織斑先生と部屋に押し掛けた少女たちが女子会(?)をしていた一方、美春と一夏は大浴場の露天風呂へと足を運んでいた。
そこには二人だけでは収まりきらない広大な露天風呂が湯気を上げながら二人を待ち構えていた。あまりの広さに一夏は思わず声が出る。
「広いなあ。なあ美春、これ実質俺たち二人の貸切だぜ」
「だな。潜ったり泳いだりしても誰にも文句は言われないな!」
「そういうことじゃねえよ…」
一夏が呆れていると美春は冗談だよと笑って返し、二人は浴槽へと足を入れる。
少し熱めに感じるが、露天風呂ということを考えればむしろちょうどいいくらいだ。
一足早く一夏が全身を浸からせるとご機嫌な様子で声を漏らす。
「ああ、極楽、極楽」
「爺くさいこといってんなあ。さて俺も、よいしょっと。ああ、気持ちいい」
美春が一夏の隣に座ると美春も思わず声がでる。
「千冬姉と箒たち、今どんな話してるんだろうな」
「さあな、盗み聞きしてたことのへの説教でもしてるんじゃないか?」
美春が一夏の問いを適当に流していると、一夏がおもむろに切り出した。
「そういえば美春、ラウラのことありがとうな」
「…?なんのことだ?」
美春が不思議な顔をして一夏に尋ねると一夏はこう続ける。
「ほら、あいつって最初はものすごく俺に執着してただろ?今はそれがパタリと止んでさ。美春があいつとタッグを組んだおかげなのかなあって」
「俺は何もしてないよ。あいつの中でお前の立ち位置が変わっただけだろ」
美春はぶっきらぼうに返すが一夏は真剣な表情で話を続ける。
「それで気になったんだが…お前とラウラってもしかして付き合ってるのか?」
思わぬ質問に美春はずっこけて溺れそうになる。ぶくぶくと泡を立てる美春を一夏が慌てて引っ張り上げる。
「美春、大丈夫か?」
「大丈夫も何も…いきなりなんてことを聞いてくるんだよ」
「ほら、最近お前とラウラ、よく一緒にいるだろ?この間も一緒に買い物してたってシャルから聞いたし」
(あの時尾行してたの気づかれてたのかよ…)
冷静さを取り戻した美春は一夏に淡々と切り返す。
「確かに一緒にいることは多いけどあれは友達としてだ。そういうお前はどうなんだよ。篠ノ之さんとかセシリアとか、鈴とかシャルロットとか」
「なんでその名前が出てくるのかはわからないけど、みんな普通の友達だぞ」
美春はそっかあと感情のこもってない返事をした後、駄目だこいつといった感じで腰を滑らせて首まで浸かっていった。
そうしてしばらく湯船に浸かっていると、再度一夏から話を切り出される。
「あのさ、美春」
「…なんだ?」
「俺、ずっと考えてたんだ。お前がISに乗ってからのこと。入学式の時にも言ってただろ、同じ高校に行くはずだった奴と離れ離れになったって。それにこの学校は全寮制だから親御さんとも離れることになった。そう考えたら、俺のせいでお前の人生を滅茶苦茶にしちゃったんじゃないかって…」
一夏はいつにも増して真剣な表情で美春に語り掛ける
「だから、改めて謝らせて欲しいんだ。本当に、ごめん」
美春は一夏の謝罪を受け止めると少しの間、空を見上げていた。
そして、何かを決心したかのような顔つきになると一夏のほうへ向き直る。
「お前がそこまで深刻に考えてるとは思ってなかったよ。ただ実際のところはお前に感謝してるんだよ」
「感謝…?」
責められるわけでも否定されるでもなく感謝されるという全く予想外の返答に一夏は困惑する。
「一夏だけに話すんだけどさ、ウチって家族仲悪くてさ。子供の頃から両親が喧嘩ばっかりしてたんだよ。で、学校から帰ってくれば母親から父親の愚痴ばかり聞かされてさ。正直あんまり居心地はよくなかった。けど、ISを起動したことでそこから離れることができた。俺は誰の機嫌も取らなくていい自由な存在になれたんだ。だから一夏、お前には感謝してるんだ」
「美春…」
一夏が美春の言葉に真剣に耳を傾けていると美春は恥ずかしくなったのか少し話題変える。
「それに、この学園に来てからいいこともたくさんあったんだ。何より男のロマンだったISに乗れるってのもそうだし、普通の高校生だったら絶対に知り合うことができない人たちにもたくさん出会えたし、そういう意味でも感謝してるんだよ。だからお前が謝る必要はどこにもないんだ」
「そっか…ありがとな美春」
一夏は今にも泣きそうな顔で美春にお礼を告げる。
「そんな顔すんなって、ありがとうはお互い様だ」
「ああ、そうだな」
「そういえばウチのことを気にしてきたってことは一夏も家にご家族がいたりするのか?」
美春がそう尋ねると一夏の表情が一瞬だけ暗くなる。
「うちは…家族は俺と千冬姉の二人だけなんだ。事故とかで亡くしたんじゃなくて物心ついた時には家族は千冬姉しかいなかった」
「そっか、なんか話したくないこと喋らせちゃったみたいで悪いな」
「いや、いいんだ。秘密にしていることでもないし。こっちこそ悪いな、湿っぽくなっちゃって」
「じゃあ、お互い様だな」
「そうだな。お互い様だな」
そういって二人は軽く笑いあう。わずかではあるもののお互いをより深く知ったことで男の友情がより固いものになっていくのを美春は感じていた。
「じゃあ、そろそろ出るか」
「そうだな、のぼせる前にさっさと出よう」
美春と一夏が湯船から上がり部屋に戻ると、女子の姿は既になく、少し出来上がった織斑先生が部屋に残されていた。
「よう、一夏、遠藤!ちょうどよかったなあ!小娘たちはついさっき自分たちの部屋に戻ったところだ」
「それより千冬姉、酒飲んだのか?」
「何、口止め料は払ってある。明日さえ無事に迎えればそれで問題ない」
自信満々に言い放つ織斑先生に一夏は呆れた様子で言い返す。
「明日は実習だろ。そんなんで大丈夫なのかよ」
「心配するな!私の酒の強さはお前がよく知ってるだろう」
「確かに千冬姉が二日酔いしてるところ見ないけどさ…」
一夏と織斑先生との会話の中に美春は家族の確かな絆を見出し、彼は複雑な心境で床に就くのだった。