クララ先輩が簪のIS開発メンバー集めに奔走している一方、美春は専用機限定タッグマッチに向けての準備を行っていた。
ここまで様々なイベントが外部からの乱入者や機体トラブルなどで中断されていたため、今度のイベントの完遂は生徒会は勿論、学園の威信を賭けた重大なミッションとなる。
しかしながら、美春はその学園の防衛策について頭を悩ませていた。
(…過去に強固な防衛システムの構築を学園側から国へ要請はしたが、学園内で解決に至ったために却下、か…。しかも下手に強固な防衛システムを作ってしまうと学生達の不安を煽ることになりかねないとも記録には書いてあるな。国のお偉いさんには中々事の重大さは伝わらないもんだな)
美春は学園側が決して無策ではなかったことに安心感を覚えつつも、肝心の国からの承諾が下りなかったことにやり切れない思いを抱いていた。
(そして、内部トラブルのリスクについては懸念点がいくつか挙げられてたな。VTシステムに関しては対応済として処理するとして、読めないのが一夏と箒と更識姉妹のISか…。会長が何か仕組んでるとは思えないし、簪の機体に関しても現状中止になるレベルのトラブルは上がってきてない。一夏と箒については会長が目を光らせているし、何とかなりそうだが…、いざ何か起きた時はトラブルを起こした側を強制的に失格にして教師陣が機能停止まで持っていける体制を作っておけば何とかなるかな)
美春は学園の防衛案に関する資料をコツコツとまとめていく。
(今まで中止になるレベルのトラブルになったのは警備の初動の遅さが大きな原因だよな。そこさえクリアすれば何とかなると信じたい…!)
美春は一縷の望みを込めて資料を完成させる。ひと仕事終えた美春は背もたれにもたれかかり大きな息を吐く。
(あ、サイバーセキュリティのこと考えるの忘れてた。…これに関しては虚先輩に任せよう)
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数日後、ISの格納庫には一夏と簪に加えてクララ先輩含めた数名の生徒が集っていた。
「やっほ~おりむー、かんちゃん」
思わぬ顔見知りの登場に簪は思わず声が出る。
「本音!?どうしてここに?」
「機体バランスの調整係として先輩に呼ばれたんだよ~。経験はあるから任せといて~」
本音はぶかぶかの袖を振ってうれしそうな様子で簪に答える。
「簪とのほほんさんは知り合いなのか?」
「のほほんさん…?あ、本音のことね。彼女とは幼なじみなの」
一夏へえと一言だけ言うと集まった面々を見渡す。
(美春のチームにいた黒沢さんと、のほほんさんと…後は知らない人ばっかりだ。クララ先輩、本当に一からメンバーを集めてくれたんだな)
クララ先輩の人脈の広さに感心した一夏は彼女にお礼を述べる。
「クララ先輩、ありがとうございます。こんなにメンバーを集めてくださって」
「いいえ。私のクラスメイトからプログラミングに長けている人を数名連れてきただけですから」
クララ先輩はなんてことないかのように答えるが、それでもクラスメイトの素質を把握して適切なメンバーをそろえるなんて芸当は並大抵の人間にできることではない。
クララ先輩は一夏に近寄ると彼にだけ聞こえるくらいの小さな声で耳打ちする。
「実は会長から事前に候補をもらっていまして、それのおかげもありますね」
「なるほど…理解しました」
一夏は小さく頷くと簪に視線を移す。
「簪、みんなに挨拶しなきゃだな」
「え!?ああ、うん。そうだね…」
普段一人で作業をしていたからか簪はぎこちない様子で集まったメンバーの前に立つ。
「えっと…。皆さん、私のために集まっていただいてありがとうございます。プログラムは私も少し弄っているので、皆さんの助けになれると思います。よろしくお願いします」
そう言って簪は頭を下げる。一同からは小さな拍手が送られる。
軽く顔合わせが済んだところでクララ先輩が一同に呼びかけるように指示を出す。
「まずはこの機体を飛べるようにすることが第一目標です。皆さんお願いします」
集められたメンバークララ先輩の声に頷くと早速作業に取り掛かる。
プログラミングに関しては一夏は全くの素人のため簪や他のメンバーが作業しているのを眺めていることしかできなかった。
しばらくすると、
「織斑君、このリストに書いてある本を図書室から借りてきて!できるだけ急ぎで!」
「はい、わかりました!」
一夏に早速お使いの依頼が飛んでくる。そうだ。自分はこういう役割に徹すればいい。
一夏は自身の役目を再認識すると駆け足で図書室に向かっていった。
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一夏が大量の本を抱えて格納庫に向かっていると前方に美春の姿が見える。
「よう、美春。タッグマッチの準備のほうはどうだ?」
「まあぼちぼちといったところかな。お前のほうこそどうしたんだ?そんなに難しそうな本を抱えて」
「ああ、簪の機体開発のお使いだよ。これは多分プログラミングの参考書」
「なるほどな。俺は手を貸してやれなくて申し訳ないが、引き続き頼んだぞ」
「おう、任しとけ」
そういって一夏は駆け足で去っていった。美春はその後ろ姿に頼もしさを覚えるのだった。
そうこうしているうちに開発作業はどんどん進んでいく。
「かんちゃんのクセに合わせて~、足首の設定をちょっとだけ柔らかくしておくね~」
「でも本音、そうすると着地のバランスが…」
「大丈夫~かんちゃんバランス感覚いいし、柔らかくしといた方が着地からすぐ動けるからね~」
一同が作業に没頭している間、一夏は皆のためにおにぎりの差し入れを用意していた。
「皆さん、頭を使ってお腹すいてるでしょう。差し入れ持ってきたので少し休憩しませんか?」
「さすが織斑君!気が利くね!」
とある先輩生徒が一夏を褒めちぎる。
「いや、自分にできることと言ったらこれくらいなので…」
「それでも有り難いことには変わりないの。みんな!このおにぎりとっても美味しいよ!」
先輩生徒が皆にむかって声をかけると一夏のもとへぞろぞろと集まってくる。
「…本当だ。美味しい」
「おりむー家庭科の授業でもめっちゃ頼りになったもんね~」
一同がおにぎりを平らげるとクララ先輩が呼びかける。
「皆さん、PICプログラムの完成まであと少しです。週末には実地試験ができるように頑張っていきましょう」
一同が頷くと再度作業に取り掛かる。
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そして訪れた週末の昼。
アリーナのピットでISを展開した簪が待機している。
フィールドには万が一の備えとして一夏がISを纏った状態で待機している。
簪は出撃の指示を受けると一歩、また一歩と歩みを進めていく。
本音の整備が効いているのか非常に歩きやすい。
カタパルトに到着した簪はPICの起動シーケンスに移る。
「姿勢制御システム…クリア。空中機動システム…クリア。慣性制御システム…クリア。システム、オールグリーン。PIC、起動します」
コンソールに正常完了の文字が並んでいることを確認した簪はPICを起動する。すると簪のIS、打鉄弐式がわずかに浮かび上がる。
「織斑君、いよいよ飛ぶよ。準備はいい?」
「ああこっちはいつでもOKだ」
「よし…。打鉄弐式、行きます!」
簪の号令を合図にカタパルトが起動し打鉄弐式がアリーナの上空へと解き放たれる。
簪がスラスターを踏み込むと機体は姿勢を崩すことなく飛行することに成功した。
別室でその様子を見ていた開発メンバーは喜びで互いにハイタッチを交わしているのが見えた。
一夏も簪が天空を舞う姿を見て感慨深い気持ちになる。そして簪に続くように自身も天空へと飛び立つ。
「簪、調子はどうだ?」
「うん、いい感じ。空を飛ぶってこんなに気持ちがいいんだね」
「だろ?それじゃあちょっと俺に付いてくる感じでしばらく飛んでみるか」
一夏はそういうと簪を先導して飛行を開始する。一夏は楯無から教わった変則軌道を試しにやってみせると簪もそれに倣って空中を動き回る。動作は良好のようだ。
「飛行はバッチリだな。それじゃあ最後に着地だ」
簪は一瞬の不安が過るが、開発メンバーを信じて地面に向かって急降下する。
地面が近くなってきたところで足を地面に向けて、スラスターの出力を徐々に弱めながら着陸する。
「やった…!できた!できたよ織斑君!」
簪は歓喜の表情を一夏に向ける。一夏は簪の後に続いて着地をし彼女を称える。
「すごいじゃん!初めてでここまで動かせるなんて。さすがは代表候補生だな」
簪は一夏に褒められて照れくさくなったのか顔を少し赤くして一夏に笑顔を向ける。
こうして簪の機体開発の第一段階は無事に完了したのだった。