鈴とラウラという二輪の小さな花達と一緒に文化祭を回ることになった美春は、まず先輩達のクラスや所属しているブースを挨拶ついでに向かうことになった。
先にエミリー先輩が所属している新聞部の展示会へと足を運ぶ。
教室に入るとエミリー先輩が待っていましたと言わんばかりに声をかけてくる。
「遠藤君、いらっしゃい。あら?随分と可愛らしいボディーガードさん達ね」
エミリー先輩は二人に目をやると鈴もラウラもやや警戒してエミリー先輩を見つめる。
エミリー先輩は軽く微笑むと二人に諭すように告げる。
「安心して、遠藤君とはただの探偵ごっこ仲間なだけよ。取ったりなんかしないわ」
その言葉に安心したのか二人は安堵の息を吐く。
美春が何のことやらと首を傾げているとエミリー先輩に案内されて、記事のバックナンバーを見せてもらった。
クラス代表決定戦やシャルルもといシャルロットの転入、美春が教師陣と協力して襲撃者から学園を守ったことなど過去自分たちが体験したことが大々的に掲示されていた。
(余裕が無かったからあんまり目を通してなかったけど、こうもでかでかと書いてあったらそりゃ注目を集めるか…ん?)
美春は教室に掲示されている記事の隅っこに以前エミリー先輩が見せてくれた写真が載っている記事を見つけた。
『東欧にて謎のISが飛来。学園の襲撃者か?』
そうタイトルが付けられた記事を確認してみると、撮影場所がルーマニアであることや、他にも東欧各地で目撃情報があったことなど、楯無から聞いた情報が詳細に書かれている。
「あら、お目が高いわね。あなたもその記事が気になる?」
「っていうか、これ書いたの絶対先輩じゃないですか…」
「バレちゃった。まああの写真をあなたに見せたの私だし、当然といえば当然よね」
エミリー先輩はペロッと舌を出して笑って誤魔化すが、美春にとってはそれどころではない。
美春は記事の内容をまじまじと見つめ、自分達が知らない情報がないか探っている。
「そんなに気になるならデータあげようか?それよりも彼女達にもっと構ってあげなさい」
エミリー先輩の視線に先には鈴とラウラが美春の活躍が取り上げられている記事を楽しそうに見つめていた。
二人が楽しめているならそれでいいのではと思った美春だったが、先輩のいうことには素直に従うことにして後日記事のデータをもらう約束を取り付けた。
二人の元へ戻ると彼女たちは感心した表情で美春に声をかける。
「美春、アンタやるじゃない。量産機でセシリアをあと一歩まで追い詰めるなんて」
「うむ、この時はまだISを触り始めてから間もないはずだ。この頃から才能の片鱗は見せていたのだな」
二人にそう言われると美春は照れくさそうに頭を少しかく。
「いやあ、それも随分前の事だしなあ…」
「その随分前に専用機に肉薄してるのが凄いって言ってるの。アタシが来る前にこんな派手なことやっちゃって」
そういう鈴はどこかヤキモチを焼いているように美春には映った。
「傷が治ったらまた面白い試合見せられると思うから、それまでは、な?」
美春が鈴に申し訳なさそうに一言入れると鈴は気が収まったのか表情が少し明るくなる。
「ま、まあそういうことなら今回は許してあげる。今後を楽しみにしておくわ」
こうして過去の振り返りをした三人は新聞部の展示室を後にした。
次はお化け屋敷にでも入ろうかという話も出たが、ラウラの提案で美春の傷を考えておとなしめのところを回っていくのがいいという話になり、それに従う形となった。
・
・
・
次にクララ先輩やルチア先輩のクラスがやっているISの操縦体験ブースへとやってきた。
受付の生徒に話を聞くと、ISの機構を学ぶついでに段ボールなどで腕部の模型を作成し、学園への入学を検討している中学生や男性にもISを動かす体験をしてもらおうというのがこのブースの趣旨らしい。
奥に進むといくつかの腕部模型が展示されているのと、その傍に立っているクララ先輩とルチア先輩を見つけた。
「先輩、昨日のお礼も兼ねてちょっと見学に来ました」
「ようこそ遠藤君。昨日は楽しい時間をありがとうございました。受付でも説明があったと思いますが、ここでは腕部の模型を動かす体験をしてもらっています。学園の生徒や先生方からも出来がいいと評判なんです」
クララ先輩はそう言って誇らしげに眼鏡をクイっと上げる。
恐らくこの模型の設計も彼女が大きな役割を果たしているのだろう。
「せっかくなので、俺達も体験してみてもいいですか?」
「もちろんです。三人ともそれぞれの模型に移動して体験してみてください」
美春はクララ先輩に促されて真ん中の模型の前に立つ。
和風のデザインを見るにこれは打鉄をモデルにした模型のようだ。
ルチア先輩の指示の下、模型に腕を通して手首近くの操縦桿を握る。
操縦桿周りの手触りが段ボールとは思えないほど忠実に再現されている。
実際に持ち上げてみるとまるで腕部のみISを展開しているかのような独特な重みと実機通りの操作感に美春は感嘆の声を漏らす。
鈴とラウラの方を見ると二人とも美春と同じような反応をしていた。
「これ凄いですね。本物そっくりです」
「ありがとう!男性パイロットのお墨付きまで貰っちゃった!」
ルチア先輩は嬉しそうに他の生徒とハイタッチを交わしている。
美春は改めて自分の機体の整備チームがどれ程高い技術力を持ち合わせているのかを体験することとなった。
体験ブースを後にした三人は体育館で行われる軽音楽部のライブに向かう道中だった。
「アンタ音楽とか興味あったのね。意外だわ」
「俺の整備チームにいる子がバンド組んでるっていうから見に行こうと思ってさ。それもちょうど俺が好きなバンドのコピーやるっていうから、楽しみで仕方ないんだ」
「ふむ。美春が好きな音楽バンドとはどういったものなのだ?」
「うーんとコンセプトだけ言うと、恰好はメイド服なんだけど、音楽はめちゃくちゃハードロックみたいな」
「何それ?アンタゴスロリとかが好みなわけ?」
鈴がジト目で美春を見つめてくるが、美春は慌てて訂正する。
「違うよ。好きなのは服装じゃなくて曲の方。ガールズバンドとは思えないくらいちゃんとハードロックしてるんだ。見たらわかるって」
美春がそう言うと鈴はへえと疑いがまだ消えてない反応を見せる。
一方のラウラは音楽に疎いのか美春の言うことが何一つ理解できていない様子だった。
そんなことを話しながらある教室の前を通り過ぎようとすると、一夏と見知らぬ女性が向かい合って座っているのが一瞬見えた。
一夏の反応を見るに知り合いではなさそうだ。
美春は念の為、楯無に今見たことを共有しておいた。
・
・
・
体育館へと到着した三人は観客に揉まれないように後方に陣取る。
ライブ開始のアナウンスが入るとメイド服を着た生徒たちがスタンバイに入る。
(忠実にやるとは聞いてたけどそこまでやるのかよ…っていうかメイド服うちのクラスのやつだし)
鈴の美春を見つめる視線が冷ややかになっていくのを感じる。
美春はその視線に耐えながらステージを眺めていると、ドラムの席に自身の整備チームに所属する沙苗が座っているのが見えた。
(石川さんだよな?これやるとは聞いてたけどドラムなんだ…)
スタンバイが完了するとボーカルの生徒から威勢のいいコールアンドレスポンスが繰り広げられる。
美春はノリノリでレスポンスを返すが、鈴とラウラは状況がまだ飲み込めていないようだ。
ボーカルが曲名を叫ぶと、開幕からギターの激しいリフが体育館を包み込む。
それに続くように沙苗もまた激しくドラムを打ち鳴らす。
IS学園は全国、いや世界各地から選りすぐりの女子生徒を集めた国立高校だ。
その彼女たちのポテンシャルは時には大人さえも凌駕しかねないものになる。
重厚なギターサウンドに手数の多いドラムのビート。
その神輿に乗っかっているのは女性らしからぬ太い歌声。
そのバンドはたった1曲で会場を飲み込んだ。
口をポカンと開けて啞然としている鈴とラウラに美春は笑顔で言って見せる。
「な?言ったろ?」
敢えて言わせてもらうがこの場で凄いのは美春ではなく、沙苗達のバンドの圧倒的な技量である。