「あなた、生徒会に興味はない?」
改修した打鉄・甲式での模擬戦を終えた帰り道、美春は生徒会長更識楯無から突然の提案を受ける。
飄々とした雰囲気をまとわせている彼女だが、その眼差しは真剣そのものだった。
美春は念のため、楯無の意図を確認する。
「それってつまり、俺をスカウトするってことですか?」
「端的に言えばそうなるわね」
「…理由を聞いても?」
楯無は淡々と続ける。
「ええ、勿論よ。あなたが打鉄を専用機として受領したって聞いてからずっとあなたのことを観察させてもらってたの。機体の改修から臨海学園での福音事件、そして今回の模擬戦。色々と見させてもらってあなたには素質があると思ったわ」
「具体的には?」
「そうね、まずは戦闘能力ね。代表候補生でもなく、ISの教育は他の子達と同じプロセスを踏んでいるにも拘らず、代表候補生と互角に渡り合える実力を持っている。一夏君にも同じことが言えるけど彼の場合は専用機の性能に依るところが大きいかしらね」
美春が聞こうとした一夏に関することを先回りされて答えられてしまい、言葉が詰まる。
そんな彼をよそに楯無は話を続ける。
「次に、素人とは思えない作戦立案能力。福音事件の作戦レポートがあったでしょ。あれは私も読ませてもらったの。レポートそのものの出来は普通だったけど、学生であそこまで密度のある作戦を考えられるのははっきり言って異常よ。それに密漁船が作戦範囲内に入ってきたときもあなたは守るか捨てるかの2択ではなく、作戦目標を移動させることで課題をクリアした。その思考の柔軟さも私が評価してるポイントね」
美春は一言も発さず楯無の話を聞く。どれも反論の余地がなく、間違いなく自分がやってきたことだからだ。
「そして最後に統率力。いくら小規模のチームといえど、メンバーに自分の要望を伝えてその通りに作ってもらうってのはなかなかできることじゃないわ。さっきの話とつながるようだけどあなたには目的地を明確化できる高い言語化能力があるわ。チームメンバーの士気も高いみたいだしあなたが皆から信頼されている証拠ね」
これには美春は思うところがあるのか、楯無の意見に反論する。
「最後に関しては少し違うと思っています。ここまで上手くいったのは彼女たちの能力の高さや人柄の良さが合わさっていたからです。俺はそれに乗っかってただけです」
美春の反論に楯無は淡々と返す。
「あら、知らない?チームマネジメントって優秀な人たちが集まっている方が難しいのよ。それぞれの個性がぶつかり合っちゃうからね。偶然かもしれないけれどあなたは個性の分散をチームビルディングの段階から上手くやってのけた。それが今の成果につながっているんじゃないかしら。どう?納得できたかしら?」
完全に論破されてしまった美春は諦めたのか、ため息をひとつつくと楯無に尋ねる。
「あなたが俺を評価しているのはわかりました。で、俺に何をやらせる気です?」
「納得してくれたのなら何より。で、あなたには副会長をお願いしたいと思っているの。今ちょうど空席だしね」
「それに関しても理由を聞いてもいいですか?1年生で副会長というのはいくら何でも…」
「疑り深いのねえ。でもそれは賢さの裏返しとして受け取るわ。確かに副会長ともなれば会長の次に強いくらいじゃないと不自然というのもわからなくはないわ。でも私が欲しいのは力よりも頭脳の方。私が席を外してるときに代わりに指示を出せる人間じゃないとこういうのって務まらないでしょう?それで君をスカウトしに来たって訳」
「それって俺の得になるんですか?雑務で自分の練習の時間が削がれるのは嫌なのですが」
「そこに関しては先生と交渉してあなたが時間外でもアリーナを使える手筈にしてあるわ。どう?これでもまだ文句あるかしら。それにこれは私の見立てだけど、あなた誰かに振り回されるの嫌でしょ?このポジションはそういう面倒なことから回避できる権利を得られるチャンスでもあるのよ」
楯無の言葉に美春は思わずハッとする。完全に図星を突かれたからだ。美春は色々なことに巻き込まれはしたものの、その過程では必ず自分の意思を持って動いていた。副会長になれば面倒事を引き受ける機会も多いだろうが、それ以上に美春の意思で動かせる物事の範囲が広がるという点は彼にとってはメリットになる。ここまで材料がそろっている以上、美春が断る理由がない。
「わかりました。その提案、乗ります」
「交渉成立ね。ようこそ、生徒会へ」
そういって楯無は怪しげな笑みを浮かべると顔の目の前で手持ちの扇子を開く。そこには筆字で『歓迎』の二文字が書かれていた。
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楯無は早速美春を生徒会室まで案内する。美春は楯無の後に続くが、彼女の背中は一切の隙がなく、いつ襲われても構わないといった雰囲気を漂わせていた。
美春が後ろから観察していたことに気づいた楯無は悪戯っぽく笑いながら冗談を飛ばす。
「ここで生徒会長の座を取ろうとしてきても構わないわよ?でもお姉さん、乱暴なのは嫌だなあ」
美春がそんなことしませんよと軽く冗談を受け流していると、生徒会室のドアの前に到着する。
「ここが生徒会室よ。改めてようこそ、生徒会へ」
楯無がそう言ってドアを開けると西日の日差しが室内を明るく照らしていた。そこには既に2名の生徒会役員と思われる生徒がいた。
楯無は二人に美春の紹介をする。
「二人とも、今日付けで副会長になった遠藤美春君よ。仲良くしてあげてね」
紹介を受けた二人は各々自己紹介をする。と言っても一人は顔見知りなのだが。
「初めまして。会計の布仏虚(のほとけ うつほ)です。よろしくね」
「書記の布仏本音だよ~。改めてよろしくね、えんどぅー」
さっきの模擬戦で本音の姿が見当たらないと思っていたらこんなところにいたのかと美春は少々呆れつつも二人に挨拶をする。
「じゃあ、副会長の席はそこだから。ちょっと座ってみて」
楯無に促されて生徒会長の隣の席へと向かう。机の上には黒い札に金色の文字で生徒副会長と書かれたものが置いてあり、ひと際存在感を放っている。
美春は言われた通りに席に着くと、生徒会一同から拍手を送られる。
美春が照れくさそうにしていると楯無から今後の仕事についての話をされる。
「さてと、副会長も無事決まったことだし、早速お仕事をお願いしようかしら」
そう言って楯無は生徒会長の机の引き出しから書類の束を持ち出して美春の前にどんと置く。
「お願いしたいことは二つ。まず一つ目は一般生徒および代表候補生を含めた、次期合同訓練のメニュー策定とアリーナ運用案の見直しよ」
「…そういうのは教師陣がやることでは?」
美春は楯無に素朴な疑問をぶつける。
「普通の学校ならね。でもここはIS学園。ISに関する取り決めはより現場のことを知っている生徒会の権限の方が強いことがままあるの。それに…」
楯無は美春の顔を覗き込むようにニヤリと微笑む。
「自分と整備チームが自由にアリーナを使える枠を公然と組み込めるわよ?副会長権限でね」
美春はそういうことかとフッと笑うと書類の束を手に取る。
「そういうことなら喜んで引き受けますよ。で、もう一つの仕事は何ですか?」
そう美春が尋ねると楯無の顔つきが途端に暗くなる。後ろに立っている本音も何やら浮かばない表情をしている。
美春が不思議そうな顔をしていると、楯無はしどろもどろになりながらも話を切り出した。
「じ、実は…私の妹の簪ちゃんのIS開発を手伝ってあげてほしいの」
まさかのお願いに美春は目を丸くする。
「滅茶苦茶個人的なことじゃないですか。なんで俺に?」
楯無は今までの風格はどこへやら、シュンとなって話を続ける。
どうやら楯無の妹、更識簪は日本の代表候補生であり、本来なら倉持技研から専用機を受け取る手筈だったのだが、一夏や美春の存在が発覚したことで、人員の大半がデータ収集や男性搭乗者の研究に割かれてしまったらしい。そのため彼女の専用機は現在開発途中で放置されたままの状態とのことだ。
楯無も手伝う意思は見せてるとのことだが、彼女は一人で完成させると頑なに支援を拒んでおり、実際彼女一人での開発は難航しているとのことだった。
「…で、俺の出番ですか」
「あなたのチームビルディング能力を買ったのもこの件があってのことなの。あなたが悪いとは言わないわ。けど根を詰めてる簪ちゃんを見ていられないの。お願い、力を貸して」
そういって楯無は美春に向かって精一杯頭を下げる。先ほどの飄々とした姿からは想像もできない振る舞いだった。
こういう時に断れないのが美春の性だ。
「わかりました、それもやってみます。ただ、会長からの支援を拒んでるってことは副会長の俺がお願いしても同じことになりません?どうせ会長からの差し金でしょみたいな感じで」
「あ…」
楯無は完全に盲点だったようで口をポカーンと開けて立ちすくんでしまった。
「…そこまでは考えてなかったんですね。となると少し遠回りすることになりますが一つ考えがあります」
こうして美春の生徒会初仕事が始まるのだった。