浜辺で二人を待っていると息を切らした箒がゆっくりと着陸する。
重傷の一夏は先生方に任せ、美春たちは箒のフォローに入る。
ISを解除した箒はキッと美春を睨みつけ、美春に向かって歩いていく。
――パァン!
そして箒は美春の頬を思いっ切りぶった。
「…お前のせいだ!お前のせいで一夏は…」
一方的に怒鳴り散らす箒に美春は反論もせずに黙って受け入れていた。
「…そうだな。俺のせいだ」
美春がそう言い返すと箒は一夏を追ったのかどこかに向かって走り出していった。
美春は彼女を見送ると力が抜けたようにその場に座り込んだ。
その目は虚ろで力がない。
みんなが駆け寄ろうよするが美春はそれを制止する。
「悪い。しばらく一人にしてくれ」
美春が力のこもっていない声でそう呼びかけるとみんなは気を遣ってか美春を一人置いて立ち去って行った。
美春がぼうっと海岸線を眺めていると、ラウラが美春の横にちょこんと座り込んだ。
「…一人にしてくれって言ったはずだけど」
「確かに一人の時間も必要だろう。だが、今じゃない」
ラウラはそういい返すと誰に聞かれるでもなく作戦のフィードバックを始めた。
「お前の作戦はその…わるくなかった。適応力の高い紅椿を出して白式を闇討ちに専念させるというのは非常に合理的な作戦だったように思う。それに、所属不明の船が現れたときの対処も見事だった。船を守るか見捨てるかの判断を現場にさせるのではなく、船を先頭範囲外に出すという指示はなかなかできることじゃない。私が指揮を執っていたら船を見捨てるという判断をしたかもしれん。お前は私にできないことをやってのけたんだ」
「そうか…。でも俺は箒を…」
「囮のように使ったことについてだろう。あれは誰かがやらなければならないことだった。今回のように決め手が限られている状況ではそれを確実に当てるために取らなければならない手段だってある。そういう点でもお前は初めてとは思えないくらい見事な役割を果たしていた」
「…それでも失敗は失敗だ」
「確かに作戦は失敗した。だがお前はそれを潔く認めて撤退する道を選んだ。お前は歴史に詳しいからわかるはずだ。失敗を認めずに戦闘を継続し、部隊を全滅させた指揮官が過去にどれほどの数いたのかを。けど今回は違う。一夏は負傷したが、作戦メンバーを死なせることなく帰還させた。その事の偉大さは私が責任を持って保証する」
「…」
ラウラの言葉に美春は黙って耳を傾ける。
「さて、私から言えるのはこれくらいだ。ここからはお望みの通り一人の時間だ。ゆっくりするといい」
ラウラはそういって立ち上がり、どこかへと去っていった。
美春は先ほどとは違った力のこもった目で海岸線を見つめていた。
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宿のとある一室。部屋には大量の医療機器が並んでいた。そして、その機器がつながれている先には一夏横たわっていた。
先生方の見立てでは命に別状はないらしいが、数日間は意識を失ったままだろうとのことだった。
箒は一夏を見守るように座っていた。
(全て、わたしのせいだ…)
箒は本当は全てわかっていた。作戦失敗の原因は美春ではなく自分にあるのだと。
自分があの場で狼狽えずに対処できていれば。私が船を見捨てろなんて言わなければ。
私が専用機を渡されて浮かれてさえいなければ。私がISに乗らなければ。
箒の頭の中に自分を責める言葉が際限なく浮かんでくる。
箒が俯いていると部屋の障子が勢いよく開けられて、鈴が入り込んできた。
「アンタ、いつまでそうしてるつもり?」
鈴が問いかけると箒は決心したかのようにこう答えた。
「私はもう、ISには乗らない」
「はあ?」
「私のせいで一夏を傷つけた。私には一夏の隣に立つ資格などない!私はISにはもう乗らない!」
箒は駄々をこねる子供のように自身の思いの丈を語る。
見かねた鈴は箒の胸倉をつかんでこう言い放つ。
「一度失敗したくらいでへこたれてんじゃないわよ!それに何?一夏の隣に立つ資格がないって?アンタが勝手に決めんじゃないわよ!資格があろうがなかろうがアンタが隣に立つって決めたなら最後までやり切ってみなさいよ!まだアンタも一夏も生きてる。やり直すチャンスなんていくらでもあるでしょうが!」
箒は鈴に言われてハッとする。自分は一夏をこれ以上傷つけるのが怖くて逃げていただけだと。鈴からは逃げるなという強い意志が込められた眼差しを向けられる。
箒は決心を固めると鈴にこう伝えた。
「私が馬鹿だったようだ。ただおかげで目が覚めた。今一夏の隣に立てなくても、いつか隣に、いや、背中を預けてもらえるくらい強くなってみせると」
箒の言葉に鈴は胸倉を掴んでいた手を下ろす。
「フンっ。最初からそうしてればいいのよ。じゃあ時間になったら声かけるから準備しておきなさい」
「準備って…何の?」
「決まってるでしょ?敵討ちよ」
鈴から出たまさかの言葉に箒は目を丸くする。
「せ、先生からはそんな指示は出ていないはずだ!」
「出てなくてもやるのよ。こっちだって戦いの場に立たせてもらえなくて悔しい思いしてるんだから」
鈴はそう言い放つと部屋から勢いよく出て行った。
(さてと、ケツを叩いてやらないといけないのがもう一人いるわね…)
鈴は部屋を出た後、とある人物のもとへと駆けていった。
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ラウラからの励ましを受けてしばらくしたころ。美春は気分を持ち直したのか砂浜に寝っ転がって一人物思いに耽っていた。
(作戦に関してはラウラからお墨付きをもらった。失敗後の対応も問題なかった。我ながら初めてにしてはよくもまああそこまで冷静でいられたと思う。だけど…)
美春は空に向かって思い切り叫ぶ。
「やっぱり悔しいものは悔しいだろうがよ!」
「あら、奇遇ね。アタシも同感だわ」
鈴が美春の上からひょっこりと顔を出した。
美春は慌てて起き上がる。
「り、鈴!?なんでここに?」
「なんでってそりゃ弟子が落ち込んでるっていうから励ましに来ただけよ。ラウラからちょっとだけ様子を聞いたから心配してたけど、その様子なら大丈夫そうね。よかった」
鈴は心底安心したような笑みを美春に向ける。自分に向けられた優しい笑みに美春の心拍数がわずかに上がる。
「ご、ご心配をおかけしました…」
「あんだけの大役を任されてたんだもの、少しくらいへこむのも無理ないわ。で、さっきアンタが言ってたことだけど」
「ああ、悔しいってことか?」
「そう。他の専用機持ち達もアンタと同じ気持ちを持ってる。まあアタシ達は戦場に立たせて貰えなかった悔しさだからちょっと方向性は違うけど」
「…何かするのか」
「察しがいいわね。そう、夜になったらみんなで一夏の敵討ちをするって話になってる。先生には内緒だけど」
「で、その敵討ちに俺を誘いに来たと」
「ご明察。今度は大人数で戦うことになるから指揮はラウラに執ってもらうことになったわ。だからアンタは持ち前の力を使ってアイツをぶん殴ればいいだけ」
「まあ、後が怖いが俺だけが責任負うわけじゃないしな。その誘い乗った」
「よし!これで全員そろったわね。じゃあ夜になったら通信飛ばすから千冬さんを適当に誤魔化して部屋から抜け出してきなさい」
「了解。それじゃ、後ほど」
「うん。またね!」
そういって鈴は駆け出していった。
(せわしない奴だなあ…)
美春は出会ったときと全く同じ感想を鈴に抱くのだった。