不完全で不器用で   作:homaritime

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50話目です。


殺意の共鳴

美春がゴーレムⅢと交戦していた時と同じ頃。

アリーナのフィールドには一夏と簪、楯無と箒の4人が立っていた。戦闘開始前に軽く言葉を交わす。

 

「一夏、今日は勝たせてもらう。成長した私の姿を目に焼き付けるといい」

 

「それはこっちの台詞だぜ箒。成長したのはお前だけじゃない」

 

一夏と箒が睨み合っている一方で、簪と楯無がお互いを穏やかな視線で見つめあっている。

 

「簪ちゃん、ついにここまで来たのね」

 

「お姉ちゃん、ありがとね」

 

「え?」

 

簪からの突然のお礼に楯無は素っ頓狂な声が出る。

 

「私のISの開発、お姉ちゃんも関わってたんだよね。でないとあんなに上手くいかないもん」

 

簪はにこやかな表情をしているが楯無の表情は暗い。

 

「それは…その…、ごめんなさい。私、余計な事しちゃったかも」

 

「いいの。そのお陰で私は今自分のISで飛べるし、こうしてお姉ちゃんと戦えるんだもの。だから改めてお礼を言わせて。本当に、ありがとう」

 

簪の予想外の言葉に楯無は固まる。もし彼女に自分が関わっていることを気付かれたら罵倒はもちろん、一生口を聞いてもらえないことも覚悟していたからだ。

 

「大きくなったわね、簪ちゃん」

 

彼女は微笑みながら、それでいて少し寂しげな表情を彼女に向ける。

 

「もう、いつまでも子ども扱いしないの。ついさっきまではお姉ちゃんに助けられてたけど、今この瞬間は違う。私の力でお姉ちゃんに立ち向かうの」

 

「そっか…。それじゃあ、私も手加減なしで行かせて貰うわね」

 

試合開始のアナウンスが鳴る。両者は一斉に空へと舞い上がった。

 

 

ゴーレムⅢに脇腹を貫かれた美春は極限状態に陥っていた。

呼吸はどんどん荒くなり、心臓の鼓動も治まる気配を見せない。

 

美春の頭には過去の封印していた記憶が呼び起こされる。

母の期待通りに動かないと暴力を振るわれるため、見捨てられないように必死に動いていた日々。その姿を見て子を守る素振りすら見せなかった父親。

美春はあの時と同じような命の危機を感じていた。

 

(先にやらなきゃ、俺が死んじゃう…)

 

美春の心は幼少期に戻っていた。命の危機を感じた子供がとる行動はどこまでも必死で、そして時には残酷になる。

 

ゴーレムⅢがブレードを引き抜き、更なる致命傷を与えんとブレードを勢い良く突き出したその瞬間。

美春は体をわずかに捻り、ゴーレムⅢの一撃を鮮やかに躱してみせた。

彼の胸部を刃が掠めるが、美春にとってそんなことは些細な事に過ぎない。

美春は腕を突き出したまま無防備になったゴーレムⅢの腕を引き込み、そのまま流れで腹部に壊山拳を一発入れる。

 

―ドパアン!

 

ゴーレムⅢの体がエビのように丸まる。

間髪入れずに美春は目の前にあるゴーレムⅢの首元目掛けて右手の手甲の爪をねじ込み貫かんとする。

ゴーレムⅢもただやられっぱなしになるのではなく美春の右腕を掴み抵抗しようとする。

美春は自身の右腕を掴んでいるゴーレムⅢの腕関節に左手の手甲の爪を勢い良く刺し、そのまま壊山拳を放つ。

 

―ドパアアン!

 

さすがに腕関節は装甲ほど硬くはなかったのか、ゴーレムⅢの左肘から下が吹き飛んだ。

すかさず美春はゴーレムⅢの首元に食い込ませていた爪を力いっぱい押し込み、そして貫通させた。

ゴーレムⅢの首元からはバチバチと火花が上がっているが、抵抗する力は全く衰える気配がなく、首元を貫かれたままの状態から美春の腹部めがけて膝蹴りを繰り出す。

美春は敢えて膝蹴りを耐えようとせず、その衝撃を利用して体を上部に跳ね上げさせる。

美春の体は爪を刺し込んでいるゴーレムⅢの首元を軸に縦に回転し、爪と美春の体が真っ直ぐ一本の軸になる。

その瞬間美春は左半身側のスラスターのみを吹かしてドリルのように回転する。

 

―ギャリギャリギャリ!

 

ゴーレムⅢの首元からは金属や配線が引き裂かれる音が鳴り響く。それでも美春はどんどん回転の速度を上げていく。

ゴーレムⅢはビットを美春にぶつけて回転を阻止しようとするが一度勢いづいてしまったものはちょっと物をぶつけたくらいでは止まらない。

 

―ガキン!

 

金属が完全に断裂した音が響くと、ゴーレムⅢの頭が海面に向かって落下していく。

美春は勢いのままゴーレムⅢから距離を取りお互いに見合う。

頭部を失い、首元から電気火花を激しく撒き散らしながらも、無人機であるゴーレムⅢは活動を停止していなかった。残されたプログラムに従うように、頭部のない不気味な赤い鉄屑が、残された右腕のブレードを美春に向けて再度構え直す。

 

(まだ…まだだめなの…?)

 

思考が完全に退行している美春はパニック状態から抜け出せていない。

それでも相手に対する殺意だけは確かに存在していた。

 

美春は後方に向けてショットガンを空撃ちしてゴーレムⅢに再度急接近する。

頭部を失ったゴーレムⅢは美春の動きを捉えることができず振り下ろしたブレードが空振りする。

その隙を狙って美春はゴーレムの胴体にしがみつくように、両膝でそのフレームをガチッとホールドしてクリンチする。 完全に相手の自由を奪い、マウントポジションを取ったゼロ距離。

美春の体は、ゴーレムの胸部装甲に手甲を直接めり込ませた状態で、完全に固定された。

美春はトリガーを引きっぱなしにして反動を抑制したショットガンを何度も放つ。

 

―ドバァン! ドバァン! ドバァン!!

 

美春は指がちぎれんばかりの勢いで、ショットガンを狂ったように連射し続ける。

火花と、濁ったオイルと、爆砕された赤い鉄屑が、美春の裂けた脇腹の傷口や、彼のひきつった顔に容赦なく降りかかるが、トリガーを引く指は止まらない。

完全に胸部装甲が吹き飛び、内部コアが露出した瞬間、美春は手甲の爪をその心臓部へ直接突き立て、物理的に握り潰した。

その瞬間ゴーレムⅢの左手はだらんと下がり、完全に機能を停止した。

 

美春がクリンチを解くと最早ただの鉄屑と化したゴーレムⅢは海面へと落下していく。

アドレナリンが切れ、冷静さを取り戻した美春は自身がやったことに愕然とする。

 

(俺がやったのか…?)

 

考える暇もなく美春に腹部の激痛が襲い掛かってくる。

激痛のあまり意識を失いかけたその瞬間、ISを纏った誰かが高速で美春に接近し彼を抱きかかえる。

 

「おり…むら…先生」

 

美春は安心した表情を浮かべるとそのまま彼女の腕の中で眠るように意識を失った。

 

 

「優勝は、更識楯無、篠ノ之箒ペアです!皆さん、彼女たちに盛大な拍手を!」

 

アリーナは二人を讃える歓声と拍手で一杯になる。ボロボロになった二人は手をつないで両手を上げ、観客に応える。

 

アリーナのピットで同じくボロボロになった一夏と簪は二人の勝利を静かに讃えていた。

 

「…負けちゃったな」

 

「うん。完敗だった。でも私たちも一矢報いることはできた」

 

敗北した二人だったがその表情は晴れやかに見えた。

 

「簪、お前とタッグを組めてよかった」

 

一夏の突然の感謝の言葉に簪は顔を赤くする。

 

「え!?あ、ああ…こちらこそ…。織斑君と組めてよかったよ」

 

「そうか。それなら一安心だ」

 

一夏はうーんと背筋を伸ばすと、簪に手を差し伸べる。

 

「簪、機体は完成したけど俺達はまだまだだ。これからも協力して強くなっていこう」

 

「う、うん!いつかお姉ちゃんを超えて見せる。そのためにはもっともっと強くならなくちゃ。これからもよろしく」

 

簪は決意を新たに、一夏と熱い握手を交わした。

 

 

美春が目を覚ますと、見知らぬ天井とすぐ横の窓から夕陽が空を照らしている様子が見えた。

 

「目が覚めたか」

 

美春が声のする方へ首を傾けるとそこには神妙な顔つきをした織斑先生が腰かけていた。

 

「織斑先生。ここは…?」

 

「学園の保健室だ。私がお前を抱えて連れてきた」

 

「そうだったんですね。ありがとうございます」

 

美春がお礼を言うと織斑先生は首を横に振る。

 

「お礼を言うのはこちらの方だ。よくぞ学園を守ってくれた。教師、いや、学園を代表して感謝する。それと、申し訳なかった」

 

織斑先生は美春に向かって頭を下げる。

 

「お前に大怪我をさせて、命の危険に晒したのは責任者である私の落ち度だ。すまなかった」

 

美春は慌てて否定する。

 

「謝るのはこっちの方ですよ。自分に任せてくださいなんかいって先生方を他の任務に送り出したのは俺ですし。今回は俺の采配ミスです」

 

「そうは言っても、生徒の負傷は教師の責任だ。あまり背負いすぎるな」

 

「そうですか…。わかりました。今回は甘えさせてもらいます」

 

「今回だけではなく、今後もだ」

 

織斑先生が強めの口調で言うと美春は返す言葉がなくなってしまった。

美春が言葉に詰まっていると織斑先生はスッと立ち上がった。

 

「何はともあれ無事でよかった。私はお前が目を覚ましたことを報告してくる。私の他にもお前のことが気になって仕方ない奴がもう一人いるからな。それではな」

 

そう言って織斑先生は部屋を後にした。

そこから入れ替わるように楯無が入室してくる。

 

「…無事に目を覚ましたみたいね。よかった…」

 

楯無は心底安心した顔で美春の横に腰かける。

 

「今回の件、結果的にあなたに負担を強いることになっちゃったわね。私からも謝らせて。本当にごめんなさい」

 

そう言って楯無は美春に頭を下げる。

美春は否定も肯定もせずただその言葉を受け入れるしかなかった。

しかし美春は楯無の謝罪の言葉の裏に何かあることをふと感じ取った。

 

「会長が来てくれたのはそれを言いに来るためだけじゃないですよね?」

 

「…鋭いわね。その通り、私にはあなたに聞かないといけないことがあるの」

 

楯無の表情が真剣になる。

 

「率直に聞くわ。警備の教員を倒すほどの相手をあなたが倒すことができたのはどうして?」

 

「…」

 

「イベントが終わった後、襲撃してきた機体を見せてもらったけど酷い有様だったわ。あなた、何をしたの?」

 

美春はゆっくりと口を開いた。

 

「…殺す気で戦いました」

 

美春の言葉に楯無の眉が僅かに動く。

 

「あいつに腹を刺された時にこのままだと死ぬって思ったんです。その時に頭が真っ白になって、やられる前にやらなきゃって…」

 

楯無は美春の言葉をそのまま受け入れるが心の底では納得していなかった。

ISに乗り始めてから間もない人間があそこまでやれるとは普通考えられない。

楯無は美春の中に眠っている何かを感じずにはいられなかった。

自分が持っているそれとは似て非なる何かを。

楯無はふうっと一息つくと美春にこう告げる。

 

「美春君。私、あなたへの認識を改めることにしたわ」

 

「え?」

 

「生徒会に誘ったときは私の穴を埋めてくれるような、ちょっと優秀な子だと思っていたけれど、今後は生徒会長の後継者としてあなたを扱うことにするわ」

 

「それってどういうことですか…?」

 

「いつか私がこの学校を去ることになった時、若しくはあなたが学園最強の座が欲しくなった時、今日と同じように私を殺すつもりで掛かってらっしゃい。いつでも相手になるわ」

 

そういう楯無の顔は穏やかだったがその眼差しは確かな殺気を放っていた。

 

「つまりは、あなたは私と同じか、それ以上の実力を出せるポテンシャルがあるってことよ。私からの挑戦状だと思ってもらえたらそれでいいわ」

 

美春は思わぬ言葉に固まってしまった。

 

「しばらくはここにいる事になるだろうから時々お見舞いに来るわ。それじゃあ、またね」

 

そう言って楯無は部屋から少し嬉しそうな雰囲気を出しながら出て行った。

美春はその背中をただ見送ることしかできなかった。

 

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