楯無の思わぬ行動により作戦が台無しになる可能性を危惧した一夏と楯無は美春に通話をかける。二人が同室にいることで色々と察した美春は頭を抱えながら苦言を呈す。
「急な部屋割り変更だったんでもしかしたらと思ったら本当に同室にするとは…。会長、まだ付き合い短いですけど、妹のことになるとてんでダメですね」
美春の言葉に楯無はしゅんとなって謝罪をする。
「ごめんなさい…。関わってくれる人にはちゃんとお礼をしないとって」
「その誠実さは良いところですけど、今回は裏目に出ちゃいましたね。とりあえず二人の接触は出来る限り最小限にしてください」
「この場でいうのもあれだけど…。一夏君にISの指導してあげるのはダメかしら?」
「まあそれくらいなら…。簪さんは格納庫に籠りきりって聞いてますし、わざわざアリーナに顔を出すことはしないでしょう」
美春がそういうと楯無の表情がわずかに明るくなる。
「ただし二人が一緒に入室しているところは見られないようにしてくださいね」
「わかりました…」
美春がくぎを刺すと楯無はまたしゅんとなって返答する。
通話が終了すると一夏と楯無は今後について相談する。
「…とまあ、そういうことになったから色々と気を付けてやっていきましょう。ところで、簪ちゃんにはいつ接触するつもりなの?」
「ひとまず明日の放課後に声をかけてみようと思います。タッグマッチの話を切り出してそこで彼女の反応を見てみます」
「そう、迷惑かけるけどよろしくね」
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そして翌日の放課後。一夏は一人でISの格納庫に訪れていた。簪を探して奥まで進んでいくと、一番奥の一角に一人の少女と彼女の専用機と思われるISが大量のケーブルに繋がれて佇んでいた。一夏は簪と思われる少女に近付き声をかける。
「あの…更識簪さんだよね?」
楯無と同じ水色のショートヘアの少女は一夏の言葉には一切反応せず、黙々と作業を続けている。
「今度ある専用機限定タッグマッチについてなんだけど、俺とペアを組んで貰えないかな。知り合いみんなペアが決まっちゃったみたいで」
簪は一瞬だけ手を止めたが一夏の方には顔を向けず、突き放すように言葉を発した。
「男の子ならもう一人いるでしょ。その人と組めば?」
「俺もそう思ったんだけどさ、そいつ大会の運営で忙しいらしくて今回は出ないって言うんだよ。それで更識さんを紹介されたってわけ」
一夏の言葉に一応納得はしたのか彼女は反論せずに作業を続けている。
一夏は沈黙による気まずさと彼女の冷徹な反応から一刻も早くここからいなくなりたい気持ちに駆られるがギリギリで踏ん張っていた。
しばらくの沈黙の後、簪から再度返答が来る。
「残念だけど、私も今回は参加しないよ」
簪は淡々と自身の不参加を一夏に告げる。既に知っていることではあるが一夏は恐る恐るその理由を問う。
「その…理由を教えてもらってもいいかな」
「見てわからない?私の専用機、完成してないの」
簪はまるでそれが些細なことであるかのように返す。
「なら話は簡単だ。俺がてつだ…」
「申し訳ないけど、あなたの助けはいらない」
簪は冷徹に一夏の援助を拒否する。一夏もこの返答を想定していなかったわけではないが、いざ実際に言われるとなかなかに来るものがある。一夏はもう一歩踏み込もうとしたが、美春の言葉を思い出す。
(あいつ、確か時間をかけて説得してくれって言ってたよな…)
ならここは敢えて引き下がって出直すのが得策かもしれない。そう思った一夏は踏み込んだ足を元に戻した。
「わかった。けど俺はあきらめない。また来るよ」
そう言って一夏は格納庫を後にした。格納庫には機械音と簪がコンソールを操作する音だけが響き渡っていた。
格納庫から自室に戻った一夏は念の為美春に連絡を入れる。
「やっぱり拒否られたか…まあそうだよな」
「お前の忠告通り、深く踏み込まないで帰ったけど本当にこれでいいのか?」
一夏は感触の悪さを肌で感じていたからか不安をまっすぐに美春に伝える。
「いいかと言われたら微妙だが、とにかく毎日足を運ぶことだ。そしたらその内しびれを切らして向こうから突っかかってくるはずだ。踏み込むのはその時だ」
「わかった。お前の言葉を信じるよ。副会長殿」
「その呼ばれ方まだ慣れないんだよな…」
一夏は美春とその後軽い談笑を交わし通話を切った。一夏は美春から言われたことを心の中で反芻する。
(毎日足を運んで向こうから来るのを待つ、か。あんまりこういうのは得意じゃないけどやってみるしかないか)
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翌日の放課後、一夏が格納庫の最奥へ再度足を運ぶとそこには簪の姿があった。一夏は深呼吸を一つ挟むと気さくな雰囲気で簪に話しかける。
「やあ、更識さん。また来たよ」
簪は一夏の呼びかけに応じずコンソールと向き合っている。これは今日も手強そうだ。
二人だけの沈黙がしばらく流れていると簪がふと口を開く。
「今日は説得しないんだ」
「ああ、昨日断られちゃったからな。同じこと言っても仕方ないと思って」
「じゃあなんで来たの」
顔をこちらに向けてはいないものの簪から疑惑の目が一夏に向けられているのは確かだった。
「諦めてないから、かな」
「何度来ても同じだと思うけど」
「それは実際来てみないとわからないさ。今日だって更識さんから話しかけて貰ったし」
一夏がそう言うと簪はハッとしたのかコンソールを操作する手が止まる。
「でも、あなたの助けを借りないのは変わらないから」
「わかった。じゃあまた来るよ」
そういって一夏は格納庫を後にする。簪は己の行動の変化に困惑して固まってしまったのかコンソールを操作する手が止まりっぱなしだった。
こうしたやり取りが続いて数日後。週末の休日になっても一夏は簪の所へ訪れていた。
一夏がいつものように簪の後ろに腰を下ろすと早々に簪から苦言を呈される。
「いい加減しつこいんだけど?」
「言っただろ?俺は諦めないって」
同じ言葉の繰り返しに飽き飽きしていた簪はため息をつくと一夏に問いかける。
「ペアがいないのは分かったけど、どうしてそんなに大会に出たいの?」
一夏は簪からの意外な問いに驚きのあまり立ち上がりそうになったが、グッと堪えて冷静さを取り戻し自身の思いを語り始める。
「俺はさ、強くなりたいんだ」
「…何のために?」
「みんなを守るために。ここに来るまではさ、千冬ね…織斑先生に守られてばかりだったんだ。俺はそれが嫌でしょうがなくて」
簪は手を止めて一夏の話に耳を傾ける。
「けどISに乗れるってことがわかって、誰かを守れる力を手にしたときに思ったんだ。もっと強くなってみんなを守れるようにならなきゃって。そのためにはとにかく練習だけじゃなくて実戦も積まなくちゃいけないんだ。そしてその数少ないチャンスが今度ある専用機限定タッグマッチなんだ。それが俺の理由かな」
一夏の言葉に簪は共鳴するところがあるのを感じていた。自分にも完璧な姉がいて、そして自分はそんな姉に守られてばかりで。守られるだけの自分だけじゃいけないと思って開発途中のISを無理言って引き取って今こうして一人で成し遂げようとしている。ただそれにも限界があることを薄々彼女は気づいていた。
「私も…同じかも」
「え?」
「私もずっと守られっぱなしなのが嫌で…。自分でもできるんだっていうのを見せたくて一人でこの子の開発をやってた。けど、そもそも戦場に立てなきゃ変われないよね。私、この機体を早く完成させたい。戦場に立って、守られるだけの存在じゃないってことお姉ちゃんに証明したい」
簪のひたむきな思いを受け取った一夏はすっと立ち上がり彼女に手を差し伸べる。
「もしよければ、その思い、俺にも手伝わせてもらえないか?」
簪はゆっくりと立ち上がり一夏の方へと向き直る。姉の楯無と違ってややたれ目で髪の先端が内側に跳ねている大人しそうな顔立ちだがその眼には確かな闘志が宿っていた。
「あなたの誘い、乗らせてもらう。それと私のことは簪でいい。苗字で呼ばれるのあんまり好きじゃなくて…」
そう言って簪は一夏の手を取る。
「わかった。よろしくな、簪」
「よろしく、織斑君」
こうして同じ想いを背負ったもの同士のタッグが今ここに誕生した。