「ラウラ。この紅椿、お前はどう思う」
一夏と箒が機体の準備に取り掛かっている中、美春はラウラに助言を請う。
束からは美春がオペレーターをやれとは言われたが、準備に人の手を借りるなとまでは言われていない。
「ふむ、話を聞いた限りだと既存のISの性能を凌駕していてかつセッティングも短期間で終わると来た。これほど理想的な機体はないだろう」
ラウラは更に話を続ける。
「だが、こういった基本性能が高い機体は往々にしてエネルギー効率が悪いことが多い。我がドイツもその点をクリアできず第3世代のISは試験機止まりだ。戦闘中にエネルギー切れを起こす可能性は極めて高いと言えるだろう」
「なるほど、参考になった。ありがとう」
美春がお礼をいうとラウラがやや申し訳なさそうな顔をする。
「すまないな、大役を押し付けてしまって。本来ならば私が提案すべきことだったのに」
「気にするな。オペレーターの提案だってタイミングの問題だ」
そんな会話をしていると、織斑先生が美春に話しかける。
「遠藤、少しいいか?」
「はい、何でしょうか」
「篠ノ之についてだが、奴は今日専用機を与えられたばかりの素人同然だ。その上、篠ノ之は今専用機を与えられたことに少し浮ついた様子が見受けられる。くれぐれも気を付けておくことだ」
織斑先生が心配そうに告げると美春は淡々と答える。
「ご助言ありがとうございます。一応その点は踏まえて作戦は考えているつもりです」
「ほう、もうできているのか。聞かせてみろ」
美春が作戦内容を伝えると織斑先生は案外すんなりと美春の作戦に納得した。
「なるほど…確かに今の状況で取れる最善の策のように思える。…流石だな」
「でも実際動いてみないとわからないことだらけです」
「作戦というのは得てしてそういうものだ。そこでお前の本領が試されることになる。」
「…心しておきます」
「何かあればすぐに言ってくれ。教師陣も戦闘には参加できないが、何時でも出れるように待機させてある。では、健闘を祈る」
そういって織斑先生は立ち去って行った。
(篠ノ之博士は紅椿に相当の自身を持っているみたいだが、それならその機体性能を思い切り利用させてもらう)
山田先生にオペレーターの準備をしてもらうと美春は二人に通信をつなげる。
「一夏、篠ノ之さん聞こえているか?」
「ああ、美春。ばっちりだ」
「こちらも問題ない」
「了解。細かいことは二人の判断に任せるが、大まかな戦術については俺の言うことに従ってもらう。頼りない奴がオペレーターで申し訳ないがよろしく頼む」
美春がやや卑屈気味に伝えると一夏と箒はなんてことないように答えて見せる。
「そんなこと言うなよ。お前の冷静さは身をもって知っている。安心して任せられるよ」
「たとえお前が失敗したとしても一夏と私で必ず乗り越えて見せるさ」
美春は二人にお礼をいうと、大まかな作戦内容を二人に伝える。特に今回の作戦の要となる箒に美春は追加で言葉を伝える。
「最後に篠ノ之さん」
「箒でいい。もう私たちは立派な仲間だろう」
「…わかった。それじゃあ箒、今回の作戦では君に大きな負担を強いることになる。危険な状況になったらすぐに交戦を中止すること。いいな?」
「了解した。まあ一夏と私ならそんなことにはならないと思うがな」
箒の楽観的とも取れる発言に美春の顔が険しくなる。これは思ったよりも重症かもしれない。
美春が改めて気合を入れなおすと、織斑先生から作戦開始の号令がかかる。
「それじゃあ、作戦開始だ。二人とも位置についてくれ」
美春がそう伝えると箒は地面にうつ伏せになり、その上に一夏が乗る。
「一夏、振り落とされるなよ」
「大丈夫しっかりつかまってるさ」
両機の準備ができたことを確認すると、美春は出撃の号令を出す。
「織斑一夏、白式。行きます!」
「篠ノ之箒、紅椿。出る!」
そういうと二人は超高速で発進する。
束の試算では白式を乗せた紅椿の速度は時速200km程度。目標までは3分程度で到着する見込みだ。
目標まで残り1kmを切ったあたりで美春が通信を入れる。
「もうすぐ目標に接敵する。一夏、まずはご挨拶を一発かましてやれ」
「了解!」
そういうと一夏は紅椿から離脱し、接近しつつ瞬時加速の体勢に入る。
銀の福音の姿を肉眼で捉えた一夏は急加速して切りかかる。
敵機の接近に気付いた福音は間一髪のところで一夏の初撃を躱して見せる。
「そう簡単にはやらせてもらえないか。箒!さっき言った通りの動きで頼む!」
「了解した!」
美春の通信と共に箒は福音に肉薄していく。
美春の作戦はこうだ。
まず、前に出て福音と対峙するのは白式ではなく紅椿。戦況適応力と後述する白式の役割を踏まえた判断となる。白式の役割はというと紅椿が敵の気を引いてるうちに闇討ちを仕掛け、うまく当たればそのまま戦闘継続、外した場合は一度離脱して体勢を立て直すという流れだ。この作戦であれば箒が甘い判断をしたとしてもそこを突こうとした福音に隙ができると美春は考えている。
福音の広範囲の射撃に対して箒は自身の武装、雨月(あまづき)と空裂(からわれ)を駆使していなしていく。射撃が放たれた隙をみて一夏が仕掛けるが惜しいところで避けられてしまう。
時間が経つにつれて美春の握りこぶしが固くなっていく。
その時、箒が福音の射撃を受け止めきれずよろめいてしまう。その隙を見逃さなかった福音が追撃に移ろうとしたその瞬間。
「させるかああ!」
一夏が急接近をして刃を振り下ろし、見事福音の片翼を切断することに成功した。
一夏がさらに追撃を仕掛けようとしたその時、彼は何かを察知したかのように福音から距離を取り明後日の方向へと向かう。
美春は慌てて一夏に通信を送る。
「一夏、どうした!?」
「所属不明の漁船がいるんだ!このままだと巻き込まれる!」
漁船…恐らくは密漁船か何かだろう。進入禁止海域に敢えて入ってくるような連中といえばそれくらいしか思い浮かばない。
助けに入ろうとする一夏に箒が止めに入る。
「一夏、わざわざ犯罪者を守ってやる義理などないだろう!」
「そんなこと言っても民間人だ!被害が出ないようにしないと!」
「せっかくのチャンスなんだぞ!そんなことで不意にするな!」
一夏と箒は言い争い続けている。両者のいうことは尤もだ。美春は頬に手をつき考え込む。そしてあることを決心し、二人に通信を送る。
「一夏。お前は目標に接近しろ」
「なっ!美春!?お前まで…」
「話を最後まで聞け。お前はその漁船が戦闘範囲外になるまで福音を運ぶんだ。方法は問わない。しがみついてでも押し出せ」
「わ、わかった。やってみる」
「そして箒。君は一夏が目標を運ぶまでの間、流れ弾から漁船を守るんだ」
「私に犯罪者を守れというのか!?」
「確かに君の言う通りだが、民間人に被害が出るのは絶対に避けなくちゃいけない」
「で、でも…」
狼狽える箒に美春は冷徹にこう言い放つ。
「箒。これはお願いじゃない、命令だ」
「くっ…!了解した」
二人は美春の指示された通りに動く。一夏は切断した翼の方角から福音に接近しそのまま腰に抱き着いて全力でスラスターを吹かす。その間にも福音は一夏を振りほどこうと射撃を繰り返している。
箒は福音が放った流れ弾が漁船に当たらないように刀で弾き返していく。その表情はかなり不本意といったところだ。
福音が漁船を巻き込まない範囲まで移動したことを確認すると美春は再度二人に通信を送る。
「一夏。箒。もう十分だ!後は最初の作戦行動に再度移ってくれ」
二人の返答を聞くと美春はヘッドセットを外し織斑先生にこう告げる。
「織斑先生!教師陣を派遣して漁船の保護と誘導をお願いします!」
「了解した。すぐに対処する」
織斑先生が無線で教師陣に連絡している姿を見届けると美春は再度二人の行動に注視する。…残された時間は少ない。
箒が福音に肉薄していると突如紅椿からアラートが鳴り響く。エネルギー残量がわずかであることを示すアラートだ。
「え!?そんな…えっと…どうしたら…」
軽いパニック状態に陥った箒に焦った美春は通信を送る。
「箒、まだ大丈夫だ!肉弾戦に持ち込めばまだ勝機はある!」
しかしながら美春の声は届かず、箒は目の前の状況に慌てふためいている。
福音がその隙を見逃すはずもなく、最大出力で箒を狙い撃とうとしている。
「箒い!」
福音から射撃が放たれたその瞬間、一夏が二機の間に割って入り、箒をかばうように立ちふさがる。そして放たれたた射撃は一夏に直撃した。
衝撃で意識を失った一夏は海へと真っ逆さまに落ちていく。海に落ちる寸前のところで箒が受け止め、一夏に呼びかける。
「おい、一夏!しっかりしろ…」
「箒、残されたエネルギーを全部使ってでもそこから離脱して戻ってくるんだ」
「…了解した」
箒へと通信を送り終えた美春はヘッドセットを外して一同に告げる。
「みんな、二人を受け入れる準備に入ってくれ。作戦は、失敗だ…」