ちょっと更新期間空いちゃいましたね。
お待たせしました。
「大喜びしなさい。見つかったのよ。それもとっておきのやつが」
楯無から入った唐突の連絡に美春はベッドから起き上がり、思わず居住まいを正した。
たったあれだけの情報で核心に迫ったというのか。楯無の持つ情報網に美春は驚きを隠せないでいた。
「夕方に候補に挙がったルーマニアやセルビアって元々鉱業に歴史があって他の国々も地理的に金などの鉱物と深い関係がある国が多いの。だからそこに目を付けたのはかなり鋭いと言っていいわ」
「歴史があるなら特段珍しいことはないと思いますが…」
「本題はここからよ。鉱業の産出量と輸出量が明らかに矛盾している国が一つだけあったの。あなたが偶々気になったルクーゼンブルクよ。普通その国では扱いきれない量の鉱石が採掘されたときって何だかんだ理由をつけて外国に売り飛ばすものなのよ。でもここだけは違う。人口に対して鉱石の産出量が多い割には殆ど輸出を行っていないの」
楯無の言葉の裏にある異常な事実に、美春の脳内のエンジンが高速で回転し始める。
「輸出していないってことは、自国内で消費しているってことですか?」
「その通りよ。密輸の線も探っている最中だけど、普通に考えて大量の鉱石を密輸するってのは物理的に不可能なの。つまり…あそこで産出された石は、国外に出てすらいない。あの国のどこかで、丸ごと消費されているのよ」
「その石って一体何なんですか?」
「現地での通称を直訳すると『時結晶』と呼ばれているわ。用途は国民のお守りや王家の建造物に使われてるらしいの。観光客が訪れるのはその時結晶で造られた建物目当てね」
「そんなに広く使われてるなら国外に流通しててもおかしくないと思いますが…」
「それがね、時結晶の流通は王室が10年くらい前から徹底的に管理しだして国外への持ち出しを固く禁じているそうなのよ」
10年前という時期に美春は引っ掛かり楯無に疑問を投げかける。
「10年前って…白騎士事件があった頃ですよね?」
白騎士事件。日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2000発以上のミサイルが日本へ向けて発射されるも、その約半数を搭乗者不明のIS『白騎士』が迎撃した事件。この事件以降、ISとその驚異的な戦闘能力に関心が高まることとなったというのが授業で説明された内容だ。
「そう。この二つの繋がりから考えてISのコアに時結晶が重大な意味を持っている可能性が非常に高いの。王室は先手を打って時結晶の流通を制限したと考えるのが自然ね」
「でもただの偶然っていう可能性も…」
「あなたの言う通り、この二つの事実だけではこじ付けという説を否定することができない。で、もう一つ発見した事実が大事なの」
「もう一つ…?」
「ルクーゼンブルクは観光業の国って前に言ったわよね。だけどここ3年くらいにかけて半導体や鉄鋼部品の輸入額が急激に上昇したの。でもそれを活用するような大規模プラントは国のどこにも存在しない」
「確かに怪しいですけど、それとISに何か関連があるんですか?」
「あなたは知らないかもしれないけど、篠ノ之束博士が突如姿を消したのも丁度同じ3年前なの。しかも輸入している品目を細かく見たらISの開発に必要なものばっかり。これでもうわかるわよね?」
「ルクーゼンブルクで産出される時結晶がコアの重要な部品であり、それを利用して新しいISを開発するために篠ノ之束はそこに潜伏している…」
「ご名答。といってもこれも状況証拠に過ぎないわ。今度の文化祭ではコアネットワークを通じたハッキングに対しても逆探知ができる仕組みを構築してもらうように学園に提案してみるつもりよ。そこで彼女が尻尾を出せばこっちの勝ちね」
「そうか…物的証拠がないとこの話も陰謀論でしかないですもんね」
「そういうこと~。でも裏から動く分にはこの仮説は大きな手掛かりになるわ。あなたのおかげよ」
「そんなに大層なことはしてないと思いますが…。っていうか裏ってなんです?」
「あっ…こっちの話よ、気にしないで。じゃあそろそろ切るわね。夜遅くにごめんね」
「いえ、こちらこそ連絡してくれてありがとうございました」
美春は通話を切る。
彼はふうっと大きく息を吐くと窓の外に浮かぶ若い月を見つめる。
好奇心から始めたことだが、どうやら自分が思っている以上に、この探偵ごっこのスケールは大きくなってしまったらしい。
気づけば世界の裏側の、それも最も危険な領域にまで片足を突っ込んでしまっている。
それでも、このまま大人しく引き下がるのは、自分のプライドが許さなかった。
(篠ノ之束、何か引っかかるんだよなあ…。まあいいか、明日はクラスに復帰する日だし早く寝よう)
美春は微かに残る違和感を心の端に追いやり、静かに目を閉じるのだった。
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美春が翌朝教室に入ると、クラスから盛大な退院祝いを受けた。
と言うのも美春が医務室にいる間に、クラスでやる文化祭の出し物がメイド&執事喫茶になることが決まり、ここ最近はその準備の真っ最中であったためだ。
教室には華やかな飾り付けがされており黒板には『遠藤君退院おめでとう!』の文字がでかでかと書かれていた。
美春があまりの盛大っぷりに唖然としていると山田先生が入室してくる。
「皆さーん、SHRを始めますよって…。遠藤君!もう来てたんですね。てっきりこちらから迎えに行くものとばっかり…」
「一応助けなしで動けるくらいにはなりましたからね。保健の先生に無理行って自分から来ることにしました」
「とは言っても無理は禁物ですからね。何かあったらすぐに言ってくださいね」
山田先生は美春にそう言うとSHRを始めた。
机や椅子のレイアウトが普段と異なっているため、美春は座るところに迷って床に座ろうとしたとき、ラウラがスッと椅子を美春が座ろうとした場所においてくれた。
「さっき言われたであろう、無理はするなと。体に負担のかかる座り方をいきなりするとは思わなかったぞ」
ラウラが美春を睨みつけるように見つめる。
視線は厳しいがその裏には彼女なりの優しさがあった。
「あ、ありがとうラウラ。こういう時に人に頼ることに慣れてなくてな」
「全く。ISのことになると周りを上手く頼れるのに、自分のことになるとこれだ。先が思いやられるな…痛い!」
呆れながらそう言うラウラに織斑先生からの出席簿の一撃がラウラの後頭部を襲う。
私語は慎めということだろう。
SHRが終わると各自文化祭の準備に移る。
美春は特に役割が振られていないため一夏に確認を取る。
「なあ、一夏。俺って何をすればいいんだ?」
「ああ、美春は当日俺と接客してもらう予定だから、セシリア達と一緒に段取り確認してくれないか?力仕事はまだできないだろうし、無理のない範囲でとなったらそんな感じかなあ」
「わかった。苦労かけて悪いな」
「いいって。こっちは学園守ってもらったんだし、お互い様ってやつだろ?」
一夏は美春にいつもの飾らない笑みを向けると、ひらひらと手を振ってそっちの段取りは任せたぞと自分の作業へと戻っていった。
美春はセシリアや他のクラスメイトが集まっているところに向かうと申し訳なさそうに輪の中に入っていった。
「あの…セシリア。俺にも当日の段取り教えてもらってもいいかな?」
「あら、美春さん丁度いいところに。これからデモンストレーションを行う予定でしたの。流れを覚えてもらうついでにお客様の役をお願いできて?」
「わかった。きっちり見て学ばせてもらうよ」
そういって美春は教室の外に一旦出る。
美春がセシリアの合図で教室に入るとクラスメイトが丁寧なお辞儀をして美春を迎え入れる。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
美春はその言葉が客をお迎えするものとしてではなく、自身が日常に戻ってきた合図に聞こえた。