不完全で不器用で   作:homaritime

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54話目です。
最近体調があまりよくないので投稿頻度更に落ちるかもしれないです。


等身大の青春

美春はセシリアから接客の段取りを教えてもらった後、クラスメイトに用意してもらった執事服を試着するために男子トイレを訪れていた。

個室に入り、制服のシャツを脱ぐと、先日の戦いの痛ましい傷跡が姿を現す。

美春が傷跡を見た瞬間、傷跡がズキズキと痛み出し、立っていられないほどの苦痛に襲われるが、深呼吸を何度かすると痛みは治まった。

やはり外側は塞がったとは言え、体の中身や心に負った傷は未だ癒えてはいないようだ。

 

(危ねえ…。今度風呂入るときはあまり傷跡を見ないようにしよう。何度もこんな風になってたら生活もろくにできやしない)

 

美春はさっさと執事服に着替えるとトイレの鏡で自身の姿を確認する。

普段着ている制服とは真逆の真っ黒な服に身を包んだ美春はあまりの似合わなさに思わず苦笑いを浮かべる。

コスプレでももう少し自然体にまとまるはずだ。

とは言えサイズ感は丁度良いので、クラスメイトに一度見せるためにトイレから教室に戻ろうとすると、同じく衣装に着替えて女子トイレから出てきた鈴と鉢合わせる。

 

「あら、美春じゃない。もう歩いて大丈夫なの?」

 

鈴は心配そうに美春を見つめる。

医務室で突っかかってきたのが噓のようだ。

 

「一応傷は塞がったから無理のない範囲でなら動いてもいいってさ」

 

「よかった…。2週間安静って聞いたときは流石に心配したんだからね」

 

「…心配かけたな。それよりその衣装は文化祭で着るやつか?」

 

美春が鈴が着ている衣装について指摘する。

彼女は赤いチャイナドレスを身に纏っており、小柄ながらどこか大人な雰囲気を醸し出していた。

 

「そう。アタシのクラスは中国喫茶をやることになってね。第三者から見てどう?」

 

「ああ、鈴らしいしよく似合ってるよ。少し大人に見えるくらいだ」

 

美春がそういうと鈴は嬉しそうに顔を赤らめている。

美春の感想が気に入ったようだ。

 

「そこまで言ってくれるとは思わなかったわ。でもありがとね。そんでもってアンタの衣装だけど、似合ってないことはないけど何か物足りないわね…」

 

鈴は目を細めて美春の衣装をジーっと見つめる。

その様子はさながらどこかのファッションリーダーのようだった。

 

「だろ?俺自身もあんまりしっくり来てないんだ。コスプレ感が否めないというか」

 

「多分髪型じゃないかしら。後でクラスの子にセットしてもらったら?」

 

「その手があったか!ちょっと頼んでみるよ」

 

「そうね、そうするのがいいと思うわ。…あと…その…」

 

鈴は突然顔をわずかに赤くしてもじもじし出した。

美春が首を傾げていると鈴が口を開いた。

 

「…せっかくだし写真撮らない?当日だと忙しくて撮る暇ないかもしれないし。クラスのみんなの写真はいっぱい撮ったんだけどアタシが写ってるのあんまりなくて」

 

「そういうことなら全然いいぞ。俺も写真全然撮ってもらってないからな」

 

美春が鈴の提案を快諾すると、鈴は携帯端末を取り出して自撮りのポーズを取る。

美春が鈴の横に立ってポーズを取ると鈴から小声でこう促される。

 

「…もっと近づいてもいいわよ」

 

そう言われ鈴に腕を軽くグイっと引っ張られる。

身長的に鈴の頭部のほぼ真上に美春の顔が来る形となり、思わず美春の胸の鼓動が高まる。

 

(っ、ち、近い……!)

 

抵抗する間もなく引き寄せられた瞬間、鈴の髪から、ふわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

石鹸とも、シャンプーとも違う。

チャイナドレスの雰囲気に合わせたのか、かすかに優しく漂うジャスミンのような、女の子特有の甘い香り。

至近距離から容赦なく意識させられるその清潔な香りと、腕に伝わる鈴の柔らかな体温。

いくら理性を保とうとしても容赦なく襲い掛かる女性の魅力を美春は意識せざるを得ず、体温と鼓動のスピードがどんどん上がっていく。

 

(これ心臓の音とか聞かれてたりしないよな…?)

 

そう思いカメラに映る鈴の顔に視線を向けると彼女の顔も先ほどより更に赤くなってるのが見て取れた。

 

(多分気づかれてる~!)

 

美春の脳内がショートしている中、鈴からやや強引にシャッターを切る合図を送られる。

 

「…っ!と、撮るわよ!はい、チーズ!」

 

鈴がそう言って携帯端末のシャッターボタンを押すと顔を真っ赤にした男女が写真に映し出された。

あまりの気恥ずかしさから美春はもう一度撮影を提案するが、鈴はこれでいいと頑なに譲らず、美春が根負けする形となった。

 

「じ、じゃあ俺はこれで。そっちも準備頑張ってな」

 

「う、うん。じゃあね、あんまり無理すんじゃないわよ」

 

美春がやや早歩きで教室に戻っていくのを見送った鈴は先ほど撮った写真を見返しながら、写真を撮るまでの一幕を振り返る。

 

(美春の心臓の音、こっちまで聞こえてきた…。アタシでドキドキしてくれたってことよね?)

 

鈴としてはちょっと遠慮がちだった美春をただ自分の近くに寄せただけだったのだが、彼にとってはどんな世界的なネットワークハッキングよりも、自身の脳内システムを完全にショートさせる未曾有の超常現象だった。

例え生死を彷徨う戦いを繰り広げていようが、世界の裏側に迫るほどの頭脳を持っていようが、一人の少女がもつ等身大の魅力の前ではただただオーバーヒートさせられるしかなかったのだ。

 

(ま、ちょっとはアタシのこと、女の子として意識してくれたってことよね)

 

鈴はやや勝ち誇った顔で写真をお気に入り登録すると、嬉しさを隠しきれない足取りで少し跳ねるように自分の教室へと戻っていった。

 

・

・

・

 

準備がひと段落した頃、美春は一夏と共に部屋へと戻っている最中だった。

 

「会長との同室は終わったんだな」

 

「ああ、楯無さんが言うには一旦契約は終了したってことで部屋割りを以前に戻したらしいんだ。だけど今後もISについての指導は時々してもらうことになってるんだ」

 

「契約…?簪さんの専用機開発のことか」

 

「らしいよ。成果としては120%を出してくれたから今度別でお礼をするって言ってたけど、あの人のお礼ってなんか突拍子もないものが出てきそうで怖いんだよな」

 

「はは、確かに。副会長の俺でもあの人のやることは読めないよ」

 

二人が談笑しながら歩いていると部屋の前に到着した。

 

「荷物とかは俺と用務員さんとで協力してもう運んである。美春がやることは特にないはずだ」

 

「本当に何から何まで助かります…」

 

「それはもういいって。それより改めてよろしくな、美春」

 

「ああ、男同士また馬鹿しようぜ」

 

二人は男の握手を交わすと部屋に入っていった。

 

・

・

・

 

美春がシャワーを浴び終えると携帯端末に1件のメッセージが送られてきていた。

内容を確認すると鈴から今日撮影した写真が添付されていた。

 

美春:写真ありがとう。にしても二人共すごい顔してるな

 

鈴:それ!クラスのみんなには恥ずかしくて見せられないわ

 

美春:だから撮りなおそうって言ったのに

 

鈴:うっさいわね!アタシがこれで良いって言ったんだからいいの

 

美春:へいへい。わかりました

 

鈴:ところでアンタ、気になってる娘とかいるの?

 

美春:いいや特には。何で?

 

鈴:何でもない!それじゃあね!

 

鈴から一方的にメッセージを切り上げられてしまった。

ふと気になった美春は一夏に鈴からぶつけられたものと同じ質問を投げかけてみる

 

「なあ、一夏」

 

「なんだ?」

 

「お前って好きな女の子とかいるか?」

 

突然のぶっ込んだ質問に一夏は飲みかけていたお茶を吹き出しそうになる。

 

「ゲホッゲホッ…急に何てこと聞いてくるんだよ」

 

「悪い悪い。さっき鈴と話しててその話になったからさ、一夏はどうなのかなあって」

 

一夏はむせた肺を落ち着かせるように深呼吸を2,3度すると美春の質問に答える。

 

「特にいないよ。そういうお前はどうなんだよ。ラウラと仲いいしそういう気持ちになったりしないのか」

 

一夏からのまさかのカウンターに美春は言葉に詰まる。

 

「えっと…どうなんだろうな。頼りになる教官の姿を見せる時もあれば、ちょっと可愛らしい姿を見せる時もあるけど…。そのギャップがいいなと思うことはあるかな」

 

美春は腕を組み、考え込みながらポツポツとラウラの印象を語っていく。

その様子に一夏はお茶ズズズっと一口飲み、大人びた雰囲気を醸し出す。

 

「そっか。青春してんなお前」

 

「何爺臭いこと言ってんだお前は。仲いい女の子ならお前の方が多いだろ。何か思うところはないのかよ」

 

美春にそう言われて、一夏はしばらく考え込む。

 

「でもなあ、何か時々距離感じることあるんだよなあ。だから不用意に踏み込めないというか」

 

美春は一夏の返答に頭を抱える。

これに関しては女性陣に非があるところも否めない。

一夏を強く意識しすぎるあまり、あえて距離を置くような発言や行動に出ることが多々あるからだ。

 

「でもほら、セシリアとかシャルロットとかは結構いい所ないか?」

 

「うーん、友達だなあ」

 

比較的積極的に一夏にアプローチを仕掛けてる娘ですらこの有様だ。

美春は一夏を想う少女たちの苦労に思いを馳せて心の中で合掌するのであった。

 

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