一夏達とプールに行った翌日、美春は居ても立っても居られず、倉持技研の製作所を訪れていた。
昨日の疲れはまだ残っているが、新しくなった機体に触れることに比べれば些細なことだ。
受付で前回と同じように沙世を呼び出し、しばらく待っていると沙世が現れて美春に声をかける。
「あれ?座らなくて良かったの?」
「昨日友達とプール行ってきて、その時の筋肉痛が残ってて…」
美春は太ももをさすりながら沙世の質問に答える。
その話を聞いた沙世は羨まし気に呟く。
「青春だねえ…。プールかあ、久しく遊びに行ってないなあ。今度の休みに私も友達といって来ようかなあ」
「学園近くにあるところ行ったんですけど、縁日もできて結構楽しかったですよ」
「ああ、あそこね。いいよね、プールもおっきくて色々なアトラクションがあって…っと立ち話はこれくらいにして、早速機体のテストをするよ。ついておいで」
美春は沙世に続いて以前行った射撃場へと向かった。
射撃場に到着すると、両手に手甲を携えた打鉄・甲式とその奥には何人かの大人が美春の到着を待ちわびていたかのように立っていた。
「ああ、紹介してなかったね。奥にいるのが今回の改修に携わってくれた人たちね。皆さん、彼がIS学園から来た遠藤美春君です」
沙世の紹介に続くように美春は自己紹介と改修へのお礼を述べる。
「初めまして、遠藤美春です。今回は貴重なお時間をいただきありがとうございました」
「じゃあさっそく出来立てほやほやのこの機体に乗ってみて」
沙世に促され、美春は打鉄・甲式にそっと手を触れる。僅かな時間ではあったもののその再会は何年振りかに会う友人のように懐かしく感じられた。
美春がISを纏うと、改修に携わった人達が前回の沙世のように感嘆の声を上げる。
(何度同じ反応されてもこの感覚は慣れないな…)
美春が気恥ずかしさを覚えていると沙世から機体のチェックが入る。
「機体そのものは変えていないけど、どう?気持ち悪さとか違和感はない?」
「そうですね。強いて言うなら、両手に手甲があることに違和感があるくらいですかね。両腕の重さが同じっていうのがなんだか不思議で」
沙世は美春の言葉を受けて安心したかのようにそっかと軽く返答した。この違和感は今後乗り回していれば自ずと慣れてくるだろう。
「じゃあ、手甲に関してはもうちょっと慣れてきてから確認するとして、まずはアサルトライフルの試射からしてみましょうか。ご要望通り、両手に2丁持てるようにしてあるよ」
沙世からの言葉を受けて、美春は的のあるところに移動して両手にあの時触ったライフルを両手にイメージする。すると美春の両手には2丁のショートバレルのアサルトライフルが握られていた。
「展開は問題なしと。それじゃあ片手ずつ的に向かって撃ってみて」
美春は言われた通りに片手ずつ射撃を行う。普段射撃を行っていなかった右手での試射はやや弾道がブレるものの鍛錬で解決できそうなレベルだった。左右での違いを見て沙世はあることに気づく。
「へえ、遠藤君って左利きだったんだ」
「はい、実は。手甲を最初左手だけにしたのも利き手で防御できるようにするためでした」
美春の意外な事実に沙世はなるほどと腕を組み考え込む。どうやら彼女にとって誤算だったようだ。
「私はてっきり利き手を自由に扱うために手甲が左手にあるものとばっかり…そうなると機体の肘関節の調整とかは学園でやってもらったほうがいいかもね。どちらも同じくらいの手際で使えたほうが都合がいいでしょうし」
「そうですね。沙苗さん含めた整備チームに頼んでみます」
「そうしてもらえると助かるよ。さて、そろそろ手甲の確認に移りますか」
沙世はワクワクが抑えられないといった様子で次の試写の準備をする。
彼女が射撃場にある機械を操作すると、美春の目の前に大きめのサンドバッグが現れた。
「ここでは空砲だけだけど、ダンパーが機能しているかどうか確認させてね。前の動きを再現するために操作方法がちょっと特殊になってるからよく聞いてね。トリガーを短く引くとダンパーは固定されたまま反動が直接来る。トリガーを長めに引くとダンパーが作動して反動が抑制されるはずだよ。まずは今までのやり方から試してみて」
沙世に促されて美春はサンドバッグの前に立つ。そして深く腰を落として壊山拳の空砲を放つ。
サンドバッグが大きく揺れると同時に美春も反動を受けて後退する。右手でも同様の手順で確認を行い、従来の挙動が再現されていることを確認できた。
続けて、トリガーを長めに引くやり方を試してみる。壊山拳をサンドバッグに打ち込んでみると、サンドバッグは揺れたものの美春の機体は殆ど動かなかった。右手でも試してみたがこれも先ほどと同様だった。
あまりにも大きな変化に美春は驚愕する。
「凄い。全然反動が来ないや…」
驚きで固まってる美春に沙世が補足を入れる。
「これで戦術にも幅ができるんじゃないかな。あと、手甲で攻撃を受け止めた時もダンパーが作動するようになってるから防御面の負荷も軽減されるはずだよ」
「そんなところまで…。本当にありがとうございます!」
「いいのいいの。これに関しては新機構のダンパーを付けた結果の副産物みたいなものだから。おまけがついてラッキー程度に思ってくれたらいいよ」
沙世はそう言って謙遜するが美春にとっては大きな変化だった。
今まで攻撃も防御も体一つで受け止めてきたが、今回の改修によってその負担が大幅に軽減された。つまり体力を犠牲にする場面が少なくなり、継戦能力が向上したことを意味する。今まで短期決戦を心掛けていた美春だったがこれによって戦い方に余裕が生まれるようになった。
そんなことを美春が一人で考えてると沙世がコンソールを開きレポートのようなものを作成している。
「じゃあ最後に無事にテストできましたよーってことでここにサインくれる?大人の都合でどうしても必要なの」
沙世にそう言われると美春はISを解除し、コンソールの画面上にタッチペンでサインをする。サインをする左手をよく見ると中指にやや幅が広めの指輪が装着されていた。
それに気づいた美春が沙世に尋ねると彼女は思い出したかのように言い出した。
「そう言えば、今回データ収集と新機構の搭載をさせてもらったお礼にISの待機状態をちょっとオシャレにさせてもらったの。クールな感じが出てていいでしょ」
そういう沙世は少し誇らしげだ。恐らく彼女の提案なのだろう。
「そうですね。凄くかっこいいですし、日常の邪魔にならないのがいいですね」
「喜んでもらってなにより。ここでの試験は以上だよ。後は学園に戻って思う存分乗り回して頂戴。壊れたり、何かあったらすぐ連絡してくれて大丈夫だからね。何なら寧ろ壊してほしいくらい」
そういう沙世に美春は少し顔を引きつらせる。
「ええ…。こういうのって大事にするもんじゃないんですか」
「量産に持っていくには耐久性が命なの。乱暴な扱いしても壊れないくらいじゃないといくら革新的な技術でも採用されないからね。だからいっぱい使ってもらって壊してもらって、設計や素材を見直したりしてより頑丈なものを作っていくのが私たちの仕事なの」
「そういうことなら…遠慮なくいかせてもらいます」
「是非ともそうして頂戴。じゃあ入口まで見送るね」
美春は改修に関わった人達に再度お礼を言うと沙世に続いて射撃場を後にする。
ロビーに到着した二人は最後の会話を交わす。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。それと今後も長い付き合いになると思うから姉妹共々よろしくね」
「そうですね。引き続きよろしくお願いします」
「それじゃあまたねー」
沙世に見送られて美春は製作所から退出する。
美春は帰りの電車で整備チームのメンバーにメッセージを送ると、早く実戦で打鉄・甲式を使いたくてうずうずしながら学園への到着を待つのであった。