戦闘描写やや多めです。
エミリー先輩からセシリアの専用機についての情報を聞いてから数日後、ついに決戦の日を迎えた。
ルールはセシリア、一夏、美春の3人による総当たり戦で、対戦順は
1.セシリア対一夏
2.セシリア対美春
3.一夏対美春
の順となる。男性陣の対戦カードが最後に組まれているのは観客の関心が一番多い点を考慮してのことだろう。
対戦順の都合で同じサイドのピットにいる一夏と美春はお互いを鼓舞し合う。
聞くところによると一夏は箒から剣道の指南しか受けておらずISに乗った経験はないらしく、美春に一抹の不安がよぎるが今言っても仕方がない。
「一夏、相手は代表候補生だ。手ごわいだろうが頑張れよ」
「ああ、こうなったら勝ってあいつをぎゃふんと言わせてやる」
続けて箒も一夏に檄を飛ばす。
「一夏、無様な負け方をしたら承知しないからな」
「わかってるよ箒、それじゃあ行ってくる」
こうして一夏はまだ機体調整も十分でない彼専用のIS「白式」を駆ってアリーナへ飛び出した。
公平を期すために美春はセシリアと一夏の対決を見ることができない。そのためピットを後にしてアリーナの更衣室で自身のイメージを固めていた。
10分ほどすると織斑先生が更衣室に入ってきて次の試合の準備に取り掛かるよう指示を受けた。
ついでに試合について聞いてみると一夏が戦闘中に第一形態移行(ファーストフェイズ)に成功し、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)なる特殊能力も発動させてセシリアを追い詰めたのだが、自身のエネルギー残量に気づかずエネルギー切れでセシリアの勝利となったらしい。
やっていることだけを聞くととんでもないことをしているなと美春は思ったのだが、織斑先生は納得がいっていないようであの馬鹿者が…と一夏の負けっぷりを嘆いていた。
美春がアリーナのピットに戻ると一夏をわが子のように叱る箒とそれを苦笑しつつも聞き入れている一夏に出くわした。
「よう、一夏。話は織斑先生から聞いたよ。惜しかったな」
美春が励ましを入れると箒が食って掛かる。
「あれのどこが惜しかったというのだ!大体一夏は昔からな…」
(ありゃ、これは下手に関わらないほうが良さそうだな…)
一夏の返事を待たずに美春は自身が駆るラファール・リヴァイヴの準備に取り掛かった。
準備を終えてカタパルトに立つと説教を聞き終えた一夏が美春に駆け寄る。
「美春、相手は手強いぞ。頑張れよ」
「それさっき俺が言ったことまんまじゃん。まあ、頑張ってくるよ」
出撃の指示が来たと同時に美春は勢いよくアリーナの中央へ飛び出す。
そこには多少の損害はあるものの自信たっぷりのセシリアが空中で待っていた。
「あら、あなたも来ましたのね。顔が見えないものだからてっきり本当に逃げたのかと」
「ルール知ってるくせによく言うよ」
「先ほどは苦戦しましたが、今度こそ完膚なきまで叩きのめして差し上げますわ!」
「お嬢様が使っていい言葉じゃないだろ、それ」
そんな軽口を言いあっていると会場アナウンスの声が聞こえる。
「両機の準備が完了しました。試合を開始してください」
「さあ、踊りなさい。ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
そういって彼女は2基の遠隔操作武装(ブルー・ティアーズ)を美春に向かわせる。
(これが先輩の言ってた例の武装か。ライフルとのコンビネーションに気を付けないとな)
美春は待ってましたと言わんばかりに上昇し、ブルー・ティアーズもそれを追いかける。
「遠藤君、あれを待ってたかのように見えましたが何か狙いがあるんでしょうか。」
山田先生が織斑先生に問いかける。
織斑先生は冷静にこう分析する。
「恐らく上昇することで遠隔射撃を下方向から来るものに固定するのが狙いだろう。1方向のみからの射撃であればいくら搭乗期間が1週間にも満たない遠藤でも避けるのはそこまで難しくはないはずだ。」
今回はアリーナの天井が開いているため限界高度は想定よりもはるかに高く、美春の作戦が機能する範囲はかなり広い。
しかしそれでもセシリアの射撃精度は目を見張るものがあり、弾道は美春の機体を掠める程度だがそれでも着実にシールドエネルギーを削っていった。
2基のブルー・ティアーズとの激しい空中戦を繰り広げている中で、美春はあることに気付く。
(そういえば、ライフルの射撃全然飛んでこないな)
物は試しにと思い美春は敢えて高度を落とし、自身の持つアサルトライフルの射程圏内に入ったところでセシリアめがけて数発の弾丸を放つ。
目の前の射撃を難なく躱したセシリアは即座にライフルを構えビーム射撃を放つ。
美春は予想外の弾速に戸惑いを覚えながらもすんでのところで回避し、再度射撃を放つ。
また同じ手かとあきれ顔のセシリアは再度弾丸を躱し、即座にビーム射撃を行う。
この一連のやり取りを経て、美春の違和感が確信へと変わった。
(てっきりあの遠隔武装で動かしたところをライフルで取ってくるのかと思ったけど、違う…彼女は両方を同時に動かせないんだ。現にさっきの射撃戦では遠隔射撃は一度も飛んできていない…!そうであるならば)
何かを思いついた美春はさらに高度を落とし、そして着地した。
「あら、もう降参ですの?さっきの方のほうがもっと根性ありましてよ」
「いや、あんたの奏でる音楽が単調すぎて飽きただけだよ」
「なんですって!?行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
美春の挑発に怒り心頭となったセシリアはブルー・ティアーズを美春に向けて更に猛烈な射撃を浴びせる。
しかしながら美春は意に介さず、地面を飛び跳ねながら遠隔射撃を躱していく。多少の被弾はあるものの彼自身に焦りの顔はない。
一方で教師陣は困惑の声で溢れかえっていた。
「織斑先生、遠藤君一体どうしちゃったんでしょうか…」
「落ち着いてください山田先生、ここからが彼の本領発揮です。」
織斑先生は何かを確信しているかのような顔つきで美春の様子を見ていた。
「ピョンピョン飛び跳ねてどこまでわたくしを愚弄すれば気が済むのですか!」
しびれを切らしたセシリアがライフルの銃口をこちらに向けた瞬間。
(今だ!)
美春は体のバネとスラスターのタイミングを同期させてセシリアに向かって猛スピードで跳躍する。
意図に気づいたセシリアは慌てて2基のミサイルを腰部から繰り出したが、美春があらかじめ投げておいたハンドグレネードに相殺された。
「…ッ!それなら…インターセプター!」
セシリアが叫ぶと彼女の右手が光り、棒状の物体が形成されていくのが煙幕の中から見て取れた。
それを見逃さなかった美春は煙幕から飛び出してすぐに彼女の右腕をはたき、出現したショートブレードを奪い取った。
「なッ…!」
呆気にとられているセシリアをよそに美春は上段の構えを取りセシリアの首元へと切りかかる。
(き、斬られる…!)
正にブレードが首元に触れるか否かのその瞬間。
――フッ
美春の持つショートブレードは突如光となって消え、セシリアへの一撃は空振りとなった。
(え?え?どういうこと?)
美春が混乱している中、一足早く冷静さを取り戻したセシリアがレーザーライフルでの射撃を行う。
美春は反応が遅れ、彼女の射撃は美春の背中に直撃した。
試合終了のブザーが鳴り響く。
「勝者、セシリア・オルコット」
「……」
織斑先生が苦虫を嚙み潰したような顔でアリーナのフィールドを見つめる。
「そういえば、使用制限の話は授業ではまだやっていませんでしたね。実践的な話ですし…」
山田先生がすかさずフォローに入る。
「だからこそ、怒るに怒れんのだ…」
織斑先生は頭を抱えてそう呟いた。
(俺、負けたのか…)
地面にうつ伏せになった状態で美春は自身の敗北を自覚する。
そこにやや顔を引きつらせたセシリアが降り立ってくる。
「危ないところでしたわ、にしてもあんなISの動かし方があるなんて正直驚きましたわ」
そう言って彼女は美春に手を差し伸べた。
美春は差し出された手を握って立ち上がりながらこう返す。
「それなら、やった甲斐があったってもんだよ。悔しいけど」
アリーナの観客席から拍手が響き渡る。どうやら美春の動きに驚いたのは彼女だけではないらしい。
「これでわたくしの2勝ですけれど、次の試合もいいもの見せてくださいね」
「ああ、もちろん」
セシリアと美春は固い握手を交わし、さらに拍手が沸き上がった。
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「さあ、来い!美春!」
「望むところだ!一夏!」
こうして最終戦の一夏対美春の対戦が始まったのだが、美春は白式の単一仕様能力「零落白夜」に成すすべもなく、わずか3分で決着がついてしまった。
「勝者、織斑一夏」