翌朝、目の下に小さなクマを作った鈴を含め、全員無事に織斑先生へ原稿用紙10枚の反省文を提出した。
職員室の織斑先生に原稿用紙の束を手渡した際、美春と鈴は一瞬だけ視線を交わし、他の誰にも気づかれない程度の小さな苦笑いを共有した。
こうした悪夢のような経験をした数日後…
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「では今学期の成績表を渡す。出席番号順に取りに来るように」
教壇に立つ織斑先生が淡々と紙の束を生徒に配り始める。
そして美春の番。成績表を受け取ると織斑先生はこう一言付け加えた。
「ISに関する科目は上出来だ。今後も一般科目含め励むように」
「あ、ありがとうございます」
美春は席に戻り自分の成績表を改めて見直す。
1年生のISに関する科目では『IS運用実技基礎』といった実技科目はもちろんのこと『IS構造・整備概論』や国際法規や条約に関する『IS法規概論』などがずらりと並んでいる。美春はいずれもA以上の成績を取っており特に実技に関してはSだ。
(結構実技は自信あったけどまさかのSとはなあ…他の専門科目も感触通りで助かった)
続けて一般科目の方にも目を通す。世界史や物理基礎や数学などはBが並んでいるが、それ以外の科目は軒並みA以上の成績を残していた。
(うーん、理系科目と世界史がちょっと微妙か…暗記やら機械的な計算やら、机の上の勉強になると途端に苦手なんだよな。実機の構造を理解して整備する方がずっと分かりやすいし面白いし…)
美春が成績表と睨めっこしていると横から一夏が声を掛けてくる。
「美春、お前成績どうだった?」
「まあ、ぼちぼちってところかな。お前は?」
「一般科目は結構よかったんだけどIS関連がな」
(一般科目得意なんだ…結構意外だな)
美春が心の中で感心していると一夏から成績表の交換を持ち掛けられる。
見せて減るものでもないしと、美春は快諾する。
美春の成績を見た一夏は驚きの声を上げる。
「美春お前すげえじゃん!実技でSなんて!」
一夏が声に反応して織斑先生の出席簿の一撃が一夏に襲い掛かる。
(ご愁傷様…。さて一夏の成績は…。ってこいつ一般科目Aばっかりじゃねえか!まあ、ISに関してはCがちらほら見えるが…ちょっと見方改めないとな。次は勉強教えてもらおう)
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休み時間、セシリアやシャルロット、ラウラが美春の席に押し掛ける
「美春さん、聞きましたわよ!実技の評価がSですって!?」
セシリアがライバル心剝き出しで言い寄ってくる。
一方、シャルロットやラウラは納得といった表情だ。
「そりゃそうだよ。だって代表候補生以外であそこまで動かせる人なんて普通いないもん」
「うむ、単純な技術に加えて戦術も軸が通っている。加えてチームではあるが専用機の整備も自分でやってるしな。このくらいの成績は妥当だろう」
美春は一同の言葉にタジタジになるも、話題を自分から逸らそうとする。
「そういうセシリアこそ、IS科目の成績はいいんだろ?」
「当たり前ですわ!何たってわたくしはエリートですから」
胸を張るセシリアの手から彼女の成績表がはらりと落ちる。美春がチラッと見た限りでは実技やIS法規概論はSだったが整備の科目だけBに見えた。さすがのエリートでも得意不得意はあるようだ。
セシリアが慌てて成績表を拾い上げると何も見てないよなと目線で圧をかけてくる。
(突っ込むと面倒なことになりそうだから黙っておこう…)
そんなことを考えているとシャルロットが喜びの声を上げながら成績表を見せてくる。
「あのね、美春が丁寧に教えてくれたおかげで日本語の科目でS取れたんだ!本当にありがとう!またお願いするね」
「私も美春のおかげでよい成績が取れた。感謝する」
「いやあ、みんなが優秀なんじゃないの?」
そう言いつつも美春の顔はまんざらでもない顔をしている。
「美春、実は教師とか向いてるんじゃないか?ISの実技も教え方上手かったし」
一夏が横から入ってくる。
「今回は偶々だったって可能性もあるし…。次もいい感じにできたらそういう方向も考えてみるよ」
美春はそう軽く流した。
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「以上でHRを終了する。今から夏休みだが、くれぐれも浮かれぬようにな」
織斑先生がそう告げるとクラス中が歓喜の声で一杯になる。教室が騒がしくなる中、織斑先生は美春に声をかける。
「遠藤、後で職員室に来い。専用機の件で話がある」
「わかりました」
美春が織斑先生と共に職員室に向かうと、織斑先生は自身のデスクに腰を掛けて話を始める。
「お前の専用機についてだが、倉持技研が戦闘データの収集ついでにISの改修を夏休みの間に行ってくれるそうだ。会社についてはわかるな?」
「はい、打鉄を製造している企業ですよね?」
「わかっているなら問題ない。ただ、割ける人員がわずかなため基本性能の底上げなどはできないそうだ。あくまでも今のお前のISに搭載されている武装の付け替えや改良が主となる。いいな?」
「理解しました。向こうに武装の設計データとか渡したほうがいいですか?」
「ああ、そうしたほうがいいかもしれんな。私にデータを送ってくれればこちらで対応する」
「ちなみにいつ向かえばいいのでしょうか」
「1週間後とか言っていたな。後ほど地図をお前の端末に送っておく」
「ありがとうございます。こちらもなるべく早めに対応します」
「そうしてくれると助かる。話は以上だ。戻っていいぞ」
「わかりました。失礼します」
美春は職員室を後にする。
(武装の改良か…何してもらおうかな。…とりあえずクララ先輩達に連絡しなきゃだな)
美春は携帯端末を開き整備チームのグループチャットに今回の話と設計データの送付依頼を出しておいた。
美春が自室に戻ると一夏が自身の荷物をカバンの中に押し込んでるところだった。
「お。お帰り美春。千冬姉からはなんて?」
「ISの改修を倉持技研がやってくれるんだと。お前の白式作ったところ」
「すげえじゃん!美春今でも強いのにこれ以上強くなったらどうなるんだ…?」
「武装の改良だけだっていうからそんなに大きくは変わらないと思うけどな。それに機体性能だけで言ったらお前のISの方が遥かに上だぞ」
「はは、確かに。機体性能に置いて行かれないように俺ももっと強くならなくちゃな」
一夏は拳を握りしめて決意を固めたように言ってのける。美春は返事はほどほどに一夏のカバンに視線を移す。
「一夏は実家帰るのか?」
「ああ、7月いっぱいはな。掃除とか色々とやらなきゃいけないことあるし」
「織斑先生が時々帰ってるのにか?」
「千冬姉はああ見えて家事とかはあまり得意じゃないんだよ。今頃部屋は散らかり放題だよ」
一夏が苦笑いをすると美春は意外な事実に驚きを隠せない。
「あの織斑先生がねえ…。まあ頑張れよ」
「ああ。お前もいい機体に仕上がるといいな」
「ありがとよ。…俺もデスクの片づけでもするか」
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三日後、クララ先輩から武装の設計データと謎のレポートが送られてきた。何でもクララ先輩とルチア先輩は授業で作業レポートの提出を課されていたらしい。レポートに軽く目を通すと、武装の実装背景やそのあとに行った機体調整の記録、今後の展望などが事細かに書かれていた。
(今後の展望の欄に俺のやりたかったことほとんど書いてある…あの人たちエスパーか?)
美春は受け取ったファイルを織斑先生にそのまま送信した。
そしてそこから更に数日後…。
美春は1時間ほど電車に揺られて、倉持技研の製作所の正面玄関に立っていた。