「待ってたわよ、美春!」
倉持技研から戻り、学園の格納庫に美春が向かうとそこにはいつもの整備チームのメンバーと鈴とラウラが待っていた。
鈴とラウラは昨日の疲れはどこへやら、闘志に満ちた眼差しで美春を見つめている。
「皆さん、今日は集まってもらってありがとうございます」
美春が到着早々に皆に向かって頭を下げる。
するとクララ先輩が代表して美春に返事をする。
「無事に改修が終わって何よりです。先ほど織斑先生から新規武装の詳細とメンテナンス手順の資料が送られてきたのでこちらの準備は万端ですよ」
美春が早速メンテナンス作業に入ろうとすると、鈴が待ったを掛けてくる。どうやら早く戦いたくて仕方がないようだ。
「メンテナンスは実戦が終わってからでも遅くはないでしょう?この間の模擬戦はラウラとやったから、今度はアタシとやってもらうわよ」
美春が整備チームに目線を移すと皆どうぞお先にと言わんばかりの表情だったので鈴の提案に乗ることにした。
「じゃあ、早速闘りますか」
「そうこなくっちゃ!ラウラ、しっかり見といてよ!」
「無論だ。この間の鍛錬の成果が出ているか確かめる必要もあるしな」
一同はアリーナへと移動する。本来事前にアリーナを利用するには事前に申請が必要なのだが、この状況を見越してかクララ先輩達が対応してくれたらしい。専用機同士の模擬戦ということもあり、申請はすんなり通ったとのことだ。
「さすが、先輩方は色々と見越していますね」
美春が感心していると今度はルチア先輩が返答をする。
「遠藤君が実戦好きなのはわかってたからね。それに1年生の代表候補生にも声をかけてあるって言うならやることはもう決まってるでしょ!」
美春は自身の思惑が見透かされていることに若干の気恥ずかしさを覚えつつも整備チームとの確かな絆が結ばれつつある事実を実感して胸が熱くなる。
(いい人たちに恵まれたなあ…。後で紹介してくれたエミリー先輩にもお礼言っておこう)
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アリーナに到着した美春たちは戦闘の準備に入る。美春側のピットには整備チーム、鈴側のピットにはラウラが付くことになった。
お互いISを身にまといアリーナのフィールドへと降り立つ。左右対称の見た目となった美春のISを見た鈴は感慨深い感情を覚える。それはまるで子供の成長した姿を見た親が抱くものと似たようなそれだった。
「随分と垢抜けた見た目になっちゃって…。ただの改修機じゃなくてもう立派なアンタの専用機になったわね」
「そう言ってくれてうれしいよ。けど変わったのが見た目だけじゃないってのを見せてやるよ」
「言うようになったじゃない。それならこっちも思い切りやらせてもらうわよ!」
クララ先輩の合図で戦闘が開始される。まず仕掛けたのは鈴だ。
彼女は2本の青龍刀、双天牙月を連結させるとご挨拶と言わんばかりに美春に向かって思い切りぶん投げる。
下手に回避すると刃がブーメランのように返ってくる特性を美春は知っていたため、ここは敢えて両手の手甲を縦に構えて防御の体勢をとる。
美春が回避行動に移る気配を見せないことに鈴は驚きながらもニヤリと笑って見せる。
(受け止めるつもりね。できるもんならやってみなさい!)
双天牙月と壊山護甲がぶつかり合うと鈍い金属音がアリーナに鳴り響く。双天牙月はバランスを崩して地面に落下したが、当の美春はほとんど衝撃を受けなかったようで、ほとんど後退せずに防ぎきって見せた。
(よし、手甲のバンパーは盾として使ってもちゃんと機能してる!)
予想外の展開に鈴は驚きの声を隠せないでいた。
「嘘!?アレを真正面から受け止めて姿勢も崩れないの!?それなら…!」
鈴は肩部の衝撃砲、龍咆を連射しながら美春に接近する。双天牙月の回収ついでに接近戦に持ち込むつもりだろう。しかしながら美春はその場から微動だにせず衝撃砲を受け止めているだけだ。
勝負ありと鈴が美春の目の前で攻撃体勢をとった瞬間彼女の足元から大量の煙が立ち込める。鈴が煙に目を取られている間に美春は目の前から気配を消してしまった。
(アタシが接近するのを敢えて待ってからのスモークグレネードでの攪乱…!美春らしいわね)
一方の美春は上空へと上昇して煙に向かって2丁のショートバレルライフルを構えて連射する。鈴が美春を探している間にも容赦なく弾丸の雨が彼女に降り注ぎ、シールドエネルギーを削いでいく。
鈴もやられるだけでなく弾道から美春のいる方角を予測して龍砲を放つが、美春は片腕の手甲のショットガンを空撃ちし、その反動で移動することで対処していた。
鈴が煙の中、完全に美春を見失ったその時。美春は鈴の真上から両腕の手甲のショットガンを上方へ向けて放ち、空撃ちの反動とスラスターの全推力を乗せ、直線的に急降下する。右脚を一筋の杭のように伸長させ、位置エネルギーと加速のすべてを足先に収束させた垂直の急降下蹴りを鈴の背後目掛けて叩き込もうとする。
が、間一髪のところで気づいた鈴が全速力で回避したことにより、蹴りは地面へと直撃し、その地表には大きなヒビができていた。
(避けられたか…。でも両腕を使うことで空撃ちの反動が大きくなってる。これは今後も使えそうだ)
美春が試運転の結果を冷静に分析していると、冷や汗をダラダラと垂らしている鈴から怒鳴り声が聞こえる。
「バッカじゃないのアンタ!?アタシを殺す気!?」
怒りと焦りで顔が真っ赤になっている鈴に対して美春は冷静に返す。
「悪い悪い。両手で空撃ちした時の動きを確かめたくてさ。なかなか良かっただろ?」
「軽々しく危ないことしてくれるわね…。それならこっちだって!」
鈴はそういうと双天牙月を解除して八極拳の構えをとる。よく見ると肩部の龍砲が後ろに銃口が向いている。
美春が鈴の様子を観察していたその刹那。鈴が美春の目の前に急接近し彼の腹部目掛けて強烈な突きを放つ。彼女もまた、龍砲の反動を利用して美春に接近して見せたのだ。
完全に不意打ちを食らって吹き飛ばされる美春だったが何とか受け身を取り、体勢を持ち直す。
ISの腕部から放たれた打撃をもろに食らったためか、美春のシールドエネルギーは大きく削れていた。
体勢を持ち直しつつも肩で息をしている美春に対し、鈴はどんなもんだいと胸を張る。
「どう?自分の技術を人に使われる気分ってのは」
「はあ…はあ…。予想してたよりもずっと嫌な気分だよ。こんなもんを俺は今まで打ち込んでたのかよ…」
美春は自分の技術が他者に使われることの恐ろしさを思い知る。しかも相手は自身の攻撃の型を叩きこんでくれた初めての師匠だ。応用しようと思えばいくらでもできるだろう。
美春は改めて一息つくと、自身も鈴と同じ構えを取る。
「あら、アタシと殴り合おうってわけ?いいわ、受けて立つわ!」
美春は鈴よりも速く両手のショットガンの反動を利用して加速し、接近する。そして下方向から壊山拳を叩きこもうとしたその時。鈴はその動きを読んでいたのか、前進中にもかかわらず龍砲を右側に向けて発射してその反動で自身の体を左方向へとずらす。壊山拳が不発に終わりその反動の隙を鈴が狙おうとするが、美春は左手の壊山拳が回避された段階でトリガーを引きっぱなしにして反動を抑えており、鈴の体は右手の壊山拳が届く距離にいた。そのことを見逃さなかった美春は鈴の腹部目掛けて右手で壊山拳を放つ。
直撃とは行かなかったまでも、鈴には十分な衝撃が伝わっており5メートル程吹き飛ばされる。
お互いのボルテージが跳ね上がり戦闘が激化しようとしたその時。
「そこまで!これ以上の戦闘は周囲に甚大な影響を及ぼすと考えられます。試験運用としてはこれくらいで十分でしょう」
クララ先輩の一言で模擬戦は終了となった。鈴と美春はそれぞれISを解除し互いを称えあう。
「やっぱりアンタやるわねえ。これ以上やったら地面が穴だらけになるところだったわ」
「そっちこそ。まさか俺が普段やってくることをしてくるなんて思わなかったよ。あのまま続けてたら俺が負けてたよ」
そういうとお互い大きな声で笑いあい、最後に抱拳礼を交わしてそれぞれのピットに戻っていった。
そして、その様子をアリーナの観客席で静かに眺めている一人の女性の姿があった。
美春がピットに戻ると整備チームから賞賛の拍手が送られる。
「…遠藤君、すごい試合だった。アニメの戦闘シーンみたいだった」
「最初の試運転の成果は上々ですね。初めてでこれならチューニングが上手くいった時が本当に楽しみです」
「だね!これは調整しがいのある機体とパイロットだよ!」
「さっきの試合、動画に撮っておいたから後でお姉ちゃんに送っておくね。きっと喜ぶと思う!」
予想以上の反応に美春は少し照れ臭くなる。
「いやあ、皆さんが作り上げた基盤がしっかりできていたからこそ改修も上手くいったわけで…。それにクララ先輩が言ってくれたように本当の調整はここからなので。今度は時間の制限がないのでゆっくりやっていきましょう」
美春が照れ隠しにそういうと整備チームのみんなは笑顔で頷いた。
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美春が寮に戻る道中、ふと誰かに付けられているような気配がして後ろを振り返る。しかしながらそこには誰もいない。もう一度歩き出すと後ろの気配がさらに強くなる。もう一度振り返るとそこには水色の外はねのショートヘアの女性が立っていた。
「あら。案外気付くの早かったわね。これも歴戦の戦士の勘ってやつかしら」
「更識生徒会長…」
彼女の名は更識楯無といい、このIS学園の生徒会長をしている。IS学園の生徒会長は選挙で選ばれるのではなく、ある一つのルールによって決められる。それは『学園最強』であること。つまり美春の前にはこの学園で最も強い生徒が立っていることになる。嫌な予感がした美春は思わず後ずさりをする。
「あー逃げないで!あなたに危害を加えるとかそういう意図はないから!」
「では、俺にはどういったご用件で?」
美春が怪しげに楯無に問いかけると彼女は飄々とした様子で答える。
「そんなに怖がらなくてもいいのに。そうね、用件はシンプルよ」
楯無の顔が真剣になる。
「あなた、生徒会に興味はない?」