美春はエミリー先輩から受け取った写真を楯無に共有し、撮影場所の特定と、同じような写真がSNS等にアップロードされていないか調べてもらうことにした。
翌日、医務室に訪れた楯無は美春に調査状況を報告した。
「昨日は写真ありがとね。確かに襲撃してきた機体と姿が似ているわ。そして撮影場所だけど家の者に調べさせたら周辺の建物の特徴などからルーマニア近辺だと判明したわ。他にも似たような写真がハンガリーやウクライナ、ロシアからも確認できたわ。逆にそれより西の国々からはそういった写真は出てこなかった。…ところで美春君、あなた地理には詳しい?」
楯無の突然の問いに美春はきっぱりと答える。
「いえ、全然です。世界史の授業でも国の場所と名前一致させるのが大変でした」
美春の返答に楯無は表情を明るくする。そこにはどこか安心感も含まれていた。
「よかった~あなたが普通の高校生で。今地図準備するからちょっと待ってね」
褒められたのか貶されたのか美春が理解できずに首を傾げていると、それを察した楯無が補足を入れる。
「あ、決して悪い意味で言ったんじゃないのよ。国ですら見破れなかったハッキング経路を見つけたあなたが地理にまで詳しいってなったら私はあなたを人でなく化け物として扱わないといけなくなるから。さて、これがヨーロッパを拡大した地図よ」
そういって楯無は地図の画像を美春に画面共有する。目撃情報があった国々はヨーロッパの中でも特に東に偏っているようだ。
楯無は話を続ける。
「見ての通り、写真が撮影された国は東に偏っているわ。そしてそこから西の国々から目撃情報がないということは襲撃者の拠点はこれらの国のどこかか、国境が近いクロアチアやセルビアなどが候補に挙がってくるわ。今思い当たる国々の産業情報とかを調べてもらっている最中だから、しばらく待ってね」
そう言って楯無が地図を閉じようとすると美春は待ったをかける。
「会長、教養として聞いておきたいんですが、ハンガリーとルーマニアの間にあるこの小っちゃい国はどこなんですか?」
「ああ、そこはルクーゼンブルクといって観光業が盛んな国ね。軍事面でも特に目立った動きはないけど、どうかした?」
「いえ、単に気になっただけです。もう地図閉じちゃって大丈夫ですよ」
楯無は地図を閉じると改めて美春の方に向き直る。
「それにしてもお手柄よ、美春君。この情報のおかげで襲撃者の拠点の範囲がぎゅっと狭まったわ。こんなのどこで手に入れたの?」
「情報通の先輩に教えてもらったんですよ。エミリー・エヴァンスっていうんですけど」
「ああ、あの娘ね!確かに彼女はよくニュースを追っかけてるしこの写真にたどり着くのも不思議じゃないわ。ただのジャーナリストごっこじゃなかったってわけね」
「会長もその認識なんですね…」
「そりゃそうよ。私のことちょこちょこと嗅ぎまわってるし、けむに巻くのも苦労してるのよ」
楯無はそういうと大きなため息をついた。
「あなたに意外な人脈があることに驚いたわ。でもそういうのっていざという時に助けてくれることも多いから大事にしなさい。今回みたいにね」
「はい、心得ておきます」
「それじゃあ、調査に進展があったらまた来るわね。あとちょっとで復帰できるんだから無理しないでね」
そう言って楯無は医務室を後にした。
美春は無理はするなとは言われたものの、好奇心がそれを止めてはくれない。
美春は今自分が知っている情報を整理してみることにした。
(襲撃者、もといゴーレムⅢはどこの国にも所属していないコアを内蔵していたっていうのは織斑先生から教えてもらったな。となると、主犯は新たにコアを新造したか、公表せずに隠し持っていた可能性がある。どっちの方面から考えてみても篠ノ之束が関わっている可能性は極めて高い。何かコアと国を関連付けられるような情報はないだろうか…)
美春は一夏に部屋から持ってきてもらった教科書をパラパラとめくるとコアに関する記述を見つける。
(えっと、公式に登録されているコアの数は研究用含めて467個であり、製造方法や素材含めて全容は開発者である篠ノ之束しか知らない、か。製造方法と素材。この二つの面から考えてみることにするか)
美春はそう思い立つとノートとペンを取り出し、自身の考察を書き留めていく。
(ISのコアってパソコンのCPUと似たようなものだよな。だから作ろうと思えばそれなりの設備がいるはずだ。でも製造方法が公開されていない以上、工場も作りようがないよなあ…この方向性はナシだな)
美春はノートにぐちゃぐちゃと線を引き、今までの考え方をいったん捨てる。
(となると素材か。ISの武装や機体の開発は色々な国で実際に行われているんだから既存の半導体とか工業製品を使っている線は薄そうだな…。となるとISのコアには今まで世に公開されていない未知の物質が使われているのかもしれないな…。まあそれがわからないからブラックボックスなんだけど。何か…何かヒントになるようなものは…)
美春はゴーレムⅢと戦った記憶を思い出す。美春が初めてISのコアを見た瞬間だったからだ。
(あの時は必死だったから無意識にぶっ壊したけど、あれどちらかと言うと石みたいだったよな。石のような部品なんてあるのかな…)
美春は気になってクララ先輩とルチア先輩に先ほどの疑問をぶつけてみた。
しばらくすると返信があり、セラミックスがそれにあたるらしい。
しかしながら固くもろい上に電気を通さない性質があるため、ISに使われることはほぼないとの事だった。
(となるとコアに使われている石のような未知の物質を俺は壊したことになるのか。石か…。今手元にある情報で考えられるのはこんなところだな。連絡入れるだけ入れてみるか)
美春は自身の経験による仮説と第二次産業、特に鉄鉱・宝石に関する産業の調査依頼を楯無に出した。
美春の説は仮説に過ぎないため、実際に行動に移すかどうかは彼女次第だ。
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その日の夜、美春がそろそろ眠りに就こうかとしていたその時、携帯端末から着信音が鳴り響く。
「もしもし、会長?」
「美春君、今日からあなたを化け物に認定してあげるわ」
通話に出た瞬間、楯無から畏怖が込められた言葉を投げかけられる。
「喜んでいいのかわからないんですけど…。何か見つかったんですか?」
「大喜びしなさい。見つかったのよ。それもとっておきのやつが」