「で、その役目に俺が選ばれたってわけか」
夏休みの最終日、美春は一夏と共に昼食を取りながらことの顛末を伝える。
美春の作戦はこうだ。まず、来月末にある専用機限定タッグマッチ大会のペア決めにおいて一夏を孤立状態にする。一夏と組みたがっている専用機持ち達は鈴とラウラに後日パフェを奢るという約束の下、各自別の専用機持ちとペアを組んでもらう。そこで組む相手がいなくなった一夏が簪に接触するという流れだ。
簪の開発をサポートする面々においては生徒会が予め準備はしているものの、悟られないように人選は一夏に任せることになった。恐らくは美春の整備チームからかそこを通じてメンバーを連れてきてもらうだろうと思われるため、近しい人間には既に声を掛けてある。
「そしたら、箒はどうなるんだ?あいつも所属は決まってないけど一応専用機持ちだろ?」
一夏の至極当然の質問に美春は答える。
「箒にはウチの会長が声を掛けるんだと。なんでも紅椿の仕組みが気になるとかなんとかで」
一夏はふうんと納得したような素振りを見せると豚肉の生姜焼きを口に放り込む。
美春が一夏の反応を伺ってると再度一夏が質問を投げかけてきた。
「ところでさ」
「うん」
「それに乗ることで俺に何の得があるんだ?」
至極当然の質問に美春は答えに詰まる。美春に手札がないわけではないのだが。
「それは、その…会長直々にご褒美をあげるらしくて…。詳しくは二学期が始まってからのお楽しみってことで」
「そうか。ところでお前は出ないのか?」
「俺は当日の運営やら何やらで忙しいから今回はパスだ。学園所属だから特に俺の活躍を見せなきゃいけないお偉いさんもいないしな」
「そういうことか…となると俺のペアはどう頑張ってもその簪さんしか残ってないわけか。そういうところ用意周到だよな、お前」
一夏は半分呆れたようにため息をつく。美春は心が痛むがこれも仕事のうちなのだ。
「この話を会長にしたら悪党みたいだって言われたよ」
「はは、違いねえ」
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美春と一夏が部屋に戻ると、美春はそそくさと荷物の整理を始める。
「どうしたんだ美春?今更実家に帰るってわけでもないだろ」
「あ、ああ。どうやら二学期から部屋割りが変わるらしくてな。俺は別の部屋に行くことになった」
「そうか…折角男二人で好き勝手やってたのにな」
「それに関しては心底同意だが、上が決めたことだしな」
美春は残念そうに荷物をまとめると一夏の部屋から立ち去ろうとする。
「じゃあな一夏。今度のルームメイトとも上手くやれよ」
「ああ。そっちもな。ところで…」
そう一夏が言いかけたところで美春は部屋を出て行ってしまった。
「俺のルームメイトは誰なんだ?」
一夏の素朴な疑問が一人の部屋にこだまする。一夏は次もどうにかなるだろうと半分あきらめ気味にベッドへと寝ころんだ。
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そして始まった二学期。始業式で美春の生徒会副会長の任命が正式に承認されると、美春は演説台に立ち、所信表明演説を行う。
「この度、副会長に任命されました、遠藤美春です。本来ならここで、皆さんに輝かしい抱負や立派な目標を語るべきなのかもしれません。ですが、私には男のIS操縦者であること以外に何もありません。一学期を無事に終え、こうして二学期を迎えられることができたのも先生方を始め、クラスメイトや私の機体のメンテナンスに携わってくださった先輩方の力添えがあってこそです」
美春がそういうと整備チームの面々は誇らしげな顔になる。
「―ですから、今副会長という立場を通じて皆さんに恩返しをする時だと。そう決意いたしました。1年生故に至らぬ点は多々あるかと思いますが、皆さんの学園生活がより豊かになるよう精一杯尽力いたしますので何卒よろしくお願い申し上げます」
美春が頭を下げると一同から盛大な拍手が送られる。印象付けは上々といったところだ。
演説を終えて舞台から掃けると舞台袖には生徒会の面々が美春を待っていた。
「なかなかにいい演説だったわよ、副会長さん♪」
「1年生にしては非常に堂々としてしゃべれていました。素晴らしいことです」
「なんか心の底がうおーって熱くなる感じだった~」
「皆さんありがとうございます。改めてよろしくお願いします」
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始業式を終えて美春は皆と一緒に教室に戻るとクラスメイトから質問攻めに遭う。
ラウラと一夏には既に伝えてあったため主にセシリアやシャルロットが美春に言い寄ってきた。
「美春さん!いくら貴方の実力が高いとはいえ、このわたくしを差し置いて生徒会に入るとは一体どういうことですの!?」
「ねえねえ、立候補?それとも会長からのスカウト?」
美春はたじろぎながら質問に答えていく。その様子を見ていた一夏とラウラは苦笑いを浮かべながら美春を見守るのだった。
「HRを始める。席につけ」
織斑先生が教壇に立ち、二学期の時間割や席替え、そして今月末に行われる専用機限定タッグマッチの告知を行う。
一夏と絶対に組んでやると闘志を燃やす箒やセシリア、シャルロットを横目に美春はラウラと一夏に目配せをするのであった。
HRが終わり教室や廊下の掃除の時間となった途端にラウラはシャルロットに、鈴はクラスを飛び越えてセシリアへと声を掛ける。説得する方法は各自に任せてあるのだが、ラウラは美春が参加しないことへの寂しさを利用した泣き落とし、鈴は一学期に果たせずにいたリベンジを理由にして何とかペア結成まで漕ぎつけていた。
箒はというと、一夏に声を掛ける寸前のところで楯無に呼び出され、渋々教室を後にするのであった。
(これで手筈は整った。後は頼んだぞ一夏…!)
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二学期最初の日はこれにて終了となり各自解散となった。
一夏は昼食前に美春から聞かされていた新しいルームメイトの確認をしに自室へと戻る。
一夏が部屋のドアを開けるとそこには一サイズ大きめのワイシャツを羽織った楯無が待ち構えていた。
「お帰りなさい。お風呂にする?ご飯にする?それとも…」
楯無は胸元を強調して一夏に言い寄る。
一夏が慌てふためいてるとその姿を見て満足したのか、楯無はワイシャツを脱いで種明かしをする。
「じゃーん♪下は水着でしたー♪」
「ご褒美ってこれのことですか…」
一夏は呆れたように楯無に尋ねる。
「そう、私との同室になれる権利がご褒美よ。どう?喜んでくれた?」
「いきなりこんなことされたら誰だって慌てますって」
「それは何?お姉さんの魅力に惑わされてってこと?」
そう言いながら楯無は水着姿のまま一夏に迫る。
一夏は顔を赤くしながら投げやりに答える。
「そういうことでいいですから、制服でも何でも着てください!」
「あら♪やっぱり男の子だったのね。喜んでくれて嬉しいわ」
そういう楯無はいつの間にか普段の制服姿に着替えていた。そして顔の前に広げた扇子には『魅了』の文字が書かれていた。
楯無が制服姿になったことで落ち着きを取り戻した一夏は改めて挨拶をする。
「初めまして、織斑一夏です。例の件については美春から聞いています。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも。更識楯無よ。簪ちゃんのこと頼んだわよ」
そういう楯無に対し、一夏はある一つの疑問が浮かんだ。
「一つ質問いいですか?」
「ええ、お姉さんに何でも聞いてちょうだい」
「同室なの簪さんにばれたら俺まで生徒会長の差し金だと思われませんか?」
「あ…」
一夏に核心を突かれた楯無は口をポカンと開けて立ちすくんだまま動かない。
外の風の音がうるさく感じるほどの静寂がしばらく流れていると楯無がベッドに座り込んで頭を抱えた。
「そこまで頭が回らなかったわ…」
「何やってるんですか!美春がここまでお膳立てしてくれたのに俺までばれたら台無しじゃないですか!」
「だって一夏君がこの案に乗ってくれる理由が見つかんなかったんだもん!」
楯無は先程までの余裕を完全に無くし、今は駄々をこねる子供のようにわめいている。
こうして美春の作戦は波乱の幕開けとなるのであった。