専用機限定タッグマッチの当日。アリーナの観客席には全校生徒をはじめ、企業の代表者や政府関係者などが集まり大いに賑わっていた。
楯無が関係者への挨拶回りに行っている間、美春は当日のサポート体制の最終準備に取り掛かっていた。
万が一怪我人が出た場合の救護室及び人員の確認、アリーナ内部及び周辺の警備を担当する教員の配置などやることは多い。
とは言っても警備に関しては織斑先生が最高責任者となっているため美春がやることと言えば教員が配置される場所や連絡経路の確認くらいなのだが、就任早々の身にとっては少々荷が重い。
美春が準備に追われていると織斑先生からプライベート・チャネルでの通信が飛んでくる。
「遠藤、聞こえるな?」
「はい、聞こえています」
「警備にあたる教員の配置が完了した。原則こちらで対応するが万が一のことがあったときはお前に連絡を入れる。忙しいところ申し訳ないがよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします。何事もないのが一番ですけど」
「違いない。では副会長、後は任せた」
そう言って織斑先生は通話を切る。
美春は深呼吸を一つすると、進行を担当する教員に準備完了の通信を入れる。
副会長として初の大仕事。無事にイベントが執り行われることを美春は祈ることしかできなかった。
今回出場するタッグは4ペアと少ないものの大会はトーナメント方式で行われることになっている。試合回数は1回戦を2回と3位決定戦、決勝戦と計4回となる。これはアリーナの稼働時間を減らすことで襲撃リスクを最小限にするという全会一致の判断によるものだった。
まずは一夏、簪のペアとセシリア、鈴のペアだ。双方の実力は拮抗しており、激戦が予想されるため開幕戦にふさわしい対戦カードだ。
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一夏、簪サイドのピットでは本音が二人分の機体の最終調整を行っていた。
「本音、大丈夫そう?」
簪が心配そうに問いかける。
「かんちゃんの機体もおりむーの機体も問題なしだよ~。思いっ切り対戦できるよ~」
「しかし、のほほんさんがここまで器用なのも以外だったなあ。二人分の整備をやるって言いだしたときは正気か疑ったよ」
「ふふん、私にかかればこれくらいは朝飯前なのだよ~」
そういって本音は腰に手をあてて胸を張る。彼女がこれほど頼もしいとは一夏は思いもよらなかった。
「それでは各機アリーナに入場してください」
ピットにアナウンスが入る。二人はそれぞれのISを纏い、アリーナへと飛び立っていく。
二人が入場すると、後から続いてセシリアと鈴が入場してくる。
「一夏さん、今日こそは負けませんわ!」
「アタシ達の力、思う存分味わうといいわ」
こうして専用機限定タッグマッチの一回戦が幕を開けた。
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美春はアリーナの放送室で虚と共に4人の対戦を見守っていた。
どちらも後衛機から先に叩く判断をしたようで、簪とセシリアがそれぞれ狙われていた。
鈴も一夏の攻撃からセシリアを庇おうとするが、零落白夜を恐れてかいまいち踏み込みが浅いように思われる。簪が展開する弾幕を盾に一夏がセシリアに猛攻を仕掛けていく。
セシリアはビットを操作している間自身が動けないという弱点を解消できていないのか、ミサイルの対応に苦労している様子が見て取れる。
(これは勝負ありかな)
美春が心の中でそう呟いた瞬間、織斑先生から通信が入る。
「遠藤、学園近海で所属不明の機体を確認した」
美春は試合から目を離し、織斑先生との通信に集中する。
「何か向こうから反応はありましたか?」
「担当した教員の話ではこちらの呼びかけには応じず、問答無用で襲撃されたとのことだ。更に厄介なのが、相手はISの絶対防御を貫通してくるらしい」
美春の顔が険しい表情になる。
「教員の方は無事ですか?」
「軽傷で済んではいるがISは戦闘不能に追い込まれた。他の教員が何とかアリーナへの接近を食い止めてはいるが、正直なところ突破されるのは時間の問題だ。しかしながら私は立場上ここを動くことはできない。今用意できる最大戦力は遠藤、お前になる」
「…出撃、ですね」
「ああ、最悪の場合命に関わる可能性もある。無理はするなよ。私も最終手段として出撃の準備はしておく」
「了解しました。すぐに向かいます」
美春が通信を切る。隣で通信内容を聞いていた虚は心配そうに美春を見つめる。
「遠藤君、無理はしないでくださいね」
「でも、教員がやられているんです。多少の無茶は覚悟しておく必要があります」
美春はそう言い残すと放送室から駆け足で出て行った。
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美春との通信を終えた織斑先生はやり切れない思いで歯を食いしばっていた。
(本来ならば私が出るべきなのだが、よりによって生徒に頼ることになるとは…!更識であれば話は別だが、副会長とは言えまだ1年生だぞ?一夏と同い年の少年を命の危険がある戦場に送り出すなど…。教員として以前に一人の人間として情けない…!)
織斑先生は拳を力いっぱい握りしめる。こうでもしないと自分がどうにかなってしまいそうだからだ。本当は今すぐにでも自分が出撃して対応したい、でもそれはできない。
織斑先生はただただ美春の無事を願わずにいられないのであった。
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美春はアリーナから出ると即座にISを展開し、教員が襲撃された座標へと向かう。
全速力で移動し、教員たちが数人で謎のISの対応しているのを目視で確認したとき、突如コンソール上に妨害電波受信のアラートが鳴る。
外部からの侵入経路は確かに遮断したがそれはあくまでもコアネットワークに限った話で、ISに直接干渉する電波に関しては対策はしていない。
(この妨害電波でISの絶対防御を無効化しているのか…?)
美春は相手が射程圏内に入ったことを確認すると両手の手甲のショットガンを空撃ちし、その反動で対象へと急接近する。相手の懐に入ったところで勢いのまま謎の機体の腹部に壊山拳を打ち込む。
美春の一撃をもろに食らった謎の機体は大きく吹き飛んでいった。
美春は今のうちに教員達に大声で呼びかける。
「ここは俺が引き受けます!先生方は他に襲撃者がいないか捜索に入ってください!」
美春の指示を受けた教員達は散開して捜索に入る。
すると美春に織斑先生からの通信が入る。
「遠藤、まだ聞こえる範囲にいるな?」
「はい、ギリギリですが」
「お前の目の前にいるISだが、負傷した教員のISのログを確認したところ、そいつの名前はゴーレムⅢであることが確認できた。以後同様の機体をそう呼ぶことにする」
「了解しました。とりあえずあいつに一発ぶち込むことには成功しました」
「そうか。ただ相手は教員を戦闘不能に追い込んだ強敵だ。油断はするなよ」
美春は通信を切り、目の前のゴーレムⅢに意識を向ける。
前回襲撃してきたISは確かにゴーレムの名に相応しい外見をしていたが今回の相手は少し違う。
細身のシルエットに赤いカラーリングのそれはゴーレムの名には程遠い姿をしていた。
(どっちかっていうと銀の福音に近い見た目してるな)
美春がそんな感想を抱いていると、ゴーレムⅢは美春の一撃がなんてこと無いような様子を見せている。
(やっぱり無人機か…装甲のない部分を殴ったつもりだけど手応えが硬かったし…)
美春が身構えているとゴーレムⅢは両手にブレードのようなものを展開し美春に迫ってくる。
絶対防御が無効化されることを聞いていた美春は無理に避けようとはせずに両手の手甲で防御する構えを取る。
ゴーレムⅢが振り下ろしたブレードを手甲で受け止めると予想以上の力にダンパーからミシミシと鈍い音がする。
(重い…!真正面から受け止めてたら力負けする。上手く受け流さないと…)
ゴーレムⅢがもう片方の腕のブレードで追い打ちをかけようとしたところに合わせて美春は少しだけ手甲の角度をずらし、相手のブレードが手甲の表面をなぞっていくように受け流す。
受け流されたことで体勢を崩したゴーレムⅢに対し美春はアサルトライフルを両手に構えて連射する。しかしながら装甲が余程硬いのかゴーレムⅢは美春の弾幕を意にも介さず正面から突破しようとしてくる。
美春は慌てて防御態勢を取るが相手はそれを読んでいたのか手甲の隙間を狙ってブレードでの突きを繰り出してくる。
間一髪のところで直撃は回避したもののブレードは美春の脇腹を掠めていく。
美春はショットガンを空撃ちしてゴーレムⅢから無理矢理距離を取る。
腹部を確認するとISスーツが裂けており、わずかながら自身の血液が垂れているのが確認できた。
美春はこれがただのISでのバトルではなく命の掛かった戦いであることを再認識した。
ゴーレムⅢは美春が落ち着く間もなく距離詰めてくる。
美春が防御態勢を取るとゴーレムⅢはそれを見越していたかのように肩部からビット飛ばして美春の手甲にぶつける。衝撃に耐えきれず手を弾かれてしまった美春の腹部はがら空きとなり、ゴーレムⅢのブレードが彼の左わき腹を貫いた。
今まで感じたことのない痛みに美春は大きなうめき声を上げる。
命の危機を感じた美春はパニック状態になり呼吸と鼓動が異常なまでに早くなる。
(このままだと…死ぬ…!)
しかしながら、早くなっていく呼吸と鼓動に対して彼の意識は静かに研ぎ澄まされていった。