど大丈夫なのか?」

 

「言ってくれますわね。何も表情だけが勝負を決めるわけではありませんのよ」

 

クラスメイトが各々楽しんでいる中、箒は一人何かを待ち構えているような表情で窓の外をじっと眺めていた。

 

バスが長いトンネルを抜けると、窓の外には一面の海が広がっていた。

 

「ねえねえ海だよ!」

 

「って事はもう少しだ!」

 

「天気もいいし今日は最高の海水浴日和だね!」

 

クラスの話題が海の話題で持ちきりとなる。今回の臨海学校は2泊3日の校外実習で、1日目は自由行動だ。当然、近くの海での遊泳も許可されている。

 

美春も他の皆と同様に胸を躍らせていた。

 

(海か…何年振りかな)

 

 

バスが目的地となる旅館に到着する。風情のある佇まいで如何にも老舗といった感じだ。

 

織斑先生が点呼を取り終えると学年全体に向かって告げる。

 

「ここが今回お世話になる花月荘さんだ。ご迷惑とならないようにな」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

一同が旅館の女将さんに向かって挨拶をすると女将さんは嬉しそうに皆を迎え入れる。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。今年も元気な娘がたくさん来てくれてうれしいわ。ではこちらからどうぞ」

 

各自、割り当てられた部屋に荷物を抱えて向かっていく。美春と一夏は皆とは少し距離のある部屋に割り当てられていた。いかにも歴史を感じさせる畳の香りと、窓から微かに聞こえる潮騒が心地よい和室だった。

二人が荷物を置いて海水浴の準備をしていると、部屋の障子がガランと開きとある人物が入ってくる。

 

「千冬ね…織斑先生!?どうしてここに?」

 

一夏が驚きの困惑の声を上げると織斑先生は部屋に荷物を降ろして淡々とした表情で答える。

 

「この3日間、お前たちは私と同室だ。二人だけにすると女子連中が押し寄せてくる可能性があるのでな。その見張り役というわけだ」

 

二人が衝撃の事実にフリーズする中、美春はハッと我に返ると、引きつった笑みを浮かべながら正座になり、両手を畳についた。

 

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします。」

 

「ハハハっ。そう固くなるな。姉と一緒にいるようなもんだと思ってもらって構わない。一夏、この3人でいるときに限ってはいつものように接してもいいぞ」

 

「わかった。よろしく、千冬姉」

 

織斑先生の意外にも気さくな態度に美春は困惑しながらも、安心したのかその場にぐでーっと座り込む。

 

「さて、私はこれから旅館の皆さんへ挨拶回りに行ってくる。お前たちはその間に着替えて海にでも行ってこい」

 

そう言って織斑先生はそそくさと部屋を後にした。

パタン、と障子が閉まり、部屋には再び静寂が戻る。

 

「…いやー、一夏。お前の姉さん、やっぱりとんでもないオーラあるわ」

 

「あはは…まあ、部屋に女子が突撃してこないと思えば安心だろ? さて、俺たちも着替えて海行こうぜ、美春」

 

 

美春と一夏が海へと向かうともう既に何人かの女子が浅瀬でチャプチャプと遊んでいた。

その様子を見ていた美春は少し鼻の下を伸ばしながら一夏に話しかける。

 

「…なあ一夏」

 

「なんだ?」

 

「女子ってすごいよな。あんなに露出してても平然としていられるなんて」

 

「そうか?ISスーツと大して変わらないだろ?」

 

「わかってないなあお前は。いいか、こういうのはな…」

 

美春が言葉を続けようとすると後ろから猛ダッシュである少女が駆け寄り、美春に猛烈な飛び蹴りをかます。

 

「成敗!」

 

「ぶべらっ!」

 

砂浜に顔面から倒れこんだ美春は口に入った砂を吐きながら後ろを振り返る。そこには鮮やかなチャイナテイストの赤色ビキニに身を包み怒りと照れが混じったような顔をした鈴が立っていた。

 

「美春、アンタってむっつりスケベだったのね。見損なったわ!」

 

「そういうなって鈴。生物学的に男は誰だってブハア!?」

 

言いかける美春に鈴は足で砂をかける。弟子のあまりの体たらくに怒り心頭のようだ。

 

「あら、鈴さん。殿方にそのような仕打ちをするのはあんまりですわ」

 

声をする方向へ一同が振り返ると深い青のビキニにパレオを纏ったセシリアがパラソルを抱えて立っていた。

 

「逆に捉えるのですよ。これは意中の殿方へアピールする絶好の機会だと。ねえ、一夏さん」

 

「え?ああ、そうだな…?」

 

セシリアが自信満々といった表情で一夏に問いかけるも、当の本人は何のことかさっぱりなようで的外れな返答をする。

 

美春やれやれと呆れながら海のほうに振り返ると、そこにはオレンジの水着姿のシャルロットと包帯でグルグル巻きになっている謎の物体が並んでいた。

 

「お、シャルロットじゃん!…その、横にいるのはなんだ?」

 

「む、その声は美春か!?」

 

美春がシャルロットに問いかけると聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「もしかして、ラウラか?」

 

「うん、せっかく水着来たのに恥ずかしいからって」

 

もぞもぞと動くラウラらしき物体にシャルロットは背中を押すように声をかける。

 

「その水着、美春が選んでくれたんでしょ?せっかくなんだからお披露目しなきゃ」

 

「いや、しかしだな…」

 

ラウラはもぞもぞしたまま包帯をとる気配がない。やや呆れた表情のシャルロットは美春の手を取る。

 

「じゃあ、美春。ラウラを置いて遊びに行っちゃおうか」

 

「お、おう。そうだな」

 

美春がシャルロットの誘いに乗ろうとすると、焦ったのかラウラの動きが激しくなる。

 

「ええい!こうなったらままよ!」

 

ラウラが勢いよく巻かれた包帯を取ると、黒を基調としたフリルのついた水着を纏ったラウラが恥ずかしそうに立っていた。よく見ると髪型がアップテールになっている。おそらく水着のデザインに合うようにシャルロットがセットしてくれたのだろう。

 

「…その、どうだろうか…」

 

ラウラが照れくさそうに尋ねると美春は腕を組んで考え込む。

 

(ふむ、見立て通り黒の水着と彼女の肌の白さとのコントラストが素晴らしいな。普通のビキニじゃ味気ないなと思ってフリル付きを選んでみたけどこれもまた大正解だったな。軍人らしいきりっとした印象から可愛らしい印象になって落差のギャップが凄まじい。またシャルロットのセンスも素晴らしい。彼女の水着に見事にマッチしたヘアアレンジとなっている)

 

美春は一人でブツブツとつぶやいたのち、ラウラに向かってこう言った。

 

「うん、よく似合ってる。可愛いよ」

 

「か、かわいい…」

 

普段言われ慣れていない言葉にラウラは零れる笑みを抑えることができないでいる。

 

「じゃあ、ラウラ。泳ぎに行こうか」

 

「う、うむ。そうだな!」

 

そう言って美春は準備体操を始める。その姿にシャルロットは疑問を呈する。

 

「浅い海だけど、それでも準備体操するの?」

 

「海をなめちゃいけないよ、シャルロット。波だったり潮の満ち引きとかで気づいたら思ったより深いところにいたなんてことはざらにある。そんな時に足なんかつってみたら…」

 

そういった矢先、浜辺から少し遠い距離で誰かがおぼれている様子が見える。

 

「…ああなっちゃうってわけ。ちょっと助けに行ってくる。セシリア!浮き輪借りるよ!」

 

美春は浮き輪を取って海へ入っていく。大急ぎで泳いでいくと溺れていたのは鈴だった。

美春は鈴の腕を取り、浮き輪を掴ませる。幸い水を飲んだりはしていないようだ。

 

「鈴!大丈夫か!?」

 

「はあ…はあ…大丈夫よ…って美春!?」

 

「意識はありそうだな、よかった。このまま浜辺まで戻るから、しっかりつかまってろよ」

 

そういって美春は鈴が掴んでいる浮き輪を押しながらゆっくりと浜辺に向かっていった。

そんな美春の姿を見て鈴はわずかながら頼もしさを覚えるのだった。

 

浜辺にたどり着くと美春は鈴をセシリアの立てたパラソルの下で休ませる。

セシリアが鈴の様子を見ておくと言ってくれたので美春はその場を後にする。

 

美春はシャルロットや沙苗に誘われてビーチバレーをすることになった。

シャルロットの意外な運動神経の良さに一同が驚かされたり、美春から言われた可愛いという言葉が頭から離れずぼーっとしていたところにボールがラウラに直撃したりとてんやわんやではあったものの、美春は久しぶりの海を存分に満喫することができた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。