不完全で不器用で   作:homaritime

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56話目です。
感想、誤字指摘等ありがとうございます。


両手に花の境界線

そしていよいよ迎えた文化祭当日。

とは言え初日はIS学園関係者のみの参加となるため、半分予行練習みたいなものだ。

執事服に着替えて髪型もバッチリセットしてもらった美春と一夏はお互いをなめまわすように見る。

 

「まあ…結構いいんじゃないか?」

 

「ああ、コスプレ感はだいぶ薄まったな」

 

お互いに相手を褒め合うと、クラスの文化祭委員から配置につくように呼び掛けられる。

美春は一夏と共に執事役として接客を行うことになっている。

1日目は男子目当てで自分たちのクラスに客が殺到するだろうとの見立てから、美春たちはやや長めのシフトとなる。

実際、始まる前から美春達のいる教室の廊下には行列が出来上がりつつある。

ここ一番の稼ぎ時だと張り切る文化祭委員の生徒に美春と一夏は緊張しながらお互いを見る。

一発目の評判次第で今後の客入りが決まると思うと二人はプレッシャーを感じずにはいられなかった。

文化祭開始の放送が流れると、列の先頭にいた生徒が教室に入ってくる。

 

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 

美春と一夏は出迎えの挨拶に合わせて深々とお辞儀をする。

 

「キャー!お嬢様だって!結構本格的!」

 

騒ぐ女子生徒達を美春は叩き込まれた手順通りに席へと案内していく。

こうして美春の初めての文化祭が始まった。

 

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開始直後から大盛況を見せていた美春のクラスにとある生徒が来訪する。

 

「お帰りなさいませ。お嬢様…って鈴じゃん」

 

美春は意外な来訪客に思わず素が出てしまった。

 

「せっかくだから来てあげたわよ。…ほら、案内しなさい」

 

鈴は少し照れ臭そうにしながら美春に強気に振る舞う。

彼女の言葉で自分の役割を思い出した美春は丁寧な言葉遣いに戻して鈴を席へと案内する。

テーブルに置かれているメニュー表を眺めていた鈴はしばらくすると近くのメイドの姿をした生徒を呼び出す。

美春がバックヤードで小休止を取っているとクラスメイトから声がかかる。

 

「3番のお嬢様からチェキセットのご注文です。遠藤君指名で!」

 

「お、俺!?…ゴホン。承知致しました。向かいます」

 

せっかくのメイド&執事喫茶なのだからただお茶やお菓子を提供するだけでなく、何か来てくれた人の思い出に残るようなものを出したいという要望から生まれたのがこのチェキセットだ。

料金は普通のお茶菓子セットより割高にはなるのだが、メイド、執事姿の生徒と2ショットチェキが撮れるというサービスだ。

撮りたい相手が手すきであれば、指名することも可能だ。

悪用されないように学園関係者が集まる初日だけという制限で生徒会として承認したのが記憶に新しい。

このサービスは好評なようで、一夏や代表候補生のクラスメイトに指名が入ることは多かったのだが、美春への指名は比較的珍しい方だった。

撮影係と一緒にオーダーを受けた席に向かうとそこには鈴がもじもじした様子で座っていた。

 

「オーダーしてくれたの鈴だよな?一夏じゃなくてよかったのか?」

 

美春が尋ねると鈴は若干ムスッとした顔になりこう続ける。

 

「…ばか。アタシが指名したのはアンタよ。それ以上文句言うなら蹴るわよ」

 

「わかったわかった。…で、ご指定のポーズなどはございますか、お嬢様」

 

鈴は美春にポーズのオーダーを出す。

指定したのは椅子に座っている鈴に対して跪いてそっと手を取るポーズとのことだった。

美春は言われた通り、鈴の前に跪き、そっと鈴の手を取る。

ISを豪快に扱っているとは思えない、華奢でやわらかく、そして何より暖かい手だった。

意識すると顔が赤くなりそうだったので美春は敢えて仕事と割り切り、真剣な眼差しで鈴を見つめる。

対して鈴の方は美春から目を背けずにじっと見つめていたものの、頬にわずかな赤みを帯びていた。

構図が構図なため、周囲からは小さな悲鳴が上がる。

シャッターが切られると出来上がった写真が手のひらサイズで即座に現像される。

 

「こちらが写真となります。それではごゆっくりどうぞ」

 

鈴は美春から写真を受け取ると大事そうに自分のそばに置いてティータイムを満喫していた。

その後は生徒会の面々が遊びに来て美春の執事服姿を楯無が軽くからかったり、美春の機体整備チーム一同で集合チェキを撮ったりと、美春もそれなりに忙しい時間を過ごした。

 

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こうして美春のクラスは例年を超える大盛況で文化祭の1日目を終えた。

売り上げを数えている文化祭委員の生徒の目が金の字になっている。

これは相当の売り上げを出したのだろう。

結局、美春と一夏はほとんど出ずっぱりで対応することとなり、他のクラスを回る時間を作れなかった。

そのため、2日目の一般公開の日は最初だけシフトに入り後は自由時間というシフトを組まれることとなった。

 

「はあ~疲れた。男って看板がどれだけここにとって重大かを思い知ったわ…」

 

美春が客が使うテーブルに突っ伏してると一夏がスポーツドリンクを差し入れでくれた。

 

「お疲れ様。傷がある中ありがとうな」

 

「ありがとう。お疲れ様なのはお前もだろ。傷に関してはみんなが気を遣ってくれたお陰で何とかな。ところで2日目は誰かと回るのか?」

 

「それが生徒会からイベントに招待されてて、一人でいてくれって言われたんだよ。お前何か知ってるか?」

 

聞き覚えのないイベントに美春は頭に疑問符を浮かべる。

 

「文化祭に関してはセキュリティ以外はノータッチだから俺も知らないや。でも会長の考えることだしどうせ突拍子もないことだろ」

 

「だよなあ。不安で仕方ねえよ」

 

「まあお前なら何とかなるよ。明日お前が一人となると…誰か誘うかあ」

 

「そうしてもらえると助かる。すまねえな」

 

「いやこっちこそ。生徒会を代表して先に謝っておく」

 

「謝るようなことが起きるのは確定事項なのか…」

 

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そして文化祭2日目が訪れた。

2日目は一般公開の日となり、生徒の父兄や学園への入学を検討している中学生、他校の男子など様々な人々が訪れる。

2日目に訪れた客はただ二人の男子生徒という物珍しさ目当てで来る人が一定数居たものの、殆どがメイドの女子生徒を目当てに訪れる人で、想定より早く美春達のシフトが空くことになった。

美春が男子用の更衣室で制服に着替えて他のクラスの出し物を見に行こうとすると、目の前にラウラが立ちふさがる。

 

「美春、一緒に文化祭を回る相手などは決まっているか?」

 

「いや、一夏はイベントがあるとかで一人で回るって言ってたし、特には」

 

美春がそう答えるとラウラは僅かに頬を赤らめながら美春に尋ねる。

 

「なら…その…私と回ってくれないか?シャルロットとはシフトが別だし他に回る相手もいないのでな」

 

「ああ、構わないよ。俺もラウラと居たほうが安心できるし」

 

美春の返答にラウラは表情がぱあっと明るくなり美春の左隣に素早く位置取る。

 

「お前は今、怪我人だからな。左側は私がしっかりと守ってやる」

 

「はは、そうしてもらえると助かる。ありがとうな」

 

美春がお礼を言うとラウラは耳まで赤くして俯いてしまった。

早速二人が訪れたのは鈴のクラスの中華喫茶だ。

小腹も満たしたいし、鈴へのお礼も兼ねた訪問だ。

教室の前につくと入口には軽い行列ができていたおり、彼女のクラスの人気度が伺える。

順番が来て中に入るとそこには鈴がせわしなく教室をあちこち歩き回っている様子が見えた。

鈴は二人を見つけると表情が明るくなり、こちらに駆け寄ってくる。

 

「美春!昨日は大人気だったわね。…で、何でラウラも一緒なわけ?」

 

鈴はややジト目でラウラの方を見つめる。

 

「安心しろ、鈴。私は美春の護衛をしているだけだ」

 

「護衛って…。名目上はそうかもしれないけど傍から見たらただのデートよ!?」

 

鈴から発せられたデートという言葉にラウラはまたしても顔を赤くして俯いてしまった。

 

「アタシももう少ししたらシフト空くから、それまでゆっくり食事でもしてなさい。じゃ、後で注文聞きに来るから」

 

そう言って鈴はそそくさとバックヤードに戻っていった。

 

「なあ美春。もしかして鈴も私たちと回ろうとしているのか?」

 

「今の口ぶりから推測すると、多分そうだと思う…」

 

美春とラウラが食事を終えた頃、鈴が教室から出てきた。

 

「お待たせ!じゃあ一緒に回りましょ」

 

「お前、着替えなくても大丈夫なのか?」

 

「最後はアタシがシフト入ることになってるからね。一々着替えるの面倒くさいでしょ」

 

「お前らしい理由だな。じゃあ行くか」

 

こうして美春は両手に花の状態で文化祭を回ることになった。

 

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