「ふええええん!酷いよちーちゃん!束さんからのラブアタックを避けるなんて~!」
砂浜へと滑り込んだ篠ノ之束は子供のように泣きじゃくっている。そこにはISの生みの親の貫禄の欠片もない。
「束、何の用だ」
織斑先生が問いかけるも束はめげずに織斑先生へと飛びかかろうとする。
「そんなことより束さんと愛のハグを…痛い痛い痛い!」
抱きつこうとする束に対し織斑先生はアイアンクローを容赦なくかます。束の頭からはミシミシと人間の体からは聞こえてはいけない音が聞こえてくる。
「質問に答えろ。何の用だ」
織斑先生は再度問いかけると、束は自身をつかんでいる手を振りほどき、淡々と答える。
「今日はね、箒ちゃんにプレゼントを持ってきたんだ」
そう言って束は手に持っていたスイッチを押すと上空から謎の物体がこちらに向かって落ちてきた。
落ちてきたそれは深紅に染められておりISのように見える。
一同があっけにとられていると束は自信満々にその物体を紹介する。
「じゃじゃーん!箒ちゃんの専用機、その名も紅椿でーす!」
専用機という言葉に生徒がざわつき始める。
「無条件で専用機…?」
「遠藤君でも量産機の改修型なのに…」
「いくら篠ノ之博士の妹だからってこんなの不公平だよ」
口々に不満を漏らす生徒たちに対して束は突き放すように言い放った。
「あのね君たち、人類の歴史上、平等だったことなんてただの一度もないんだよ。…ってそこにいるのどこかの誰かさんじゃん。やっほー」
束は集団の中から見つけた美春に向かって手を振る。美春は気まずそうな顔で軽く会釈だけする。
「え!?遠藤君って篠ノ之博士と知り合いなの!?」
「えっと、まあ、お互い顔だけは知ってるって感じかな…ハハハ…」
美春は以前篠ノ之束と会ったことがある。とはいってもオンラインで唐突に向こうからビデオ通話を掛けられた程度であり、ほとんど会話もせず「なんか、つまんなさそうだね君」と一方的に切られた記憶しかない。
そのため美春は束に対してあまりいい印象を抱いていない。
そんな美春には向こうもそこまで興味を持っていなかったのか、すぐに箒の方へと向き直る。
「さて、箒ちゃん。お望みの専用機だよ。フィッティングするから早く乗って乗って」
束に呼ばれた箒は前に出る。そして目の前にある自身の専用機、紅椿に触れようとしたその時。
(私には、この機体に乗る資格があるのだろうか…)
箒は手を止めて呆然と立ち尽くす。束は不思議そうにその様子を見つめている。
(私は代表候補生たちと違って幼少期の頃からISに乗るための努力をしてきたわけではない。ただ周囲に振り回されていただけだ。そして今も自分の力ではなく、周囲にされるがままにこのISに乗ろうとしている。本当にそれでいいのか?)
箒は束がISを発明して以来、小学4年生時から政府の重要人物保護プログラムにより日本各地を転々とさせられている。今は一家は実質離散状態だ。束が失踪してからは政府からの執拗な監視と聴取を繰り返されており、心身共に負担を強いられてきた。正に周囲に振り回されているだけでしかなかった。
しかし、今の彼女には確固たる思いがある。
(いや、それでも、私は一夏と共に戦いたい!一夏の隣にいたいんだ!)
決心を固めた箒は紅椿へと乗り込む。束は満足した顔でその様子を見届けると、大量のコンソールを開き並行作業で機体のフィッティングを行っていく。
そこに織斑先生が割って入って尋ねる。
「ところで束、この機体のスペックはどうなっている?」
織斑先生からの質問に束は待ってましたと言わんばかりに嬉々として回答する。
「よくぞ聞いてくれました!この機体は現行機を遥かに凌駕する機体性能に加えて、アーマーに付いてる展開装甲を使って攻撃・防御・機動のあらゆる状況に対応することができる、いわゆる第4世代型のISなのだ!」
「第4世代…?」
「今どこの国も第3世代の開発に躍起になっているところなのに…」
「その人達の努力って…」
束の発言にまたしても生徒たちがざわつくと織斑先生は頭に手を押さえて呆れ気味に言った。
「束、言ったはずだろう。やりすぎるなと」
「あれ?そうだっけ?」
そんなやり取りを美春は真剣な眼差しで見つめていた。美春にとっては束のやっていることは至極真っ当なことに思えるからだ。美春は過去に読んできた伝記や書籍から学んでいるのだ。天才はいつでも過去の先人たちの努力を無に帰すものであると。そして自分たち凡人は過去の遺産を捨てて天才達が作り上げた英知にぶら下がっていく。技術の移り変わりとはそういうものなのだ。
そんなやり取りをしている内に機体のフィッティング作業が終わり、箒はISを纏った状態で歩き出す。自身の専用機であるという自覚がまだないのか、喜びと困惑が入り混じった顔をしている。
「じゃあ、早速運用テストといこう!箒ちゃんは自分の思うとおりに機体を動かしてみて」
そういって束はどこからともなくミサイルを発射し、箒の駆る紅椿がそれを追いかけ、両手に持った刀で次々と撃墜していく。その様子に先ほど不満を漏らしていた生徒たちも思わず感嘆の声を上げる。
箒も自身の新たな力の強大さに思わず笑みが零れる。
そんな矢先。
「織斑先生!緊急事態です!」
山田先生がこちらに駆け寄って来ながら織斑先生に呼びかける。
山田先生が織斑先生に耳打ちをすると彼女の顔つきが真剣になる。
「これより非常事態につき、全生徒は各自の部屋での待機とする。そして専用機持ちの生徒は私と一緒に来い。遠藤、篠ノ之、お前たちもだ」
織斑先生がそう呼びかけると生徒たちは各々移動していく。そして箒は自分が専用機持ちの仲間入りを果たしたことに胸を躍らせて織斑先生の後に続くのだった。
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大広間に作られたブリーフィングルームに専用機持ちの生徒と織斑先生、山田先生が集まると、織斑先生から状況の説明がされる。
「2時間ほど前、ハワイ沖で試験運用を行っていた軍事用IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が謎の不正アクセスにより制御下から離れ暴走を起こし、監視空域から離脱したとの連絡があった」
説明を受けて全員に緊張が走る。さらに織斑先生は続ける。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから10km先の空域を約一時間後に通過する事が分かった。学園上層部からの通達によってこの事態に対し我々が対処することとなった。目標は当該機の無力化もしくは機能停止だ」
説明を受けて美春が挙手をする。
「どうした、遠藤」
「この7名で対応するということでしょうか。自衛隊や他の組織からの支援などはあるのでしょうか」
「残念ながら、それらは期待できない。早急に対処する必要があるため援助の準備が間に合わないとの事だ」
「…了解しました」
(軍事用ISに学生だけで挑めってことか…しかも俺含めた3人はこういう作戦の経験がない…)
美春は自分たちが置かれている状況の厳しさを改めて認識し、顔が険しくなる。
美春に続いてセシリアが挙手をする。
「当該機の詳細なスペックの開示を要求します」
「よろしい、だがこれから見せるものは国家機密レベルの情報だ。口外したら1年間の監視がつくことになる」
「了解しました」
織斑先生は全員に銀の福音に関するスペックデータを開示する。
(広域殲滅を目的に開発された第3世代の射撃特化ISか…下手に大人数で殴りこむと返り討ちにあうな…)
美春が機体情報を分析していると他の生徒たちも感想を口々にする。
「高密度の射撃と機動力を併せ持つ機体…これは曲者ですわね」
「しかもビーム兵器だから防御し続けるのも難しいかも」
「いずれにせよこのデータでは格闘性能が未知数だ。教官、データはこれで全てですか?」
「ああ、そのとおりだ」
しばらくの沈黙の後、織斑先生が口を開く。
「この作戦は織斑、お前の零落白夜の一撃がカギとなる。」
「織斑先生、それってどういう…」
「敵は高機動でありかつ広範囲に射撃可能な機体だ。そのため、全員で集中砲火を浴びせるよりも短期決戦でケリをつけた方が勝率が高いと判断した」
「お、俺の…」
「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。覚悟がないのなら無理強いはしない」
織斑先生に覚悟を問われた一夏は真剣な眼差しで返答する。
「織斑先生。俺、行きます!」
「では攻撃は織斑が担当するとして、白式のエネルギー温存のために誰かが機動力を補ってやる必要がある。その関係上、作戦に参加できるのは織斑含めて2名となる」
織斑先生の発言に対してセシリアが挙手をする
「織斑先生、わたくしのブルー・ティアーズは現在高機動パッケージの最終試験をおこなっています。これなら一夏さんを運ぶ機動力を満たして…」
「ちょっと待ったあ!」
セシリアが言いかけたところに謎の声が割って入る。一同が声がするほうへ顔を向けると天井からぶら下がっている束がいた。
「…束、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「まぁまぁ、ちーちゃんも硬い事言わないでさ。そんなことより!ここは断然紅椿の出番なのだよ!」
「なんだと?どういうことだ?」
「それはね、この束さんが開発した紅椿は展開装甲をちょびっと調整するだけで超高速移動が可能なんだよ!しかも攻撃力も申し分ないからいっくんの援護にもぴったしカンカンだと思うなあ」
織斑先生は一瞬考えたのち、束に問う。
「…束、紅椿の調整にはどれくらいかかる?」
「7分あれば余裕だよ」
「そうか…やれるか篠ノ之?」
「え?」
織斑先生からの突然の指名に一瞬困惑する箒だったが自身が指名されたことへの喜びが勝り、自信に満ちた表情で答えた。
「はい!やります!」
(よりにもよって実戦未経験の二人が主戦力か…)
嫌な予感がよぎった美春は挙手をする。
「どうした、遠藤。反対意見があるなら一応聞こう」
「いえ、二人が参加することに異論はないのですが、二人は実戦未経験です。そのためその不足分を補う必要があるかと」
「ほう、具体的には?」
「戦術オペレーターの設置を提案致します。」
「候補は誰がいる?」
「はい、幅広い武器を扱えるシャルロットか、軍隊での指揮経験のあるラウラが適任かと…」
美春が言いかけた瞬間またもや束が割って入る。
「ノンノン!それはナンセンスだよ君イ」
「…篠ノ之博士の意向から逸れた提案ではないと思いますが」
「私が言ってるのはそこじゃなくて、自分の提案に他人を差し出すことについてだよ~。こういうのは言い出しっぺがやるって相場が決まってるんだよ。あ、そうだ!君がオペレーターやらないっていうなら紅椿は出撃させてあげませーん!」
そういって束は手でバツ印を作ってみせる。織斑先生は頭を抱えている。
「遠藤、お前の提案を飲むならお前がオペレーターを担当することになる。それでもいいか?」
「…問題ありません。できる限りやってみます」
こうしてまさかの実戦経験の全くない3人が作戦に投入されるという前代未聞の事態となった。