時間は夜になり、宿から数キロほど離れた海上で銀の福音は胎児のように膝を抱え込んでその場に浮遊していた。
すると福音に突如、レールガンの射撃が直撃する。ラウラの砲撃だ。
福音から数百メートル離れた地点に専用機たちが集結している。
「初弾の命中を確認した。総員、作戦行動を開始せよ」
ラウラの号令で皆が一斉に動き出す。
今回の作戦は基本的には美春の案を引き継いだ形となる。箒と鈴、シャルロットが前線で福音と見合い、隙を見て美春が強力な一撃を打ち込む。美春の案と異なる点は、セシリアとラウラが援護射撃及び司令塔の役割に回る点だ。
シャルロットが防御パッケージ「ガーデン・カーテン」のシールドを展開して福音へと接近していく。その後に鈴と箒が続く。
福音が迎撃のために射撃を放つと、シャルロットの後ろにいた二人が散開して接近戦を仕掛ける。しかしながら、福音はそれを読んでいたかのような動きで二人の攻撃を躱していく。
二人の攻撃を回避した隙を見計らって美春は後方に向けて空砲を放ってその反動で福音に急接近する。
福音は美春の接近を察知して回避行動に移ろうとするが、美春は福音の腰に腕を巻きつけるようにしがみつく。
「スマートな避け方だが、ここまで乱暴だとは思わなかっただろう?」
美春は掴んだ福音の腰を軸に回転し、福音の腹部に向かって壊山拳を打ち込む。
不意の一撃に福音はこらえきれず後方に大きく後退する。
その後退した先にはセシリアのライフル射撃が待ち構えており、セシリアの射撃は福音の残された片翼を貫いた。
撃たれた片翼から小さな爆発が発生し、美春はその爆発に連動させるようにグレネードを投げ込む。
爆発によって発生した煙が福音を覆い隠すと美春は再度急接近し攻撃を仕掛ける。
しかしながら、福音は腹部に壊山拳を打ち込まれる前に腕を使って防御態勢を取っており、大きくのけぞりながらも直撃は回避した。
煙で様子が見えなかった箒は美春の攻撃が直撃したと思い込んで一瞬喜びの声を上げる。
「やったか!?」
「いや、まだだ。見た目に反してそこまで手痛い一撃は入れられてない」
美春がそう返すと福音の装甲はそこまで損壊しておらず、機能停止には程遠い状態だった。
「しかし、翼は両方とも破壊した。攻撃力、機動力共に低下している今がチャンスだ。畳み掛けるぞ!」
ラウラの指示のもと、前線組が一斉に突撃する。
美春の闇討ちへの警戒がノイズとなっているのか鈴の龍砲や箒の空裂の射撃に対して福音の回避が間に合わず、被弾が多くなっている。
装甲の損傷が徐々に激しくなっていく福音に対し、美春は最後の一撃を食らわせるために急接近する。
その時、福音の期待が眩い輝きを放ち始めた。
「まずい、第二形態移行(セカンド・シフト)だ!全員その場から離れろ!」
ラウラが呼びかけると、一同は距離をとるが美春だけ回避が間に合わず、光に飲まれる。
光が収まると、そこには破壊したはずの翼が復活し、全身から翼のようなエネルギー波を放ちながら佇む福音の姿があった。
美春はギリギリで防御することができたものの、エネルギー波にやられたのか左の手甲はボロボロになっている。
福音はラウラとセシリアの位置を確認すると、先ほどまでとはけた違いのスピードでラウラに接近し、エネルギー波からビームの一斉射撃を浴びせる。
AICを展開する間もなくラウラのISのシールドエネルギーが削られ、海へと落下していく。
「ラウラさん!」
セシリアの呼びかけと同時に福音が彼女の目の前に現れ、先ほどと同様に一斉射撃を放ち、セシリアを戦闘不能に追い込んだ。
一瞬の間に二機を戦闘不能に追い込んだ事実を目の当たりにし、残された面々に緊張感が走る。
福音が広範囲射撃の体勢を取るとそれを察知した鈴と箒はシャルロットのシールドの後ろに隠れ、美春は射撃かばらけて回避行動が取りやすくなる位置まで急速で移動する。
福音が射撃を放つとシャルロットのシールドはいとも簡単に貫かれ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの装甲に直撃する。
「二人ともボクから離れて!」
シャルロットの声に従い二人が距離を取ると、小さな爆発が複数回起きたのちシャルロットもまた海に向かって落下していった。
福音が引き続き射撃を行う。箒は機体の持つ機動力を駆使して、美春は距離を取ったことでギリギリで回避して見せるが鈴は回避が間に合わずビーム射撃が直撃する。
鈴も戦闘不能となり残されたのは美春と箒だけとなった。
箒が射撃を行おうとすると再度エネルギー残量の低下を告げるアラートが鳴る。
(また、なのか…?また私は足手まといになるのか?そんなのは…絶対に嫌だ!私は一夏のそばに立つんだ!)
箒が強く念じると、紅椿が黄金色に輝き、シールドエネルギーがみるみるうちに回復していった。
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真っ白で何もない…。一夏は謎の空間に一人立たされていた。
「…ここは?」
一夏が歩き始めるとどこからともなく彼を呼ぶ声が聞こえる。一夏は声のするほうへ向かうと、小さな少女がそこに立っていた。白いワンピースを着ており、髪は長い。顔を見ようとするが輪郭がぼやけていてよくわからない。
一夏を見つけた少女は突然こう呼びかける。
「君は、何のために力を求めるの?」
「俺は…守るための力が欲しい」
「守る…?誰を?」
「みんなだ。俺を大事にしてくれるみんなだ。その人達が傷つかないために、俺が全部守ってやれるように。そのための力が欲しい」
一夏の声を受け止めると少女の体が輝きだす。
「わかった。じゃあ、私の力を少しだけ貸してあげるね」
そうして視界が真っ白に染められていき…
一夏はハッと目が覚めた。遠くから何か銃声のようなものが聞こえる。
「…行かなきゃ。みんなを守るために」
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美春と箒は苦戦を強いられていた。
箒が前線でなんとか踏ん張ってくれてはいるが、肝心の美春の一撃が届かない。
手甲はボロボロになっており、打撃を打ち込めるのは精々一発が限度だ。そのため、慎重に機会を伺っているのだが福音のけた外れの機動力に全く追いつくことができない。
じりじりと追い詰められ、最早万事休すかと美春が思ったその時。
白式とは見た目が異なるISをまとった一夏が福音に向かって射撃を放つ。
想定外の乱入者に福音は一度距離を取る。その間に美春と箒が一夏の元へと向かう。
「一夏!?なんでここに?」
「みんなを守るためさ。それよりもみんなは大丈夫か?」
「俺と箒以外は戦闘不能だ。それに俺はあと一発くらいしか打撃を打ち込めない」
「わかった。俺と箒で何とか隙を作る。美春は最後の一撃を確実に決めてやれ」
「了解、じゃあ頼むぞ」
美春は二人から距離を取る。
「箒、最初の作戦通りだ」
「ああ、今度は一夏の役に立って見せる」
一夏と箒は福音へと接近する。福音が迎撃の射撃を放つも二人は持ち前の機動力で難なく躱していく。どうやら一夏のISが変わったのは見た目だけではないらしい。
箒の放った射撃の後を追うように一夏が急接近して零落白夜を構えるがすんでのところで避けられてしまう。
一夏が腕部から追撃の射撃を入れるも、福音にはかすりもしない。
そうこうしているうちに、一夏のISからエネルギー残量低下のアラートが鳴る。
「え!?もう!?」
一夏が困惑している隙を狙って福音が射撃体勢をとったその時。
――ドパアン!
美春が急接近し、福音の横っ腹に壊山拳を直撃させることに成功した。福音はあまりの衝撃に横に大きく吹っ飛ぶ。
その合間に箒が一夏へと近づく。
「一夏、これを」
箒が手を差し伸べるとその手は黄金に光り輝いていた。一夏がその手を取ると一夏のISのエネルギーが瞬く間に回復した。
「箒、これは…?」
「紅椿の単一仕様能力だ。絢爛舞踏というらしい。ISのエネルギーを回復させる機能があるとのことだ」
「なるほど、ならまだ戦える…!美春ももらったらどうだ?」
「俺は回復してもらっても戦闘手段がないし、ここで離脱させてもらうよ。エネルギーが残っているうちに他のみんなを避難させる。…後は頼んだ」
「わかった。任せておけ」
一夏がそういうと、美春は安心した顔で海に向かっていった。
美春が戦闘不能になったみんなを海から引き揚げて近くの小島に避難させ終えた頃、少し遠くから眩い光が辺りを包み込んだ。
どうやらあの二人がやり遂げたらしい。福音は解除され、一夏が中から現れた女性を保護している様子が見える。
「一夏、箒。やったな」
美春は肩の力が抜けたのか小島の岩肌に腰掛けて、二人の勇姿を見届けたのだった。