一夏から簪の飛行試験成功の知らせを受けて美春はニヤリと笑みを浮かべる。
早速、美春は楯無に通話をかけて状況の報告を行う。
「妹さん、ISの飛行試験を無事に終えたそうですよ」
報告を聞いた楯無はまるで親のように心の底から安心した声を発する。
「よかった~。簪ちゃん飛行にちょっと不安があったから心配でしょうがなかったけど、上手くいったようで何よりね。後は武装についてだけど、その辺はどうなってるか知ってるかしら?」
「何でも、一夏の武装データを流用するのとプログラムの簡素化をする方向になったみたいで、タッグマッチに間に合う目途は立ったみたいですよ。しかもプログラム簡素化の提案をしたのは妹さんだとか」
「え?あの簪ちゃんが!?」
楯無は妹の思わぬ行動に驚きの声を上げる。楯無が知る簪は自分から何かを提案したりするような子ではなく、大人しく自身の世界にこもりがちな少女だったからだ。
「しかも、多分そのプログラムって簪ちゃんが一番こだわってた武装のもののはずよ。それを自分から簡素化の提案をするなんて…」
「一夏と関わったことで、いい感じの化学反応が起きたみたいですね」
「…みたいね。あなたもしかしてそこまで見越してたりしないわよね?」
楯無は念のため、美春の思惑を確認する。もしかしたら自分以上の策略家の素質を秘めているかもしれないからだ。
「流石にそこまでは想定していませんでしたよ。タッグ結成だって妹さんが嫌々組むものとばっかり思ってましたし」
「そうよね。私も同じ事を想定していたわ。でもわからないものね…」
「こればっかりは人間ですから。まあ、今回はいい方向に傾いてくれたししばらく様子見でいいんじゃないですか」
「そうね。私は私の仕事に専念することにするわ。連絡ありがとね。それじゃあ」
そう言って楯無は通話を切る。彼女は天井を仰ぎ、妹の成長ぶりに感慨深い気持ちになる。
(いつまでも私が構ってたら、彼女のためにもならなそうね。少し淋しいけど…)
楯無自身もまた一つ、大人の階段を昇っていくのであった。
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楯無との通話を切った美春は改めて簪の機体開発が順調に進んでいることに安堵しつつも別の問題に頭を悩ませていた。
それは先日虚に対応を依頼していたサイバーセキュリティ対策についてだ。
一学期に発生した無人機襲来時に行われたハッキングは極めて不自然だったらしい。
本来、IS学園のアリーナの管理システムは学園のシステムとも分割された完全に独立したネットワークで動いているらしく、原則外部からの侵入は不可能な構造になっている。
仮にネットワークの問題をクリアしたとしてもアリーナのサーバー上に不正アクセスの記録が残っているはずなのだが、外部の担当者に調査してもらったところ、不正アクセスの痕跡が見当たらないとの事だった。
つまり襲撃犯は既存の通信方式とは違った方法でアリーナのシステムに侵入したことになる。
侵入した方法がわからない以上、対策の立てようがないというのが学園と国の見解だった。
(今ある通信手段を使わないでシステムに侵入する方法…そんなものあるのか?いや、現に侵入されたわけだから方法はあるんだろうけど一体どうやって…)
美春はとりあえずネットワークと名の付くものを一通り調べてみることにした。
(えっと…、ネットワークの例として挙げられるのはコンピューターネットワーク、意味ネットワーク、ニューロンネットワーク…最近ではISの中核部品であるコア同士のネットワークの概念が登場してきました、か…。ん?コアネットワーク?)
美春は聞き覚えのある単語に違和感を抱き、慌てて教科書をめくり始める。
コアネットワークに関する記述を見つけた美春は記載されている文字を一文字ずつ追っていく。
(コアネットワークとは、広大な宇宙空間での相互位置確認・情報共有のために開発されたシステムのことで、現在は操縦者同士の会話として、オープン・チャネルとプライベート・チャネルが利用されている。…もしかしたら)
ここIS学園のアリーナで何かイベントがある時は必ずISがアリーナ内に存在する。誰かしらが乗っているISのコアネットワークを通じればアリーナ内に侵入自体はできる。
(でもISのコアネットワークは基本的にはIS同士の通信でしか使えないはず。それを別のものにアクセスするような方法なんてあるのか…?)
ISのコアネットワークから外部のネットワークにつなげるなんてことは並大抵の人間にできることではないことは素人の美春でもある程度は理解できる。それこそISに余程精通している人間でもない限り。
(いた…!一人だけこのやり方でアリーナ内に侵入できる人物が…!)
―篠ノ之束。
世界最強の兵器をたった一人で考案し、ブラックボックスである『コア』を製造できる唯一の天才科学者。彼女自身、あるいは彼女と同等にコアのシステムそのものを理解している何者かであれば、コアネットワークという世界で最も安全かつ秘匿された通信網を裏口(バックドア)にして、学園が絶対に侵入不可能と過信していた独立システムを容易くハッキングできるはずだ。
(方法がわかれば後は他の通信手段でやってる定石の対策を取ればいい。この仮説を虚先輩に投げてみて、実際に対策が立てられそうか聞いてみよう)
後日、クラス対抗戦に参加していた一夏や鈴の専用機をはじめ、生徒たちが使用する予定だったISのコアネットワークの通信ログを確認すると、オープン・チャネルにて所属不明の通信があったことが判明した。これによりタッグマッチ当日はオープン・チャネルを遮断し、参加者及び警護に当たる教師陣は全てプライベート・チャネルのみで通信を行うルールが新たに追加された。
勿論、今回不参加の美春も例にもれずオープンチャネルを遮断する処置が取られた。
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武装のプログラミングが完了し、試運転とコンビネーションの確認を取る一夏と簪。学園最強の生徒とその生徒から指導を受けて着実に実力を伸ばしていった最新鋭の機体を駆る、楯無と箒。そして、各国の専用機持ち達。
役者達の準備は着々と進んでいき、いよいよ専用機限定タッグマッチ当日を迎えた。