不完全で不器用で   作:homaritime

35 / 61
34話目です。


戦いの余韻

皆が宿近くの浜辺に戻ると、そこには案の定織斑先生が待ち受けていた。

あれほどの大規模な戦闘があったのだ。気付かないという方がおかしいだろう。

 

作戦に参加した全員が織斑先生からの長いお説教を受け、罰として学校に戻ったら反省文原稿用紙10枚分を書いてくるように言い渡された。先生曰く、作戦成功の実績を考慮して敢えて易しくしたらしい。と言っても高校生に4000字はなかなかに重い罰だろう。

さらに美春に関しては作戦オペレーターを務めたことについて追加でレポートを提出するように言われた。不幸中の幸いか、レポートの出来次第では2学期の成績に反映させるとのことなので美春は渋々受け入れるのであった。

 

作戦を成功させた功績を評価しての特例でわずかな時間ではあるが生徒に自由行動が認められた。ただ、海には入るなとのことで、花火をしたり、砂で絵を描いたりして各々残されたわずかな時間を楽しんでいた。

 

美春は戦闘であちこち動き回って疲れ果てていたため、皆には合流せず一人風呂に入ることにした。一夏も誘ってみたのだが、なんでも誰かに渡したいものがあるとかでどこかに行ってしまった。

今は風呂上りにコーヒー牛乳片手に部屋の近くの縁側でくつろいでいるところだ。

しばらくみんなの様子を遠目で見ていると、美春の隣に誰かが腰を掛ける。

 

「…ラウラか。みんなの所へは行かなくていいのか?」

 

「皆は一夏を探しにどこかに行ってしまった。それにあの戦闘の後だからな。遊ぶという気分にもなれん」

 

ラウラはそう言って溜息をふうっと一つついた。

 

「そっか。…そうだよな。すごかったよなアレ」

 

「ああ、あれほど壮絶な戦いは私も経験したことがない」

 

「軍人さんなのにか?」

 

「私は確かに軍人ではあるがISで実戦に赴いたことは殆どない。そもそも戦場がないからな。せいぜい要人救助のために出撃したくらいだ」

 

「そうだったのか。俺はてっきり戦場のいろはを知ってるものとばっかり…」

 

「そう思うのも無理はない。何せ入学したての頃の私は物知った雰囲気をこれでもかというくらい出していたからな。実際は机上でしか知らないことばかりだ」

 

「でも今はちょっと違うだろ。実際に色々なことを自分の目で見て体験していって。ラウラの人生はどんどん豊かになっていってる。…作戦に活きるかどうかはわからないけど」

 

美春はそう言って苦笑いをするがラウラは凛とした顔つきで答えた。

 

「いや、活きているさ。人々の暮らしに触れることで、この平和は絶対に守り抜かないといけないという、軍人としての使命を改めて認識することができた。力をひたすらに追い求めていたあの頃とは違う」

 

「短い間に随分と成長しちゃって」

 

美春が軽く茶化すとラウラは美春の方に向き直る。

 

「それもこれもお前のおかげだ。お前が私のことを受け止めてくれたから、私の叫びに向き合ってくれたから、今の私がある。本当にありがとう」

 

そう言ってラウラは満面の笑みを浮かべる。

 

(こんなにきれいな笑顔ってあるんだな…)

 

美春がラウラの笑顔に見惚れていると、ラウラから唐突にこう切り出される。

 

「教官から昨日こう聞かれた。お前は美春のことが好きなのかと」

 

美春は口に含んでいたコーヒー牛乳を勢いよく吹き出す。幸い、前方には誰もいない。

 

「そそそそれで?ラウラはなんて答えたんだ?」

 

美春は恐る恐るラウラに問いかける。

 

「私はわからないと答えた。確かに美春に興味を持ってはいるし、もっと知りたいとも思っている。だがそれが恋と呼べるものなのかは私にはわからない」

 

ラウラは淡々と答える。美春も冷静さを取戻し、ラウラの話を真剣に聞いている。

 

「ただ…」

 

「ただ?」

 

「戦闘が終わったこの瞬間、私は美春と一緒に過ごしたいと思った」

 

そしてラウラは顔を真っ赤にしながら小さくこう呟いた。

 

「もしかしたら、それが答えなのかもしれないな…」

 

よく聞き取れなかった美春はもう一度聞き出そうとするが、ラウラはすっと立ち上がり、

 

「私は部屋に戻るとしよう。お前も一人の時間を存分に楽しめ」

 

そう言って駆け足で去っていった。

 

美春が呆気に取られていると、後ろから織斑先生の声が聞こえる。

 

「全く、あの小娘も一丁前に青春するようになって。遠藤、この責任は重いぞ」

 

そういってどこかへ去っていった。

 

(そう言えばあの人と同じ部屋だった…!)

 

恐らく会話を聞かれていたであろうと考えると、美春は恥ずかしさから残ったコーヒー牛乳を一気に流し込んだ。

 

 

生徒たちが遊んでいる砂浜から少し離れた海岸に篠ノ之束は海を見つめて佇んでいた。

彼女の後ろから誰かが声をかける。

 

「束。ここにいたか」

 

「…ちーちゃんから来てくれるなんて珍しいね」

 

「お前には確認したいことがあるだけだ」

 

束はふうんと答えると海のほうに向きなおる。

 

「銀の福音の暴走事故、そして先日の無人機の襲撃。あれを起こしたのはお前だな」

 

「…なんでそう思ったのかな」

 

束は表情一つ変えずに織斑先生の話を聞く。

 

「あまりにもタイミングが良すぎたからだ。白式と紅椿、お前が手を入れた機体たちの性能検証として行動に移したのだろう」

 

「…だとしたら?」

 

「あまり我々を舐めるなよ。私の生徒たちも、世界も、お前のおもちゃではない」

 

「束さんがいないと何もできない連中なのに?」

 

「お前が開発者として優れていることと、お前が上位存在であることは同意ではない。気に留めておくことだ」

 

「はーい心しておきまーす」

 

束はわざとらしく織斑先生の言葉を受け入れる素振りを見せる。

 

「そしてもう一つ、二人も男性操縦者が出てきたこともお前が原因か?予めISの電源を入れておけば不可能ではないはずだ」

 

「だとしたら現在進行形でISを動かしてることと辻褄が合わないよ。いっくんはともかく、もう一人の子に関しては不特定多数に一気に実施したんでしょ?特定の誰かが触るタイミングに合わせて電源を入れるなんてそんな面倒くさいことしないよ」

 

「そうか。だとしたらあの二人はなぜISを動かせる?」

 

「それは束さんにもわかんないなあ。特定の一機だけしか動かせないとかならその機体のバグって説明がつくかもしれないけど、そうじゃないでしょ。だとしたらこの束さんでもお手上げだよ」

 

「…」

 

束の言葉に織斑先生は黙って耳を傾けていた。

 

「聞きたいことはそれだけ?」

 

「…ああ。邪魔したな」

 

そういって織斑先生は束のもとから去っていった。束はその後もじっと海岸線を見つめているのだった。

 

 

翌朝、生徒たちは旅館の方にお礼を告げ、各自のバスに乗り込んでいった。

美春と一夏が乗っている1年1組のバスで点呼が取り終わり、発車しようとしたその時、謎の女性が一人バスに乗り込んできた。

 

「ちょっと失礼。…貴方が織斑一夏君ね」

 

女性は一夏に近づいていき、一夏に尋ねる。

 

「そうですけど、俺に何か?」

 

「私はナターシャ・ファイルス。銀の福音のパイロットよ。あの時は助けてくれてありがとう」

 

そう言ってナターシャは一夏の頬に軽くキスをする。バスの中から小さな悲鳴が上がる。

ナターシャは一夏から離れると今度は美春の方に向く。

 

「貴方がもう一人の男の子ね。戦いを中から見てたわ。なかなか素敵なダンスを踊ってくれるじゃない。将来が楽しみだわ。また会えるのを楽しみにしているわ」

 

そう言ってナターシャはバスから降りて行った。

 

箒やセシリア、シャルロットが一夏に怨念を向ける中、バスは学園へと出発するのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。